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僕達は北高生  作者: かっつん
第4章「僕達は北高生である夢を見る」
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4-2.過ぎ去った過去

 自室のキャパシティを恨むってのはこういう時に言えるものだ。俺、原秋葉は自分自身2人と友人2人と彼女、つまり5人が自室に集まっていることに狭苦しさを感じていた。


「暗黒物質の性質?」


 長谷が首をかしげる。長谷にも物質と名のつくもので知らないものがあるもんだ……


「ああ。暗黒物質でわかっていること、と言った方が正しいかな。まずは色から説明しよう。この世界には4色ある、と言ったがそれぞれ役割が存在している」


 そういうと未来の俺はスケッチブックの新しいページをめくり、黑、皓、蒼、碧と書いた。


「黑。これは『世界を創り出す力』を持つ。所有者は原秋葉、つまり俺だな。人類が取得することで『時間停止』の能力に転じた。時間とはつまり空間の連続体であり、時間停止とは世界の空間の連続に新たな空間の連続をねじ込むという訳だ。そしてその創り出した空間の連続は力の所有者のみが動ける、つまり所有者の世界であると同義って訳」

「『秋葉の世界』を創り出しこの世界に割り込む、つまり『時間停止』ってことね」

「そう。じゃ次。皓。これは『世界を壊す力』を持つ。所有者は戸川有希またの名を名称未設定YU。人類が取得することで『世界の破壊』の能力に転じた」


 未来の俺の言葉に疑問を覚える。


「ちょっと待て、有希の能力は空間の認知の能力のはずだぞ?」

「ええ、私も貴方にそう教えられたはず……どうして?」

「有希は何故過去の俺を襲った?何故なら皓に浸食されていたからだ。それは本来の能力が『世界の破壊』そして『黑の破壊』であると言えるだろう?」

「た、確かに……」


 有希の表情が曇る。


「じゃあ私……またあんなことをするってこと?」

「安心しろ、あの時俺が勝った。だから現時点で本来の力は所有者の意図無く発揮されることは無い」

「現時点?そこにひっかかるな」

「あとで説明するけど、浸食が最大になってしまうとその保証はないってだけだ。有希本人が知っている通り『世界の破壊』がさらに転じて『再生の波動』及び『空間認知』の能力となった。これは「世界」が空間の連続であることから本来の能力の一部と言えるな。次行くぞ。蒼。これは『世界を変える力』を持つ。所有者は長谷雄理。人類が取得することで『物理法則を無視した物質の変化』の能力に転じた」

「ああ。いつぞやにそんな説明をされたような気がする」

「この『物理法則を無視した物質の変化』ってのはどういう意味なんだ?」


 坂元がポテトチップスをつまみながら聞く。そうか、長谷がいきなり炎を出したのは見てても何故それが出来るのか知らないんだもんな。


「物理法則を無視したってのは、いわゆる原子の法則を無視するって事。だから何もない所から炎を出したり、氷を作り出したりすることが出来るのさ」


 未来の俺が口を開くより早く長谷が説明した。


「そう、長谷にはその能力がある。しかし本来の能力はこれとは異なる」

「本来の能力?物質変化以外にも俺に能力があるというのか?」

「ああ。有希が『世界の破壊』から『再生の波動』を見出したように、長谷は『世界改変』の能力から『物質変化』を見出したに過ぎない。つまり本来の力を出そうと思えばこの世界をまるっきり変えることもできるって訳だ」


 未来の俺の言葉に俺達は息を呑んだ。SSKが長谷の能力を欲しがる訳だ……


「じ、じゃあ長谷がSSKに連れ去られたら……」

「ああ、最悪な事になるな。だけど安心しろ、本来の力は人類には使うことが出来ない。膨大なエネルギーを使うからな。よし最後だ。碧。これは『世界を彩る力』を持つ。所有者は桜庭三季江。人類が取得することで『草木を操る』能力へと転じた。この草木は実際今の俺が戦ったからわかってると思うけど……あらゆる常識を無効化する草木だ」


