表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/45

花の都パルマ(2)

 

(一年目 八月三日)


 4人はパルマに来ていた。前回は連れて来ていなかった二人を連れて、パルマの町を見て回るとともに、ハチミツの価格を比較するために来たのだ。


 冒険者協会でギリムとスドンは、一生懸命物品入手系クエストの依頼表を調べている。


「あ、あった。ハチミツ、品質により価格相談」


「ん、小サイズ樽、2万3千G。品質次第」


 色々な依頼が混ざっている中で、ハチミツ入手の依頼、特に品質重視の依頼ばかりをピックアップしていく。二人の字の勉強の一環でもあった。


「ん。小樽で2万3千Gね。じゃあスドン、問題です。

 皇都で一番良い値段だった依頼、中瓶で800Gと、どっちが得する?」


 この世界では、量や重さの単位について、あまりきちんと整理されていない。きちんとした単位が無いわけではないが、業種ごとに細かく分かれていて、例えば調合の分野と料理の分野で材料の重さの量り方は違う。


 有能な商人ならあらゆる単位を記憶しているかもしれないが、一般的な取引の中で使われる単位はもっとざっくりしたものになる。

 液状のものならば樽・瓶・匙、固形のものならば袋・碗・匙で量ることになる。魔法学園のエリアならば、魔法学園で流通している樽や袋のサイズが基本の計量サイズとなる。


「……え。計算、数、多い」


「ん、じゃあ、式を言ってくれたら私が計算するわ」


「えと、中瓶だから、800×23」


 小樽で、大体中瓶の23本分になる。


「えーっと、大体、18000」


「……。パルマのクエスト、得」


「はい、正解。ギリムも、今の問題分かった?

 すごい高額、これが今のところ一番ね」


(でもちょっと、他と比べて高額過ぎるから、不安だなあ。ものすごく品質にこだわるとか、難癖付けられるとかするかも)


 これくらいの値段でハチミツが売れた場合、玲奈の手持ちのハチミツで、30万G以上の価格で売れる。

 さすがにこの価格で上手く売れるとは思わないが、クエストを覗いていけば、合計で20万Gくらいで売れてもおかしく無さそうな価格帯だ。もちろん、玲奈の作ったハチミツがこのレベルの店に売れるくらいの品質であればの話だが。

 それに、大量にハチミツを消費するわけではない薬剤店などに売る場合、今後高く買ってくれる店が段々減ってくる可能性も高い。

 それでも、かなり大きな儲けだ。


(5、6回やったら、100万Gじゃない。

 結構早く、学園に借金が返せそうなメドがたったわね。

 まあ、まずは100万Gくらい貯めて、長期的に家を借りるつもりだけど)


 1年か2年くらいの単位で、ゴーレム山の近くに家を借りるつもりだ。この世界の相場はいまいち理解していないけれど、不動産の価格は日本よりはずっと安い。本当は100万も必要ないだろう。

 ゴーレム山付近は然程都会でもないので、多分地価も高くない。


 問題としては、玲奈が借りようと思っているのはアパートなどではなく、パーティーメンバーが増えても問題なく住める一戸建てだということ。スドンがその家で鍛冶に集中できるように、炉や作業台が備わっていなければならないことだ。

