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花の都パルマ

 

(一年目 七月三十一日)


 今日、玲奈はフルーと二人で、ワープポイントを増やすために、少し遠い町までやって来ていた。

 花の都パルマ。

 皇都から南へ馬車で一昼夜ほどの距離にある町で、近くには大きめの地下迷宮も存在する。


 フルーと二人で、皇都や魔法学園から歩いて行ける距離のワープポイントを、歩いて行って触ったりもしてみたのだが、どうも手間も時間もかかりすぎる。

 ワープポイントに触れること自体を目的にしているから、その道中のモンスター退治が面倒に思えてしまう。だがモンスターを無視して歩くことは出来るが、それでは本当に、ワープポイントに触れる以外のメリットが存在しないことになる。

 面倒になって、馬車を利用することにした。

 四人ではなく二人で行くのならば、馬車代も半分で済む。


 その間に低レベルの新入りたちは、スキル上げや、魔法学園の迷宮で無理のないレベルアップに励んでいる。

 彼らのレベルも7にまで上がったから、玲奈たちのサポートなく二人で迷宮に潜っても、さほど危険でもなくなっている。


 今はギリムとスドンは、皇都でスキル上げに励んでいるはずだ。

 昨日から二人は皇都で一泊している。

 スドンは大聖堂で長い時間を過ごして、神聖魔法のスキル上げをしているはずだ。ギリムはそれに付き合ったり、冒険者協会に設置されている修練場を借りたり、町を見て回って情報を集めたりする予定だ。


 特に心配する理由などないのだが、玲奈はパーティーメンバーを長時間単独行動させるのがなんとなく嫌なので、ギリムは特にすることもないのに一日スドンに付き合うことになった。

