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僕達は北高生  作者: かっつん
第2章「僕達は北高生として学校祭を楽しむべきだ」
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2-5.悲しみを知り独りで泣きましょう

「……時間が止まったんだ。いったん落ち着こう」


 深呼吸して俺は状況を見渡す。慌てていたせいで俺以外全て止めてしまった。桜庭の回りから吹き出すように生える木。これは桜か?俺は背後にある長谷の蹴とばした(?)鋼鉄の扉のあった場所へと向かう。……が、なにもない。あるのはドアではなく、緑色の壁のようなもの。向こうが透けて見える。見えるのは下へと続く階段だ。しかし触ってみると、ふにゃりとした感覚でやんわりと押し戻される。無理やり突き進もうとするとバネのような力で跳ね返される。


「この絶対空間とやらは漫画とかでよくある結界みたいな役も担っているのか……」


 つまり、出られない。閉じ込められたのだ。諦めた俺は元の位置へと戻り指を鳴らし、有希を庇う姿勢に戻した。世界に色が戻る。


「ん……?原君、今時間を……止めた……?」


 桜庭が桜の木の成長を止める。


「答える必要はない」

「うーん……それなら仕方ないね。やっぱり……君が一番厄介だ」


 桜庭が手を天に突き出す。すると生えてきた木に花が満開に咲き乱れた。やはり桜か……


「桜花結界……オールグリーン。有害物質……排除」

「うおっ!?」

「きゃっ!?」


 背後から長谷と有希の叫び声が聞こえる。振り向くと2人が結界から伸びる手のようなものに縛り付けられるところだった。


「なっ!?2人をどうする気だ!」

「安心して……あ・と・で殺してあげるからね……?」

「有希!長谷!」

「私は大丈夫……!お願い、気にせず戦って!」


 長谷は何やらぶつぶつと魔法陣を浮かべたままつぶやいていた。どうしたんだろうか……桜庭は怪しい笑みを浮かべながらまたくるくると回り、満開に咲き乱れた桜の花びらを舞わせる。桜庭の天に突きだした手が俺に向けられた。

 その時だった。大量の桜の花びらが俺に向かって飛んできたのだ。


「な、なんだ!?」


 エメラルドスプなんとかの如く飛んでくる桜の花びら。それは体に当たることなく通過する。しかし1枚の花びらが俺の頬を掠めた時、激痛が走った。頬に手を当てると、ぬるい液体が手に触れる。……血だ。


「っ……!!」

「言い忘れていたけど……私のこの花びらは私の力。つまり武器になっているから……気を付けてね」

「反則だろそれッ!」

「あははっ……早く降参しないと……死んじゃうよ?」


 桜庭は攻撃の手を休めることはせず、咲き乱れる桜の花びらを飛ばし続けた。俺は自分の目の前の空間の時間を停止させ、盾にする。風もないのに飛んでくる花びらは俺の目の前の空間に突き刺さり、停止した空間に触れた花びらは時間が停止し、その場に止まる。

俺は再度ナイフを構え、投げつける。


「弾幕勝負ってんならこっちだって!」


 俺は投げつけたナイフの時空を操作し、ナイフの複製を大量に作り出す。それを桜庭目がけベクトルを変更、操作を解除する。この一連の動作を一瞬で行う。そうすれば投げた1本のナイフが一瞬で10本にも30本にも化けるように見えるのだ。


「これが……研究対象の力……」


 桜庭が何か言っている。


「少々手荒いが俺はお前が攻撃をやめない限り容赦はしない」


 俺は指を鳴らす。ナイフの静止が解除される。桜庭は緑色に光る目を見開いた。


「甘いね」


 もう一度桜庭が両手を天に向かって突き上げると、桜の木が音を立てて震えだし、花びらで壁を作った。花びらの壁は固く、ナイフが突き刺さっても落ちることなく佇んでいた。俺はまた持っていた1本のナイフを投げつけ、走った俺のエネルギーを媒体に投げつけたナイフのベクトルのエネルギーに加え、加速させた。


「手元で伸びる魔球、って知ってるか?」


 ナイフは飛ぶ。ナイフが突き刺さりハリネズミのようになった花びらの壁の中心目がけて。花びらの壁に突き刺さるが、そこからさらにエネルギーを加え加速させる。すると花びらの壁の先ほどまでの頑丈さはどこへやら、最後の1発で崩れ去った。崩れた壁をみて、呆然とするばかりの桜庭。


