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僕達は北高生  作者: かっつん
第4章「僕達は北高生である夢を見る」
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4-1.未だ来ぬ未来

 黄金色に輝く夕日が照らすは市立北高校校舎。見上げると意外と大きいもんだ。俺、原秋葉は学生の本業、授業以外の理由で大きく疲れていた。


「……で、俺の家でいいんだな?」


 俺は各々の自転車を取り出す、坂元、長谷、有希の3人に聞いた。


「ああ、この事の発端は秋葉から始まったことだしな」


 坂元が笑いながら言う。笑いごとじゃあないんだがな……俺達は自転車を漕ぎながら北高校を後にした。学校を出て先生の目が無いことを確認した俺はケータイをとりだし、母に連絡をした。


――――――――――――――――――――――


『今日友達を家に連れて来てもいいかな?』

『別にいいけど、部屋を掃除しなさいよ』

『わかってるって』


――――――――――――――――――――――


 ケータイを閉じると、向かい風の音に負けないよう俺達よりかなり先にいる坂元に叫んだ。


「坂元!飛ばし過ぎだぞ!」

「おお、すまんすまん」


 振り返った坂元は俺達に速度を合わせ、すこし懐かしむような顔をした。


「それにしても、秋葉の家に遊びに行くのって久しぶりだな」

「そうだっけ?でもまぁ……夏休みの課題は図書館と長谷の家だったから久しぶりっちゃあ久しぶりになるのかな」


 思い返すと、最後に彼らを家に上げたのは中学2年の冬だった。確かあの時も冬休みの宿題を終わらせるために自宅で缶詰になってるはずだったんだけど……全員で寝落ちしたんだったな。


「そういば、記憶の最後がすこし途切れていたんだが、あのあとどうやってグラウンドまで戻ったんだ?」

「ああ、あの後は森が少しずつ消え始めて、俺達はとにかくそこから逃げようと走ったんだ。そうしたら急に足元がグラついて……気づいたらグラウンドに寝っころがってた、って訳」

「そうなのか。っつーか坂元覚えてるのか」

「まぁ、坂元が覚えてるのは相対してから苦無で刺されるところと森が消え始める瞬間からだもんね」

「俺が活躍したのはお前らの顔を見ればわかるんだが、当の本人が思い出せねぇから面白くねえんだよ……」


 そんなに自分の剣道の腕を客観的に見たいのか。俺は不思議で仕方なかった。


―――――――――――――――――――――――――


 そうこうしている間に、俺の家の前にたどり着いた。独りで学校から帰る時とは異なり、時間がかかったような気がしなかった。俺は3人を家の前で待たせて、まずは母親に帰宅を知らせた。


「母さん、ただいま」

「おかえり。友達は?」

「……一応掃除とかするし、外で待ってもらってるよ」

「そう。……ところで友達って、坂元君達でしょ?」

「なんでわかるのさ」

「なんとなく、ね」


 簡単な、しかしあるとないとでは大違いな家族との会話を抜け、俺は自室へ向かった。昨日放り出してそのままのライトノベルや、今朝寝坊寸前で飛び出したっきりでくしゃくしゃになっている布団を片付け、散らばっている机を一度隅に追いやった。


「……ま、こんなもんでいいだろ」


 一通り片付いた(と自負している)部屋を見渡し、窓の外から3人に合図し、部屋へと上げた。


「「「おじゃましまーす」」」






―――――――――――――――――――――――――



 俺達4人は俺が用意した菓子類をつまみながら、俺と有希が経験した、不如帰との戦いを話して聞かせた。わざわざ記憶にするようなことじゃなかったし、タブレットは作らなかった。坂元と同じで俺も有希も、ほとんど気を失っていたため話せたのは絶対空間のことと、既に鵤を始末した鐙が不如帰を始末して消えたことだけと言っても過言ではなかったからな。


