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迷宮世界グリンドワールド  作者: 吉岡
引っ越し
43/45

家事担当(2)

「分っかんない!」


 家具屋で家具や電化製品の価格の目星を付けたら、今度は家事担当の奴隷を求めることとした。

 しかし、中年以上で大人の男の奴隷となると、候補が多すぎる。


 玲奈は元から奴隷を買う時には、自分の手におえる気のする同年代程度の者以外、眼中に入れていなかった。

 怖そうな、顔に傷のある、立派な体格の。

 冒険者として使われることを前提に、魔法学園などで売られている大人の奴隷たちを、玲奈は到底買う気になれなかった。


 だが、その年代を候補に入れてみると、最も多い年代だ。

 そのうえレベルは0で、魔力が低くてもいいとなると、安い奴隷だけでもたくさん居る。

 少しは絞らないと、いちいち器用さのステータスを尋ねるだけできりがない。


「でも、思ったよりも安い値段でいけそうだよね」


「一番売り手と買い手の多い世代だろう。数が多い。

 その中で大したステータスを求めていないのだから、安くなるのも当然だ」


「中年で、レベル1は、若いよりも、売れない」


 正直なところ、ギリムたちよりも安い値段で買えそうだ。

 若いレベル1の奴隷と同じステータスであるならば、中年のレベル1の奴隷の方が安い。


「そうだよね。結構レベル1居るね。

 そこそこのレベルの人を、私の都合でレベルリセットさせちゃうのは可哀相だと思ってたけど、その心配は要らなかったね」


「農民から奴隷になったら、奴隷として使えるスキルが何もないから、レベルリセットすることもありますよ。

 だから、俺の住んでた集落では、一家の稼ぎ頭の親父が奴隷になることはまずないですね。売るとしたら子供ですよ。

 周りも、良い年になって、レベルリセットして、スキル全部リセットして、奴隷になれとはなかなか言えないですよ。

 大人の方が子供よりも、同じレベル1でもちょっとステータスはいいっすけど」


「ふうん、じゃあ、なんでこの人たちは奴隷になったんだろう。

 いや、なりたくてなる人なんか居ないと思うけど」


 スドンは首を傾げながら言った。


「農民以外は。諦める。

 木こり、何かあって、木こり止めたら、もう戻れない。普通諦める。

 奴隷も選択肢の一つ」


「元から奴隷で、主人が変わったという可能性もある。後は冒険者であったり、あるいは大したスキルを持っていないから、リセットしてもいいということもあるだろう。

 エカエリ諸島でも、良い年の狩人がスキルリセットはためらうだろうが、それ以外の場合は一度やめた後、もう一度同じ職につくことは難しい。

 狩人ならば、無一文になっても森の中で狩をして生きていける可能性もあるだろう」


「ふうん?

 ううん? まあ、スキルの汎用性の話?」



 若い奴隷ばかり並んだ店と、ある程度大人ばかりが売られる店は雰囲気が違う。

 亜人ばかりの店や、女の奴隷も居る店もまた雰囲気が違うが。

 大人の多い店は、なんとなく落ち着いている。自分の運命を嘆くことも少なく、落ち着いて協力的に店を運営している。

 その店の店主が、良心的そうで、売れないからと言って悲惨なめに合う可能性が低いことも理由にあるかもしれない。


「お、まえええ!

