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僕達は北高生  作者: かっつん
第7章「僕達は北高生」
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7-2.黑


 何も起こらない平和な日常に嫌気が差していた半年前。煌びやかな高校生活を夢見ていたのも半年前。その全てが夢現と成り果て、平々凡々の変化の無い毎日が繰り返されると思っていたのも半年前。そんな風に考えていた時が、俺にもあった。だが、現実はかなり変わっていた。いきなり未来から成長した自分が現れ、過去の自分が殺される、殺そうとしているのは幼馴染の女子……なんてものを聞かされ、否応無しに過去へと連れて行かれ、ヘンテコな能力を手に入れた。幼馴染はとある組織に操られ、時代を飛び、過去から俺の存在を抹消しようとしていた。何とか回避し、一息ついた夏。そのとある組織のメンバーが現れた。計画に失敗した幼馴染と、本来の目的である俺の抹消。その最中、俺は、幼馴染にも、友人にもヘンテコな能力があることを知る。無事組織の計画を阻止し、やり過ごした俺達は、学校祭を楽しんだ。そんなこんなで季節は秋だ。その秋にも、組織から忍者の子孫が送られてきた。急に行われた不完全な世界の破壊。そして与えられた1ヵ月の猶予。次は本当に世界を破壊する、そんな脅しも受けてきた。あれから修練を積み、組織の本拠地へ乗り込み、組織の残党をなぎ倒し、最奥にたどり着けば組織の黒幕はまさかの未来の自分自身だった。倒してみれば未来の自分の中から現れたのはまさかまさかの大きな獣。ヘンテコな能力の根源となる存在が、未来の俺の中に巣食っていたのだ。

 ……ふう。一息に思い返してみれば、意外と10行ちょいで語れそうな内容だったんだな。だけど、実体験としてみれば長いがあっという間な半年間だった。だが、これを倒せば、世界の破壊は免れる。これで終わりなんだ。そう思うと、まだまだ長く語れそうな気がする。


 そんなことを思い出しながら、俺、原秋葉は戸川有希、坂元悠介、長谷雄理の3人の大切な友と共に、その大きな獣に戦いを挑んだ。


「オラ行くぞ!」


 坂元が目にも留まらぬ速さで駆け出し、黑に斬撃を与える。だが、黑が纏う粉のようなもので刃が流れ、刃が地面に突き刺さった。


『貴様の刃は脆いんだよッッ!』


 地に下りた黑は背中から新たな腕を生やし、坂元を殴りつける。地面に打ち付けられた坂元は強く弾み、身体を泳がせた。追撃の一撃を寸でのところで有希が空間を制御し坂元を回収、回復をやってのけた。


「助かる……いちちち」

「あまり単独で突っ走らないで。私の回復能力もそろそろ底を尽きてきてるわ」

「だって俺至近距離戦しか出来ねーし……」

「腐るな。俺にも策がある。俺に合わせろ」


 そう言いながら参考書を開いた長谷は、魔方陣を強く光らせた。


「……しゃーねーな。秋葉との一戦にとっておきたかったが、俺の新技で合わせてやるよ!」

「秋葉も頼む。戸川さんは……さっき言ったとおりにしていてくれ」

「ああ!やるぞ!」


 俺達が構えたのを見て、体制を整えた黑が先程坂元を殴りつけた背中の腕を2本、新たに生やし伸ばしてきた。


「ハッ!」


 有希が小さく叫ぶと、俺と坂元の身体が不意に浮き上がり前方へ動き出した。さっき坂元を回収したときのように、有希が俺達の空間をいじったのだろう。高速で黑に向かっていく。背後からは、俺達よりも早く、俺達を避けるように炎の弾丸が乱れ飛ぶ。長谷が打ち込んでいるのだろう。俺はナイフを構え、保存しておいた時空からもナイフを呼び出す。隣を見ると、坂元が呼吸を整え、刀をくるくると回している。襲い掛かる腕が刃に触れたとき、坂元の目が強く見開かれた。