 俺は学校祭準備中に襲い掛かってきたあの桜を思い出し、頬を撫でる。あの時桜の花びらが俺を貫いていたら……と思うとぞっとした。


「悪いが、碧についてはこれ以上の説明は出来ない」

「出来ない?どうして?」

「碧の所有者がSSKにいるからな。詳しいことが分からないんだ。俺の時空にいる長谷の方が詳しいが……」

「んだよ肝心なところだけ役立たずだな……でもよ、なんか碧だけしょぼくねーか?木生やすだけじゃねーか」

「そんなわけないだろ、俺が身を以て理解してるから否定するぞ」


 坂元は俺の体験を知らない、だからそんなことが言えるんだ。俺はそう言いたかったが口をつぐんだ。


「これで色の説明は以上だ。次は性質の説明だな。……暗黒物質は本来自我を持ちなにかの器に入るものではない。だが何かの衝動により、人類に取り込まれるというケースがある。目の前に3事例あるからわかると思うけどな。しかし人類は暗黒物質を受け入れる器ではない。暗黒物質の方が世界の構成的には上の立場ってことだ。だから人類が取り込んでしまうと暗黒物質は人類に対し「浸食」を始める」

「浸食?」


 浸食っつーと、地形が風や雨で崩れて形が変えられること……だったよな。


「ああ。本当なら浸食という言葉と意味の統合性が取れないんだが、雨が地形を変えるように、暗黒物質が人類の内部を形成する細胞や思考回路までをも変えてしまう。だからあえて浸食と表現している。個人差はあるがある程度浸食が進むと力に飲み込まれてしまうのさ。そして浸食の度合い、これを「浸食飽和関数」と言うんだが、浸食飽和関数が最大に達するとΩが可視化するらしい……んだが、これ以上は規定事項で説明できない」

「また規定事項か。その規定事項ってのはなんなんだ?」

「規定事項……読んで字の如く、 物事を一定の形に定められた事柄の事だ。この時間軸の俺は予定外の情報を教えてはならない。いわゆるタイムパラドックスが発生するからな」

「俺がこの時間で知っててはいけないことを知っているから未来の俺との矛盾が生じるのか」

「そう、俺がいまこうして説明できる事があるのは、俺がお前の頃に未来の自分からこの事を教えてもらった事だから。だからそれ以上の事もそれ以下の事もあってはならない、って事だな」

「ことことうるせぇなシチューかお前は」

「坂元のそういう口の悪い所は俺の時空でも変わってねーぜ」


 そういいながら未来の俺はジュースを飲み干し、スケッチブックを裏返した。


「……さて、暗黒物質についてはこんなもんだ。じゃあSSKの組織の説明に戻るか」


 俺達は深くため息をつき、ようやく話が本題に戻ったことに気付いた。坂元が聞いたことでこんな遠回りをすることになるとは。いや、自分自身に起きている知らなかったことを知れただけでも収穫なんだよな……有希も長谷も、どこか神妙な顔つきで机を見つめていた。


「桜庭が終わったから……次は伍(5)と肆(4)だな。たしかこの時空だと……朝頃に戦った相手だ。鵤と不如帰」


 その名が出た途端、坂元が反応した。


「どうした、坂元?」

「い、いや……なんでだろ、聞き覚えがある」

「まぁそうだろうな。彼らは忍者の子孫。忍術の流派は服部流。あの服部半蔵の部下の子孫だ」

「あっ!俺ん家の道場の創設者が追い払ったって話を聞いたことがある!」

「……奴らは既に死んでいるからこの時空でわかったことも少ない。だが彼らはもともと俺達と同様に、生まれつき能力を持ってはいなかったって事だけは確かなようだ」

「持ってなかった?なのにあんなに忍者の武器を使えたというの?」

「ああ。忍者の血を目覚めさせられたのさ。SSKの連中に」


 ……俺は未来の俺が次から次へと明かす新事実に驚くことすら疲れ果てていた。今はこの事実をまずは頭ではなく心で理解しようと努めていた。


「SSKはその後彼らに過去に何があったかを教えた。坂元の先祖が彼ら忍の命を絶った、ってな」

「だけどその話は嘘だったんでしょう?」

「ああ。坂元世継が言ってたな」

「おい、なんで俺ん家の道場の創設者の名前を知ってんだ……?俺話したっけ?」


 俺はポカンとした坂元を見て、本当にあの時の坂元の記憶が無いことを察した。しかし、あの場で起きたことを話してもいいものか……俺が迷っていたら隣が口を開いた。


「坂元君の身体にはもうひとり、坂元君がいるの。その人の名が……坂元世継」

「俺の中にもうひとりの俺……?」

「ええ。Ωがこの世界に干渉してきているからなのか、それともその運命にあったのか、真相は知らないけどとにかく初代坂元流師範の坂元世継が今の坂元君の身体に宿っているの」