 2年かそこらで出戻ってきやがってぇ。

 馬鹿じゃねえのか、馬鹿じゃねえのか。すっげえ良いご主人様に恵まれたくせによぉ」


 玲奈たちがある店に入った時、その奴隷屋の店主は馬鹿にするように嘆くように、一人の奴隷に話しかていた。

 奴隷と奴隷商人と考えるには、非常に気安く親しそうに見える。

 どのような関係なのかは分からないが、付き合いが長いのかもしれない。奴隷の男は30代後半から40代くらいの体格の良い男で、店主も似たような年齢だろう。


 めぼしい、というよりも特に興味を抱いた奴隷もおらず、飽き始めていた玲奈はそちらに声をかけた。


「どうかしたんですか?」


「! ああ、やあ、お客さん。奴隷をお探しですかね」


 店主はちらりとさりげなさを装いながらも、よくよく玲奈の首元をのぞき込んだ。

 玲奈の仲間を見て、それから各々の首輪を見る。彼女たちのうち、誰が奴隷で誰が主人で、誰が仲間なのか分からなかったのだ。

 そして首輪で誰が主人か確認した後も、やや納得できない様子で首をかしげている。


「その奴隷は、出戻りなんですか?」


「あっはっはは。いやいや、何の取り柄もない男でして、もっとおすすめの若い奴隷がおりますぜ、お客さん。

 いや、まあ。

 出戻りったって、ご主人様に愛想を尽かされて返却されたって訳じゃねえんでさあ。

 こいつ、一回奴隷から解放されて、立派な市民になったってのに、たった2年で奴隷に出戻ったっていう大馬鹿者なんでさ」


(出戻りって、それは馬鹿だわ)


「一体どうして?」


「こいつのご主人様は、良いご主人様で、優れた冒険者だったんでさ。

 こいつも長く大事に使ってもらって、レベルも20後半まで上げてもらって、とうとうご主人様がレベル40の大台に乗って、もうレベル差が大きくて役に立たないんで、奴隷から解放してもらって、褒美に金一封までもらって。

 なのにこいつは、たった2年で破産して奴隷に戻ってきたんでさ。

 流行もしねえ、似合いもしねえ、家具屋だかなんかを潰してさ」


「家具屋じゃねえ、雑貨屋だ」


 男は店主に言い返した。

 玲奈は思わず、吹き出した。


「え、そのお店は、どんな物を売っていたんですか」


 男は嫌そうな顔をしながらも、彼女の質問に答える。


「……お嬢ちゃん、何が知りたいんだい。

 日用雑貨だよ。ぬいぐるみだの、テーブルクロスだの、料理用のミトンだの。裁縫レベルが低かったから、大したもんは作れねえけど、服以外の布製品だ」


「ちょっと小洒落た、皇都にはよくあるような店なんですが、田舎でそんな店を開いても流行らねえし、店主は厳ついおっさんだってんで。

 すぐ潰れちまった。

 才能もねえよ、てめえ」


 厳ついおっさんは、恥ずかしいのか悔しいのか、頬を染めた。


「うるせえ。俺だってな、向いてないのは分かってたんだよ。

 でもな、それでもやってみたかったんだよ。挑戦したかったんだ。


 か、可愛い、お店屋さんをな。畜生っ!」


(可愛い、お店屋さん)


 玲奈はぼうっと、その男を見つめた。


「あなた、名前はなんていうの?

 ステータスは、器用さはいくつ?」


「俺か? 俺は、ダダクラ」




「決まったな」


 玲奈の後ろでフルーが呟いた。


「は、あのおっさんにか?」


 ギリムは、つまらなそうに眺めている。


「マスターは、何か基準を持って選んでいるように見えるが。

 結局のところ、興味を引かれるものに出会えば、必ず選ぶ。」


「それが、あのおっさん?

 まあ、玲奈さんが選びたいもの選べばいいんだけどさ。予算に合うなら。あんなおっさん、っつうか、この店の奴隷はどいつも安いし」







「へえ、ダダクラさん、結構ステータス良いんですね。MPもあるし。

 大人の方が子供よりも、同じレベルならステータス良いんだっけ」


「は、はい。ご主人様」


 ダダクラは、非常に緊張した様子で答えた。


 玲奈たちは今、先程の家具屋に戻ってきている。

 ダダクラは、何者なのか分からない少女に奴隷として買い取られ、その上何故か分からないけれど家具屋に連れて来られて、戸惑っているようだった。


「あ、ダダクラさんは気にしないで、少し待っていてください。

 ギリム、このソファーだと、スキルレベルどれくらいで製作できそう?」


 ギリムは示されたソファーの前でしゃがみ込み、集中して観察を使う。


「ん、ああ。無理です。読み切れません。

 ソファーは木工と皮製作スキルの両方使って作るから、観察スキルがもっと高くないと分からないっす」


「んん、これが本命なのに。

 じゃあ、そこの飾り机と、タンスと、椅子」


 ギリムは次に玲奈が示した家具の前に座り込んだ。こそこそ、よぉく、家具を眺める。


「椅子の方は、高いな。はっきりとは分かりませんけど、40くらいですかね。

 椅子で40とか、凄いな。

 こんな形の椅子とか、金持ちの家には色んなもんがあるんですね。

 やあ、すっげえ値段っすね」


「40?

