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ローダクロス  作者: 天猫紅楼
13/67

ジャクリンの救出

「おや、お目覚めですか? お嬢さんたち」

 

 

 部屋の扉が静かに開き、長身で細身の眼鏡をかけた青年が現れた。 ルーシアは彼をよく知っていた。

「センジアート!」

 ルーシアは驚き、唇を噛んでにらみつけた。

「この人が……センジアート?」

 ジャクリンも彼を見つめた。 彼のことはルーシアの話で聞いている。 彼女と父親を襲った張本人だ。

 センジアートはゆっくりと部屋に入ると、二人を比べ見た。

「本当はルーシアだけで良かったんですけどねぇ。 手違いでお友達も連れてきてしまいましたか」

 センジアートはジャクリンを見つめ、口角を上げて肩をすくめた。

「ジャクリンは返してやって! あんたの目的はあたしだけなんでしょう?」

 ルーシアは叫ぶように言った。

『彼女だけでも助けてあげなくちゃ! ジャクリンは関係ないもの!』

「ルーちゃん……」

 ジャクリンは切なくルーシアを見た。

『ルーちゃん、自分だけで全部を背負うつもりでいるのね?』

「本当はそうするつもりだったのですけどねぇ……」

 センジアートはジャクリンに近づいた。

「ジャクリン、というのですか」

 動けないジャクリンの顎を細い指でそっとつかむと、センジアートは顔を近づけた。

「ジャクリンに触るな! 離れろっ!」

 ルーシアの叫びともがきにも構わずに、センジアートはジャクリンの顔を舐めるように見つめた。 銀縁眼鏡が怪しく光った。

「綺麗な目鼻立ちをしている。 私の研究に役立ちそうですから、手放すには勿体無い。 もう少しここに居てもらいましょう」

 にやけた口元でじっと見つめるセンジアートに、ジャクリンは気丈にも睨み返していた。 その表情に少し鼻で笑うと、センジアートは彼女のあごから指を離してルーシアを見た。

「そうそう。 あなたのお父様も無事ですよ。 安心なさい」

「父さんが? どこに居るんだっ!」

 ルーシアが睨むと、センジアートは肩をすくめて

「そんなに慌てないでください。 ちゃんと会わせてあげますから。 私は今、仕事中なのです。 もう少しここで待っていてください。 本当なら温かいお茶でも出してあげたいところなのですが、お二人とも無茶に暴れそうですから、しばらくそのままで居てもらいます。 では後ほど」

と静かに扉を閉めて行った。

「センジアート! 待てっ!」

 ルーシアが弾かれるように体を動かしたので、質素な椅子はルーシアの体もろとも倒れてしまった。

「ルーちゃん、大丈夫?」

 驚いて見下ろすジャクリン。 だが手を差し伸べて引き起こすことも出来ない。 ルーシアはあおむけになったままジャクリンを見上げた。

「ジャクリン、ごめん……やっぱり巻き込んでしまった……」

 ルーシアの目に涙が溢れ出した。 だがジャクリンは、優しく見つめていた。

「ルーちゃん、気にしなくていいのよ。 私は大丈夫だから!」

「でも……ジャクリンの身に何かあったら……アァカンに何て言ったらいいか……」

 しゃくりあげそうなほど涙声になるルーシアに、ジャクリンはかぶりを振った。

「心配しないの! さっきも言ったでしょう? 必ず助けに来てくれる。 信じよう、ルーちゃん!」

「どうしてそんなに落ち着いていられるの? 怖くないの?」

「信じてるからよ」

「信じてる……? ロウキーやアァカンたちを?」

 ジャクリンは微笑んで頷いた。 ルーシアがその自信のこもった瞳を見つめ返すと、再び納得させるように頷いて見せた。

 

 

 ――

 

 

 ガンガンッ!

 バキッ!

 ドンッ!

 

 

 

 荒々しい音がして、二人が監禁されている部屋の扉が開かれた。 というより、豪快に壊された。

「ジャクリンっ!」

 倒れゆく扉を踏みつけて一番先に乗り込んできたのは、アァカンだった。 ジャクリンの顔がパァッと明るくなった。

「アァカン! やっぱり来てくれた!」

 彼は、笑顔を見せるジャクリンに駆け寄り、その手足を縛っていたロープを素早くナイフで切った。 そして自由になった彼女を強く抱きしめると、いぶかしげに周りを見た。

「ジャクリンだけ……なのか?」

「ルーちゃん、連れて行かれちゃった……」

 ジャクリンの顔が沈み、アァカンにすがるようにその腕をつかんだ。

「ルーちゃんのお父さんが地下に居るんだって。 だから多分、そこだと思うの。 センジアートっていう男が、ルーちゃんのお父さんをさらって監禁しているらしいの!」

「センジアートって、ルーシアが言っていた、研究者か?」

 その時、後ろにもう一つの影が現れた。

「ったく! アァカンてば一人で突っ込んで行くから、後始末が大変だったぜ!」

 剣の血のりを振り落としながら現れたのは、ロウキーだった。

 ジャクリンは目を丸くして彼の腕をつかんだ。

「ロウキー! あなたが来ないわけないと思ってたわ! お願い! ルーちゃんを助けてあげて!」

 泣き顔で見上げるジャクリンの肩をポンと叩くと、ロウキーは余裕で笑顔を見せた。

「当たり前だろ? 仲間なんだから! で、ルーシアはどこに居る?」

 ジャクリンの話を聞くと、ロウキーの瞳が燃えるように光を帯びた。

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