 だが、ゴーレム山付近ならば多分鍛冶が盛んなので、以前鍛冶師が住んでいた空き家が借りられるのではないかと思っている。


 後、こちらの世界の最先端の電化製品的な設備が備わっている家がいいのだが、それは電化製品付きの家を借りるか、後で電化製品を買い足すかも悩むところだ。


「オッケー。とりあえずこの依頼を受けることにしよう。後、ハチの巣狩りも1つ受けとこうか。

 3人とも、ハチの巣狩り、もう一回やれるよね?」


 ハチとの戦いはとても厳しく辛かったけれど、レベル上昇といい、金銭面といい、効率が良すぎる。

 あと5回もこのクエストをこなせば、4人はレベルもかなり上がるだろう。


 フルーは玲奈の問いかけに力強く頷き、残りの2人はやや複雑そうな顔で頷いた。


「マスター、私が行こう。」


 フルーはさっと立ち上がって、受付にむかう。

 玲奈はそれに頷いて、残りの2人にはクエストのチェックを続けるように伝えた。

 玲奈はパルマの冒険者協会の中をのんびり見回す。

 そこに、期待していた侍の姿を見つけて席を立った。



「トドロキさん。

 どうも、以前ここでお会いした冒険者です。……魔法使いの、玲奈といいます」


 和服に軽そうな皮鎧を身につけた、トドロキという冒険者は、ちょっと呆気に取られたようだった。


「ああ。覚えてるよ。女は珍しいし。

 魔法使い?」


 魔法使いだというのは、玲奈の立場を信用してもらうため、あるいは彼女にいくらかの興味を抱いてもらうための単語だった。


「はい、その、突然申し訳ありませんが。

 私、その、ヤポンの産物を手に入れたいと思っていまして。

 その、酒の材料のコメなどを、私に売ってもらえませんか?」


 玲奈は唐突過ぎただろうかと、少し考えた。これでは玲奈がコメを欲しがっていることが露骨過ぎて、足もとを見られてしまうかもしれない。


(でも、初めて会ったくらいでこんなこと頼んで、どんな頼み方したってどうせ露骨過ぎるよね)


「んー、そんなこと言われてもなあ。

 俺たちはここで冒険者してるんだから、コメなんか持ってないぜ」


「なら。私がヤポンまで出向いて直接コメを買い付けたいと思います。ヤポンの場所を、教えていただけませんか」


「ええ!

 ヤポンまで行くのはかなり大変だぜ。おま、魔法使い様、のレベルがいくつかは知らないが。

 定期的に馬車だって出てないし、一体どうやって行くつもりですか」


「トドロキさんはどうやって、故郷を離れられたんですか?」


「ああ、うちの里には結構高レベルの冒険者が居るし、そいつらが護衛をしてる行商隊に混じって都会に出てきたんだよ。でもそれには、余所者は参加できないぜ」


「……いつか。私たちのパーティーのレベルが上がった時に、ヤポンへ行きたいと思っています」


 玲奈が言うと、トドロキは軽く笑った。

 いつかレベルが上がったらなどと言うが、あまり現実的な言葉には聞こえないだろう。一体いつになることか、といったところだろうか。

 玲奈がゲームなどからイメージするよりも、この世界のレベルアップは難しい。だが彼女にとっては、いずれレベルが上がったらどこに行くかということは、あらかじめ立てておいて当然の計画だった。


「まあ、いい」


「ちょっと、待ちな」


 そこに女の声がかかった。和服のトドロキの仲間らしき、女冒険者だった。


「一体、何を絡まれてるのかと思えば。うちの里は隠れ里なんだよ。そんなに簡単に教えていいと思ってるの!」


 彼女はトドロキに向かってそう叱ってから、玲奈を見た。


「ねえ、魔法使いさん。ヤポンを教えて、私たちに一体何の得があるのかね。

 ねえ」


 彼女はつんと首を傾けた。彼女は、玲奈の反応を待っている。


(……ああ、情報料をよこせってことか。教えちゃダメだって言われるかと思っちゃった。

 まあ、お金を払ってもいいんだけど)


 玲奈はちらりと、女冒険者の装備に目をやった。

 トドロキもそうだが、先日から今日までの間に、彼らがアクセサリー装備を増やした様子はない。


「お返しに、調合や料理のレシピなどをお教えすることはできますけど。魔法使いが居ないのでしたら、私がみなさんに魔法をお教えしても、あまり意味はありませんね」


「確かに、そんなの教えてもらってもな」


「パルマを拠点に冒険しているなら、解毒ポーションにお困りではありませんか」


「解毒ポーションのレシピでも教えてくれるのか?」


「? 教えてもかまいませんが、どなたか調合スキルをお持ちなんですか。

 そうではなく、低レベルの聖職者をご紹介しましょうか。悪くない条件で、冒険に付き合ってくれる聖職者を。低レベルなので、皆さんが彼を足手まといにならない程度に鍛えてもらうことになりますが」


「聖職者を?」


 侍たちは、ぎょっとして顔を見合わせた。


「おい、聖職者だって」


「ば、バカ。紹介するってだけだよ。あたしたちに雇えるような、生半可な協力料じゃないよ。

 だって、だって、聖職者なんて。

 ど、どの程度の条件なのよ」


 美味しい話過ぎてあやしいし、聖職者と冒険をするのは色々と金がかかるので難しいのだが、それでも聖職者をパーティーに加えられれば、と彼らは興奮している。


「……そうですね。

 MPポーション代と、彼の衣食住の代金は、皆さんが持ってください。

 彼は、解毒魔法しか使いません。それ以外の回復魔法については、要相談ということで。

 彼は今レベル1なので、MP量が少なく、使い勝手が悪いと思います。皆さんが使いやすいように、彼をレベルアップさせてください。その代わり、そうですね、短くても半年は絶対に一緒に行動するように交渉しましょう。

