新しい出会い
ここから、第二章の幕開けです☆
新しい事件が起こります☆
本社のあるピチンク町までは、少し距離がある。
なにしろ今回の一件で、いつもの配達地域よりも遠出をしてしまったからだ。 だがロウキーたちに焦りの気持ちはひとつもない。 いつもと同じように、旅を楽しんでいた。
ビリーザメク国を出た彼らは、数回の夜を越え、のんびりとピチンク町へと向かっている。
あぐらをかいて、顔に当たる風が気持ち良さそうに目をつむるロウキーの横には、ルーシアがナイフの手入れをしている。 さっき立ち寄ったビリーザメク国で購入したものだ。 さすがに商業大国。 かなり質の良い商品がたくさんあった。 ジャクリンも何着かの衣服を買ったし、キツンもたくさんのオヤツを買い込んでいた。
何事もなく、馬車は森の中を駆け抜けていく――はずだった。
ヒヒィィィーーン!
ショウシュンのいななきと共に、馬車は急停止し、勢い余ったロウキーとルーシアは、どこかにつかまる暇も無く、いとも簡単に幌の上から転げ落ちた。
「ってーー! 何だよ一体?」
「何があったんだ、キツン?」
地面にうつぶせに倒れているロウキーの背中には、上手に着地して座るルーシアがいた。
「おい、重いっ!」
ロウキーの言葉に、ルーシアは
「んだとっ!」
と容赦なくゲンコツを落として、彼の背中から飛び降りた。
馬車の縁にしがみついて冷や汗をかいているセィボクの横で、キツンが慌ててショウシュンを鎮めていた。 荷台からアァカンとジャクリンが顔を出した。
「一体、どうしたの?」
「ロウキー! 前に人が!」
キツンの甲高い声に、ロウキーたちは前方に視線を移した。
水色の薄手のワンピースを着た、茶色く長い髪の細身の少女が、馬車の前で頭を抱えてしゃがみこんでいた。
「うわっ?」
疾風の様に駆けて行くロウキーに煽られて、ルーシアの体はくるりと一回転してしまった。
「な、んだよっ!」
怒るルーシアの前で、ロウキーはちゃっかりとその少女の手を握っていた。
「こんなところでどうしたんです、お嬢さん?」
「あ…………」
ゆっくりと顔を上げた少女に
「うぉっ!」
とロウキーの瞳が輝いた。
二重瞼のぱっちりした目に、透き通るような碧い瞳、少し厚みのある唇、筋の通った形の良い鼻、背中まである金に近い茶髪は、充分に手入れのされたストレートだ。
「び…………美人……!」
後ろに立ち尽くすルーシアが、ロウキーの気持ちを代弁するように呆然と呟いた。
「あ……あの……」
少女はおずおずと口を開いた。 そして次の瞬間
「助けてくださいっ!」
とロウキーの胸に飛び込んだ。
「うおおおっ?」
彼女は、戸惑うロウキーをすがるような目で見つめた。
「悪い人たちに追われているんです! お願い! 助けて!」
今にも涙が零れそうなほどに潤んだ瞳で訴える少女に、ロウキーの表情が一変した。
「ルーシア! 気を張れ!」
「うん!」
二人は集中して周りの気配を探った。
しばらく息を殺して辺りを伺ったが、それらしい気配は感じられず、とりあえずその少女を馬車に乗せると、注意しながらその場を離れた。
走る馬車の荷台の中で、ジャクリンが少女の擦りむいた小さな膝を手当てしている傍にはアァカンと、何故かロウキーが居る。
「大丈夫。 すりむいただけ。 どこかで転んだのね?」
優しく話しかけるジャクリンに、少女は小さく頷いた。
「名前は?」
ロウキーが尋ねると、少女は
「……ユゥリ」
と小鳥がさえずるような声で答えた。
「ユゥリかぁ、いい名前だな!」
ロウキーは目尻を下げながら、だらしなく笑った。 背中を一押ししたら、よだれが垂れ落ちそうな雰囲気だ。 その様子をアァカンは、思い切り怪訝に細い目で見つめていた。
「どこへ行くところだったの? こんな深い森の中に女の子一人だなんて、危ないわよ? それに、誰に追われていたの?」
ジャクリンが優しく尋ねたが、ユゥリは無言で俯いた。 恐怖を思い出したかのように、肩が震えているのが分かった。
「言いたくないなら良いじゃねーか」
ロウキーはニッコリと笑いながらユゥリの顔を覗き込み
「な?」
と頷いた。
「あ……ありがとうございます……」
小さくか細い声で言うユゥリは、まだ怯えているようだった。
ジャクリンはロウキーに目配せをした。 思うことは同じだった。
「心配ないわ。 あなたが行きたいところへ連れて行ってあげる。 だからもう怖がらなくていいわよ」
「えっ? でもそれじゃ、迷惑が……」
驚くユゥリに、ロウキーが自慢げに胸を叩いた。
「気にするなって! 俺達は旅をしているようなものだからな、ついでに乗せていってやるぜ!」
ユゥリはおどおどと皆の顔を見て、やっと僅かに微笑みを浮かべた。
ロウキーは素早く幌の上に飛び乗ると、ルーシアの横をすり抜けて前の方に駆けて行くと、キツンに声を掛けた。
「キツン! 目的変更だ! フューグル町へ行ってくれ!」
「えっ? 本社に向かうんじゃないのか?」
ルーシアが横から驚きの声を上げるので、ロウキーは振り返って言った。
「ユゥリの生まれた町らしいんだ。 とりあえずそこで身を潜めたいって言うから、俺たちが送り届けてやるんだ!」
ロウキーは嬉しそうに笑った。
「そう。 ユゥリっていうの、あの子?」
ルーシアの目が据わった。 明らかに機嫌を損ねた表情だった。 キツンがロウキーを見上げて答えた。
「分かったよ、ロウキー。 あの子、可愛いもんね! ロウキーの好みってことだろ?」
と軽い口調で言った途端、空気を切り裂く音と共に、キツンとセィボクの間にナイフが突き刺さった。
「うっ……」
キツンの顔は青ざめ、ここには関係ないセィボクでさえ、顔が硬直していた。
「なんでオレまで……」
「ふんっ!」
ナイフを投げた本人のルーシアは、腕組みをしてロウキーを睨んだ。 次はお前だと言わんばかりの彼女の冷たい視線に、彼は誤魔化すように愛想笑いをしながら、刺激しないようにそっと後退りをして
「さて、ユゥリの怪我の様子でも見てこようかなーー」
と、独り言のように呟きながら、再び馬車の荷台へとするりと姿を消した。
「あいつ……なんなんだ、一体!」
ルーシアは、胸に沸きあがるもやもやを持て余しながら、一人で幌の上に座っていた。 いつもは気持ちよさを感じる風も、今は髪の毛を乱すただの鬱陶しいだけのものだった。 襟を正しながら
『一体、何なんだよ、あのユゥリとかいう奴……』
と不信感をあらわにしていた。
そんなルーシアの気持ちを幌に乗せて、馬車はピチンク町への進路を変え、一路フューグル町へと向かった。




