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ローダクロス  作者: 天猫紅楼
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プロローグ

 薄暗い森の中を、全速力で駆け抜けるひとつの影があった。

 道なき道を走ってきたのか、ボロボロの衣服から露出した腕や足や、そして頬までも傷だらけで、それでも構わずに走り続けている。 目立つように揺れる肩までの髪の毛は炎の様に紅く、時折後ろを振り返る瞳もまた、透き通るほど綺麗な紅い瞳をしていた。

 その紅髪を、三人の黒い影が追いかけていた。

 黒いスーツにサングラス姿をし、全身汗だくで必死に追いかけている。

 彼らは、立ち止まる気配を見せない標的にイラついているようで、遂にその中の一人が懐から銃を取り出すと、発砲した。

 一発の銃声が、木々にとまっていた鳥たちを一斉に空へと羽ばたかせた。

「おいっ、やめろっ!」

 慌てて違う男が制止した。 だが発砲した男は、額に汗を滲ませて言った。

「でもこのままだと、逃げられますよ!」

「銃はダメだ! 傷付けるなと言われただろう!」

「でも足止めくらい……!」

 そして男たちは、ハッと周りを見回した。

「くそっ! 見失った!」

 追いかけていた紅髪は森の中に消え、物音さえもしなくなっていた。

「まだそんなに遠くへは行ってないはずだ! 探すぞ!」

 三人は息を荒げながら頷きあい、四方に散った。

 

 

 

 

 ――

「こんにちはーー! お荷物をお届けに参りましたー!」

 元気な少年の声が、一軒の家の玄関の前で響いた。

 

 ウーピ町の一角にある一軒家の前には、一台の大きな幌馬車が止まっている。

 少年の声がしてからすぐ、家の扉が開くと、中から一人の年配の女性が顔を覗かせた。

「こんにちは、ローダクロスです。 ドラコスさんのお宅ですね?」

 クリクリッとした目を輝かせながら笑いかける少年に、女性はにこりと頷いた。

「はい、ごくろうさま」

 ゆっくりした口調で言う女性に、少年の後ろから荷物が差し出された。 彼の三倍はあろうかという大柄な男が、肩幅ほどの大きさの木箱を軽々と持っていた。

「そうそう、待っていたのよ。 息子がね、いつも送ってくれるんだ、畑でたくさん採れたからって」

「良かったですね! きっと健康で長生き出来ますよ!」

 少年は手際よく女性から受け取りのサインをもらい、被っていたつばの長い麻の帽子を取ると、荷物を持ってきた大男と共にお辞儀をした。

「ありがとうございました! また御用があればいつでもどうぞ!」

 そして、駆け足で幌馬車へと戻っていった。 少年は身軽に助手席へと飛び乗り、大男は馬車の荷台に乗り込んだ。

 少年は、ゆっくり動き出す馬車を見送る女性に、元気よく手を振った。

 

 

「おつかれ、セィボク! 次はどの家?」

 馬車の運転席には、太っちょの少年が手綱と共に大きな紙袋を手にして、口をモグモグさせていた。 小さくないはずの衣服はパンパンで、腹が膨れている分、へそが見え隠れしている。 今しがた戻ってきて、ちょこんと隣に座る小さくて細身のセィボクとは、雲泥の差だ。

「次は、ここから真っ直ぐ行った所の、右手にある家だよ! よろしく、キツン!」

 セィボクは配達名簿と地図を片手に、前方を指差した。 キツンと呼ばれた少年は

「オッケー!」

と親指を立てて微笑み、手綱を引いた。


 そして、青空が澄み渡る下を、幌馬車は軽快に進んでいく。

 やがて一軒の家の前に止まると、セィボクが荷台の方に声を掛けた。

「アァカン! パスコさんの荷物だ!」

 一足先に玄関先へセィボクが行き、荷物持ちの大男アァカンが荷物を持ってゆっくりと後を追った。 いつもの動きだ。

「こんにちはーー! お荷物をお届けに参りましたーー!」

 セィボクの元気で明るい声が軒先に響いた。

 中から出てきた男性に荷物を渡すと、二人は再び幌馬車へと戻ってきた。

「さて、仕事はこれで終わりか。 ロウキー! どうするー?」

 助手席に乗ったセィボクは、幌の上を見上げて叫んだ。

 

 

「んー?」

 

 

 起き抜けの声で気だるそうに返事を返しながら、幌の上に人影が起き上がった。 そして少し長めの黒髪をガシガシと掻き上げながら、セィボクを見下ろした。

「どした?」

「どしたじゃねーよ! 仕事、終わったってば!」

 ロウキーはしばらくセィボクの顔をボーッと見つめていたが、背を伸ばして大きくあくびをすると、パンッと両頬を叩いて気合を入れた。

「よしっ! じゃあ、本社に戻るか!」

 その一言で、馬車は再び動き出した。

 

 

 

 幌の上に座り、ロウキーは気持ち良さそうに風を受けて揺れている。 その様子を助手席で見上げながら、セィボクは両腕を頭の後ろに組んだ。

「いい気なもんだよなー! ロウキーは、仕事中は寝てればいいんだから!」

 ぼやくセィボクに、手綱を操るキツンは、笑いながら言った。

「まあまあ、いざという時、一番頼りになるのはロウキーなんだからさ!」

「まーね。 こうして平和に配達が出来るのも、ロウキーが居てくれてるからなんだけどね」

 セィボクはあきれたように空を仰いだ。

 その青空が不意に閉ざされた。 馬車が森の中に入ったのだ。

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