 パーティーの協力でレベルアップしたら、すぐにパーティーから抜ける、というのでは困りますから」


 玲奈が話をすすめるうちに、トドロキたちの顔がどんどん訝しげなものに変わっていく。


「使い勝手って。そんな条件飲むって、おまえ、その聖職者とどんな関係なんだ」


 玲奈は曖昧に笑ってみせた。


「まあ、はい。

 彼には、断られるかもしれませんね。あるいは、半年の約束を守らず、途中で逃げ出してしまうかもしれません。その場合は別の聖職者を探しますから、一月くらい時間を頂くかもしれません」


 聖職者との交渉が上手くいかなかった場合は、MP量の多目の奴隷でも買って、責任をもって玲奈が神聖魔法を仕込もうと思っている。レベルをちょっと上げて、3日くらい大神殿に突っ込めばいいだけだ。


 魔法学園のエリアには、魔法職に向いたステータスの奴隷が少ない。将来のことを考えれば、わざわざ奴隷を買って、時間をかけて育てたいステータスではないのだ。

 だが、促成栽培レベルの魔法職の冒険者ならば、玲奈からすれば育てるのはさしたる手間ではない。

 半年たってトドロキたちが奴隷を仲間にしたいと言えば、奴隷代に色をつけた代金を払ってもらって、その奴隷を解放すればいい。


「私も、しばらくはパルマ周辺のフィールドで冒険しています。しばらく考えていただいて構いませんから、3日後にまたここでお会いしましょう」


「……おまえ、本気か? たかがヤポンの場所を知るために、そんな」


「やっぱり、魔法使いなんて人間は変じ、いや、スケールがでかいね」


 いささか失礼なことを言われたが、玲奈は笑って聞き流した。

 丁度良いのだ。聖職者に恩を売りたいと思っていた玲奈にとっては、少し手間はかかるが一石二鳥であり、興味深い実験のようなものでもあり、今後の情報収集のための人脈でもある。

 タイミングもあるし、それにやっぱり、やっぱり、和食が食べたいのだった。






 パルマで一番割りの良さそうな店には、ハチミツを上手く売ることは出来なかった。


 その店は、上流階級向けの美容クリームや香水、石鹸などを作っている店だった。

 初めはハチミツの質に関して色々と咎められて、最終的に玲奈の作ったハチミツが魔力的には優れているという認めてくれた。結局、その店が重視する品質と玲奈が品質と考える部分は大きく違っていたということに互いに気付き、交渉は円満に決裂した。

 その店は、ハチミツの美しい色艶と粘度を重視していた。


 交渉が決裂した後は、別のクエストを受け取りにパルマの冒険者協会に戻った。物品入手のクエストはそういうことがしばしばあるようで、冒険者協会の受付は何も言わずにクエストを変えてくれた。


 次の店には、料理長の助言どおりに薬剤店を選んだ。個人経営の薬剤店だが、パルマはそういった産業が盛んなこともあり、結構大量の薬を作っているようだった。

 よく考えれば、人口は皇都や魔法学園の方が多いが、その2つの町は薬屋のライバルが魔法薬を研究する魔法学園の教師や、大神殿の聖職者になる。それは、薬屋も大変な商売だ。その辺りと比べればパルマは、薬剤店だってなかなかに儲かっているのだろう。