 スキル40までは、なかなか上がらないわね」


 ギリムが観察しているのは、濡れたように艶やかな赤い木材で作られた、上品なロッキングチェアだ。

 ちょっと良い椅子なのだが、値段はちょっと良いどころではない。隣の立派なソファーよりも高くて、玲奈が仲間としている奴隷たちの、二人分くらいの価格だ。


「マスター、その形の椅子が難しいのではなく、その材質があつかいにくいのではないか。

 植物系のモンスターのドロップアイテムで作られているのかもしれない」


 モンスターのドロップアイテムは、魔力を帯びている。強いモンスターであればあるほどだ。

 その魔力は、その素材で作られた品物に特殊な効果を及ぼすこともあるが、アイテム製作の難易度を飛躍的に上げる。


 素材そのものにランクが決まっていて、特定のスキルレベルを越えないと、その材料を扱えないこともよくある。

 玲奈がこの世界に来て初めて作った卵焼きで失敗したのも、卵を扱うためには必要な料理スキルレベルが存在したためだ。


 それらの素材の中でも、高レベルのモンスターが落とす素材は、非常に扱いが難しい。

 多くの魔力を帯びているから。

 モンスターの毛皮を剥ぐだけで、皮製作のスキルが上がるくらいだ。


「木の素材にも、そういうのあるんだ。

 そりゃそっか。なんでもあるんだ。

 ここの家具って、全部高レベル素材でできてるのかな。

 ギリム、飾り机は?」


「いや、見るからにそうですよね。

 見てください、このツヤ。宝石より光ってるんですけど。

 俺、観察で木材って表示されなかったら、金属製の机だと思ってましたよ」


 玲奈はしばらく、真剣に考える。


 この飾り机は可愛いが、完全にこのレベルの家具が作れるようになるまで、かなり時間がかかるだろう。

 それでも、欲しいのかと。

 あるいは、金を儲けて買った方が早いのではないかと。


 また、完全にこのレベルの机は作れなくとも、素材のレベルを落として形を真似たものならばできるかもしれない。

 そんな中途半端なものは、欲しくないだろうか。


(いいや、やろう。

 家具が無理でも、皮製作なら防具が作れるし。

 木工も。いつか、弓でも使う奴隷でも買えばいいや)


「ん、よし、分かった!

