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僕達は北高生  作者: かっつん
第1章「僕達は北高生になったばかりだ」
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1-1.平凡とオタクとシャンプーと

閲覧される方々へのご注意とお願い

・オリジナル設定とか中二病満載の小説です。微笑みと寛容な心でご覧ください

・モデルとなった人物は確かに存在しますが、そのモデルと名前や性格、容姿等は一切関係ありません、ご注意ください

・もちろんモデルとなった場所も存在します。しかし(以下略)

 ああ、退屈だ。鬱陶しい位青い空を見上げ、大きくため息をつく。ようやく憧れの高校生となり、煌びやかな高校生活を夢見ていたのに、現実とはいかに想像と奇なり過酷なものか、身を以て知らしめされた。俺にはやっぱり今の日常は平凡すぎる。何も起こらないこの平和な日常に嫌気がさす。

 ……ああ、自己紹介が遅れたな。俺の名前は原 秋葉。晴れて県立北高校の1年生だ。今入学式が終わり、これから1年間嫌でも顔を合わせることとなる1年E組の面子の自己紹介を聞いている。やっぱり奇抜な自己紹介をするような奴はいないな。「ただの人間には興味ありません。この中に~」なんて言い出すやつがいたら即座にそいつと絡みたいが。

 俺は自分で言うのもアレだが、世間一般で言われる「オタク」という人種に分類される。順番が回ってきた自己紹介は普通に済ませた。奇抜なことすると目をつけられるからな。全員が自己紹介を終えると、先ほどまで教室の隅で終始無言で生徒の自己紹介を聞いていた担任が、ついに教壇へ駆け上がりハイテンションで話し始めた。


「これから1年間ケツの上が青いお前らの担任の……脇田だ!みんな気軽にワッキーって呼んでくれ!年はまだまだ現役31歳!卓球部の顧問だ!お前らピンポンしようぜ!ちなみに彼女いない歴31年だから、絶賛恋人募集中だっぜ!そんじゃみんな、1年間よっろしくぅ!」


 ……クラスが団結して初めて1つのことをするには相当時間がかかり、難しいというが、俺の配属された1年E組は早くもこの瞬間それを成し遂げた。クラス全体が凍りついた。そして空気を読まない俺でもわかった。こいつには深く関わるな、と。凍りついた空気をもろともせず、脇田担任先生様はそれ以外一言もしゃべらずHRを終わらせ、教室を立ち去った。

 しばし休憩の時間。隣のやつに話しかけたりするやつもいるが、俺にはそんな度胸はない。そう思っていると、中学時代から嫌というほど見た顔がやってきた。


「よっす、秋葉。自己紹介が変な奴いなかったな」

「ああ。お前も平凡な自己紹介だったな」

「それはお前だってそうだろー?」


 こいつは中学からの友人、坂元だ。背が低いが顔がいかつく、よく近所の小学生にビビられるらしい。もちろん、こいつも俺と同族だ。というか俺を染めたのはこいつだ。


「あ、そうだ、お前アレクリアしたか?」

「あーあれ?まだだよ」

「早くクリアしろよな。ED後のイベントがすっげーエロいから!」

「お前どこ見てるんだよ~」


 平凡かつ健全な男子高校生の会話。そういう会話をよくするせいか、彼女ができたためしがない。高校に入ったら青春を謳歌しようと誓っていたが、しょっぱなからこんな調子じゃ、先が思いやられるな。


「あーそうだ秋葉、部活はどうするよ?」

「部活?アニ研とかコンピ研とかマンガ部とかねーだろ?」

「あるわけねーじゃん、この学校は平凡な普通科だぜ?」

「そうか……んじゃ俺は帰宅部だな。坂元はどーするんだ?」

「俺も帰宅部の予定だ。部活はかったりーからな」

「今日もかったりーが出たな。今回のかったりーは同情できるが」


 こいつはこんな面倒くさがりだが、実は実家が由緒正しき剣術一族の家元で、剣道の腕は半端じゃないほど上手い……らしい。


「お前誰に向かって喋ってんだ?」

「誰でもいいじゃないか」

「そんなことより今度の新作のアニメなんだけどさぁ……」


 そんな俺らの他愛もない会話に、またも中学で嫌というほど顔を合わせた奴が現れた。


「おいおい坂元、そんなことを大声で話していると女子に引かれるぞ。もう少し女子を惹く会話をしろよ。まぁ、盗み聞きされている前提での話だけどな。今この時にお前らの会話が女子に盗み聞きされている確率は……」


 いきなり堅苦しい長台詞で割り込んできたのは同じく中学からの友人、長谷だ。俺たちの会話をやたらと勉強のことに繋げたがる。特に理科の物理分野が大好きで、しょっちゅうそういう長話につながる。


「お前たちの話声をXデシベル、教室の騒音をYデシベルとして教室の広さが大体……」

「あーもういい。聞く気が失せる」

「……まぁとにかくだ。お前たち最初からそんなんじゃ結局、中学とは変わらずじまいで彼女どころか女友達さえできねーぞ」

「るっせ」


 結局、中学とは変わらずじまい……か。俺はそんな日常的会話にある種の充実感とまたある種の不満が入り混じっていた。


 またしてもハイテンションで戻ってきた脇田担任が席に戻るよう指示し、これからのことについての説明をまたしてもハイテンションで行った。なにやら、これから部活動紹介があるらしい。部活動の説明……か。さっきは帰宅部といってみたはいいが、面白そうな部活があれば入ってみたいな。たとえば、この世の不思議を探す部活とか、活動という名の遊びを繰り返しているうちに、いつしか疑心暗鬼に陥る部活とか、バンドを組むが部活動の大半はティータイムな部活とか。……あったらの話だが。

