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迷宮世界グリンドワールド  作者: 吉岡
迷宮世界へ
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生産スキル

 

(一年目 四月八日)


 その日の午前中は、スキルに関係のない、冒険のやり方の基本的な授業と、暗黒魔法のスキルの授業を受けた。


 冒険のやり方のような、親切な授業が割とあって、今回は野外でのキャンプの仕方やその時の食事についてなど、普通に考えてスキルよりもよほど重要そうなことを教わった。

 しかし、学園開始から一週間になると、生徒たちの大半がもうすでに迷宮探索を始めていて、どの授業も生徒数がいっきに減少している。


 いざとなれば、教授を直接訪ねていけば、いくらでもレクチャーしてくれるので問題はないし、そのほかの知識も図書館に行けばもっと深く得ることができる。


 生徒たちの中には、既に装備もばっちり、パーティーも六人全員そろえている生徒が居る。

 金の力だ。


 しかし、ちらほらと迷宮で大失敗した話も聞こえて来て、教師たちは口を極めて、生徒たちの勇猛すぎる気持ちを諌めている。




 玲奈はその日の昼ごろに、スケルター教授の研究室でかまどとフライパンを借りていた。

 もう、食堂の料理にはうんざりしていたのだ。

 昨日、市場からの帰りに買った卵で、卵焼きを作ろうと思っていた。


 教授の研究室は、教授にとって自室のようなもので、ここで生活をするための台所や寝室が設置されている。

 教授は自分で料理しないらしく、調理器具はほとんどそろっていないが、塩を少しもらうことはできた。

 塩は、割と高価なようなので、快く分けてくれてラッキーだった。


 残念ながら、油らしきものは見当たらなかった。料理をしないせいで、置いていないだけだろう。

 仕方なく玲奈は、フライパンをよく洗い、丁寧に乾かしてから、塩を入れた溶き卵を焼き始めた。

 フォークで突きながら卵焼きを焼いていたが、どうにも上手く焼けない。あっという間に、黒く焦げ付いてしまった。


(……あれ。

 やっぱり、油ひかなかったのが不味かったのかな。それとも、かまどの火が強すぎたのかも)

 かまどなど、初めて使った。

 それとも、フライパンが日本で使っていたものと、全然違って使いにくいのかもしれない。フッ素加工とかが。


 ちょっと、料理に自信のある彼女にしては、信じがたい失敗をしてしまった。

 ショックを受けながらも、卵焼きをフライパンから直接フォークで食べて、また彼女はショックを受けた。


(不味い。

 何の味? 不味い。ただの卵焼きだって言うのに)


 確かに、卵焼きの味がする。しかし、焦げ臭いし、苦いし、妙に物足りない味だし、不味い。

 失敗した卵焼きなんて、これまで何度だって食べたことがある。

 しかし、ぐちゃぐちゃになっても、少々焦げたところで、卵焼きは卵焼きだ。

 こんなに明らかに不味いなんて、意味が分からない。


「え、何か、卵の種類が悪いのかな。

 ……いや、違うよね。これは」


 彼女に料理スキルが無いせいだ。

 料理スキルが無い、ただそれだけで、それだけで、作れる料理が、そして作られた料理の味のレベルが限られてしまうのだ。

 あるいは、ゲームの外での彼女の技術などは、ゲーム内に反映されないのかもしれない。確かに彼女はこの世界では、まだ一度も料理をしたことの無い、完璧な料理初心者だ。



 玲奈は悲しい顔で、黒い卵焼きを見つめた。

 小さくため息を吐く。

「もう、ダメ。我慢できないわ」


 彼女は決意した。

 もう耐えられなかった。


(美味しい料理を、好きな時に作って食べられないなんて。自分で、好きなものを作れないなんて。

 学園に居る一年間、あの食堂で微妙な料理を食べ続けるなんて、もう、無理!)


