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ローダクロス  作者: 天猫紅楼
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最初の夜

 夕飯の片付けも終わり、陽もすっかり暮れた頃、ルーシアは足の包帯を一度きゅっと握って立ち上がった。 そして、足踏みをして動きを確かめている彼女に気付いたロウキーが、声を掛けた。

「行くのか?」

 ルーシアは振り返って頷いた。

「ああ。 世話になったな。 皆には感謝してる。 でもこれ以上、迷惑掛けられないから」

 そう言って踵を返したルーシアに、ロウキーの声が飛んだ。

「待てこらっ!」

「何?」

 再び振り返るルーシアに、ロウキーは指を指して言った。

「服!」

「あっ!……そうか」

 ルーシアは自分の服を見た。 まだロウキーの服を借りたままだったルーシアは、おもむろにそれを脱ぎ始めた。 途端に、男たちの動きが止まり、彼女を凝視した。

「ちょ、ちょっと!」

 ジャクリンが慌ててルーシアの胸元を隠した。

「何してるのよ、ルーちゃんっ?」

 腕をつかまれながら、ルーシアはムッとした顔で言った。

「服を返すんだよ!」

 ジャクリンは、なおも脱ごうとするルーシアを必死で止めながら

「違うってば! ロウキーが言いたいのはそういうことじゃなくて! もう少しココに居たらってことよ!」

「えっ?」

 驚いて力を抜いたルーシアがロウキーを見ると、彼は腰に手を当てて、呆れたように微笑んでいた。

「服なんかいいよ。 それよりお前、行くとこあんのかよ?」

「それは……」

 ルーシアは思いつめた表情で、唇を噛んで俯いた。 すると、セィボクが明るい声を掛けた。

「じゃあ、オレたちと一緒に居ればいいじゃん!」

 ルーシアはバッと顔を上げると言った。

「そんなに簡単に決められることなのかよ? 俺は狙われてるんだぜ! もしあいつらがまた来たら、絶対あんたたちも巻き込まれる! 今度は怪我だけじゃ済まされないかもしれない!」

 必死な顔で言うルーシアを皆は余裕さえ思わせる笑顔で見つめていた。 それはルーシアにとって、予想しない状況だった。 そして、何を言っても無駄だと悟った。

「何なんだよ、あんたたちは一体……」

 あきれて、訴える気も失せたルーシアは肩を落とし、皆を見回した。 ジャクリンはそんなルーシアの肩を抱いた。

「私たちと一緒に居れば、きっと楽しいわよ、ね、ルーちゃん」

「……どうなっても知らねーからな?」

 呟くルーシアに、セィボクが笑った。

「何でも来いってんだ。 な、ロウキー!」

「ああ。 何があっても、逆にやり返してやるぜ! あいつら、俺たちのフォークを使い物にならなくしたんだ。 食い物の恨みは恐ろしいってことを、思い知らせてやる!」

 するとキツンが鼻の穴を広げた。

「そうだよ! 食事の邪魔をした罰は、絶対に受けてもらうからなっ!」

 ルーシアは、もはや何も聴く耳を持たないうえに、話題がすでに変わっていることに呆れ、ため息をついた。

「あんたたちは……」

「さっ! そうと決まれば、明日も早いわ、寝ましょう!」

「えっ! ちょ、ちょっと!」

 ルーシアは、ジャクリンに背中を押され、幌馬車へと戻ることとなった。

 

 

 

 幌馬車の外では、毛布や寝袋にくるまって眠る男たち。 ジャクリンとルーシアは、荷台の中でそれぞれに毛布にくるまって、向かい合って座っていた。

「今日会ったばかりで、こんな怪しくてわけの分からないヤツを、簡単に信じていいのか?」

 まだ理解できていない様子のルーシアが呟くと、ジャクリンはニッコリと微笑み、静かに話し始めた。

「私たちはね、孤児なの」

「孤児?」

 ジャクリンは頷いた。

「そう。 私たちは皆、ピチンク町の郊外にある孤児院で育てられたの。 そこで私たちは、助け合って生きていく事を学んだわ。 一人よりも、皆で協力してやれば、どんなことでも乗り越えていける。 毎日がとても楽しかったわ。 その中でも一際仲が良かった私たちは、自分たちで稼ごうって意見が合って、宅配便をやることにしたわけ」

「宅配便……?」

「私たちは、【ローダクロス】っていう会社に入ったの。 そこの社長も元孤児で、私たちの事を快く受け入れてくれた。 孤児院がお母さんなら、ローダクロスの社長は、お父さんみたいな感じね」

「そうだったのか……」

 ルーシアは、膝にあごを埋めて目を伏せた。 ジャクリンは、顔色を伺うように尋ねた。

「ルーちゃん……ご両親は?」

 その言葉にルーシアは、唇を結んでなお目を伏せた。 ジャクリンは目を細めた。

「だからきっと、助けたいって思ったのね」

「どういうこと?」

 思わず視線を上げたルーシアの瞳に、ジャクリンの優しい顔が映った。

「ロウキーは特に、そういうのに敏感なのよ。 ルーちゃんを一人にしておけないって、直感したみたいね」

「……でも、俺の事何も知らないのに……」

「それそれ!」

 ジャクリンは、ルーシアに顔を近づけてその鼻を指で押さえた。

「ルーちゃんは女の子なんだから『俺』なんて言っちゃだめよ! 直しなさい」

 まるで姉か母のように優しく言うジャクリンに戸惑うルーシア。

「で、気にしない!」

「えっ?」

「ロウキーがあなたの事を守ってくれるわ。 もう悩むのは終わり、ね!」

「強引だな……それに、そんなに簡単に人を信じたら……」

「大丈夫!」

 ジャクリンは、突然ルーシアを抱きしめた。 

「何を!……」

「ルーちゃん、まずは私たちの事、信じて」

「信じる?……」

 ルーシアは、ジャクリンの温もりと大きな胸の柔らかさに包まれ、どこか懐かしい気持ちになった。 すると気が抜けたように意識が遠のき、眠りに入っていった。 ずっと森の中を走り回っていた体は、傷と疲労で限界だった。

 ジャクリンは、寝息を立てはじめた彼女を見守るように微笑むと、ルーシアの肩にそっと毛布を掛けなおして寝かせてやり、自分も毛布にくるまると、眠りについた。

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