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ハチの巣(2)

「ギリム、一匹ずつ狙おうとするな。群れごと、斬れ」


フルーは挑発を使い、自分の盾の前方にハチを集めると、盾を下ろすと同時に剣を振り下ろしてハチの群れを斬って見せた。


ギリムはフルーにそう告げられて、どう行動すればいいのか分からずにただ突っ立っている。フルーはそんなギリムに、自分とスドンの間に来るように示した。


「スドンの背後に立って、横から剣を突き出すんだ。

少し貸してみろ」


フルーはギリムの手から短剣を奪うと、スドンの背後から短剣を突き出して、実演して見せた。

その瞬間も、3人の周りにはハチが飛び交っている。


フルーのやりたいことは、玲奈にも分かる。本来ならば、さっさとフルーがハチを殲滅して回ればこの任務は完了する。しかし、玲奈たちが目的としているところは、そんなことではない。

目的は、レベルアップ、特に低レベルの二人のレベルアップだ。

大量のモンスターと戦うことは非常に危険だが、同時に経験値のメリットは否めない。大量でも問題ない程度に、モンスターが弱いのならば、なおさらその数が重要だ。


モンスターの経験値は、死の直前にモンスターと深く関わっていた者に多く分配される。それはモンスターのHPを削ることであり、モンスターからの攻撃を受けることであり、モンスターの注意を引くことだ。

玲奈のような補助魔法を使うのであれば、ワンクッションおいて仲間に分配された経験値をもう一度分けられることになる。玲奈に分けた分だけ、元の冒険者が入手する経験値は減少する。


モンスターから攻撃を受けていなくても、モンスターの注意を引いていれば経験値は入ってくる。でなければ、回避タイプの盾役は経験値を入手できなくなってしまう。

しかし、ギリムは回避タイプだが、モンスターの注意を引いてもいない。


スドンは、ハチに刺されて少しずつHPを減らしている。彼がハチを倒さなくても、スドンを攻撃したハチをフルーが倒せば、その分の経験値はスドンに入ってくる。

スドンはあのままじっと耐えていれば、いずれは経験値を入手することができる。


でも、ギリムは違う。

回避タイプの物理職が、重装備でがっちり防御力を上げるタイプの物理職に負けないくらい経験値を手に入れるには、攻撃を避けながらもモンスターの注意を引くか、しっかり攻撃してモンスターのHPを削るかしなければならない。


ギリムは、今あるスキルを成長させれば、モンスターの急所を狙って一撃で大打撃を与えるような戦士になれるかもしれない。

しかし、それはまだまだ先の話。

そういった少し変わったタイプの冒険者は、スタンダードな物理職よりも育てるのに苦労するだろう。少なくとも、ゲームの中ではそうだった。

今はギリムは、使い物になる冒険者に育つまで、耐えてレベルとスキルを上げていくしかないのだ。


そしてそのためには今、ギリムは攻撃しなければならない。

彼自身が、動き出さなければ、何も手に入れられないのだ。




「《活性(アクティヴィティ)》。ハァッ!」


フルーが、自分の体の前方に、さして狙いもつけずに剣を振り下ろした。

ブチチチチッ。


ぞくぞくっ。

玲奈の背筋に震えが走る。大量の経験値が一瞬で彼女の体に流れ込んだ。まだレベル12の玲奈にはやや多すぎるこれらの経験値が、彼女の体をレベルアップに向けて作りかえているのを知覚することができる。


彼女はMPポーションをあおった。ついでに、HPポーションも2本ほど空にする。


「スドン、49。ギリム、27」


彼女の近くのハチも、どんどん数を増やしていた。玲奈たちと関係ない村人たちがハチの被害にあっているかもしれないとは思うが、ハチの巣退治をする時は毎回危険だから、それくらいは仕方がないと思っているらしい。毎回ハチの巣退治に魔法使いがやって来て、魔法を一発でスムーズに倒してくれる訳ではないのだ。