「……マジかよ」

「……マジよ」


 坂元は手に持つポテトチップスをそのままに固まっていた。有希の言葉を信じきれないのか俺を見て、長谷を見て、未来の俺を見て……俺達の反応を覗うが俺達も皆同じ反応を返すことで状況を察したのか、坂元は目を伏せポテトチップスをゆっくりと皿に戻した。


「ツルギノカミが俺の身体に……?」

「ああ。坂元の家では坂元世継をツルギノカミとして祀っていたな」

「……最っ高じゃん!!」


 さっきまで伏せていた目を細いながらも爛々と輝かせ、俺達を笑顔で見る。俺達は予想外の反応でたじろいだが、これまでの経験から坂元はこういう奴だったことを思い出した。


「え、で、なに?俺に真の力が宿ってて、それが目覚めるとスーパー坂元として戦ったってか!?やっべぇ超おもしれーじゃん!なにそれ!」

「……坂元の反応がなにそれだよ」


 長谷が呆れて手を肩の高さに上げ振る。どうやらこの情報は教えるべきではなかったみたいだ。有希はそんな顔をして俺を見ていた。


「続けるぞ。彼らは組織に反する行為として処分された。これは見てたからわかるな?」

「ああ……あんなことを平気でやるなんて」

「平気でやるからこそ世界を変えるなんてこと言い出すんだろ」

「そうだ。SSKは手段を択ばない。同じ組織の人間であっても阻害となるものは排除するんだ。次。参(3)の識。黒子鐙」


 鐙が不如帰と鵤を始末する瞬間がフラッシュバックする。飛び散る鮮血、転がる鵤の首……


「奴は弐(2)の識、東雲海友の従者だ」

「みゆ?東雲に下の名前があったんだな」

「一応人の子だからな。鐙から説明すると、鐙には炎者の刻印を所持していて、炎を自在に操ることが出来る。また、変装技術に長けていて俺の通っていた……いや、今の俺は通っている、だな。通っている北高校の校長先生に一時期化けていた。あの変装技術はSSKの人間では真似できるものはいないらしい」


 漆黒のスーツを翻し老人にポンッと化ける鐙を想像し、俺は少し吹き出してしまった。


「かわいいもんじゃあねぇぞ。あいつの炎は……いや、規定事項に反するから説明できない。すまんな」

「そういえば、坂元が……あ、世継の方ね。坂元が鐙と面識があったみたいだよ」


 長谷の言葉と同時に長谷からもらった記憶がよみがえる。確かに、坂元世継は鐙を見た時名乗ってもいないはずなのに黒子と名前を呼んでいた。


「ツルギノカミが知ってるのか?俺は知らんぞ」

「本体と憑依時の記憶の共有ってできないのかしら」

「それは無理だ。坂元の中に世継がいる訳じゃなく、その竹刀に世継が憑依しているからな」


 未来の俺は坂元の鞄にくくりつけられた竹刀を指差す。あぶねぇよな、日本刀が中に入ってるんだから……


「これが?これは確かにじーちゃんから受け継いだ竹刀だけど、ここに俺のひぃひぃひぃ……じーちゃんがいるのか?」


 竹刀をばらし始める坂元。お、おいその中には……何も無かった。空洞。


「なんだ、なんもねーじゃん」

「あれ、刀は?」

「刀?ばっかやろ、これは竹刀だぜ?」

「え、でも確かに……」

「日本刀は坂元世継が創り出す。ほら、ゲームとかであるだろ?オーラ型の剣ってさ。あんな感じだ。その竹刀に宿った世継が、本体の生命の危機を感じ取り、本体を借りるのさ。その間本体は眠っててもらう」


 困惑する俺を小突いて未来の俺は説明した。


「ほい、次行くぞ。弐(2)の識。東雲海友。東雲権蔵の愛娘。東雲権蔵の失踪を機にSSKに入り、今のポストを手に入れた。それから……」


 未来の俺はそれから先を言わなかった。固まり、先を見つめていた。


「あら、こんなところでネタバレ大会でもしてるのかしら?」


 ハスキーな女性の声は窓の外から聞こえてくる。外を見ると、そこには傘を差して宙に浮き、赤いドレスに身を包んだ女性、東雲がそこにいた。下からだんだんと暗くなっていく、茜色と黒色のグラデーションの髪を風に靡かせ、ゆらゆらと漂っている。


