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ローダクロス  作者: 天猫紅楼
3/67

紅い髪、紅い瞳

 突然にガサガサッと草むらが騒いだかと思うと、紅い髪の人影が飛び込んできた。 一直線に料理が並ぶテーブルに向かって走ってくると、無造作に蹴り上り、器などを巻き上げて走り去っていった。

 あっけに取られるロウキーたちの前を、再び走っていく今度は三人の黒スーツを着た男たち。 追われていた紅髪は、意を決したように振り向くと、追ってきた男たちを睨んだ。 荒い息と共に、紅い瞳が不気味に揺れている。

「しつこいな!」

「俺たちはどこまでも追いかける! 観念しろ! 一緒に来てもらうからな!」

 荒い息をしながら、男のひとりが吐き出すように言うと、紅髪は後ずさりをしながら

「あんたたちの言いなりにはならない! いい加減に諦めて帰れ――」

と叫ぶように言っているうちに、姿を消した。 崖の下に落ちたのだ。

「うわぁぁっ!」

 叫び声を上げながら、転がり落ちていく紅髪を見下ろしながら

「俺たちも追うんだ!」

と、男たちも駆け下りて行った。

 

 

「な……なんなんだよ、あいつら……?」

 呆然とするロウキーたち。 テーブルの上は料理がひっくりかえされ、土にまみれて無残な姿をさらしていた。 ロウキーは、唯一無事だった、手に持っていた器を口に持っていこうとして、動きを止めた。

「っ! ないっ!」

「どうしたの?」

 尋ねるジャクリンに、ロウキーは怒り狂って叫んだ。

「フォークがねぇーー!」

「?」

「そ、そういえば、フォークだけ見当たらないよ?」

 セィボクが言う通り、転がる器の周りにあるはずのフォークが、一本残らず姿を消していた。

「あいつが持って行ったんだ!」

 ワナワナと震えるロウキーは、弾けるように崖下へと駆け下りて行った。

「ロウキー!」

 ジャクリンが引き止めようと声を掛けるもむなしく、ロウキーの姿はあっという間に消えていった。

「ま、すぐに戻ってくるだろ。 俺たちは、夕食を仕切りなおそう」

 アァカンが落ち着いた声でテーブルを軽々と動かした。 ジャクリンはロウキーが消えた方を見ながら、あきれたようにため息をつくと、器を拾いはじめ、セィボクとキツンも、アァカンと共に席を戻し始めた。

「あーあ。 とんだハプニングだったな」

 呟くセィボクにキツンも

「あぁ、クマ鍋……」

と深いため息をついた。 その様子を見て、ジャクリンは

「まだたくさん残っているわよ。 すぐ用意するから」

となだめた。 アァカンも苦笑いをして椅子を戻しながら、少し心配そうな顔で、ロウキーが消えた崖の方を見つめた。

 

 

 パーーン!

 

 

 いきなり崖下から銃声が聞こえた。

「ロウキー?」

 驚くジャクリン、セィボク、キツンに

「ここで待ってろ! 動くんじゃないぞ!」

と声を掛けると、アァカンも崖下へと駆け下りて行った。

 

 

 

「少々手荒な真似をしたが、これくらいなら許してもらえるだろう」

 息をついて、指先でサングラスを上げる男たちの前には、右足を押さえてうずくまるさっきの紅髪が息を荒げていた。 汗の滲む顔を上げて見上げるその瞳は紅く輝き、変わらずに男たちを睨みつけている。

「さぁ、一緒に来てもらうぞ! 随分遠出をしたもんだな」

と、男たちはゆっくりと紅髪に近づいた。 その時、

「このやろうっ!」

 紅髪が、力任せに何かを投げつけた。

「ぐあぁっ!」

 男たちが、手や足を押さえて膝をついた。 男たちの体に、キラキラと輝くフォークが突き刺さっている。

「こいつ、もう許さねえっ!」

 遂にキレた男の一人が、紅髪の額に向かって銃を構えた。 動けずにいる紅髪は、とうとう死を覚悟するかのように目をつむり、唇を噛んでうつむいた。

 

 

 銃声――

 

 

 銃声は轟かなかった。 その代わりに、うめき声を上げて男が倒れる音がした。

「えっ?」

「穏やかじゃないねぇ、銃とは」

 その声の主、ロウキーは、棒切れを持って紅髪をかばうように悠然と立っていた。 倒れた男の頭には、大きなコブが出来ている。

「な、なんだ貴様はっ?」

 男たちは、いつの間にか傍に立っているロウキーに驚き、腰を抜かした。 ロウキーは男たちを睨んだ。

「お前らこそ何なんだよ? 俺たちの食事の時間を台無しにしやがって! 俺は腹減って気が立ってんだ! 剣を抜かれたくなかったら、ソイツ連れて消えろ!」

 棒切れを捨て、腰の剣に手を掛けるロウキー。 それを見た男たちは、慌てて気絶している仲間を引き起こすと、紅髪に向かって

「お、お前! 必ず連れて行くからな! 覚えてろよ! お前は逃げられんのだからなっ!」

と捨て台詞を残して、森の中へと消えて行った。

 その様子を呆然と見送る紅髪。 今度はその紅髪に、ロウキーが怒りの言葉をぶつけた。

 

「おい、お前っ!」

「はっ、はいっ!」

 紅髪は驚いてロウキーを見上げた。 ロウキーは初めてまっすぐに見る、その揺れる紅い瞳に一瞬驚いたが、すぐに睨みつけ、その顔に指をさすと

「フォーク返せ!」

と怒鳴った。

「えっ……?」

「フォーク返せっつってんだよ! アレがなきゃ、飯も食えねーだろうが! 早く返せっ!」

「そう言われても……」

 紅髪は困惑した顔で、男たちが去っていった森の方を見た。 ロウキーたちのフォークは、紅髪から放たれて男たちの手足に刺さったままだった。 途中で落としたとしても、もう使い物にならないだろう。

「……仕方ない。 他の物で代用したらいいさ」

 追いついて事情を察知したアァカンがひとつため息をついて、ロウキーの肩を叩いた。 彼はすっかり落ちきった肩をすくめ

「仕方ねぇなぁ……」

と大きなため息をついた。 そして腰に手をやり、紅髪を見下ろすと

「ところでお前、何で追われてたんだ? 連れて帰るとか言われてたけど、どこかから逃げてきたのか? もしかして、家出……?」

と尋ねた。 紅髪は口を閉じて俯いた。 ロウキーは少しその様子を見つめていたが、返事が無いのが分かると

「言えない理由でもあんのか? まぁいいや。 行こう!」

とその腕をつかんだ。

「! な、何をするっ?」

 驚く紅髪の腕をつかんだまま、ロウキーは血の滲んだ足を指した。

「とりあえずソレ、手当てしたほうがいいんじゃね? 撃たれたんだろ?」

「え?」

「立てねえなら、おぶってやるから。 ほら!」

 無条件に背中を見せるロウキーをただ見つめる紅髪に、アァカンが声を掛けた。

「俺はアァカン。 こいつは、ロウキー。 お節介だが、心は許せるヤツだ。 心配するな」

「なっ! お節介は余計だぞ! 怪我してるヤツを置いて行けるか! ほら早くしろよ!」

 急かして背中を揺するロウキーをしばらく見つめていた紅髪は、アァカンの腕を借りてその背中に身を預けた。

「軽いなぁ、お前。 ちゃんと食ってんのか?」

と軽い口を叩きながら、ロウキーとアァカンは崖を身軽に上った。

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