 配られた大量のプリントを鞄に仕舞い込み、体育館へと向かう。それにしても、長い廊下だ。全長を測ったらどれだけの面積を……いかんいかん。長谷の癖が移っているな。かぶりを振り、あたりを見回す。するとちょうど先に知った顔がいた。幼馴染の戸川 有希だ。

 彼女とは小学校2年からの付き合いで、当時引っ越してきたばかりの俺がクラスに馴染めないでいたときに、彼女が手を差し伸べてくれたのが、俺の性格を変えてくれたきっかけだった。俺にとってある意味、恩人だな。いい友人だ。

 ……ただ、急に戸川は変わった。その少し前までは明るい元気な奴だったのに、中1の今頃を過ぎたあたりから急にそっけなくなって、反応が薄くなってしまったのだ。変わってしまったせいで周りのやつらは皆彼女から離れていったのだが、俺はそんなことでは彼女の友達をやめようとは思わない。俺は周りからどれだけどやされようとも彼女にも普通に接していた。


「よっ、戸川」

「……秋葉。同じクラスに……」

「ああ。でも中学の時と違って席が遠いな」

「……嬉しい?私と離れられて」

「いや。お前はどうなんだ?」

「私は……」


 無言。


「私は、の後なんだよ」


 なんでもない、と言いながら戸川は足早に去ってしまった。なんなんだよ一体……


「なんだ、原?もう彼女作ったのかよ?」


 後ろからいきなり小突かれた。えーと……?こいつは確か最初に挨拶をした……


「なんだ忘れたのか?あんなに大きな声で自己紹介したってんのに」

「忘れてねぇよ。宴屋 大介だろ?」

「おおっ、だいせいかーい!やるじゃないか原君!」


 なんだか担任と空気が似ているな。宴屋はがははと笑い、俺の背をバシバシと叩いた。……いろいろ古いぞ。


「んで、あれは彼女?」

「はっはっは、そんな訳ないじゃないか」

「まーそーだろーな」

「……殴るぞ」

「ははは、すまんすまん。ところで原、お前どこ中よ?」

「昔のヤンキーみたいな聞き方だな。俺はすぐそこの北中だよ。お前は?」

「俺は県外。引っ越してきたんだ」

「へぇ、そうなのか。不安だろ?いろいろ」

「まぁな。でも新しい友人が出来れば不安もないだろ?」


 そういうと宴屋は手を差し出した。俺はその手を取り、


「おう、よろしくな」



 体育館に着くと、中では既に後輩を迎え入れる準備をしていた先輩達が待機していた。誰もが優秀な人材を掴み取ろうと必死な眼差しで入ってくる新入生徒をスキャンしている。すみませんね、先輩。俺には何も特技が無いし、身体能力も平均より少し上か同等かって程度なので、あなたたちの部活には参加できないっす。部活動紹介も期待通りの紹介だった。よし、帰宅部決定。教室に戻り、卓球部の勧誘を続ける脇田担任をクラスメイトは完全に無視し、下校の用意を始めた。


「そうだ、明日は学力テストがあるから、筆記用具だけ持ってくるだけでいいからなー」


 最後に脇田担任は言わねばならぬ重要なことのみ言って帰って行った。アイツの担当教科なんだっけ?


 帰宅途中、母からメールが来た。どうやらシャンプーを切らしているらしい。それは大変だ。俺は薬局の方面へ自転車を飛ばした。俺にはオタクに隠れているが他にも趣味がある。それがシャンプーだ。さまざまな種類のシャンプーを使用し、どれが一番香りがいいか、髪に合うか、などと研究している。今俺が一番気に入ってるのはオレンジオイルのシャンプーなのだが、新製品の椿オイルのも気になっている。これから行く薬局にその新製品が置いてあるかどうか……と思いを馳せていたら橋にさしかかった。ここは自宅から高校への唯一の難関とも思える場所で、結構大きな橋だ。名前は「時の架け橋」というが、製作者は何らかの意図でもあったのだろうか?坂道に差し掛かる。ペダルを深く踏み、自転車を加速させる。薬局は坂を下ればすぐそこだ。目当てのシャンプーは見つかった。さっさと会計を済ませ、俺は少し暗くなった空を見上げながら家路に就いた。


 我が家はいたって一般的な一軒家だ。詳しくは知らんが、元々は今は亡き祖父母の家だったらしい。祖父母が亡き後、ちょうど俺が小学校2年生になるときにここへ家族で引っ越して、今に至る……というわけだ。母が言うには祖父母もこの家を大切にしていたらしい。

先祖代々がこの地に住んでいるのだとかなんとか。帰宅すると母が既に夕食を作り終え待っていた。高校生活1日目とあってか、夕食が少しばかり豪勢だ。夕食を取った後は買ったばかりのシャンプーをさっそく試してみようと思い、風呂場へと向かった。


―――――――――――――――――――――――――


「あーいい湯だった」


 風呂上りに麦茶を飲みながら明日の学力テストについて考えていた。そこまで深く考えなくても中学までの知識で解けるような問題を出すはずだから中学の復習を……

 ……してないからそれなりにはしないとな。


「あー平々凡々。世界がまるっと変わったりはしないのかねぇ……」


 中学の教科書を開くが眠気に負けたので結局すぐにベッドへともぐりこんだ。また明日も平凡な一日を過ごすのかと思いつつ、シャンプーの香りに包まれながら深い眠りに落ちていった。


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