 その店は、ハチミツを小樽に4つ分も買ってくれた。それだけで、7万Gだ。

 ただ、質が良かったしハチミツは保存がきくので、奮発して買ってくれたらしく、今後玲奈たちがハチミツを売りに来ても、買うことはできないと言う。



 様子見のために、皇都の店でもハチミツを売ってみることにして、玲奈たちはワープで皇都に向かった。


 皇都の協会で、一番割りの良かったクエストを選ぶかどうかは悩むところだ。また同じような失敗をするかもしれない。

 だが、高額な依頼をあえて避ける理由もないので、結局金額の高い順に店をまわることになるだろう。



「それ、玲奈さんがそこまでする必要あんの?」


 また、玲奈は皇都で聖職者に声をかけるつもりだった。

 以前玲奈とパーティーが組みたいと言っていた、テーマスとかいう聖職者だ。


「ん、ヤポンのこと、聖職者のこと?」


「まあ、どっちもですけど。

 あ、でも聖職者を鍛えるなら、どっかのパーティーに頼んで鍛えさせるつもりは、初めからあったんですか。だったら、ついでみたいなものか」


 皇都の街中を歩きながら、玲奈は答えた。

 協会でクエストを受けたら、その後は二組にわかれる予定だ。玲奈とスドンが大神殿、ギリムとフルーがハチミツを売りにだ。

 フルーは竜人で、ヒューマンの商人には嫌われるので、単独での行動はあまり向かない。だが威圧感があるので、交渉の場に存在するだけで役に立つ。

 またギリムは、玲奈よりは年上に見えて、このパーティーの中では一番ごく普通の冒険者らしく見える。若いのでややなめられるきらいはあるが、彼の後ろには竜人の奴隷を所有する魔法使いの主人が居ることになっているので、むしろ玲奈の姿は見えない方が圧力になるかもしれない。


「うん。タイミングが良かったのは間違いなくあるよね。

 ヤポンのことは絶対に知りたかったけど、お金とか、聖職者じゃなくてむしろ耐毒のアクセサリとかの方が、話は早かったよね」


「マスター、なぜそんなにヤポンにこだわる? マスターの故郷……ではないのだったろう。ならば一体、ヤポンの何にこだわるのだ」


「や、そんなに大した話じゃなくて、単に私のワガママなんだけど。ヤポンは本当に私の故郷と似てて、つまり私の故郷に似た食材が、ヤポンにあると思ったの」


「故郷の料理? マスターの故郷の料理だから、よほど美味いのだろうな」


 フルーは優しげな顔をした。


「期待しないでよ。あくまで食材があると思うだけで、上手く調理できるかは分からないんだから。

 それに、流石に食材だけの話じゃないの。ギリムは、あそこのパーティーちゃんと見てた? あのパーティーの装備、変わってたでしょ。彼らはね、多分、敏捷に優れたタイプの冒険者だと思うの。ヤポンに行けば、ギリムの戦闘スタイルについて良い情報が手に入るかもしれない。

 それに、ヤポンの冒険者は全体的にそうなんだと思うから、あそこは敏捷系に向いた装備品がたくさんあるんじゃないかな。私やギリムが装備するための、良い皮装備や布装備があるんじゃないかと思う」


「へえ。

 俺は冒険者の装備についてそんなに詳しくは知らねえんですけど、確かに、高価な皮装備ってあんまり売ってないですよね。

 逆に、魔法職の着る布装備は、高いやつは無茶苦茶高いですけど」


「でもそれは、魔法の威力を上げることにだけ工夫した装備でしょ。力の弱い魔法職が装備できる、軽いけど防御力の高い装備品て少ないじゃない。

 まあレベルが上がれば魔法職だって力が上がるから、金属鎧って手もあるけど」


 レベルがガンガン上がる時期は良いけれど、次にレベルが伸び悩むことがあれば、そろそろ高価な装備品について考えてもいい時期だ。


 なるほど、と感心した顔でフルーとギリムは頷いた。スドン興味の無さそうな顔をしている。


(まあ、結局一番大きな動機はご飯なんだけどね)


 玲奈は息を吐いた。





 スドンと二人で大神殿にやって来て、玲奈はテーマスを呼び出すことにした。


 どうやってこの大神殿で、一人の見習い聖職者を見付け出すことができるのかと少し考えたが、スドンは以前声をかけられた時に連絡する手段を教えられていたらしい。

 それでなくてもスドンは大神殿で、何日も祈りながら長い退屈な時間を過ごしていた。息抜きに神殿の中をうろついていたりして、神殿内部の施設の配置や、聖職者たちの仕事や階級の構造について、妙に詳しくなっていたらしい。

 同時に皇都の地理や店の価格については、ギリムがこの短期間にやたらと把握してきていた。

 思ってもいなかったが、上手く情報収集できているのではないだろうか。


 スドンは玲奈を連れて堂々と、大神殿の内部に入っていく。一体これまで、勝手にどこを冒険していたのか。

 神殿の裏手には、身分の低い見習いや、厳しい修行中の者や、神殿内部に関わる比較的地位の高い聖職者などが暮らすための宿舎が存在する。一体どうやってそんなことを知ったのか、スドンはポツポツと玲奈に説明した。


