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僕達は北高生  作者: かっつん
第1章「僕達は北高生になったばかりだ」
3/33

1-3.悲しみと暴走と深き眠りし心と

 喫茶店をでて、人目に付きにくい神社に着く。ってかここ魁皇川公園の近くじゃねぇか。未来の俺はさっきから何かを唱えていて、足元に何か模様を描きだした。すると目の前からナイフが飛んできて、未来の俺の周りをぐるぐると飛び回っている。


「なっ、なんだ、それ……」

「ああ、俺の武器だ。いろんな武器を試したが、結局このナイフが一番落ち着くからな」


 くるくると回し、ズボン(よく見たら制服のズボンだ)のベルトに取り付けられたホルダーに装着した。


「1つだけお前に時空を使った技を教えてやるよ」


 そういうと未来の俺はナイフを空中に放り投げ、指を鳴らした。ナイフが緩い放物線を描き帰ってくるときに、俺は驚愕した。ナイフが……増えている!?


「時空の複写だ。パソコンと同じで、カット、コピー、ペーストのような作業をするだけで、1本だったナイフが……ほらよ。15本に化ける」

「要領は理解してるんだが……すげぇ」

「さて。たっぷり話し込んだせいでかなり時間が経過したな。今は10時20分か」

「俺がこの時空で殺されるのは16時32分7秒」

「いや、その時には既に刺されている。厳密には刺される直前、俺が陽炎と見間違えた16時31分55秒。それが正しい時間だ」

「……細かい時間はどうでもいいんだが。その時間まで6時間近く余裕があるが、どうするんだ?」


 未来の俺はナイフをホルダーにしまいながら言う。


「面倒なことはさっさと終わらせたい。行くぞ」


―――――――――――――――――――――――――


 未来の俺は急に俺の手を取り飛び上がった。飛び上がるとはいえ十数センチだが、地に足が着く前にまた例の1と0が落ちてくる世界に変わった。……のだが、さっきのような強烈な痛みを感じない。


「気が付いたか?能力を手にしたことで時空酔いを感じなくなったんだ。そして見ろ。6時間後の未来に有希が入り込んでいる証拠だ」


 未来の俺が指を指しながら言う。指した先には1と0の中にχと表示されているところがある。


「あそこに俺達は行く。気を抜くなよ」


 俺達はχに飛び込み、1と0の世界を抜けた。


―――――――――――――――――――――――――


 着地した先は時の架け橋の下だった。腕時計を見ると16時30分8秒。つまりこの時空の俺が橋を上り始めた時間ということか。


パチン


「よし、行くぞ」


 未来の俺が指を鳴らし、走り出した。時の架け橋にさしかかる。灰色の夕日が差し込む。たしかに、橋の頂に戸川が立っている。戸川の動きも止まっている。持つナイフも灰色に輝いている。戸川のあたりに逃げ水が発生していて、あたりが霞んでいた。なるほど、だから過去の俺が陽炎と見間違えたのか。


「お前はこの時空の俺を安全なところへ。俺が有希の暴走を止める」

「ああ、わかった」


 そういいながら未来の俺が携帯のような端末を操作している。俺は過去の俺を持ち上げ(重いな……)、橋の始めに置いてあるベンチへ寝かせた。それにしても、固まった状態でベンチに寝そべる俺ってのも面白い構図だ。


 高音の電子音が無音の世界に鳴り響く。音の場所は未来の俺のいるあたりから聞こえる。


「まさか……」


 嫌な予感が走る。俺は未来の俺の元へと急いだ。


「おい、どうしたんだよ俺!」


 答えは未来の俺から帰ってくる前に、目の前の灰色から帰ってきた。


「ふふ……それはね秋葉。未来の貴方が私をナメてかかったことが大きな原因よ。心外ね。私をもっと強い力で抑えつけて制御すると思っていたのに……」


 目の前の灰色、つまり戸川に色が戻る。


「その程度の端末。その程度の世界の構築。大学生の秋葉。高校生の秋葉。その程度の勢力で私に勝てるはずがない。そうね、時間が止まっているんだし、先に貴方達から片付けるわ」


