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僕達は北高生  作者: かっつん
第2章「僕達は北高生として学校祭を楽しむべきだ」
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2-1.夢じゃない

 夏。

 うだるような暑さが襲う夏。高校入って初めての夏休みをすでに俺達は終えようとしていた。夏休み中に起こった出来事はたくさんあったが、それは後日語るとしよう。そんなめんどくさい事をいちいち考えられず、蝉の鳴き声でさえ遠のいて聞こえるほど、俺達は暑さでどうかなりそうだった。


 時は夏休み終了1週間前。夏休みの課題も終え、補習という名の鬱陶しい追加授業も無事終えた俺達には、とある大イベントに向けての準備に追われるという課題が残っていた。


 ……学校祭。


 俺、原秋葉はその準備に追われていた。


「くっそ……超暑いぜ……」

「そう暑い暑い言うんじゃねぇよ。暑いって言うから暑いんだよ……」


 クーラーも整備されていないこの学校。11時前だというのにとてつもなく暑い。家に帰りたい。外にいる方が蒸し暑くなくていいんじゃないかと思えるほど、教室は茹だっていた。教室にいるのは俺含め3人。そう、いつもの3人だ。


「おい長谷~ジュース買ってきてくれよ」

「経費係が居ないからダメだな、まぁあと30分もしたら買い出し組が戻ってくるさ」


 俺達、つまり俺、坂元、長谷の3人は今紙テープを切りリボンを作っている。祭りやイベント等で見るアレだ。かれこれ2時間弱、俺達はずっとこれを作り続けている。というかその仕事しか任されていない。


「あー……かったりー」


 はい、いただきました本日6回目の坂元さんのかったりーですハイ!


「そう何度もいうんじゃねぇよ。俺だってかなりかったるいのを我慢してんだぞ」

「おっ、長谷もか。めずらしい」


 坂元と長谷が会話しているところを横目に、俺はふと廊下の向こうを見た。……そこには女子生徒がひとり、窓の外を見るように立っていた。北高の制服ではない。ブレザーを着ている。俺の視線に気づいたのか、女子生徒はこちらを振り向くと、にっこりと笑って走り去っていった。なんだあの子……?


「どうした秋葉?ぼーっとして」

「いや……」


 俺は席を立ち、廊下へ出た。なぜかさっきの女子生徒が気になったのだ。廊下は風通りがよく、涼しかったが、女子生徒はいなかった。


「おっ、廊下の方が涼しいじゃんか!こっちでやった方が効率上がるぜこれ!」


 坂元の提案で、廊下へ机を出して行うことに。結局さっきの子はなんだったんだろう……

俺はしばらく考えていたが、たった一瞬だったし見間違いかもしれないという結論に至り、考えることをやめた。







 しばらくすると、諸手に大量の買い物袋を引っ提げて買い出し組が帰ってきた。


「お待たせ!」

「おうお帰り!」


 俺達1年E組はクラスパート、つまりクラスの出し物として「たこ焼き屋」を行うのだ。俺も知らなかったが、黒木が実家でたこ焼き屋を営んでいるらしい。3年生しか出店は出せないのだが、俺達クラスパートと呼ばれる発表側でこっそりやってやろうという魂胆だ。買い出し組も帰ってきた訳だし、これでクラスパートの面子が全員集合したわけだ。俺はあたりを見渡した。クラスパートのメンバーは俺含め13人。さっきから俺と共にリボン製作に勤しんでいた坂元と長谷、たこ焼きを焼く専門家黒木、異物混入事件を企んでいそうな加藤、そして未だ来ていない大橋、横井と田中と水野。そういえばクラスパートリーダーの宴屋もいないな……女子のメンバーは桜井と相模、そして有希だ。

 ところで、この俺達が2時間かけて作ったこのリボンはどうするんだろうか。こういうことは女子に聞くのが一番、そう思い俺はあまり話しかけたことのない女子に話しかけた。桜井……下の名前はたしか春、だったかな。なんかコイツは高1の割にやたら大人びているから話しかけづらいんだよな……


「……で?俺達が作った紙テープのリボンはどうやって飾り付ける?」

「あら?どうして私に聞くの?」

「いや、こういうのは女子に聞いた方がいいかなって思ってさ」

「あらあら、原君はかなりにぶちんなのね」

「に、にぶ……?どういうことだ?」

「ふふふ、なんでもないわ。リボンなら黒板の上と、教室の窓の淵にお願いね」

「おう、わかった」


 会話を済ませると廊下にあるテープを取りに向かった。皆は各々の購入してきたものを整理したりさっそく使用したりしていた。廊下の外を見ると、昼前だからか、準備のために他クラスの生徒も登校してきていた。そして俺はまた見てしまった。さっきの女子生徒を。D組の教室から出てきて、俺を見るなりまた微笑みかけて走り去るブレザー姿を。さっきのは俺の見間違えじゃなかったんだ。


「どうしたの秋葉?ぼーっとして」


 声がして振り向くと、そこには俺の彼女がいた。こんな言い方をするのはなんだかこそばゆいな。戸川有希、ロングヘアーが似合う幼馴染兼俺の彼女だ。


「おう、有希。買い出しお疲れ」

「暑かったわ……重かったし。それで、どうしてそんなとこでぼーっとしてるの?」

「ん?ああ、なんでもない。考え事してたんだ」

「悩み事?私でよければ相談してね……?」

「おう、ありがとう。あ、そうだ、リボンの飾り付け手伝ってくれないか?」

「いいよ」


「おい長谷見ろよ、あれが夫婦の初めての共同作業だぜ。すげぇよな加藤」

「ほんとだ、長谷見る価値あるぜ!」


 坂元と加藤が何か囃し立てているが俺はそれをスルーしてリボンの取り付けを続けた。飾り付けが進むにつれ、だんだんと教室が学校祭の雰囲気に近づいていく。おお、なんだか俺が知っている学校祭っぽくなってきたぞ……