 テーマスは、親元から離れた見習い聖職者たちが暮らす棟に暮らしているようだ。

 身分の高い聖職者が暮らす棟に比べれば立派な建物ではないが、貧しい農村から引き取られて来た子供が暮らしているとすれば、十分綺麗な住み処だろう。

 だが、聖職者から生まれた子供が見習い聖職者になった場合、親元で暮らし、親と共にこの神殿で働くことになる。地方に出て働くこともあるだろうが。

 親と同じ聖職者になる子供は、情報面でも環境面でも、ここで暮らす子供たちとは比べものにならないだろう。

 この宿舎で、折角縁あって一緒に暮らすことになった、見習い聖職者の仲間たちと親しくなり、深い絆を結ぶことができれば、それはそれで素晴らしい仲間と人脈と情報網を手にすることができると思うが。

 スドンにそのことを言うと、今の子供たちにはそういった様子はないという。これまで、そういった絆を結んだ世代の聖職者も居たかもしれないが、今はむしろ親が居る子供たちの方が、よほど上手く派閥を作っているらしい。



 近くの子供に頼んでテーマスを呼び出し、しばらく待つと彼はやって来た。


「魔法使い殿!

 よく来てくださいました。俺を、パーティーに入れて下さるんですか?」


 彼は玲奈を見ると、ぱっと顔を明るくした。

 玲奈は身振りで彼を連れ出して、周りに人のいないところへ連れて行く。

 開口一番に、はっきりと告げた。


「率直に言うけれど、私はあなたをパーティーの中に必要としていないわ。私もスドンも、回復魔法が使えるの。あなたよりもスキルは上よ」


 テーマスはぎょっとした顔で、スドンをまじまじと見た。スドンの奴隷の首輪を見て、信じられないという顔をしている。


「でも、大神殿の中に親しい聖職者の一人か二人は居た方がいいから、あなたを特別に鍛えてあげてもいいと思っているの。神聖魔法のスキルレベルを、20にまで上げてあげるわ。

 そのために、あなたはどれだけ努力できるの。どれだけ我慢することができる?」


 玲奈はわざと偉そうな口調でテーマスに尋ねた。


「スキルレベル20……。なんだってやります。あなたのパーティーのために、なんだってします」


「私のパーティーは、あなたを必要としていないって言ってるでしょう。お金はいくら出せる? 時間はどれだけかけられる?」


「お金は、持ってないので出せませんけど。10年だって、厳しい修行に堪えます」


(……まあ、初めから面倒を見てあげる気はあるけど、なんて言うか舐めた話よね。いや、スキルレベル20なんて、私にとっては大したことじゃないんだし、結構簡単に上げられるって知ってるんだけど。

 ちゃんと分かってるのかなあ)


「10年間、私のためにタダ働きしてくれると、そう言っているのよね。10年間、一日も休まず」


 冷たい声で玲奈がそう尋ねると、テーマスは徐々に声を小さくしていった。


「タダでは……いや、その、日々の生活のための、その。ドロップアイテムの分配などは……」


(お荷物を抱えて、わざわざレベルの低いモンスターを倒してるのに? まあ、いいや。ここでこの子を苛めても意味はないや)


「一年間で、あなたの神聖魔法のスキルレベルを20にしてあげましょう。ただし、半年間の試験期間を設けます。あなたがきちんと半年間の試験期間を終えられた場合は、スキルレベルが20になる方法を教えてあげましょう。

 とあるパーティーの下で、半年間無料で聖職者としての役割を果たしなさい。MPポーションの代金、あなたの衣食住の世話はそのパーティーがしてくれます。ただし、ドロップアイテムの分配は主張しないように。そのパーティーにわがままを言ったり、半年間の仕事を途中で逃げ出したりした場合は、失格です。たまにパーティーの様子を見に行って、真面目に働いているかチェックします。

 半年間、あなたのMP量とMPポーションの許す限り、彼らに解毒の魔法をかけ続けなさい。それ以外の魔法は、使うかどうかは彼らと相談して決めて構いません。パーティーメンバーは、あなたがレベル1のままでは役に立たないから、レベル上げを手伝ってくれるでしょう」


 半年間ひたすらに解毒魔法をかけ続ければ、それだけで簡単に神聖魔法のスキルは20代前半まで上がるだろう。

 これが、小治癒を使っているだけでは、スキル20までなかなか上げらない。頻繁に冒険するパーティーに参加していてもそうなのだから、そうではない単なる聖職者では、余計に上がらないだろう。