 もし何かあっても、二人居ればなんとかなるかもしれない、し、ならないかもしれない。

 玲奈だって、単独で長時間ウロウロしようとはしない。

 常に誰かが身近にいる生活と言うのは鬱陶しい気もするが、玲奈は結構平気だ。




 とにかく玲奈とフルーは、今日の昼頃には花の都パルマに到着して、今はパルマの冒険者協会でクエストをチェックしている。


 皇都の冒険者協会でクエストを見ていた時から分かってはいたのだが、ハチの巣退治のクエストが、このパルマ周辺の地域には非常に多いのだった。



 花の都パルマは、皇都や魔法学園ほど大きな都市ではないが、この地の冒険者協会はとても大きい。

 この地のすぐ近くには、比較的大きな迷宮が存在する。

 水と土の属性を帯びた、地下迷宮だ。


 これが独特の性質を持った迷宮で、中に入ればうっそうとした湿地が広がっている、花と水と、虫系モンスターに溢れた迷宮だ。

 玲奈は正直なところ、よほどの必要性がなければ、この迷宮に潜るつもりは全くない。


 だが、この迷宮の影響なのか、パルマ周辺には広大な花畑が広がっている地域がいくつもあり、虫系モンスターも多く出没する。

 貴重な薬の材料となる植物やモンスターも、たくさん存在している。


 そして、ここは花の都パルマ。

 迷宮で採取する植物系のアイテムを利用した、香水と薬品で栄える町だ。

 この町の人々は、冒険者が迷宮を探索して手に入れたアイテムから、様々な製品を作っている。

 魔法使いでも聖職者でもない、特にとりえのない冒険者が金儲けをして一旗揚げようとするのに、パルマは最も適した土地の一つだ。

 この地の冒険者協会は、低レベルの貧しいけれど奴隷ではない、冒険心と野心に満ちた物理職冒険者で活気に満ちている。


 勿論、だからと言って簡単に一旗揚げられる訳ではない。

 日々の冒険の消耗品で、ひぃひぃ言っている冒険者たちも大勢居る。

 それでもパルマは、魔法学園や皇都よりは物理職冒険者が堂々としている。様々な地域出身の冒険者が、一旗揚げようと集っている雑多な雰囲気がそこにはあった。

 そこに混ざれば、銅の棍棒に皮鎧の玲奈も、物理職冒険者のように見えることだろう。



 クエストの冊子を片手に、玲奈は協会を興味深く見回していた。

 その、彼らが目に入った瞬間、玲奈は息が止まるかと思った。


「……マスター?」


 フルーに声をかけられたことにも気付かず、玲奈は無意識のうちにふらふらとそちらの方に歩み寄っていた。


「あの、初めまして。私、花垣玲奈といいます」


「マスター!」


 ぎょっとした様子で、フルーは玲奈の肩をゆすった。


 そこに居たのは、侍だったので。


(日本人、だ)


 擦り切れた色合いの、青い着流しの着物を着て、その上から皮の手甲と皮製のネックガードを着けている。

 何かを防具として腹に挟んでいるのか、分厚い布の帯をがっちりと巻いて、刀を腰に差している。


「私、日本人です。

 日本の、東京の学生をしていました」


 玲奈は焦ったように言い募った。

 侍はぎょっとした顔で、玲奈を見つめ返した。


「そりゃ、どうも、ご丁寧に……」


 玲奈は彼をじっと見つめてから、がっくりと肩を落として大きく息を吐いた。


(ち、違うじゃん。

 っていうか、そうだとしても、私、どうしたかったんだろう)


「突然、申し訳ありませんでした。

 ……急に。フルー、ごめん、急に。びっくりしたでしょう。

 申し訳ありません、あなたの装備で、同郷の人間かと思ったもので。私は、非常に遠い地域の出身で。その、同郷の人間なら挨拶をしたいと思ったんですが。

 その、故郷をお伺いしても?」


 玲奈は別に、元の世界に帰りたいだとか、郷愁だとかを感じてはいない。

 元の世界の食べ物や快適な暮らし、例えばクーラーだったりお風呂だったりを懐かしく思うことはあるけれど、グリンドワールドの世界での生活を十分に楽しんでいる。

 どうせ、元の世界では玲奈は天涯孤独の身の上だ。それよりはこちらの世界の方が、彼女と関わる仲間たちが居る分、関わりが強いと言っても過言ではないだろう。


 日本人と会いたい、などと思っていたわけではない。

 グリンドワールドに来てすぐの頃は、もしかすれば玲奈と同じようにしてこの世界にやって来た、元の世界の人物が存在するかもしれないと考えたことはあった。

 しかしその時も、彼らに出会ったとしても、彼らに玲奈のことを明かそうと決めていたわけではなかった。むしろ相手がおかしな人物だった場合、関わりを避けようとさえ考えていたのに。


 こんな風に思わず話しかけてしまったのは、びっくりしたからだ。

 大都市ならばともかくこんな町で出会うとは思っていなかったし、それに何よりも、衣装が。

 侍だなんて、このファンタジーの世界に思いっきり侍だなんて、予想外過ぎてびっくりした。

 そういえば、グリンドワールドの世界にも、侍や忍者は存在した。

 玲奈はギリムを、ニンジャ系のジョブにするかシーフ系のジョブにするかで悩んでいるのだ。


「あー、俺はトドロキ。酒の里ヤポンの出身だ」


「ヤポン!