樽の中で激しく飛び回っているハチたちが、玲奈の送り込む魔力に溺れて次々溺死していく。

ハチの巣ごしにハチを倒しても、経験値は入手できない。ハチの巣が障害物となり、倒す前のモンスターと深く関わったことにはならないのかもしれない。



「《挑発(タウント)》。《活性(アクティヴィティ)》。

フルー、僕も、行く」


ハチに集られて、長い間身動きが取れなかったスドンが、やっと慣れてきたのかもぞりと動いて言葉を発した。

スドンは故郷に居たころの経験からハチを非常に恐れていたようだが、今の彼と昔の彼は違う。故郷に居たころスドンのレベルがいくつだったのかは知らないが、今の彼は低レベルとはいえHPと防御力は玲奈にも負けないほどだ。

盾や重装備などの体力を上げるスキルを付けて、金属鎧を身にまとっている。ハチに攻撃されても、あまり痛くないことに彼はやっと気付いた。


「分かった。ギリム、少し離れろ。

スドン、盾は下げるなよ。そのまま、ハンマーを横から振れ」


スドンは小さく頷いた。


「ん。

やっ!」


スドンはゴーレムの時のように、モンスターの攻撃にタイミングを合わせる必要はない。もともとハチに集られているのだから、狙いを付ける必要もない。

不恰好に体をひねりながらも、スドンはハンマーを力強く振るった。


一撃で、数匹のモンスターが絶命する。

フルーの時ほど多くはないが、玲奈にもきちんと経験値は流れて来た。




玲奈は戦闘中であるにも関わらず、思わずふっと笑ってしまった。

誤魔化すように、樽を見下ろす。


(い、今の、ギリムの顔……)


小さく肩を震わせながら、仲間に見られないように顔を背けて、樽の中に最後の仕上げの魔力を注ぎ入れた。

今回は一度目と違って、付与魔法が切れるまで1分くらい余裕がある。


そっとそっと溢れないように注ぎ入れて、丁寧な樽の蓋を閉じた。


杖を構えて、玲奈は立ち上がった。


「スドン、それでいい。手を止めずにハンマーを振り続けろ」


フルーは今度はスドンに見本を見せるように、盾を構えたまま剣を横向きに振るって、ハチを斬った。

スドンよりも、ずっと軽々と盾を扱っている。


「周囲をよく見て、ハンマーは降りが大きいのだから、味方にぶつけないようにするんだ」


フルーがスドンに指導するのを、ギリムがびっくりした顔で見ている。

それは、愕然とした顔。

驚いたような、裏切られたというような顔。


スドンとフルー、どちらに対してそんな顔を向けているのか知らないけれど。


(何に、びっくりしてるのよ)


ハチミツ作りが一段落して、杖を握ると玲奈の気持ちにも余裕が出てきたのか、ギリムのショックを受けた顔が妙におかしい。

玲奈は笑いをこらえながら、仲間たちに向けて杖を振った。


「《《瞑想(メディテーション)》。

フルー、《《防御上昇(ディフェンスアップ)》。

スドン、42。ギリム、21。ギリム、あんたも行きなさい。危なくなったら、回復はかけてあげるから」


ギリムははっと、玲奈を見た。



ギリムとスドンは、全く違う種類の戦士だ。ステータスで言うのならば、スドンは腕力と体力重視で、ギリムは敏捷性と器用さ重視。

だが、この世界において一般的に冒険者にとって必要とされるのは、圧倒的に体力腕力だ。

ギリムの器用さが戦闘中に活用される機会は、今のところあまりない。装飾細工のスキルも、まだ別に役に立っていない。


ギリムは、馬鹿ではない。空気を読まないタイプでもない。スドンよりもギリムのステータスが劣っていることには初めから気付いていて、焦っている面はあるだろうし、同時に二人が必要とされる場面が異なっていることも知っているはずだ。


ギリムが焦っていながらも、ある種冷静に構えていられたのは、スドンがそこまで優秀ではなかったためでもある。

ステータスというよりも、経験のなさとスドン生来の不器用さから、スドンはあまり攻撃に参加できていなかった。優れた腕力を活用できていなかったし、盾役として必要と言われるほど、玲奈たちは危険な狩り場に二人を連れて行ったことはない。

