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僕達は北高生  作者: かっつん
第3章「僕達は北高生らしく生きる」
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3-1.突如・非日常(オール・オブ・ザ・サドン)

 季節は秋。俺の名前にもある秋。ありとあらゆる食べ物が美味い秋。ありとあらゆることをするに最適な秋。秋……それは俺、原秋葉のもっとも好きな季節である。


「天高く、馬肥ゆる秋かな……」


 真っ青に輝く空を見上げると飛行機雲がまっすぐ一本の線を引いていた。


「うーん、いい天気だ」

「なんだぁ原?遅刻した身分で空を見上げる余裕はあるのか?」


 そう、俺はこの心地よい気候で春眠ならぬ秋眠、暁を覚えずで寝坊して遅刻、脇田担任先生様の監視のもと朝の学習時間の間の校門掃除をやらされていたのであった。俺以外にも10数人、遅刻故に掃除をしている男女生徒がいる。

 この学校には朝礼あるいは朝のスクールタイム(ST)の時間よりも30分早い「朝の学習時間」というものが存在していて、それに生徒は参加して勉強あるいは授業の準備をすることを義務付けられているのだ。元来授業の開始はそれよりも遅いため、「朝の学習時間」の遅刻は正式な遅刻としてカウントされず、このまま卒業すれば皆勤賞がもらえるのだ。俺はこの制度がなんで存在しているのかは不明だったが、生徒の為と言うなら仕方ないのかもしれないな。


「ボサっとしてないでほれやれほらほら!」

「へ~い」


 脇田担任先生様に急かされ落ち葉をかき集める。多いなぁ。それにしても、さっきからなんだか視線を感じるな……脇田担任先生様を除いて。


「ばれてんだぞ、姿を出せよ」


 ……無反応。俺の気のせいだったかな。俺は掃き掃除を続けた。



10分後――――――――――


「おーし!今日はそこまで!教室戻っていいぞー」

「うーい」


 遅刻するメンバーは大体同じメンツなのか、それとも「そういう」生徒だからわざと遅刻するのかは分からないが、掃除していた面々は仲よくじゃれ合いながら教室へ歩いて行った。


「原!お前もいいぞ。終わって教室戻れよ~」

「へーい」


 最後の落ち葉をかき集め、ゴミ袋に入れている俺に脇田担任先生様は肩をたたいて言った。痛った。はぁ……やれやれ。どうしてもああいう馴れ合いというかそういったものは苦手だ。「うぇーい!」って騒いでいればなんとかなるような連中とはあんまし絡みたいとは思わない。立てかけてあるゴミ袋を縛る。脇田担任先生様は掃除道具を片付けに行ったため校門にいるのは俺だけだ。未だ視線を感じたままなのでもう一度あたりを見渡す。電線にとまる鳥しかいなかった。あれは……カラスでもスズメでもハトでもない。何の鳥だ?


「おーい原!早く教室戻れ!」

「へいへい」


 脇田担任先生様に呼ばれる。まぁ鳥が見ていたのも俺の気のせいだろう。ふと、校門の上を見る。校門の下は先ほどまで俺が掃除していたため落ち葉ひとつなく綺麗だが、上に1つ、ヤンキーが置いて行った空き缶があった。


「ふむ……」


 俺は未来の俺が寄越したナイフを取り出し、投げる。どこから取り出したかって?ナイフを空間の中に保存しておくのさ。これは未来の俺が言っていた事をヒントにひらめいた時間を操る能力の応用法だ。桜庭とかいう奴等が学校祭の準備期間にやってきて以来1か月経ったが、何も音沙汰がない。俺はいつ何が来てもいいように自分の能力を研究していた。時間を止めるということは空間を操るということと同義であり、ナイフを複製する技術というのもナイフが存在する空間を複製しているのさ。またナイフの時間を操ることで投げた時の加速度を維持することができる。つまり加速度を加え続けることでナイフの速度は尋常じゃない速度まで加速できるって訳だ。