「それにしても、長谷が作ったタブレットってーのは便利なんだな。話すとこれだけ長くなることをたった数秒で経験という形で見せられるんだから」

「そんなことは無いよ。これは未来の秋葉の受け売りなんだから」

「未来の俺も俺にタブレットをよこして時間停止能力を与えたし、アイツは何者なんだよ」

「いやお前だろ」

「……そうだけどさ」

「未来の秋葉が出来るってことは、今の貴方だって出来るんじゃないかしら?」


 有希がオレンジジュースを啜りながら言う。その発想はあったけど、俺なんかに出来るのかな……


「むん!」


 試しに学校祭準備中に起きた、桜庭との戦いを思い出してみる。……が、駄目。


「やり方が違うんじゃないか?」

「やり方ったって……時間の止め方を具体的に説明しろって言われても無理だよ」

「そうじゃん!」


 坂元が両手を叩いて大声を出した。俺の耳元でやんなよ。


「長谷が俺と長谷が戦った時の記憶を秋葉と戸川に分け与えた。秋葉が未来の秋葉からタブレットをもらって時間停止能力を手に入れた。ってことは能力も記憶と一緒で誰かに分け与えることができるってことだろ?そんなら今の秋葉が時間停止能力を誰かに分け与えることも」

「それは不可能だ」


 坂元の言葉を遮る第三者の声、俺に限りなく近い声が俺の背後から聞こえた。振り向くとそこには、未来の俺が立っていた。


「お、俺!?」

「よっ、久しぶりだな。坂元も、長谷も。変わってねーなー」

「え、未来の秋葉!?マジで!?本物か!?」


 坂元が立ち上がり未来の俺に近づく。べたべた触んなよ、俺が触られてるみたいでいやだ。


「どこをとっても正真正銘、本物の未来の原秋葉だ。だから触るなって」


 未来の俺は脇をくすぐられ悶絶していた。


「今回は何しに来たんだよ」

「どうやらSSKについて行き詰ってるみたいだからな。助言をしてやろうと思って来たんだ」

「……その前に聞いてもいいかな。なんで秋葉が作ったタブレットでは時間停止能力は身に付かないんだ?」


 長谷の問いに対して、未来の俺は言うことを考えているのか、すこし悩みながら話し始めた。


「秋葉、お前には黑の力が宿っているのは知ってるな?」

「……ああ」

「有希には皓の力。長谷には蒼の力。坂元には……これはシークレットだな」

「なんで俺だけ!」

「そう急かすな。あとで説明してやるから。んで、俺がお前、つまり過去の秋葉に分け与えたのは『能力』そのものではなく、『能力の使い方』を分け与えたのさ。タブレットを用いてね」

「能力の使い方?」

「黑の力は初めから秋葉の体に宿っていて、それを目覚めさせる為のタブレット……ってこと?」

「有希、正解。さすが俺の彼女」


 未来の俺の言葉に有希が赤面する。何故だ。


「っていうか初めて会った時にそう説明しただろうが。覚えてないのかよ……」

「そうだったっけ?」

「そうだよ。だから坂元に俺が作ったタブレットを与えたとしても、坂元が時間を止める能力の習得はできない」

「なんだぁ、残念」


 坂元はジュースをすすりながら少し悔しそうにつぶやいた。


「……じゃあ本題に入ろう。SSKについてだ」


 未来の俺は俺の机に腰かけ、話し始めた。


「SSKの存在、それは」

「今ここに存在するこの世界を破壊し、新たな世界を創世する為の存在ってか?」

「そう。その通り。SSKは6人の科学者がその信心の元活動している組織だ。世界を創世させるためならなんだってする。現にこの時空でも十数名の命がSSKの手により葬られている」

「創世の為なら人殺しも厭わないってか。奴らは6人ってのはSSKナントカの識って言ってたから察しはついていたが……」

「順番に説明しよう。陸(6)の識桜庭。彼女は長谷の方が一緒にいた期間が長いから長谷の方が詳しいだろう?」


 未来の俺は長谷を見る。長谷は桜庭の名が出た瞬間に表情を曇らせた。


「……ああ。俺は小学生の頃から叔父さんの研究室に行ってるんだが、その時から知り合った仲なんだ。一緒に勉強したりグラウンドで遊んだりしてたのに急にいなくなっちゃってね」

「中学2年生。それが彼女のターニングポイントだった。長谷も彼女も運動に関してはからっきしだが、勉強は一歩長谷の方が上手だった。そんな時にSSKから呼び声がかかり、長谷を超えたい一心でSSKに加入した。彼女の作り出した生物兵器は優秀すぎて戦争でさえ使えないものが多く、SSK内に保管されている」

「三季江が生物兵器を!?馬鹿な……」

「長谷には信じがたいかもしれないが、長谷を超えたい気持ちを利用されているようだ。彼女は碧の力を持つ」

「あー質問いいか?」


 坂元が手を挙げて未来の俺の話を制する。


「なんだ?」

「その黑だの皓だの碧だの蒼だの……それって何の力なんだ?」

「ああ、じゃあSSKとは少し脱線するが……暗黒物質について説明しよう」


 そういうと未来の俺は俺の机の上においてあるスケッチブックを取り出した。お、おい馬鹿それは俺の……!