いつもの戦闘では、スドンが盾、ギリムが攻撃と、役割が自然とわかれることになっていた。


でもスドンが攻撃にも参加できるようになれば。

ギリムは一人、置いていかれてしまうことになる。


(うーん。ライバル視させといた方が、成長っていう面ではいいのかな。それとも焦ったら、無理しちゃうかもしれないから、良くないかな。

慎重なところが、ギリムの良いところな気もするんだけどなあ)


このレベルの戦闘ならば、玲奈たちがフォローできるから、少々無理してくれてもいいのだが。


「ギリム、《《防御上昇(ディフェンスアップ)》。《攻撃上昇(アタックアップ)》。《小治癒(スモールヒール)》」


付与魔法とともに、回復もかけてやると、ギリムは急かされていると思ったのかむっとした顔をした。

それから、ため息を吐いて玲奈に頷いて見せ、覚悟を決めた。


ポーチから、もう一本短剣を取り出して、両手に短剣を握った。構えているというよりも、無造作に握りしめている。


「フルー! スドン!

俺も行くから、てめえら、勝手に避けろよ!」


ギリムは、スドンの盾の前方に躍り出た。

両手に持った2本の短剣を、がむしゃらに大きく振り回す。


「やぁっ! やっ、やっ、やぁっ!

ター、ン、ス、テップ、ぅぁぁああっ!」


言ってギリムは、その場でぐるぐる回り始めた。

短剣を握った両手を横に大きく広げて、ステップを踏みながらその場で回り出したのだ。


「ぇえ?」


「ギリム、胸ががら空きだ。両手は横ではなく、前に突き出せ!」


玲奈はぎょっとしたけれど、すかさずフルーは指示を出した。


(つ、突っ込みどころはそこなの? まあ、いいか。

スドンと違って、ちょっと攻撃力が足りてない。これ、あんまり使いたくなかったけど……)


「ギリム、《付与炎(エンチャントファイア)》」


ギリムの腕力はスドンよりも弱い。スドンならば一撃で倒せていたハチだが、ギリムの攻撃を一度受けただけならばまだ飛んでいる。

ギリムの持つ短剣の片方に炎を付与すると、その刃を受けたハチは燃え上がり、しばらく空中で燃えていた後に地面に落ちた。



(どんなゲームでも、回転斬り系の斬撃スキルはよくあるし、有りといえば有りかな。ずっと回転してるような技じゃないと思うけど)


玲奈は、このグリンドワールドのゲームに、そういったスキルがあったかどうかは覚えていない。

だが、スキルレベルが20にならなければ武器のアクティブスキルは手に入らないので、ギリムが今やっているこれは、違う。スキルの補助が入っていない、ギリムの思い付きの攻撃だ。


今は、ギリムが短剣を持ったままバタバタ回っているだけの、見るに耐えない攻撃だが、使い慣れれば複数モンスターに対する、良い攻撃手段になるかもしれない。


玲奈は、周りを飛び交っているハチを、杖を振って追い払い、たまに偶然当たった攻撃で打ち落としながら、ギリムの回転を見ていた。


「スドン、《防御上昇(ディフェンスアップ)》。《攻撃上昇(アタックアップ)》。《小治癒(スモールヒール)