 ……投げたナイフはというと俺の能力で加速し空き缶を真っ二つに裂き、校門のコンクリートに突き刺さった。


「おい原!なにやってんだ!授業に遅刻するぞ!」

「あっ……へーい」


 やっべ……ナイフ投げたのを脇田担任先生様に見られるところだった。辛うじて先生に見つかることを回避した俺は教室へと戻った。


「なんだよ秋葉、寝坊したのか~?」


 声がして上を見上げると、上の窓から坂元と長谷が顔を出していた。そうか、今日の1限目は移動教室だったな……


「まぁ秋葉のことだから春眠ならぬ秋眠、暁を云々~って言って寝坊したんだろ?」

「るっせ」

「先行ってるからな~!」

「おう!」


 俺は急いで教室へと向かった。






 突如、世界が暗転した。いや、暗転というよりは反転の方が近い。地震が起こったのかと思えるくらい足元から衝撃が走り、視界が急にひび割れ、あちこちに裂け目が現れたのだ。何の前触れもなかった。何かが起こるという前兆が何もなかった。


「!?」


 俺はあたりを見渡した。いつもと同じ廊下、いつもと同じ風景。しかしその色がすべて反転している。美術で習ったな、確か補色……だったっけ。あちこちに見られる裂け目の中からは何かがあるのか分からないが真っ黒な世界が広がっていた。それだけではない。俺が最も驚いたこと、それは……


「時間が止まった……!?」


 俺のクラスのE組は比較的奥にある為、他の教室の生徒の様子を見ることもできる。どのクラスの生徒も完全に止まっているのだ。時間停止能力、それは俺唯一と言ってもおかしくない能力だ(もっとも、別の時間軸の俺を持って来れば唯一ではないのだが)。仮に別時間軸の俺が止めたとしても、こんな不完全な停止はあり得ない。


「一体何が起こったって言うんだ……?」


 あちこちの裂け目の奥はうようよと何かが蠢いている。本能が警告する。それに触れてはダメだ、と。


「秋葉!!それには触れるな!」


 長谷の声に振り向くとそこには長谷と坂元、有希がいた。


「お前ら……どうして動けるんだ……?いや、いったい何があったんだ?」

「わからん。だけど俺達だけが動けるんだ。先に教室行ってる皆も固まったんだ。お前がやったんじゃないのか?」

「いや、違う。それで、これに触るなってどうして……?」

「俺にもわからん。なにか嫌な予感がするんだ」

「おーい秋葉ー!」


 遠くから声がする。そっちへ顔をやると、黒木と加藤が教室から手を振っていた。


「黒木!加藤!お前たちも動けるのか!」

「皆止まっちまってるからビビってんだよ!何が起こってるんだ!とりあえずこっちへ来てくれ!」

「お……おう」


 俺達は教室へと戻った。教室は普段通りの形をとっているが、俺達一部生徒を除く全員が固まっている。


「みんな急に動かなくなっちまってよ……なんでだよ……」

「今は授業どころじゃないってことは確かだな……」

「な、なぁ秋葉、何が起こってるんだ?」

「俺だって知りたいさ」

「だよな……」


 坂元が不安そうにあたりを見る。無理もない。高校に入ってからトンデモ体験ばかりだった俺でさえこれは衝撃的過ぎる。俺と長谷は密かに会話を交わした。


「奴らの仕業か……」

「……まぁ、そう考えるのが妥当だな」

「しかしいったいなぜこのタイミングで?」

「わからん。でもまぁ俺達が動けるってことは止めてみろって言ってるのかもしれんな」

「ああ……」

「元凶というかそういうものの波長とかはお前の能力でわからないのか?」

「物質の流れをたどれば見つかりそうだが……それまでにここがあの黒いのに飲み込まれたらみんなの命が……」

「急げってか」

「秋葉!長谷!何をヒソヒソ話してんだよ!」


 坂元が俺と長谷の間に割って入った。


「あ、ああ……ちょっと外がこうなっているかどうかを確かめに行こうと思うんだ」

「俺と長谷の2人で行こうと思ってる」

「秋葉と長谷で?そっちの方が危なさそうだ。俺も行くぞ」


 坂元が自分の机まで行き、竹刀を取り出す。


「おいおい……危ないかもしれないから俺達だけで行くっていうのに」

「それが危ないって言ってんだよ。武器も何もないなら危ないぜ。せめて竹刀くらいは持たなきゃ」

「まぁ、それも尤もだな。坂元、付いてきてくれ」

「そうこなくちゃ!」

「んで、加藤達は他の皆が動き出したら安全な場所……あるかどうかわかんが。とにかくそこへ避難していてくれ」

「お……おう、わかった」

「有希もここに残って皆の様子を見ていてくれ」

「嫌よ、もし秋葉に何かあったらいけないわ。私もついていく」

「止めても聞かないよな」

「勿論」

「……仕方ない」


 そうして俺、有希、長谷、坂元の4人は靴に履き替え、学校を飛び出した。

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