魔法学園(3)
女史のお説教が終わると、ひとまず解散となった。
玲奈は考えたいことがたくさんあったが、生徒たちが講堂から立ち去り始めたので、どこへ向かうのか分からないまま、人の流れに乗っていく。
着いた先は、食堂だった。
「そっか、お昼ご飯。
今、何時なのかな」
玲奈がつぶやくと、パチンと頭の片隅に、四角い箱が飛び出した。
4/1 12:08。
時計だ。
「そう言えば、システムに時計あったっけ。
……ワールドマップ」
頭の隅に、別の四角が開く。
「インベントリ」
小声で言うと、また別の四角が開いた。中には、入学説明書に、HP・MPポーション、メモに鉛筆。丁度今、持っている物だ。
先ほどは出なかったアイテムインベントリが使えたので、さっきと今で何が違うのか思い浮かべる。
「そっか。この変なカバンがインベントリなのか」
物を入れても膨らまないけれど、重さだけ増えるくたっとしたカバン。
確かに、段々重たくなるので、腕力が低ければ、あまり入れられないだろう。
食堂で、周りの様子を伺いながら、人の流れについていく。
料理を注文する棚の近くに、見本らしい料理が三皿並べられていた。
食事の面倒は、魔法学園で見てくれることになっているので、無料で食べられる。ただし三皿の料理の前には、こう書かれていた。
『無料、プラス500G、プラス1000G』
追加料金制だ。
「高っ」
(序盤で1000Gとか。所持金今、3000Gだよ)
多くの、お金持ちらしき生徒たちは、当然のようにプラス1000Gの料理を頼んでいく。
玲奈は当然、無料の皿を選んだ。
しかし一口食べて、彼女は悲しい顔をした。
(微妙)
というよりも、不味い。
野菜がたっぷり入ったシチューと、パン。
決して料理が悪いわけではない。
多分、安いせいなのだろう。どうも、手のかかっていない味わいだ。味に深みがない。
肉が入っていないし、塩が高価なのかもしれず、そもそも味が薄い。
(う……。せめて、ちょっとでもだしが効いてれば)
玲奈は、料理ができる。
最近まで祖母と二人暮らしだったので、肉が入っていない薄味の料理には慣れている。
しかしそれは、和食だった。
しかも、現代の、だし系化学調味料を使って、十分にだしのうま味の効いた、薄味の料理。
玲奈は、ちょっと料理ができるだけに、この情けない味には耐え難かった。
悲しい顔をしながら周りを見回すと、500Gは500Gなりに、1000Gは1000Gなりに、悲しそうな顔をしていた。
(それでも、肉が付いてるだけましだと思うんだけど)
お金を出せる生徒は、それだけ家で美味しい料理を食べているのかもしれない。
玲奈は、これから、かなり長い間食べなければならないだろう料理にがっくりしながら、シチューを口に運んだ。
昼食後は、さっそく授業をとることができる。
玲奈は多くの生徒たちとともに講堂に戻って、魔術運用と瞑想の授業を受けた。
これは、ほとんどの生徒たちが受けていた。
魔法職に必須のスキルだ。
魔法の基本的な概念と知識の解説がなされて、目を閉じて体内の魔力を感じ取ってみる。
はっきり言って、こんな簡単な解説で魔法が使えるようになるはずなどないと感じたが、やってみると、頭の中でポンと音が鳴った。
『魔術運用 Lv0 習得しました。
予備スキルにしますか、使用スキルにしますか。
これより、スキルが使用できます』
この辺りは、いまいち納得できないが、まさにゲームだった。
魔術運用は、パッシブスキルで、これを付けて魔法を使っていれば、勝手にスキルが上昇する。
これが高いと、魔法を使う上で、詠唱速度やMP量、あるいは敵に攻撃をされた時の詠唱継続力が上昇する。
一方、瞑想は、アクティブスキルだ。このスキルを使用すると、MP回復速度が上昇する。
しかし、一度スキルを使うと、再びスキルを使えるようになるまで割と時間が掛かり、回復速度が上昇したところで、たいして早く回復するわけではない。アクティブスキルとしてはたいして役には立たない。
重要なのは、瞑想スキルを上げると、MP回復速度の他に、魔法の威力が上昇することだ。
瞑想は、一回一回時間が掛かるスキルであるうえに、スキル再使用時間が長い。そのために、集中してスキル上げをするには、時間の割に効率が悪い。
しかし魔術運用と違い、使っていなくても勝手に上がるわけではない。
つまり、戦闘の合間などに意識的に使って、こつこつ上げていくしかないのだ。
ポン。
『瞑想 Lv0 習得しました。
予備スキルにしますか、使用スキルにしますか』
二つのスキルを覚えた後、生徒たちは講堂からバラけて出て行った。
玲奈も、時間割表を見ながら、別の授業を受けるために、講堂を出た。
特殊魔法の授業を受けると、もう午後も遅くなったので、また微妙な食事を食堂で取って、沐浴場で水浴びをして、部屋に戻った。
部屋に戻ると、玲奈は、不思議なカバンの中からコインを一枚取り出した。
一枚100Gに当たる、銀貨だ。
手を伸ばして、銀貨を机の向こう側の隅に置いた。
「《来い》」
銀貨がパッと消えて、玲奈が机の上に置いていた、右手の下に現れた。
彼女は目を見開いた。
「あっ……。来た。来たわ!
成功した。
私、私。
魔法が使えたっっっ!
魔法が!」
玲奈は、喜びに打ち震えた。
「この世界は、本当に、ゲームの世界なんだ!」
恐ろしいことはたくさんある。
この世界はゲームの世界だ。しかしゲームとは違って、この世界には死のリスクがある。
しかしそれでも、それでも。
玲奈は、生まれて初めて魔法が使えた喜びに、震えが止まらなかった。
わくわくして、ドキドキして仕方がなかった。
コインを机の向こう側へ押して、もう一度唱えた。
「《来い》」
「《来い》」
「《来い》」
「《来い》」
その夜玲奈は、夜が更けるまで、ずっとそれを繰り返した。
すぐにMPが切れるので、瞑想と《来い》を繰り返した。
Lv1 見習い魔法使い
レイナ・ハナガキ ヒューマン
HP/MP 10/15
スキル 瞑想Lv2 魔術運用Lv0.2 特殊魔法Lv3
このような感じで、チート要素薄めで、淡々と進んでいきます。
怜奈の帰れない、あるいは死んでしまうかもしれない葛藤は特にありません。
また、身近な人が死ぬ予定もありません。