瞑想(メディテーション)》」


だが、激しく動いていたギリムは、段々動きを遅くしていった。

スタミナ切れだ。



「ギリム、こっち来ていいわよ」


目が回ったのか、疲れたのか、ふらふらした動作でギリムはハチの群れから離れる。

そのタイミングに合わせて、フルーが挑発を使い、ハチの注意をギリムからフルーへと切り替えさせた。


「《挑発(タウント)》。

行くぞスドン、次は私たちの攻撃だ。《活性(アクティヴィティ)》」


玲奈は、ふらふらとどこへ向かっているのか怪しいギリムを引っ張って、ハチの群れから引き離す。

ハチの群の一部がギリムにくっついて来てしまったが仕方がない。当たらない杖を振って、少しでも数を減らそうとした。


「スタミナ切れよ、ギリム。ちょっと座ってていいから」


玲奈はインベントリからわざわざ水を取り出して、ギリムに渡してやった。

スタミナ切れは今のところ、ポーションもないし、しばらく休んで自然回復を待つ他に解決策はない。

ギリムは片手に水筒を受け取ったまま、うつぶせに地面に倒れ込んでいた。


ギリムとはまた違うが、玲奈も魔力の使い過ぎで、頭痛がする。

MPポーションを飲んだから数字的には問題ないはずだが、こんなに短時間の間にこれほど大量の魔力を消費したことはこれまでに無かった。

魔法のスキル上げよりも、短時間のうちにだ。


ギリムはのろのろと体を起こすと、荒い息のままでのろのろと水を飲んだ。


「《付与炎(エンチャントファイア)》。《防御上昇(ディフェンスアップ)》。《攻撃上昇(アタックアップ)》。

活性スキルを使えば、スタミナ切れが防げるんじゃないかな。次は攻撃の前に、活性使うようにしなさい」


玲奈は自分の杖に炎を付与して、周囲のハチたちを攻撃した。

玲奈の今の腕力ならば、一撃でハチを倒すことは出来るけれど、杖に炎を付与しておくと、力いっぱい殴らなくても軽くぶつけただけでハチに炎が燃え移って、攻撃することができる。


「……あんな馬鹿みたいな攻撃、またやれって言うんですか」


「ギリムが勝手に始めたんじゃない。

別に、悪くない攻撃だと思うけど。っふ」


ばっと、ギリムが顔を上げた。


「ちょっと玲奈さん、あんた、さっきも笑ってただろ!

こっちだって、必死に考えてあんな。

あ、うぎゅ!」


ギリムは突然悲鳴を上げた。


「馬っ鹿! こんなところで大きく口開けるから」


口の中をハチに刺されるような目に合うのだ。

玲奈は炎のついた杖で、周囲のハチを追い払いながら言った。

ギリムは悲鳴を上げながら、慌てて口からハチを吐き出そうとした。


「あ! ウゲェ! 痛っ、痛い!」


「ギリム、いい加減にしろ! 回復したのならさっさと参加しろ! マスターの邪魔をするんじゃない」


ギリムが騒いでいるのに気付いたフルーが叱りつける。


叱られたギリムは、仕方なさそうに口を閉じて、ハチの体の残りを口の中で噛みしめて、立ち上がった。

流石に、フルーたちが戦っている隣で馬鹿らしい騒ぎを起こして、気まずく思っているのだろう。


自棄になったように、口の中で呟いた。


「《活性(アクティヴィティ)》」


短剣を両手に持って、ぱっと駆け出した。

その後ろ姿に玲奈も魔法をかける。


「ギリム、《付与炎(エンチャントファイア)》。《小治癒(スモールヒール)》。

瞑想(メディテーション)》」








その日の昼ごろには。


「ああ、暑い~。頭痛い~」


玲奈は地面に仰向けに寝転がっていた。


魔力の使い過ぎによる頭痛はMPポーションを飲んだからと言って治ることがなく、神聖魔法の《治療(キュア)》を使ってもあまり効果がない。

しかしまだ、ハチミツの材料は残っている。

材料を持って帰って、後日ハチミツを作るという手もあるが、面倒なのでここで全て作業を終えてしまうつもりだ。まだ、魔力を使わなければならない。



ハチ退治は、もうほとんど片が付いた。

後は残りのハチたちを探し出して、少しずつ倒していくだけの作業だ。

もう大量には居ないので、最初ほどの短期間での経験値効率は望めないが、危険が少なく、いい訓練になる。

玲奈の支援がなくとも、低レベルの二人で十分に戦っていくことができた。


四人は、ハチの死骸やバラバラになった残りのハチの巣を集めて、樽に詰めていく。倒したハチの死骸だけでも、ハチミツの材料になるらしい。

付与炎を付けて倒したハチは焦げてしまっているので、焦げていないハチとは別の樽に分類して放り込んだ。


ハチの体は解体しない。

いちいち解体するのは面倒だし、魔素の欠片などを取り除いた残りのハチの体でミツを作っても、味気ない味になってしまうらしい。

こんな低レベルで小さなモンスターの体に、レアアイテムが含まれている可能性は低いだろう。



「マスター、大丈夫か」


剣を担いだまま、フルーがガチャガチャと玲奈の隣にやって来た。一つの樽が、ハチでいっぱいになってしまったらしく、ひきずって持って来ている。

流石にフルーも暑さが我慢できなくなったのか、大量のハチを大体倒せたところで、鎧の中に着ていた長袖の肌着を脱ぎ、主要な部分ではない金属鎧を外している。


「すまないマスター。あなたにばかり、負担をかけている」


フルーは玲奈の隣にしゃがんで、彼女の顔を覗き込んだ。水筒をそっと差し出す。


(そんなこと、ないと思うけど)