―――――――――――――――――――――――――



「さて、飾りつけも終わったことだし、いったんお昼で休憩しますか」


 副リーダーの長谷の音頭で、一同が一旦作業の手を止めた。教室の机を動かし、中央に大きな円状のスペースを作り、全員でそこに座り込み、弁当を広げた。丁度いい、この飯の時間を使ってこのクラスパートのメンバー紹介をしていこうじゃないか。俺は弁当の卵焼きをほおばりつつ、そう考えた。長谷と坂元は省略。もちろん有希もな。

 えっと、まずは正面にいる黒木だな。下の名前は神哉。さっきも言ったが実家でたこ焼き屋をやっている。なんだか名前からして神々しいが、それもそのはず彼の実家は神社だからだ。しかも跡継ぎは決定しているらしい。そこんところはコイツがどうするかにもよるんだと思うが。そしてこいつはマッサージという殺人拳を持っている。足が疲れたと彼の近くでぼやいたら最後、さっと足元に潜り込んで筋肉のウィークポイントを突くのだ。どうやら彼の所属する陸上部では重宝されている技術なのだが、俺達には一切必要としない技術だ。んじゃ次、加藤。下の名前は隆次。こいつはかなり面白い奴だ。話していて飽きない。いつもミンティアという名の清涼菓子を食っている。口癖が「ミンティアうめぇ」って言うレベルだ。どこからともなく取り出してヒョイパクヒョイパクと食っている。腹壊さないのが不思議だ。えっと、いない面子はまた後日だな。次、女子。相模。さがみ、って読むんだぞ、覚えとけ。たしか下の名前は瑞希。剣道部の1年生ながらにして主将だ。坂元がどうして剣道部じゃないのか疑問だそうだ。たしかに坂元は剣術家の家元だが……口調がかなり男勝りで威圧感がある。故に俺は話しかけにくい。決してビビってるわけじゃないぞ。決してだ。次、桜井……はさっき言ったからいいよな。相模と幼馴染でいつも一緒に居る。さっきも言ったが、高校1年生にしては……なんつーか、その、グラマラスなんだよ。


パシッ


「いてっ」


 俺が思考という名の説明をしていると、横の人に頭を叩かれた。その横にいるのは有希だ。


「どうした?」

「……蚊」


 そういうと有希はぷいとそっぽを向き、無言で残りの弁当を食べだした。蚊が飛んでたのか……それなら仕方ない。とにかくだ。そういう少し年上な雰囲気を出している奴だ。






「昼飯食ったらどうする?」


 弁当を食い終えた長谷が一同に聞く。


「私はこれから用事があるから帰るわ。宴屋君にそう伝えてくれると」

「あ、私も」

「なんだ、桜井と相模は帰るのか。それならほとんど男だけだし、特に美に係ることはしにくいな」

「なんだよ長谷、俺の美的センスがゼロって言いたいのか?」


 長谷の発言に坂元が食いつく。いや、俺もそれは長谷に同感だ。俺と有希が飾り付けたリボンとお前の飾り付けたリボンでは明らかに弛みの長さがバラバラだ。しかもお前が作ったリボンはやたら輪っかが長いし。いや、長谷もいちいちメビウスの輪にしてるからどっちもどっちか。


「まぁ、男だけでもできる会場設備的なのをぱぱっとやるか。その辺やるころには宴屋も来るだろうし」

「そうだね。僕としては窓際は客席にしたいんだよ。それと――――――」


 黒木が話している最中、大音量で一発で誰だかわかるやつが教室に入ってきた。


「うおっしゃあああああ遅れてごめんよおおおっ!!」


 振り向くのも面倒だが、振り向いてみる。やはりそうだ。宴屋大介。こいつはお祭り人間で祭りの事となると先陣切って仕切りたがる。既に気分はお祭りなのか、年中そうなのかは知らないが学ランを法被のように羽織っている。


「おう宴屋じゃないか、遅かったな」

「すまんな、ちょっと会議にてこずっちまって」

「会議?」

「あーいや、こっちの話だ。それにしてもだいぶ進んだんと違うか?あとは調理する設備ぐらいだな!」

「うん、さっき言う途中だったんだけど、あとは僕の屋台からたこ焼き用の鉄板とガスボンベをいくつか、だね」

「おおそうか!それなら男子の数人でやれるな!黒木、加藤と俺で行くか!」

「ちょ、俺も!?」

「たりめーだ。お前何もしてないだろどうせ」

「えええええ?やってたよ!なぁ黒木?」

「え?やってないよ?」

「えええええ?なんで!?」

「……行くよね?」


 黒木が笑みを浮かべて加藤に歩み寄る。間違いない、これは掘られ……じゃなくて、足をやられる前兆だ。それから数十秒後、加藤の断末魔が校舎3階に響いた。


「行きます。というか行かせてくださいお願いします」


 マッサージの末、加藤が三つ指ついて宴屋に懇願していた。これが調教か。黒木たちは黒木の家へと向かっていった。


「それじゃあ私たちは帰るわね。長谷君、頼んでた物よろしく」

「まぁ、任せとけ」


 無言だった相模が帰り際に口を開いた。


「さ、坂元……!」

「あん、どうした?」

「……いやっ、なんでもない」

「なんだよ、人の名前読んでおいて……あ、そうだ相模」

「なに……?」

「夏の大会優勝したらしいな。おめでとう」

「……、……」


 相模はただ頭を下げて教室を去った。


「……なんなんだアイツ」


 坂元は頭を掻いて一言ぼやいた。


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