「おっと、黒歴史……」


 そこには未来の俺も見たくないものが描いてある。やめてくれ、恥ずかしいから……未来の俺は大きく咳払いをし、スケッチブックをさらにめくり、白紙のページをとりだして図を描き始めた。「俺」と書いた棒人間と「地球」「時間」と書いた円を大きな円で囲い、「世界」と書いた。


「暗黒物質とは、俺達が暮らすこの地球を含む宇宙の時間や空間を全てひとまとめにしたものを『世界』として、その世界を構成する物質を指す。これはいくつかの色で表すことができて、この世界には黑、皓、蒼、碧の4つで構成されている。これらは俺達人間には見ることはできないし、つくることもできない……はずだった」

「はずだった?ってことは誰かが作り出したのか?」

「ああ。その人は蒼と碧を作り出した。その後暗黒物質Ωが黑と皓を補完した」

「おめが?」

「暗黒物質の生みの親であり、自身も暗黒物質である情報の塊みたいなものさ。世界の始点であり終点でもある。たとえば俺達の世界をω1とする」


 別のページを捲り、「俺達の世界」と書いた丸の上に小文字のオメガと1を描いた。


「別の世界をω2とする……と繰り返していき、このωの集合体がΩ」


 ωの集まりを大きく円で囲い、その円にΩと描いた。


「このΩはωと異なり、自らの意志で世界をつくり、世界を観測する。完全を求める情報体ってやつかな」

「スケールが違いすぎる……で、SSKはω1を構成している暗黒物質を集めて世界を創世するって、なぜそう言えるんだ?」

「ωを構成する暗黒物質を取得できれば、Ωに干渉することができる。否、暗黒物質の所持者は、本人が望めばΩに干渉できると言った方が正しいかな」


 俺は暗黒物質の所持者。これは有希も、長谷も例外ではない。ってことは俺が望めばΩに干渉することもできるって訳か。


「すべて集めると世界を消滅させることができるのか?不如帰がそんなことを言ってたぞ」

「いや、それは少し間違っている。SSKのボスが識を動かすために、ボスのエゴの為にそう言っているに過ぎない。Ωが世界を変えると言っても、Ωは所持者が望んでいると判断した状態を作り出すだけだからな。……続けるぞ、暗黒物質は本来世界を構成している大きな集まりであり、人間のような小さな構成が所持することはありえない。基本的には自らの意志で動くものだからな。しかし、現に俺や有希や長谷が持っているように、暗黒物質を人体に取り込むことは不可能ではない。しかしそれには莫大な犠牲を払うことになる。力に飲み込まれる危険性ってのがそれだ」


 未来の俺の言葉に息をのむ。力に飲み込まれる……?


「ゲームの世界でもよくある話なんだが、悪役が力を求めた代償として命が短くなったり、さらに力を求めて力に取り込まれて消滅したりするだろ?これはそれと同じなんだ。人体に暗黒物質が入り込むと、人体への浸食が始まる。その浸食が進みすぎると、完全に取り込まれてしまい、消滅する。あるいは暴走する」

「暴走?」

「人間として自我を保ち、理性に制御され生きるのではなく、暗黒物質として生きるってことさ。色によって異なるが、不用だと感じたものの破壊だったり、全世界の停止だったりするわけだ」


 未来の俺は俺のオレンジジュースを一息に飲み干し、大きく息をついた。


「……とまぁ、暗黒物質についてはこんな感じ。本当は俺の時空の長谷の方がもっと詳しいんだが……」

「なるほどね。じゃあ私が持ってる皓の力も、浸食が進みすぎてあの形になった、って解釈でいいのかしら?」

「ああ。じゃあ次は性質や色の特徴とかの説明だな」



 未来の俺は勝手にジュースを注ぎ直し、もう一杯飲み干して話し始めた。



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