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僕達は北高生  作者: かっつん
第4章「僕達は北高生である夢を見る」
19/33

4-3.世界を作り変えるプログラム




「……3つ」


 未来の俺の言葉を長谷が繰り返す。未来の俺は散らかった俺の部屋を片付けながら続ける。


「そう、3つ。俺の時空で経験した未来と、STPとΩの関係、最後は渡すものがある。この3つだ」

「未来……?」


 俺は正直、自分の未来は見たくない。もしそれが幸せな結果だったとしても、知ってしまえば何も楽しみが無くなってしまう気がするからだ。犯人を知っている状態で読む推理小説のようなものだ。


「俺が経験したお前達の未来。規定事項があるから多くは語れないが、お前達はSSKに負ける」

「ま……負ける!?」


 予想外の言葉に俺達は言葉を失った。何故?未来の俺がいるのにどうして負けると……


「じゃあ未来の俺は何故存在出来る?過去に飛べる?」

「俺の時空とこの時空は違う。だがこの時空の延長線が俺の時空になっている。逆を返せば、俺の時空を戻ればこの時空になるかと言えばそういう訳ではない。時間をさかのぼり、規定事項をこなすだけでも時空にズレが生じる。だけど規定事項だからやらなくてはいけない」

「答えになってねーぞ」


 そっぽを向いたまま、坂元が突っ込む。それは俺も同感だ。


「すまないが、俺も未来の俺からこう言われた。意味はいずれわかる」

「なぞなぞがしたいんじゃねーんだぞ俺達は……」

「すまない。本当にすまない。隠していた訳じゃない。今教えられるのはこれだけなんだ」

「……だけど、お前に突っかかるのもおかしいか。俺こそ襟掴んで悪かったよ」


 重ね重ね謝る未来の俺に対し坂元は素直に頭を下げた。……ああ、よかった。自分のことではないが自分のことだから変な緊張があるな。


「……それで、2つめのSTPとΩの関係って?」


 未来の俺は少し考える仕草をしてから、ゆっくり、慎重に話を続けた。


「STPは世界を作り変えるプログラムと銘打って開発された。しかしSTPの本当の姿は違う。とある機械で実行することで暗黒物質を作り出す。これが本当の姿なんだ」

「暗黒物質を……作り出す!?」

「ああ。作り出すというと語弊がある。引っ張り出した、と言った方が正しいな。その機械は「原子法則を一時的に無視した空間」を作り出す。つまりこの「世界の理」から外れることになる。STPはそこから蒼と碧の暗黒物質を引っ張り出した。Ωはそれを観測し、この世界のバックアップを作り、残る黑と皓の暗黒物質を器と共に付け足した」

「うつわ?」

「暗黒物質を内包させておくことで、二度と空間から暗黒物質の抽出をされないように。その器はごく普通の人間として生きる。暗黒物質に生まれつき耐性を持ち、これまで自分が人間だったかのように記憶を持った状態で世界を作った」

「お、おいおい訳が分かんなくなってきたぞ」

「俺も話していて訳が分からん。だが、これも事実だ」


 俺は頭に図を描き、ひとつひとつ整理していった……が、わからん。まったくもって理解できん。


「で、未来の秋葉は何がいいたいんだい?」


 長谷の問いに未来の俺が一瞬戸惑った。言っていいのか、悪いのか……それを考えている顔だった。


「黑と皓の器……つまり所持者。俺と有希はΩによって作られた存在だ」

「な……っ!?」


 俺と有希だけではない、長谷と坂元も言葉を失った。俺と有希がΩに作られた存在……?


「つまり俺と有希は人間じゃないってことか!?」

「姿形は人間だ。が、母体となった生物は居ない。人間をコピーし、人間のように生きるΩによって作られた暗黒物質の器だ。Ωは4つの暗黒物質の接触を望んだ。黑と皓、蒼と碧は互いに引き寄せあう特性を利用してな。SSKもそれを知っていて、俺達をこの戦いに巻き込ませたんだ」


 俺は頬を抓って見た。痛い。夢じゃないし、痛みを感じるってことは人間である証拠。なのに俺は人間じゃない……

 そう考え込んでいたら未来の俺は俺をまじまじと見つめた。その表情は楽しんでいるとも悲しんでいるとも取れず、ただ驚いているような表情だった。


「……なんだよ」

「いや、意外だったからな」

「これ以上驚くのも疲れたからな。とりあえずは受け入れることにしたんだ。そもそもおかしいだろ?時間を止めるとか、空間を察知して世界を破壊するだとか。そういった人間離れしたことが出来る、そしてその話を聞いてはいそうですかと使いこなせる人間がいる方が変だ」