 あの、それって、この大陸にあるんですよね。どの辺にあるか、教えて頂けますか?」


 ヤポンと言う名に、勢い込んで玲奈が尋ねたところ、トドロキの元に仲間たちがやって来た。


「おおい、トドロキ。

 5000Gにしかならなかったよ。黒字が1000G切っちゃうよ、これじゃあ、あたしのクナイの研ぎ代も払えないよ」


「おう。俺の鎧もそろそろ代え時になって来とるんじゃが」


 あまり皮鎧も着けていない、かなり軽い装備の女が一人。和風の鎧兜に身を包んだ、大柄な男が一人やって来た。

 全員和風の衣装を着ている。


「ああん。やっぱりパルマの迷宮は難し過ぎるよ。あっという間に赤字じゃないかい。

 毒にかかるかどうかなんか運だし、必要な解毒ポーション代の予定が立てられないよ」


 女は嘆くように、トドロキを小突いた。

 彼女は、和服のヒラヒラする部分を縛って、動きやすさを重視した装備のようだ。赤茶色の袴の裾は、脚絆の中に入れこんでしまって、丸く膨らんでいる。

 トドロキもそうだが、衣装がかなりあっさりしているので、このエリアでは珍しい敏捷を重視したスキル構成の冒険者なのだろう。


 クナイと言っているし、もしかしたら彼女は、忍者を目指しているのかもしれない。

 まだレベルが低そうなので、侍や忍者のような上位ジョブにはつけないだろうが、ヤポンにはそういったジョブに付くための条件が伝わっているかもしれない。


「んなこと言ったって、おまえだってパルマで賛成してたじゃねえか。ここの迷宮のドロップアイテム、高く売れるんだからよ」


「してないよ! あんたは計画性がないんだから。

 もう、あんたも、毒にかかり過ぎ!」


 彼女は、隣の大男を、力強く突いた。


「んなこと言ってもなあ。俺は盾職じゃし」


「このままじゃ解毒ポーション代で、防毒アクセサリー3個買えちゃうよ!

 パルマからなら皇都も近いし、安いアクセサリーあるかもよぉ」


「でも、今買えるだけの金はねえだろ」


 玲奈の目の前で、3人の冒険者たちはもめ始める。

 とはいっても、さほど深刻なもめ方でもなく、精神的に一番立場が強いらしい女性冒険者が男たちを小突き回しているばかりだ。

 全員が和服姿なことから、多分元からの知り合いが結成した、全員同郷のパーティーなのだろう。

 古い友人同士なのかもしれない。



 玲奈はまだ話したかったけれど、彼らの間に割り込むほどの勢いもなく、そこから立ち去った。

 近いうちにこの周辺でのハチの巣退治クエストを受けるかもしれないし、また彼らと会うこともあるだろう。

 ヤポンのことは知りたかったが、知っていて当然のことを知らなくて、変に感づかれても困る。ヤポンのことは魔法学園で誰かに尋ねればいいだろう。



 彼らが大騒ぎでもめていることは、このパルマを拠点にしている冒険者たちのほとんどが悩んでいる内容だ。

 似たような会話は、あちこちで愚痴のように交わされている。


 パルマの迷宮で採れるドロップアイテムは、それでこの町の産業が成り立っていることから、職人たちの間で十分に需要がある。

 十分に需要があることから、仲買人に買い叩かれることも少なく、この地のドロップアイテムは割と高く売れるし、アイテム系のクエストも良い値段だ。


 しかしドロップアイテムが金銭的に美味しい代わりに、この地での冒険は出費も大きい。

 モンスターの攻撃が、状態異常を帯びていることが多いのだ。

 特に、植物も虫も、毒攻撃をするモンスターが非常に多い。


 解毒ポーションは、他の状態異常を解消するポーションと比べれば安いが、それでも500Gで1回使い切りだ。

 一日迷宮に潜って、パーティー全体で10回毒攻撃にかかれば、それだけで5000Gが飛ぶことになる。

 HPのように時間が経つのを待って回復するわけにもいかない。


 ちなみに神聖魔法ならば、スキルレベル10から解毒が使えるので、玲奈たちのパーティーにその問題は存在しないけれど。


 ポーションと神聖魔法以外にこの問題を解決するには、毒耐性を持つアクセサリーしかない。

 状態異常を防げるアクセサリーと言ってもピンキリで、安いアクセサリーならば身につけていても頻繁に状態異常になったりもする。


(ギリムじゃ、毒耐性のアクセサリーは、まだ作れないよね。

 多分、この世界だったら、知らないアクセサリーを作るにはレシピとか教えてもらうとか、発明するとかしなきゃだめだろうし)