 やろう。

 今から、ダダクラのスキルを相談するわよ」


 玲奈たちはその日は、家具を買わずにその店から出た。

 電化製品を買うのは、実際に借りる家を探して、それに合うサイズを調べてからになるだろう。


 新しい仲間の歓迎会に、皇都の小さめの飲食店に入る。

 ダダクラの日用品を買わなければならないが、もう時間が遅いので、明日に回すことになるだろう。飲食店以外の店はあまり空いていない。

 皇都はこの世界では都会とはいえ、現代日本とは違うのだ。


「一応、ダダクラさんのスキルとして考えてるのが。

 ダダクラさん、字は読めます?」


「は、はい。少しなら」


 玲奈は小さな紙を取り出して、カタカナでゆっくりと書く。


「家事仕事を主に担当して欲しいので、まず、料理と掃除。

 でも、料理スキルを上げるのは焦らなくていいです。私も料理はやりますから。

 掃除スキルは、上がると何が変わるんだろう」


「掃除のスピード、結果の綺麗さ、掃除できる対象の種類などが変わる。

 高い掃除スキルが必須の職業に、壊れやすい魔道具の手入れを専門とする職人が居る。人数は非常に少ないだろうが。

 掃除スキルを持つ者など、あとは大きな邸や城で働くメイドくらいだろう」


「もしかして、フルーの家には誰か居たの?」


「だから、大きな邸と言っているだろう、マスター。

 集落の長の邸に居たくらいだ」


 だけど玲奈は、フルーはその集落の長と親戚なのではないかと思っているのだ。それも、結構近い。

 そもそも、フルーの住んでいた集落は親族の集まりが作る、ごく小さな集団なのだと思う。


 そのような小さな村に、メイドさんを雇える邸があるのだ。

 ギリムの住んでいた農村とは比べものにならない豊かな集落だ。



「それで、木工と、皮製作」


「木工って、何を作るんすか」


 ギリムは半ば答えが分かっている様子で尋ねた。


「弓、とか?」


「弓、誰が使うんですか」


「もう、分かってるんでしょ。

 ダダクラには頑張って、家具を作ってもらいます。

 まあ、家事もあるからスキル上げはのんびりでいいや。ちょっとは冒険に参加して、レベル上げもした方が効率いいだろうし。

 この冬は、私とフルー以外は生産スキルを上げるために、わざわざゴーレム山のふもとに家を借りるんだから。


 木工スキルは、スキルレベルが低いうちは、木を切って木材を調達しながらスキル上げをすることになると思う。

 スドン、初めはあんたの方が詳しいと思うし、材料調達の時の護衛も必要だし、色々教えてあげてね」


「ん。お父さん、木工スキル持ってた。

 色々、教える。

 伐採スキルは?」


「伐採は取らない。なくても、なん、とか、なるでしょ」


 ゴーレム山は、鉱物素材だけでなく、木を切る気になれば、木工の素材も山程ある。余った木材は、鍛治の際に利用する燃料としても使うことができるだろう。


「木工スキル、木炭作れる。

 木炭。鋼鉄の。鉄と木炭」


「ああ、へえ、そっか。木炭、木工スキルで作れるんだ。

 それも、作れるようになったら、ガンガン作ってもらって」


 やはり、木工と鍛治は、武器生産の基本的なスキルだけあって、相性が良さそうだ。


「あとは、あんまり細かくは考えてないんだけど。

 まあ、ちょっとは戦ってもらうかもしれないし、武器スキルでしょ。

 生存率を上げるためにも、HPを上げる、活性スキルでも取らせようと思う。

 あとは、腕力を上げられそうなスキルか、便利系のスキルか、盾スキルかどれかを取って、スキル枠は2個くらい空けとこうかな。


 武器何がいいかな。

 掃除か生産してると武器スキルが上がるようなの、あるかな。ノミとか?

 ホウキで戦う?

 それじゃ、魔法使いか」


「それでなぜ、魔法使いなのだ?」


「……ええっと。ん、ま、いいや、別に。忘れていいよ。

 で、武器なんだけど」


 ギリムとスドンが少し考えて、提案する。


「短剣なら、料理スキルでも上がるんじゃなかったっすか。

 モンスターの解体でスキルが上がる可能性も高いし」


 無難なところだろう。

 短剣スキルは汎用性が高いから、どのようなかたちでもスキルが上がる可能性は高い。

 ただ、ダダクラは体格が良いので、あまり短剣が向いているイメージはない。

 だが、所詮イメージの話だ。


「木工なら、斧、は」


「斧かぁ。それは結構、似合うかも」


 木工で何かを生産していくのならば、木を切って木材を集める機会もいくらでもあるだろう。


「んー。

 わがままかもしれないんだけど。

 木工スキルで作れる武器、何かないかなぁ」


 その条件は必須ではないけれど。

 それに、短剣も斧も悪い選択ではないけれど、あまりに近接戦闘向けだ。

 盾か重装備か、何か防御向けの対策を持たないと、危な過ぎて使えないだろう。


「ならば、マスター。

 大きなくくりのスキルだが、長柄武器という武器スキルがあるぞ。

 その分、スキルの上がりが悪くなるかもしれないが」


 玲奈は目を見開いた。聞いたことのないスキルだ。


「へえ、それって、槍とか、斧も入る?

 そんなスキルもあるんだ?」


「ああ、そういうくくりのスキル、あるよな。

 俺、なんか、学園で色んな武器試してる時に出ましたよ。珍しい武器を試した時に。

 鎖鎌、だったっけ。あれ試した時に、色んな武器スキルが出て、確かその中に長柄武器も入ってました」


 玲奈は言われて、ギリムのステータスを調べる。

 ギリムが取得可能な無数の武器スキルの中に、確かにそういうスキルが存在する。


 長柄武器、鎖武器、暗器武器。


「あった。へえ。鎖鎌でも、長柄武器になるんだ」


「マスター、鎖鎌を知っているのか?

 鎖鎌もそうだが、このスキル、ホウキも武器にできるのではないか?」


 玲奈は、はっと顔を上げた。


(それだ!)


「面白そう。

 じゃあ、ホウキで長柄武器スキルが上がるかどうか確かめて、それでいけそうだったら、これにしよう。

 木工で、特別製のホウキだってつくれるだろうし、掃除してても、木を切ってても上がるでしょ」


 玲奈は決まったと言うように笑った。


「武器スキルは、それでいくね。

 さて、ダダクラさん、何か聞きたいこととか、リクエストしたいことはある?