(この子の今のMPっていくつだっけ。まあ、多分レベル1でMP10は超えてないのよね。

 一回解毒使うごとに、MPポーションを飲み直して魔法を使ってたら、MPポーション代よりも解毒ポーション代の方が安くつくし。その辺はトドロキさんたちがこの子を頑張ってレベル上げさせれば、MP量も増えるし解決するでしょう。

 瞑想スキルとか持ってたら、MP回復がはやくなっていいんだけど、そこまで口出しするのもちょっとね)


 玲奈の説明に圧倒されたように、テーマスはおずおずと声を上げた。


「あの。俺はまだ、解毒魔法なんて使えないんですけど。スキルレベル、5だし」


 玲奈はあっさり頷いた。


「ええ、分かってるわ。半年間の試験期間の前に、報酬を一部前払いしてあげる。今日から一週間で、あなたの神聖魔法スキルをレベル10にしてあげます」


 テーマスは、ぎょっと玲奈を見上げた。


「別に、難しいことではないので」


(ちゃんと、私のこと信じてくれたかな。

 ちゃんと怖がって、恩に感じてくれたかな)


 この程度の情報ならば、魔法学園の図書館で知ったとか、修行中に気付いたとか言って誤魔化すことは出来る。

 警戒され過ぎても困るけど、この見習い聖職者が、全然玲奈に恩を感じてくれないようでは、今度は意味がない。


 玲奈は見下すような冷たい笑みで、テーマスににっこり笑いかけた。


「じゃあ、スドン。彼に説明してあげて」


 スドンは無表情に頷いた。


「はい、マスター」








 Lv13 見習い魔法使い

 レイナ・ハナガキ ヒューマン 

 HP/MP 82/123

 スキル 杖Lv21 瞑想Lv19 魔術運用Lv13 付与魔法Lv17 神聖魔法Lv12 四元魔法Lv19 特殊魔法Lv31 暗黒魔法Lv15 料理Lv44


 Lv13 見習い戦士

 フルーバドラシュ ドラゴニュート

 HP/MP 195/39

 スキル 剣Lv26 盾Lv20 重装備Lv13 活性Lv21 戦闘技術Lv14 挑発Lv18 調合Lv31


 Lv8 見習い戦士

 ギリム ヒューマン

 HP/MP 67/16

 スキル 短剣Lv9 投擲Lv3 命中Lv5 活性Lv8 踏舞Lv11 跳躍Lv9 観察Lv10 索敵Lv10 装飾細工Lv2


 Lv8 見習い戦士

 スドン ハーフフェアリー(アース)

 HP/MP 144/37

 スキル ハンマーLv10 盾Lv9 重装備Lv5 活性Lv9 戦闘技術Lv4 挑発Lv7 魔術運用Lv3 神聖魔法Lv9 鍛治Lv11





読者の皆さんには申し訳ありませんが、『迷宮世界グリンドワールド』は、これからしばらくお休みさせていただきます。

また、非常に誤字の多い作品ですので、この間に少し改訂したいと思います。4月・5月に更新があった場合は、新規更新ではなく改訂かもしれません。


また、今後の展開について、少し相談があります。率直に言って、次の仲間の性別についてです。

次の章は引っ越し編になるのですが、そこで登場する仲間と、はるか未来に登場する、本当に登場するのか筆者にもあやしい正式なパーティーメンバーについてです。



最近玲奈が一人で料理や家事を行っているという設定が重荷になってきたので、引っ越した後には家事を任せるメンバーを入れようと思っていますが、それは正式なパーティーメンバーではないかもしれません。


問A そのメンバーを、

① 家事・生産スキル特化の男の奴隷

② 家事メイン、生産スキルやや特化の女の奴隷

③ 近所から女のメイドを雇う

④ このまま誰も増えない

のどれか、アンケートに答えて、感想欄に書いていただけるとありがたいです。


また、将来の正式な仲間について、回復魔法中心の魔法職で、やや欠陥のあるダークエルフを考えています。

問B そのメンバーを、

① 男

② 女

のどちらか、教えていただけるとありがたいです。


アンケートの解答は、片方でも両方でも構いません。感想欄などに書いてくださって結構です。

ただ、アンケートを完全に参考にするかは分からず、アンケート結果とは違う仲間になるかもしれません。それについては、お許し下さい。



今、筆者は、少し新しいことに挑戦しています。初めての挑戦で、技術も足りず、完成するかは怪しいです。徒労に終わるかもしれません。

完成しましたら、こちらのサイトにお知らせしますので、少し見てもらえるとありがたいです。


吉岡


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