「……あー、秋葉?」


 長谷の声に俺ははっとする。


「そうだ、長谷はどうなんだよ」

「長谷はこの世界に元から存在する人間だ。イレギュラーなのは俺そして有希」

「まぁ、俺も人間離れしてた、ってことで喜んでいいのかな」


 長谷はジュースを飲み、小さく笑った。


「でも、これでSSKが秋葉達を欲しがってる理由は分かったな。人間っぽいけど人間じゃない器があったらそれで実験したくなるからな」

「気楽に言ってくれるぜ坂元は……」


 俺は坂元を横目に窓の外を見つめた。さっきまでそこにいた東雲を思い出す。


「あいつらは?あいつらはそういった人外じゃないのか?」

「SSKの人間は純粋な人間だ。しかしイレギュラーな存在のせいで理から外れかかっているのは確かだな」

「イレギュラーな存在?いやまぁ確かにあいつらはイレギュラーだけど……」

「世界にとって想定外な存在、って意味でのイレギュラーだ。規定事項だからこれ以上は無理だな」


 未来の俺は俺の本棚からライトノベルを引っ張り出し、ぱらぱらとめくり始めた。


「最後の1つ。お前らに渡すものがある」


 そういうと未来の俺は有希、長谷、坂元にタブレットを渡した。俺には小さく折りたたまれたメモ紙を。


「……なんだ、これ?」

「これは来たるべき戦いに備えてお前らが持ちうる力の増幅を狙ったタブレットだ。俺の時空にいる長谷が作り出した。これはあくまでも基礎的なモノだから、ここで増幅し得たものをどう応用するかは自分で考えろ」

「ふーん」


 長谷が先ずタブレットを口にした。俺はその様子を見ていた。


「……お、おおおぉぉっ!?」

「長谷のタブレットには蒼の力……つまりESPパワーの増幅と、エネルギーの変換効率を上げる組織が入っている……らしい」

「ああ!なんか賢くなった気がする!」


 そういうと長谷は物理の参考書を開き、適当なページで手を止めた。


「密かなる温水、シークレットウォッシュ!」


 突き上げた右手から水の玉が複数飛び出てきた。その水の玉は割れることなくふよふよと浮かび、コップの中へと入ると、コップが瞬く間に湯で満たされた。


「ったく、そのネーミングセンスなんとかならんもんかねぇ……」


 次は坂元がタブレットを口にする。長谷ははしゃいで水玉をポンポンだしていた。本濡らすなよ。


「坂元のタブレットには肉体強化と、覚醒勘を上げる効果がある……らしい」

「覚醒勘?」

「これまで坂元世継が現れる、つまり覚醒する為にはまず、坂元が命の危機に陥らなくてはならなかった。しかし覚醒勘を上げることで、任意にではないが悠介と世継、切り替えがスムーズにできるよう、心の距離を縮めた」

「なんだかよくわからんが、すごいことなんだな」

「次は私ね」


 有希がタブレットを恐る恐る口にする。


「……なんか変な味」


 有希が簡単な感想を述べた直後、小さくしゃっくりをして気を失った。


「お、おい有希!?有希!?」


 未来の俺が有希を揺さぶる俺を制す。有希を見ると、すーすーと寝息が聞こえてきた。有希はどうやら眠っているようだった。


「安心しろ、1、2分したら目が覚める。だから有希のタブレットの効果は後で本人が目覚めたら説明しよう」

「だ、大丈夫なのか……びっくりした……ところで、俺にはタブレットは無いのか?」

「言ったろ、お前に渡すタブレットは3つだ、ってな」

「あ、ああ。だから今受け取るのかと」

「まぁまた時が来たら説明するさ。じゃあお前に渡したメモ紙について説明しようじゃないか」


 俺は受け取った紙を広げる。そこには住所が描かれており、カードが入っていた。その住所は俺の家から電車で約30分の場所だった。


「これは?」

「SSK本拠地近辺の住所と、SSK研究室に入る為のカードキーだ」

「意外と近いんだな……それに管理がずさんすぎる」

「まぁ、向こうも俺達に負ける気はしないならこれくらいはするんじゃない?」

「ああ。向こうはそうやって言ってくる。だからといってカッとなって攻撃するんじゃないぞ。あいつらに乗せられたらそれで終いだ」


 未来の俺はナイフをポケットから取り出し、くるくると回した。


「そのナイフ……未来の秋葉は誰からもらったんだ?」

「ん、これか?これは俺も未来の俺からもらったものだ」

「え、ちょっとまって……?」


 長谷が未来の俺を制し、少し考える。なんだ、どうした?