 黙ってると、全部決まっちゃいますよ。ダダクラさんの希望も、あれば入れるかもしれませんよ」


 ダダクラは、戸惑っている。

 当然だろう、玲奈たちのことだって、まだ全然分からない はずだ。

 玲奈たちの正体や、関係を見定めるように見ていたが、おずおずと口を開けた。


「では、ご主人様。

 俺は、何をするんですか」


(ご主人様、か。

 どうしようかな、フルーのマスターもあれだけど。

 ギリムの玲奈様は、そのうち取れたんだけどな)


「私たちは、冒険者です。

 ダダクラさんには、私たちが留守の間家事をしてもらおうと思ってます。

 でも、まあ、それだけじゃもったいないから、生産もやってもらう。木工と、皮製作」


「それですけど、ご主人様。

 俺は、裁縫スキルを取って、店を開いていました。スキルはリセットしちまったが、経験者です。

 どうして、裁縫じゃないんですか?」


 玲奈は、まさかそんなことが不満だとは思いもよらなかった。


「ん。店って、可愛い雑貨とか売ってたんだっけ?

 でも、店、潰れたんでしょう」


 ダダクラは黙った。


「諦めたら?

 向いてないんじゃないですか?」


「そ、そんな」


 特に、裁縫スキルでなく木工や皮製作を選ぶ理由はない。

 しいていうならば玲奈がソファーが欲しいことくらいだ。

 布製の防具よりも皮製の防具の方が今のところ必要度は高いが、どちらもいずれは必要となるかもしれない。


 だが、2年かそこらで店を潰したというのならば、向いていない気はする。

 どう見ても、小さいものをちまちま作るのに向いた人間にも見えない。

 店の経営が下手だっただけかもしれないが。


 考えてみれば、ダダクラがものを作る上で大切なのは、センスの良し悪しよりも玲奈の好みに合致するかだ。

 どうせ残りの男たちは、家具の好みをどうこう言いはしないだろう。


「ダダクラさん。しばらく皇都の店を回りながら、お互いの趣味を測り合いましょう。

 ダダクラさんの作る服が、私の好みに合いそうなら、取るスキルを考えるかもしれません。


 だけど、大事なことが一つあります。

 これからは、私が、ダダクラさんの一番の、場合によってはほぼ唯一の客になります。

 なんであれ、私の好みに合わせて、ものを作ってもらいます」


 はっきりと言った玲奈に、ギリムは不思議そうな顔をする。


「なんか、珍しく厳しいんですね、玲奈さん。

 俺らが何作ってても、文句言わないのに」


「そんなことないよ。気に入らなかったら、使わないだけだし。大体、武器や実用品の見た目に文句は言わないよ」


 ギリムは玲奈よりも余程、ものを見る目が優れている。

 元々の本人の素質もあるだろうが、観察スキルを育てているためでもあるだろう。

 スドンの作品は、時折フルーやギリムにけなされている。

 ギリムはちょっと慎重過ぎるところがあって、まだ製作者のセンスをはかれるほど大した作品を作ってもいない。

 妙な実験作品を、作っては溶かしている。


 それに、ギリムたちを買ったすぐの頃も、結構厳しかっただろう。彼らが忘れているだけだ。

 彼らのスキルを決めたのは、ほぼ玲奈の独断と偏見と気まぐれだった。

 彼らの人生の形を決める、スキルの選択を、玲奈は勝手に決めたのだ。


 買ったばかりであれば、結構厳しいこともできる。

 特に今回は、玲奈の方に3人も味方が居る。

 前回彼らを買った時は、別の意味でビクビクしていたから。誰かの人生を左右することではなく、奴隷を上手く扱えるかどうか、反抗されないかどうか。


 だけどもう今は、そうではない。とりあえず、お伺いは立てる。

 もはや玲奈は勝手に彼らの人生を決めることなどできない。

 もう彼女は、彼らを知ってしまったから。


 多分、もう少しすれば、家族になる。

 もっと恥ずかしい言い方をするのならば、仲間だから。



(まあ、結構色々勝手に決めちゃってる気もするけど。

 仕方ないよね、皆、文句言わないんだもん)















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