「東雲……何故!?」

「貴方の言葉を借りるなら、『規定事項に反する行動を行いたかった』とでも言っておきましょう」

「貴様、三季江に何をしたんだ!」


 長谷が手に炎を宿らせ、窓の外へ投げつける。しかし、火球は東雲をそれ、脇をすり抜けただけだった。


「三季江ちゃんはあの時失敗した。だけど私はそれを許した。あの方もそれを許した。なぜなら、大事な人だったからね」

「……碧か」

「そう、あの子には碧の力が宿っている。そのスケッチブックを見る限り、貴方達も教えてもらったようね。暗黒物質がなんたるものか、我々SSKが何故それを求めるのか……」


 東雲はゆっくりと近づき、窓枠に手をついた。そのまま窓枠に体を預け、俺に傘をつきつけた。


「いいわ。教えてあげる。私はSSK第弐の識、東雲海友。風者の刻印を持つわ。風を操り、こんなこともできる」


 そういうと東雲は日傘を俺に向け、一振りした。その刹那、俺の身体が何かに押されたかのように大きく後ろに吹き飛んだ。本棚に背中を打ち付け、漫画やラノベといった本が俺の頭に落ちてきた。いてぇ。


「ぐわっ!」

「お、おい秋葉!!」

「ふふ、今のはただのそよ風。小手調べにもならないわ」

「……何しに来たんだ。そんなそよ風を俺に当てる為じゃないだろう?」


 俺は痛む体を起こし、東雲をにらみつけた。東雲は肘まである日焼け止め用の手袋をゆっくりと外し、上に放り投げた。


「あら、怖い怖い。じゃあ要件はさっさと言うわね。といっても、鐙が既に言ってることだけど。今日貴方達の身に起こった出来事は全てあの愚図でバカな忍者2人が巻き起こしたこと。SSKとしては貴方達の答えを聞きたかった。だけど貴方達はノーという意思しか感じ取れない。だから私達SSKは1か月後にまた、疑似STPを再起動させ、世界を終わらせ、暗黒物質を手に入れる」

「そんなことはさせねぇ!」

「させねぇ!じゃなくて、できないんでしょ?世継の力を借りないとロクに戦えもしない愚図が。ひとりで戦えないんでちゅか?」


 明らかに煽っている東雲の言葉に坂元の眉がピクリと動く。額に血管が浮き出ているのが容易に見て取れた。


「冗談や脅しじゃねぇ、殺すぞ……」

「あーら、怖い怖い。できないくせに」


 今の言葉には俺もカチンときた。俺はナイフを複数本取り出し、投げつけた。しかし長谷の火球と同様に、東雲には当たらず、ナイフ同士がかち合って消えた。


「無駄よ。無駄無駄。……今ここで貴方達全員を殺ってあげてもいいんだけどね、今日のバカ2人のせいで仕事と後処理が山ほどあるの。あの方が規定事項の上書きをしておけと命じたからここに来たまで。邪魔したわね」

「お、おい待てっ!」


 東雲は落ちてきた手袋を掴むとそれが大きな風呂敷のようなものになり、体を包み消えた。掴もうとした俺の手は空を切る。振り向くと俺の部屋は、呆然と立ち尽くす4人と、足元には菓子類と本が散乱しているだけだった。先ほどまでのような会話が全くなく、ただ沈黙が流れるのみだった。




「……なぁ、未来の秋葉」


 沈黙を破ったのは坂元だった。未だ血管が浮き出たままの坂元が未来の俺に話しかける。


「なんだ、坂元」

「この事を知ってたんだろ?」

「この事?」

「ああ。規定事項だかなんとかっつったって、お前は未来から来てる。なら東雲とかいうクソ女が来ることだって知ってたんだろ!?」


 未来の俺の首を絞める勢いで襟首をつかむ。


「……、……」

「あんだけベラベラしゃべっといて今度はだんまりかよ!なんか言ったらどうだ!ああ!?」

「おいよせって!未来の秋葉もいろいろ考えがあんだよ!言える事や言えない事……俺達には考えられない事情があるかもしれないだろ?それにこのままだと……疑似STPが完成してしまう!」

「そうよ、今未来の秋葉を絞め上げても何も生まないわ。むしろ消えるものの方が大きいわ。坂元君、やめて」

「……ちっ!」


 未来の俺を絞めるのを諦めたのか、坂元は乱暴に襟首を振りほどいた。未来の俺はその間抵抗もしなかったし、弁明もしなかった。表情一つ変えず、話を続けた。


「……最後に3つだけ話しておくことがある。信じるか信じないかはお前たちが決めてくれ」



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