「秋葉は未来の秋葉からナイフをもらう。これは規定事項として揺るがない事実であり真実だと仮定しよう。そうすると最初のナイフはどこにあるんだ?」


 ……えーと、なんだって?意味が分からない。俺と坂元はポカンとしていた。長谷は俺のスケッチブックを使い、図を描きながら説明し始めた。


「いいかい?まず秋葉がΩから生み出される。この時秋葉はナイフを所持していない。だから未来の秋葉がナイフを渡す」


 一本の棒線に左から「秋葉誕生」「秋葉高校1年生」「未来の秋葉」と書かれた節目を付ける。


「このとき、中心の秋葉はそのナイフを使って戦う。SSKに勝っても負けても未来が存在するとするなら、過去に飛ぶ時点、つまり未来の秋葉になりうる「成長した秋葉」ももちろんそのナイフを持っているはず」


 ナイフの絵を「未来の秋葉」から「秋葉高校1年生」に矢印を引き、さらにそこから「未来の秋葉」まで矢印を引いた。


「ふんふん、確かにそうなる」

「じゃあ、これを今の俺達に当てはめると、確かに筋が通る話ではあるんだ。……だけど、最初のナイフはどこなんだろう」

「あ、なるほど!この繰り返しをする間にどこで俺がナイフを入手したのかってことだな」

「そう。まぁタイムパラドックスなんて実際起こったのを見ることは出来ないから……いや、出来るのか、秋葉がいれば。なぁ、未来の秋葉、これであってるか?」

「……規定事項とは少し反するが、まぁいいか。説明しよう」


 未来の俺は長谷の引いた棒線の上下にさらに同じ棒線を引いた。


「長谷の推測は半分正解で半分間違いだ。俺達の世界は現在ループしている。いや、ループと言うよりも並行世界が大量にあると言った方がいいか。俺達の世界はΩに観測されている……ってのは言ったっけな。まぁいいや。Ωが観測しているから、起点と終点を延々とループしている状態にある」

「起点と終点?」

「ああ。これ以上は俺もよく覚えていない。Ωに記憶をいじられているからな」

「Ωに会ったことがあるのか?」

「忘れたか?Ωは情報の塊。つまり人間には不可視の存在だ。話を戻すぞ。このループした世界で、1週目はどこか?と聞かれたら俺は答えられない。だが、1週目は間違いなく俺と有希はΩの手によって作られた」


 俺は未来の俺の言葉に少し引っかかる節があった。


「1週目は間違いなく?てことは2週目以降は俺か有希が生まれないことがあったのか?」

「ああ。1週目と言っても、ループ内でさらに分岐されているんだ。ギャルゲ的に言うなら1週目トゥルーエンドと1週目バッドエンドみたいなもんだ。トゥルーでは俺が生まれ、バッドでは有希が生まれ……みたいに、片一方しか誕生せず、Ωが埋め合わせる事象が存在する」

「ん…………んっ」


 小さく唸るような声が聞こえた。振り向くと、有希が伸びをして起き上がった。


「あ、あれ?私寝ちゃってたの?」

「ああ。タブレットの効果でな」

「そう……なんだか苦しくて目が覚めちゃったの……あれ?」


 有希が不思議そうに立ち上がる。肩、胸、腰、太ももの順にパタパタと己の身体を触り、未来の俺を見た。


「タブレットの効果って……まさか」

「ああ。坂元と同じ身体強化だ。有希は以前暴走したこともあって皓の浸食はかなり進んでいる。だが如何せん体が華奢すぎてこれからの戦闘についていけない。だから少し肉をつけさせてもらったよ。特に下半身」

「え……えええっ!?」


 ……確かに顔や背丈、腰まである長い髪は変わっていないが、普段見ている有希より少し肉付きが良くなった気がする。鉛筆のようだった足は膝の上下でメリハリのある足に変化し、腰幅も少し広くなったようだ。スカートの丈が変わっていないのに少し膝上が見えている。