 ゲームのようにスキルレベルが上がれば、自動で作れるようになる訳ではない。


 皇都には、安い石化耐性の指輪や麻痺耐性のネックレスなんかも売っていたが、これが効くのかどうかかなり怪しいところだった。

 しかし問題は、高価なアクセサリーだからといって、効果があるとは限らないところにある。

 ちなみに魔法学園には、かなり高いが信頼できる効果のアクセサリーが多い。変な装備を並べていると、学園の教授なんかが監査に来て、場合によってはあの町から追い出されることになるからだ。

 そのかわり、種類はあんまり多くなかった。


 毒耐性のアクセサリーは、高価だ。

 高価だが、信頼性も高い。


 毒は、他の状態異常と比べて、かかる確率がかなり大きい。普通の人々の暮らす集落のすぐそばのフィールドにも、毒属性を持つモンスターは暮らしている。

 毒耐性のアクセサリーは、需要が大きいのだ。

 多くの人が必要として、実際に買うので、毒耐性のアクセサリーは信用できるけれど高価だ。


 アクセサリーを買うかどうか、なかなか悩む所だろう。

 玲奈は、そんなに切迫して必要としても居ないので、いつかギリムが作れるようになれば身に着ければいい、という程度の気持ちだ。





 パルマのワープポイントに触れて、玲奈とフルーは昼過ぎに皇都へワープで飛んだ。

 スドンたちに出会えないか、彼らがスキル上げに励んでいるならば、皇都をぶらぶらしてもいいし、もう疲れているようならば二人を回収して学園に戻ればいい。

 そう思って玲奈たちは、ひとまず皇都の冒険者協会に顔を出した。


 協会では、ギリムとスドンがだらだらした様子で玲奈たちを待ち構えていた。



「あれ、二人とも、スキル上げは?」


「いや、俺は、さぼりですけど」


「僕、大聖堂、面倒」


「貴様ら、スキル上げもせずに、遊んでいたのか!」


 フルーは彼らを叱りつけた。

 玲奈は困惑した。

 別に、少々遊んでいるのは構わない、ずっと修行では疲れてしまうだろう。

 けれど、わざわざサボっていることを、玲奈たちに報告しなくてもいいではないか。ストライキを通して、主人である玲奈に何か訴えたいことでもあったのだろうか。


 その割には、ギリムは困った様子で頭を掻いている。


「や。ここの修練場でスキル上げしても良かったんすけど。聖堂での俺たちのことを見てた冒険者が居るみたいで」


「えっ! 何か怪しまれたの? スキル上げのこととか、ばれた?」


 玲奈は声を潜めた。


「や、そっちじゃなくて。

 知らねえ聖職者に、声かけられたんですよ、俺たちが玲奈さんの奴隷だろうって。何回か大神殿に行った時に見て覚えてたらしくて。

 なんか、俺たちのパーティーに入れて欲しいって。見習い聖職者の、テーマスだっけ」


「賄賂、食い物」


「え、何かもらっちゃった?」


「いや、食べる前に逃げて来ました。ガキの見習い聖職者なんか大したもん食わしてくれるわけでもねえだろうし、大した権力もないから逃げても大丈夫だろうと思って」


(聖職者に声をかけられる心当たりなんか……あれか。

 テーマス、テーマス? まあ、そんな名前だっけ?)


