2-3.その手でドアを開けましょう
それから30分、俺達は会場設備を進めていた。残すところはたこ焼き器が入ってから、となる。
「それにしても、黒木たち遅いな」
坂元がかったるそうに言う。黒木の家は徒歩で行くには少し遠い。道具を持ってくるなら尚更だ。
「まぁそう焦らせるなって。急いては事をし損じる。急いでやらなくてもいいことだってあるさ。まぁ時と場合によるけどな」
長谷が伸びをしつつ椅子に腰かける。確かにもうやるべきことはなくなった。
「結局、大橋たちがやることが無くなったな……あいつらには何をやらせるんだ?」
「まぁ、店番と食券ちぎりの人も必要だし、エプロンつけてやってもらうのが一番だろうね」
「それとメニューも必要よね。作ってもらいましょ?」
「ああ、そうだね」
俺は何気なくすぐそこにあった衣装ケースの蓋を開ける。
そこには俺の目を疑う物が入っていた。
「お、おいこれってなんだ……」
「ん?」
長谷が覗き込む。俺はそれを恐る恐る摘み上げ、広げた。
……メイド服。しかもサイズから察するに男物だ。
「ああ、これは罰ゲームで誰かに着せよう、って話らしいよ」
「なんだって!?」
おいおい……そんな公開処刑みたいなことさせられんのか……
「ちなみに桜井と相模はそれの2、3着目を作ろうって言って張り切ってたんだ。もしかしたらクラスパートの男子全員に着せるつもりかもね」
あの2人、用事ってそれだったのか。そんなことになったら堪ったもんじゃないぞ……
「まぁ、作業工程と経費がかなり余裕があったからね。余興としてはいいと思うよ。……俺は着ないんだし」
長谷はそっぽを向いた。坂元がその発言に食らいつく。
「おいちょっと待て!どうしてお前は着ないんだよ!」
「だって俺は……」
「関係ないぜ!どうやって決めるか知らんがお前も着る候補だ」
「うへぇ……わかったよ。候補には名前を挙げておくよ。まぁ、まだ決め方も決めてないからどうしようって話をしようと思ってたんだけどね」
そういうと長谷は段ボールを丸く切り、テレビでおなじみのあのダーツの的を作り始めた。まぁやることも無いんだし、しばらくは彼らのやってることでも見ているか。
「割合は……1.5:1:1:……って感じで大橋1.5であとは1でいいかな」
「ちょ、マジかよ!そこは均等にしようぜ」
「冗談だよ。でもダーツ投げるのは誰にするんだ?」
「あっ俺がやろうか?そういうの得意だし」
「いいよ秋葉やんなくて。あのにぎやかな担任にでもやらせればいいだろ」
「……やれやれ。当日の俺のくじ運がいいことを祈るよ」
「ねぇ、秋葉……」
有希が俺の袖を引っ張り、ひそひそと話す。
「なに?どうしたの?」
「ちょっと来て……」
俺の袖をひっぱったまま、有希は教室を飛び出した。
「おい秋葉どこ行くんだ、駆け落ちか?」
坂元がケラケラ笑いながら俺に言う。俺は訳も分からないから適当にあしらった。
「すまん、ちょっと有希が作業を思い出したらしい。それ作ったらどんなふうになるか教えてくれよ。楽しみだ」
「……それで、どうしたんだ?」
「変な気配がするの。この学校に」
「まさかブレザーのあの子か?」
「……かもね」
有希は苦笑いしつつ右手で米神に手を触れる。
「どこにいるのかわかるのか?」
「……ええ。この学校の人物は『同じ学校に通う』という波長をもっているの。だからそれ以外の波長をたどれば……」
有希が階段を上る。ここは3階、それ以上の上の階は存在しない。
「……ここよ」
有希が指差す先、それは屋上へと続く扉だった。
「屋上……?」
「私の能力で他の存在するモノを探知することができるんだけど……この先にある『何者か』にはなぜか干渉すら許されない」
「どういうことだ?とにかく用心した方がよさそうだな」
「ええ……」
俺と有希は手を取り、ドアを開けた。