「ちょっと……秋葉!」

「えっ、ごめん!」

「あ、今の秋葉じゃないの。未来の秋葉よ」

「すまんな。一応規定事項だし、このタブレットも未来の有希からは許可得てるんだ、許してくれ」

「……んもう。仕方ないのね。それで、私が寝ている間何の話をしてたの?」

「後で今の俺から話すよ。な、秋葉?」

「ひゅぇっ!?」


 有希に見惚れていた俺は、不意に話を振られてはっとして変な声を出した。


「あ……ああ。後で、な」

「なんだよ秋葉見惚れてんのかぁ?」

「そ、そんなんじゃ……あるかな」


 俺は妙に恥ずかしかった。どうやら未来の俺もそうらしい。大きく咳払いをして、改まって話した。


「SSKが言うには1か月後。疑似STPが作動するまでに各々技を磨いておくように。俺はお前らが成功することを信じてる」

「さっき負けるって言ってたじゃねぇか」

「あ……まぁ、これは言葉のあやって奴だ。頑張れ」


 そういうと未来の俺は窓から飛び出し、消えた。急に現れ、帰るのも急、か。変わった奴だよホントに。





―――――――――――――――――――――――――――――――――





「あぁ、体が重いわ」

「急に体重が増えたようなもんだからね」

「なんか複雑な気分よ」

「でもよ、今ので戸川も結構いいプロポーションになったけど、やっぱり秋葉の母ちゃんのがプロポーション抜群だよな!」


 坂元がすこし興奮気味に話す。俺の母さん?


「確かに。美雪さんは高校1年生の子を持つ母には見えないもんね」


 長谷も便乗して俺の母さんを褒める。


「褒めてもなんもださねーぞ」

「いやいや、これは本心だよ」

「……すっげー複雑」


 確かに、俺の母親は若くに俺を産んだ……らしい。だから一般的な家庭より母親が若い。でもそんなにスタイルいいっけなぁ……


「いやいや、秋葉は身近にいすぎてわかんねぇだけだ!若奥様のあの美貌!魅力!むっちりとした身体!くぅ~たまんねぇ!」

「俺の母さんに手出したら絶交だぞ。つか友人の母に発情ってなんだお前……」

「……冗談だよ冗談。ただ、お前の母ちゃんが美人なのは本当だ」

「全く……」


 俺は坂元に呆れて残り少ないジュースを飲み干す。時計をちらりと見た長谷を俺は横目で見ていた。


「さて、そろそろ18時。日も暮れてきたし、あんまり遅いと美雪さんにも迷惑かかるから今日は解散しよう」

「そうだな、秋葉、邪魔したな」

「ん、もうそんな時間か。おう、気を付けてな。有希は俺が送るよ」


 俺達は外に出る。空は既に暗く、風が冬の訪れを知らせていた。


「じゃあ俺はここで。じゃあなー!」

「おう、またなー!」


 坂元と長谷が自転車で走り去っていく。俺は自転車を押す有希と並び、街灯照らす歩道を歩いていた。


「……ねぇ、秋葉?」

「どうした?」

「今日はいろんなことがあったわ」

「ああ。そうだな。特に有希はそう感じるだろうな」

「え、えぇ……」


 自分の体を抱きしめるように腕を組む有希。制服が窮屈なのか、しきりに裾を気にしている。


「突きつけられた現実とこの身体には正直戸惑いしかないけど。やるしかないのね」

「未来の俺にうまく乗せられた感が否めないが、真実と事実が分かった以上、やるしかないだろう」

「そうね……」




 ……沈黙。




「ねぇ、秋葉?」

「どうした?」


 さっきも繰り返したようなフレーズが続く。


「もし、私が貴女のお母さんみたいな体型だったら嬉しい?」

「素っ頓狂な事聞くなぁ」

「もしもの話よ」

「そうだな……母さんは母さん、有希は有希だからな。好きのベクトルが違うし、嬉しいかもしれないけど悲しいかもしれないね」

「……そう、そうよね!」


 俺の言葉を聞いてか、有希はすこし元気そうになった。有希は足を止め、俺を見た。


「もし、もしもの話なんだけど」

「なんだい?」

「今から私の家に来てって言ったら……来てくれる?」


 ……沈黙。俺の思考が停止する。


「……へ?」

「……嫌?」


 嫌じゃないです嫌じゃないです。


「全然平気!どうかしたのか?」

「……まぁ、ちょっとね」


 有希は長谷の真似をして肩をすくめる。そうだな。彼女が用事があるんだ、断るのは野暮すぎるじゃないか。

 男、原秋葉。彼女の家にいってきます。



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