「マスター、確かに、妙に注目されているようだ。一度、魔法学園に戻ろう」


 フルーが、周囲を見回しながらそう告げた。玲奈は了承して、ワープで魔法学園に戻ることにした。


 帰る道中、玲奈は小声で、以前大神殿の中で見習い聖職者に声をかけられたことを話す。

 彼は大神殿の依願所の、受付のような仕事をしていた。玲奈が魔法学園の生徒であり、特殊魔法や神聖魔法のスキルを持っていることも知っている。

 まだレベルも1かそこらのようで、神聖魔法のスキルも低く、どこかのパーティーに入ってレベルアップがしたいのだと言っていた。


(私の仲間だからって、スドンたちに声をかけるような行動力があるんなら、片っ端から色んなパーティーに声をかけてみればいいのに。

 レベルのひとつふたつ、迷宮に潜れば簡単に上がるわよ。まだ、かなりレベル低いみたいだし。

 いくら低レベルだって、見習い聖職者を必要としてるパーティーは、皇都にも他の町にも溢れてるのに。例えば、パルマにだって)


 あの若い聖職者が、どうして玲奈にこんなにこだわっているのか分からない。玲奈がどんな人間なのかもまったく知らないだろうに。


 玲奈は魔法学園の長屋の自室に戻ると、周囲のことを気にする必要もなく、以前から少し気になっていたことを仲間たちに尋ねた。

 つまり、玲奈が他人から見てどれくらい非常識に見えるかについて。



「レベル1の聖職者をレベルアップさせてあげて、恩を売って。それって、どれくらいメリットがあるかな。どんな、問題があるかな。

 その、テーマスをこのパーティーに受け入れたとして……テーマスでなくても、奴隷以外のメンバーをパーティーに入れたとして、私ってどんな風に思われるかな。

 私って、その、ちょっと普通じゃないってことは気付いてる?」


 玲奈は言って、仲間たちを見回した。

 フルーは生真面目に玲奈を見つめ返して、ギリムは少し呆れた様子で、スドンはいつものように興味の無さそうな顔をしていた。


「僕、別に。玲奈さんがすごく賢いのは分かる。でも、それだけ。他の賢い人と比べて、どうかは、分からない」


「私は。マスターが何か、何か運命か神か何かに、選ばれた人物であろうと考えている。

 私たちとは違う、はるか遠いものを見つめて、物を考えていらっしゃることは気付いている。

 だがそれが何かは、私にも」


 真剣な瞳でフルーがそんな大げさなことを言ったので、玲奈はぎょっとする。


(え?

 買いかぶられ過ぎてる気がするんだけど。私なんかちょっと、本当は持ってちゃいけない知識を持ってるだけで。しかももうちょっとレベルが上がると、こっから先は未知の世界なんだけど)


「あー、あのさあ。

 俺も、玲奈さんが何なのか分かる訳じゃねえけど。予想だから外れてんのかもしれねえっすけど。

 俺は、玲奈さんは、どこか滅んだ国の王族とかじゃないかと、思ってます。単に、没落した貴族だとすると、こう、違い過ぎてる。いや、俺は貴族の知り合いなんか居ないんですけど。でもフルーって、諸島では騎士階級出身みたいなもんだろ。

 貴族で、これくらいです。俺との差は、これくらい」


(王族って、すごいの来たわね)


「いや、ギリム。私は5年程冒険者としてやって来て、奴隷に落ちぶれたような人間だからな。自分で言うのは何だが、貴族と言うにはいささかすれている方だ」


「何言ってやがる夢見がち野郎。奴隷のくせに、騎士みたいに振る舞いやがって。まあ、割としっかりしてるのも分かる。

 でも、玲奈さんは、貴族出身のフルーよりも、違う。

 すごい大胆な金の使い方をするし、すごく色んなことを知ってるのも分かります。でも、世間知らずな部分もある。奴隷に対する扱いも、すげえ優しいから、むしろ奴隷と関わったことがねえくらい身分の高い人なのかと思って。