「料理スキル、取ろう」


 スキルの空きはもうほとんどないけれど、生産スキルだって一つくらいとっておけばいいだろう。

 やっぱり、こちらで生きていくためには、料理スキルは必要だろう。


 ずっと、悩んでいた。

 大切なスキルの空きを、そんなことで消費するのはどうかと、悩んでいた。

 しかしもう、悩まない。




 玲奈は、すぐさま食堂へ向かうと、料理スキルを習得し、翌日から食堂でアルバイトをすることに決めた。


 早朝から午前中いっぱいで、3000G。料理スキルが上がったら、給料も上げてくれるらしい。

 お金も儲かるし、勝手に料理スキルも上がるしで、丁度いいだろう。


 さっそく、午後から軽く、野菜の皮むきのクエストをこなし、料理のスキルレベルが1上がった。

 魔法スキルよりも、結構上がりやすいようだった。


 ついでに、食堂の水汲みを手伝うクエストもこなした。

 食堂の、大きな水瓶十個に、たっぷりの水を井戸から組むという、また肉体労働のクエストだったが、玲奈は覚えたばかりの四元魔法を使った。

「《(ウォータ)》」


 水瓶に零さないように魔法で水を貯めるのは難しかった。失敗しながら、間に瞑想を挟んで、何度も覚えたばかりの魔法を唱えた。

 しかし、魔法を使ったクエストは初めてだったし、四元魔法のスキルも上がったし、なんとなくやっと魔法職らしい仕事をした気になった。





 その週は一週間、クエストを繰り返して、ひたすらにお金を稼いだ。

 午前中は食堂でバイト、午後は授業とスケルター教授のクエスト。夜は本を読んで魔法の勉強をしながら、魔法のスキル上げ。

 彼女はこの一週間、まったく冒険をしていない。モンスターを一体も倒していないから、レベルは1のままだ。

 しかし、お金は溜まった。


 七万G。


 安い奴隷ならば、買えない金額ではない。



 玲奈は、やはり、奴隷を買うことに決めた。

 というよりも、元々社交的な方ではないし、秘密を抱えて恐る恐る人と接することしかできないのだから、結局は奴隷を買ってパーティーを組むしか方法はないだろう。一人で迷宮に潜ろうと思うほど、彼女は命知らずではない


 いつかは奴隷を買うことになるのならば、早い方がいい。

 学園の生徒たちも本格的に迷宮に潜り始めて、玲奈も焦り始めていた。

 このままでは、いくらスキルを上げても、お金を貯めても、冒険を始める勇気など出ないだろう。


 しかし、冒険者にならない、という選択を選ぶこともできない。

 もっとこの世界に慣れてから引退するならばともかく、この魔法学園に通って、冒険者になるための勉強を一年間もして、周囲が冒険する中で、マイペースに冒険者以外の進路を求める勇気は、彼女にはない。

 少なくとも、ゲームで進めた分、レベル30くらいまでは上げられる自信がある。

 何が起こるかわからない異世界だからこそ、その程度まではレベル上げをしたい。


 冒険を始める勇気がなかなか出ないからこそ、ここは奴隷という、迷宮で彼女を守ってくれる肉の壁を買うべきだと、彼女はきめたのだ。


 その週末、玲奈は奴隷を買うために、市場へ出かけることに決めた。







 Lv1 見習い魔法使い

 レイナ・ハナガキ ヒューマン 

 HP/MP 10/15

 スキル 杖 Lv2 瞑想Lv6 魔術運用Lv1 付与魔法Lv0.3 神聖魔法Lv2 四元魔法Lv6 特殊魔法Lv8 暗黒魔法Lv0 料理Lv10




スキルについて

杖……武器スキルは、上げると直接攻撃力が上昇します。相応しいスキルレベルがないと、武器を使うことはできますが、その武器の能力を全て使いこなせないことがあります。杖は、直接攻撃力のほかに、魔法の威力を高める効果があります。魔法使いは、杖の他に魔導書が装備できて、そちらの方が魔法攻撃力は上がりますが、高価で滅多に売っておらず、直接攻撃はできません。

付与魔法……味方のステータスを上昇させる効果などがあります。

神聖魔法……回復魔法、状態異常の解除などもできます。

四元魔法……火水土風などの属性の魔法が使えますが、これだけだと何もできません。普通の魔法使いは、四元魔法+攻撃魔法などを取って、攻撃します。

特殊魔法……アイテムボックスやワープなど、便利で変わった魔法や、珍しいけれど特に役に立つとは思えない魔法が使えます。頻繁に使う魔法なので、アイテムボックスが使えるようになると、勝手にスキルレベルが上がっていきます。

暗黒魔法……敵のステータスを下げたり、状態異常にできる魔法です。


スキルレベルの上限は、100ではありません。生産スキルは上がりやすく、また極めている職人も居るので、生産スキル100越えの職人はたまに居ます。

戦闘系のスキルレベル100越えは、伝説の冒険者レベルです。

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