「……もっとも、あの場合はベクトルを加えるんじゃなくて、キャッチャーミットに吸い寄せるんだけどな」

「は、はは……やるね。さすがあの方の……」


 桜庭が何か言いかけた瞬間、桜庭の目の色が元の澄んだ茶色に戻った。と、それと同時に糸が切れたかのように桜庭は倒れ、気を失った。


「うおっ!?」

「きゃぁっ!」


 さっきも聞いたような悲鳴を上げ、背後で2人が束縛から解放され、地に落ちる。そういえば、と体が忘れていたかのように汗を噴き出す。さっきまで一切かかなかったのに……


「有希!長谷!大丈夫だったか!?」

「ええ。私たちのところへはあの桜は届いてないわ。それよりも秋葉、傷……」

「あ、ああ」


 すっかり忘れていた。頬を切った時の傷だ。有希が俺の頬に手を当てる。手を離したときには俺の傷はすっかり癒えていた。……えっ?


「さっきあの子が言っていたでしょう?無の継承者云々って。それは全てを破壊する能力のこと。でも、その能力を応用すればこんなこともできるの」

「な、なるほど……ありがとう。それで、どうしたんだ、こいつ……」


 振り向く。桜庭は倒れたままだった。


「俺が三季江の能力の制御をしていた。俺の力はそういう能力らしい」


 長谷が未だ広げたままの魔法陣をそのままに言う。


「あいつの力は草木を操る能力。特に昔から桜が好きだから桜を使ったんだろう……それと……」


 長谷が言いかけた口を閉じる。視線を追うと、立ち上がろうとしている桜庭がそこにいた。


「ははは、やっぱり初めてってのはダメだね。どうしても失敗しちゃうや。ねぇユウちゃん」

「やっぱりそうだったか。お前はいつも初めてなにか物事をするときはミスするもんな」

「それもそうだけど、やっぱり駄目だよ。うん。ユウちゃんとそのお友達は殺せない」


 桜庭が力なく微笑む。長谷が歩み寄ろうとしたその時、桜庭の周りにさっきの結界のようなものが張られた。


「おっと、それ以上は桜庭様に近づかぬ様」


 渋い男の声が閉鎖された結界で出来た空間に響く。汗が引いていく感触。戦いが終わった直後の暑さが消えていく感覚。


「全く、三季江ちゃんも無理しちゃだめだって言われてたのに……」


 さらにもう1人、ハスキーな女性の声が結界に響く。桜庭が振り向くと、そこには傘をさしたドレスを着た女性が、俺達の背後には……校長先生が。


「こ……ッ、校長!?」

「おっと、まだこの恰好で見えていたのか……」


 校長が杖を叩くと、黒いスーツに身を包んだ白髪の長身に変化した。


「原秋葉、貴様が高校に入学した時点で貴様らの校長……羽佐勘介は既に死んでいる。私がその代わりを演じて、貴様らの力を測ろうとしていたのだが……」

「貴方が失敗したせいで三季江ちゃんが来ることになったのよ?」

「申し訳ありません、東雲様。余計な邪魔が入りまして……」

「……まぁいいわ。鐙」

「はっ」


 しののめ……?目の前に立つ傘をさした女性が顔を上げる。茜色と黒色のグラデーションの髪が靡く。あぶみ、と呼ばれたスーツの男が東雲と呼ばれた女性の一歩後ろに立つと、口を開いた。


「さて。原秋葉。それと長谷雄理。貴様たちの答えは聞いた。我々の望んではいない答えをな。しかし今回は桜庭様の独断によりこのような事態を招いた。いくらか説明不足な点もあるだろう。出来たらもう少し話を理解した上で答えを乞う。また後日、SSKは答えを聞きに貴様らの前に現れる」

「もう来るな鬱陶しい」

「貴様に拒否権はない」

「自分たちの組織に来て欲しいって低姿勢でお願いするときの態度かそれ……」

「我々のやろうとしていることは他の人間には止められぬ。完全に拒否するならば貴様らも大人しく指を咥えて死ぬのを待つんだな」

「どういうことだ」

「鐙、それ以上は今はダメよ」

「は、失礼を……」


 東雲が鐙を制する。


「……原秋葉。それと名称未設定YU。あと長谷雄理。私たちが求める力を持っている3人。私達SSKは貴方達の力を求めていることだけは知っていて。今言えるのはそれだけよ。せいぜい学校祭を楽しむことね」


 そういうと東雲が傘を閉じ、上に掲げる。まぶしい光が差し込み、俺達はつい目を閉じてしまった。


「み……ちゃ……の力を使うのは……かしら……」


 東雲の声がかすれかすれに聞こえ、光が止んだ。目を開けると、そこにはいつも通りの夏空と、何もない屋上がそこにあった。



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