 もう王族とか、後、どっかの秘境で暮らしてた賢者一族の娘とかしか思い浮かばねえっす。なんでこんなところで冒険者してるのかは分からないですけど」


 ギリムの意見は、まあ理解しやすい。

 フルーのように現実離れした意見でもないし、王族と言う意見にはびっくりしたけれど、そう考えた理由を聞いて見れば、さほど的外れと言うわけではない。


「ううん。後半の方がむしろ合ってるかも。秘境で暮らしてた賢者一族」


 玲奈は、彼らには信じきれないかもしれないし、理解できないかもしれないが、軽く真実を伝えておく。

 真実を、事細かに説明する必要はない。

 この世界が、玲奈の世界から見ればゲームの世界だ、なんてこととか。


「秘境じゃないんだけど、ものすごく遠くに住んでいたの。私が色んなことを知ってるのは、まあ、学者見習いみたいなものだったから?」


 この世界の人間から見れば、大学レベルの高等教育を受けるような人間は、将来大臣か学者になるような存在だ。大学生なんて、学者見習いみたいなもので良いだろう。


「ええっと。家族がみんな死んでしまって、もう高齢だったんだけど。

 ある人に、誰も知っている人が居ないような遠い国で、一からやってみないかって言われて。ちょっと自棄になってたから、飛びついちゃったのね。

 あんまりよく知らない人なんだけど。どうやって故郷からここに連れて来てもらったのか、どうすれば故郷に帰れるのかは、私もよく分かってないの。別に帰る気はないからいいんだけど、でもすごく遠くから来たわ。

 故郷は常識も全然違うし、奴隷も居なかったし。

 まあ、詳しいことはまた、おいおい話すわね」


 フルーは、やはりマスターは選ばれたお方だ、とか何とか言って、ギリムは胡散臭そうな顔をして、スドンはいつものように興味の無さそうな顔をしていた。


「ええっと、で。

 こういうことが、この国の偉い人とかにばれると、何か問題あるかな。

 どこかから来たことだけじゃなくて、なんか私が、いろんなことを知ってることだとか」


「偉い人がどう考えるかは、俺にはよく分かんねえけど。でも玲奈さんは魔法使いだから、玲奈さんに何か言える相手なんか、そう居ませんよ」


「そうだな。例えば、よほどの高レベルの冒険者でもなければ。だがその心配も、マスター自身が高レベルになれば、必要がなくなる」


「まあ、後は、聖職者ですか。でも、魔法使いの方が偉いですけどね」


 意外なことに彼らは、脅威として個人的な存在をあげている。

 例えば日本で、何か知っていてはいけないことを個人が知ったとして、何が脅威に上げられるかと言えば、まずは国家だろう。

 それから、大企業、研究施設、暴力団組織。日本には、宗教組織の権力は恐れるようなものではない。


 玲奈はこのグリンドワールドの世界で敵に回したくないものとして、まずは大神殿が思い浮かぶ。

 なんか、異端認定なんかされては困る。あるいは、冒険者協会も大きな組織の気がする。


 しかし、彼らは脅威として個人的な存在を上げる。

 この世界には、あまり権力が力としてまとまりきっていないのかもしれない。突出した権力組織が存在しないのかもしれない。

 もしかすると、高レベルの人間の存在は、低レベルの人間の集団など簡単に踏み潰してしまえるくらいに、突出した存在なのかもしれない。

 フルーたちがそこまで深く考えていないだけのことかもしれないが。


「ふうん。そんなもの?

 そんな感じだったら、ちょっと鍛えてあげても問題ないかも。ほんのちょっとでいいから、大神殿にツテが欲しいんだよね、取っ掛かりで良いから。

 いつ、離れていくかも分からないような人を、本気で鍛えるつもりはないけど。レベル5くらい上げたら、十分かもね。

 徒歩でワープポイントまで行く時に、ついでに連れ歩けばそのうち上がるでしょう」


 スドンは、くいっと首を傾げた。


「玲奈さん。聖堂で祈れば、スキル10になる、教えれば」


 そう言えばテーマス氏は、大神殿内部では効率の良いスキル上げの方法が伝わっている、というようなことを言っていた。

 親が聖職者の子供ならば、みんな知っていると。

 玲奈が知っているスキルアップの方法と同じなのではないだろうか。


「それって、なんでそんなこと私が知ってるのかって、話にならない?」


「祈ってる時、気付いた、言えばいい」


「玲奈さんがパーティーにそいつを入れるよりは、誤魔化しやすいんじゃないですか。レベル5までって言っても、パーティーに入って一緒に冒険すれば、絶対玲奈さんが変だってことは気付きますよ」