「坂元流新奥義……月光乱華斬!」


 折り重なる斬撃が、腕を切り刻む。


『ほォ……我が幻手を斬るか』


 切り刻んだ腕が舞う間に坂元がまた目を閉じ、刀を回す。そうか、回転のエネルギーで攻撃を回避し、さらにその攻撃の威力を利用して相手に反撃を与えるのか。確か長谷が言ってたな……『空手の廻し受けを物理的に解釈すると~~』って。


「やるじゃん坂元。じゃ俺もやりますか」


 そんなことを考えている間もなく、俺の目の前にも幻手がやってきた。俺は目の前の空間を停止、幻手を受け止め、切り裂いた。もちろん、その程度では坂元のように斬る事は出来ないが、俺はその腕に飛び乗り、有希のサポートを止めた。


『ぐゥ……ッ!』


 幻手の上はやはりしっかりしており、上に乗って走る事もできる。俺は本体目掛けて駆け出した。黑は俺を振り落とそうとするが、止まった空間に縛り付けてあるため動かすことが出来ない。


『調子に……乗るなァァァッ!!』


 黑は幻手をさらに3本増やし、幻手の上を走る俺を襲う。俺は両手を広げ幻手の来る角度を確認し、走りながら左右の時間を止める。


『それで止めた気になってんじャねェ!』


 言葉とほぼ同時に、腹部に鈍い痛みが走る。俺の腹に幻手が突き刺さっていた……が、白い手が俺を守るように俺の身体から飛び出していた。有希の皓の力だ。防弾チョッキのように俺の身体を包み込んでいた。


「秋葉!そのまま行って!」

「わかった!」


 背後の有希の声が俺を後押しする。幻手をかいくぐり、ついに黑の目の前にやってきた。尻尾も含め全長4mはあろう巨体が目の前に立ちふさがる。


『……よぉ、俺の器ァ……』


 黑は牙を見せながらニタリと笑う。背後から火炎弾が俺の頬を掠めるが、目の前の黑には効いていなかった。


『俺のもう半分も、返してもらうぜェ……』

「はん、ぶ……!?」


 言葉を復唱する暇はなかった。黑の本当の腕が俺の頭上を高速で通過、いわゆるフックを俺目掛けて繰り出したのだ。とっさにしゃがみ、がら空きの足にナイフで切りかかるが、ナイフが折れてしまった。


「くっ!固い……!」

『オラオラオラオラ!チンケな攻撃してくれんなよォ!』

「がはっ!」


 ダメージを負った坂元が俺の足元に吹き飛ばされる。俺は坂元を抱きかかえ、後ろに飛ぶ。時間を止めた空間に坂元を寝かせると、有希が坂元を引き寄せる。長谷の言っていた「策」とはなんだったのか。俺はそれを考えていた。


「待たせた秋葉!ESP……」


 遠くに居る長谷の声がはっきりと聞き取れる。黑の幻手をかいくぐりながら横目で長谷を見ると、長谷の周りに蒼い何かが見えた。


「……ストーム!!」


 長谷の突き出された手から、衝撃波が飛び出す。その衝撃波は俺達の身長を遥かに超え、空を裂き、地を削り、黑目掛けてまっすぐに突き進む。突如、俺は何かに引っ張られるように後ろに吹き飛び、衝撃波が届かない位置まで移動させられた。


「いっけええええぇぇえぇ!」


 黑は両手と幻手を前に突き出し、長谷の衝撃波を受け止めた。黑の足が地面にめり込む。


『グガッ!グギギギギィ……』


 流石の黑も、蒼の力の攻撃は無効化できないようだ。正面から受け止め、対立している。ひょっとして、今がチャンスなんじゃないか?そう思った俺はナイフを構えた。


「秋葉っ!!」


 有希の声が轟音に紛れ響く。その声に気付いたときには、もう遅かった。視線を下に向けると、黒い毛に覆われた腕が、俺の胸を貫いていた。何かが、上がってくる。咳き込んだ俺の口からは、血が吐き出された。そうか。貫かれたのか。だんだん、力が抜けていく。だんだん、頭の血が引いていく。遠くで誰かが叫んでる。誰だろう。目が霞んで見えない。なにも……考えられない……


『お前達は、SSKに負ける』


 この言葉、誰が言っていたっけ……?えすえすけー……って……なんだっけ…………



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