 戸川は手にしたナイフを振りかざし、ナイフを光の鎌のようなものに変形させる。


「構築エネルギーをナイフに圧縮、光の刃となれ……」

「お、おい、どうするんだ!?」

「……、言っただろ?俺には策がある、ってな」


 急に頭に激痛が走る。内部からじゃなく、物理的な激痛だ。薄れゆく意識のなか、聞き覚えのあるような声が聞こえてくる。


「おう秋葉、悪く思うなよ。あの時の仕返しだ」

「秋葉、構築は間違えちゃいけないぜ。構築はもっと想像でちゃんと創造しないと。まぁそれにしても……」


―――――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――


――――――――――


―――――


――


「おい、大丈夫か?」


 無音の世界の中、目が覚める。……まだ頭が痛い。


「あれだけ強い一撃を頭に喰らったんだ、痛いのはわかるぜ」


 頭を押さえ起き上がる。あたりはまだ灰色に染まっている。未来の俺を見ると服が血まみれになっていて、ところどころ破れている。


「おい、大丈夫か?」

「ああ、なんとかな」

「俺はどれくらい気絶てた?」

「だいたい半刻程度だろ」

「ところで、お前以外に誰かいたのか?」

「……あ?」


 あたりを見回す。だがそこには静止した過去の俺と気を失っている戸川と未来の俺以外は誰もいなかった。


「……いや、なんでもない。ところで、戸川はどうなったんだ?」

「俺と一悶着あって、ようやく戦意を喪失した。今の有希は組織から解放された状態さ。つまり、この時空からおかしくなっていた有希じゃなく、以前までの有希の状態になったってことさ。ここにいる有希は俺が後で回収しておく。そして……」


 未来の俺の言葉が終わるか終らないかのあたりで戸川が起き上がった。少々ふらつきながらもこちらへやってきて、俺達に微笑みかけた。


「秋葉……ありがとう。今のこの私が消えても、「私」を嫌いにならないでね。だって……私は……」


 戸川は次の言葉を言いかけたが、首を振り俺に向かって微笑みかけた。


「ううん。なんでもない。この言葉は貴方の時空に戻ったら私が改めて言うわ。その時の私から聞いて」


 戸川は涙で一杯の顔で微笑んでいる。戸川の涙が静止した時の中に零れ落ちた。そして戸川は崩れ、また気を失った。


「……よくやった」


 未来の俺が言う。


「後はこの時空の俺を橋に戻すだけだが、それは既にやっておいた」


 ふと横を見ると過去の俺が突っ立っている。相変わらず間抜けな顔してやがる。いや、それは俺もか。


「さて。俺達も戻るか」


―――――――――――――――――――――――――


 未来の俺は戸川を抱き上げ、俺の手を掴み飛び上がった。再三度1と0の世界に飛び込んだが、振り向けばその1と0の中にはχは存在しなかった。全てが正常に戻ったのだ。どうして組織というものが存在するのか。その敵組織はどうして俺を殺そうとしたのか。またなぜ戸川を利用したのか。いろいろ謎が残るが、未来の俺は何も答えなかった。


 地に足が着く感覚がする。ようやく戻ってきたようだ。


―――――――――――――――――――――――――


 背後を見ると北高の新校舎が聳え立っていた。その代りか、未来の自分がいなくなっていた。ああ、やっと戻ってきたのか……未来の俺の声が灰色の世界に響く。


「今お前がいるのはそれから3年後の8時7分35秒だ。教室のお前が3年前に飛ぶのは1秒後の8時7分36秒。つまりたった1秒だけ2人のお前が存在することになるが、1秒前のすべてを知るお前と、1秒後の何も知らないお前、どっちが賢いと思う?まぁ俺からしたら変わらないがな。……ああそうだ。言い忘れていたが、時空を操る能力は非常に強力な力だ。その力を求めるものがいくらでもいるということを覚えておくといい。じゃあな!」


パチン


 あたりに色と音が戻ってきた。と思ったらまた灰色に染まった。ああ、未来から俺が来るのか。


 ん?待てよ……タイムスリップする前に俺は坂元と会話をしていた。ということは時間が戻る前に教室へ戻らないとだめじゃないか!俺は急いで走り出した。そういえば忘れていたが俺は今までずっと学校のスリッパで活動していたんだな。どうりで動きにくい訳だ。


『それは後で説明する。今は俺と一緒に来い!』

『は?どこへ行くんだ?』

『過去だ。俺たちが中学1年生の時代へ』


 教室から声が漏れる。間に合うか……?開け放たれたドアから飛び込むと、ちょうど2人の俺が飛び降りるところだった。未来の俺の手が親指を立てている。


 パチン




 また現実的な日常が始まった。

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