「でも、たかがそれを教えただけで、どれくらい恩が売れるかな」


「神聖魔法がスキルレベル10に上がるまで、どれくらい時間がかかるのだ」


 フルーが尋ねた。

 スドンが答える。


「ずっと、ずっと、やってて一週間。遅くて一カ月」


「! それでは、間違いなく、一生の恩に感じるでしょう」


 フルーは断言したが、ギリムはそれを止めた。


「どうかな、相手は聖職者だぜ、エリート様だ。しかもフルーみたいに、挫折したことがある訳じゃねえ、薄情なもんだぜ。

 教えてもらってラッキー、くらいで終わりかもしれませんよ。スキル10くらいなら、どんなスキルも結構上がるし。

 でも、スキルレベルを20まで上げてくれたら、それは偶然じゃない。それは、すごいことですよ」


「すごいこと?」


「マスター、普通、普通は誰も、マスターが行っているような、スキル上げというようなことをわざわざしたりはしない。

 生産スキルを使って腕を磨いたり、剣のような武器の修練に励むことはあるが、その時についでにスキルレベルが上がっていれば幸運だと思うだけだ。

 何をしていても、スキルレベル10くらいまでは簡単に上がるが、それ以降は修行したところで上がるとは限らない。上がったとしても、なぜスキルが上がるのかは把握できないものだ。生産スキルはもう少し分かりやすく、スキルが上がるにつれて作れるものも増えていくが、そういったことはよほど優秀な師について学ばなければ知ることができない。

 ましてや主要なスキルではない活性や観察スキルを、スキル上げを目的として使い続けることなど、私たちは考えたこともなかった」


 フルーが口を挟んで、説明した。


「玲奈さん。一カ月でスキルレベルが10になったら、すっげえ嬉しいですよ。

 でも、5年かかっても、スキルレベルを20に上げてくれる人が居たら、俺はその相手のことを、怖いと思う。

 で、30にまで上げてくれたら、神様かなんかだと思います。

 フルーが、玲奈さんに感じてるのは、そういうことだよな」


 玲奈は目を見開いて、仲間たちを見た。

 なんだかえらく、大げさな話になっているけれど。


「一年で、神聖魔法をスキルレベル20までなら、アドバイスだけで上げられると思うんだけど。

 どうしよっかなあ」








 Lv13 見習い魔法使い

 レイナ・ハナガキ ヒューマン 

 HP/MP 82/123

 スキル 杖Lv21 瞑想Lv19 魔術運用Lv13 付与魔法Lv17 神聖魔法Lv12 四元魔法Lv18 特殊魔法Lv31 暗黒魔法Lv15 料理Lv44


 Lv13 見習い戦士

 フルーバドラシュ ドラゴニュート

 HP/MP 195/39

 スキル 剣Lv26 盾Lv19 重装備Lv13 活性Lv21 戦闘技術Lv13 挑発Lv18 調合Lv31


 Lv7 見習い戦士

 ギリム ヒューマン

 HP/MP 59/14

 スキル 短剣Lv9 投擲Lv3 命中Lv5 活性Lv7 踏舞Lv11 跳躍Lv7 観察Lv8 索敵Lv9 装飾細工Lv2


 Lv7 見習い戦士

 スドン ハーフフェアリー(アース)

 HP/MP 126/33

 スキル ハンマーLv9 盾Lv8 重装備Lv5 活性Lv8 戦闘技術Lv4 挑発Lv7 魔術運用Lv2 神聖魔法Lv8 鍛治Lv10





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