玲奈は水筒を受け取って、水を飲んだ。

戦闘の部分で玲奈は、ほとんど役に立ってはいない。ハチミツを作るのにバタバタして、補助魔法に全然集中できていなかった。付与魔法はかけ続けていたけれど、回復魔法なんかまともにかけられておらず、彼らが自力でポーションを飲んでいただけだ。


今回玲奈が頑張って働いているのは生産スキルの部分で、確かに頑張ってはいたけれど、フルーたちとは頑張りの種類が違い過ぎて比べることはできない。


「そんなことないよ。今回のクエストで、一番お手柄だったのは、フルーでしょう」


玲奈はがばりと体を起こした。


「ハチを恐れずに、ガンガン前に出て戦ってくれたし、ギリムやスドンを守って、戦闘の指示を出してくれてたし」


「いや。

そんなことはない。前衛でありながら今回私は、マスターを少しも守ることができなかった。あんなにたくさんのモンスターを、後ろに行かせてしまった。

今日の私は、前衛として失格だ」


「いや、そんなことないでしょ。今日は隊列を組んで狭い迷宮の中で、とかそういうタイプの戦闘じゃなかったし」


フルーは、本気で反省しているようだった。

だが玲奈は、今日の戦いにおいてのMVPは絶対にフルーだったと思っている。

今日はフルーは頑張ったのだから、褒めなければならないと、思っている。


(褒めるべきだよね?

今日のフルーの活躍、別に悪くなかったよね)


フルーは奴隷で、玲奈は主人だ。

玲奈はフルーがよくできたのならば、褒美を与えなければならない。それは、奴隷のモチベーションを保つためには必要なことだろう。


しかし、玲奈と奴隷たちの距離感は、中途半端なものだ。

そこまではっきり奴隷扱いはしていないが、完全に対等に扱っているわけでもない。

玲奈はいつも奴隷に対する態度で悩んでいる。

本当に偉そうな態度は玲奈には無理だし、しかし奴隷たちを開放して自由にさせてやる気はない。

4人の関係は、奴隷と言うにも、友情と言うにも、仲間と言うにも中途半端だ。


玲奈はどうやって、彼らの努力に報いればいいのだろう。


(物で釣るかな。フルーの好きな料理でも作ってあげるか、良い武器でも買ってあげるか。

褒めるんだったら、下手に出て褒めるか、友達みたいに褒めるか、上から、褒めるか。上から褒めるって、どうやるんだろう?

主君が、騎士を褒めるみたいに、フルーが誇りに思うみたいに)


玲奈は立ち上がって、立ち上がろうとするフルーを制止した。その場にしゃがませたまま、フルーの兜に、そっと手をのばした。


(……なんか違う。肩に手を置くんだっけ)


玲奈は考えながら、フルーの頭を兜越しに撫でた。


「マスター?」


「フルー。

今日は、よくがんばりました。すごく、頼りになったし、強かったし、今日一番活躍したのはフルーです。よくがんばりました」


「だが、私と二人とはレベルが違う」


「だから、レベル差を考慮に入れても、今日のフルーはすごくよくやったの。

何か、ご褒美をあげる。欲しいもの、ある?」


フルーは少し驚いた様子で、まっすぐ玲奈の瞳を見つめ返した。


「何も。何も要らない、マスター。もう私は、もらっている」


フルーはくしゃりと、顔を歪ませて笑った。


「もう、もらっているのだ。ありがとう、マスター。

私は今日、レベルアップしたのだから。ありがとう。ありがとう、マスター」


フルーは剣を地面に置いて、兜を撫でる玲奈の手を、両手で掴んだ。


「レベルアップは、フルーが頑張ったからでしょう」


「いいや、違う。マスターのおかげだ。私一人では、奴隷を手に入れても、ポーションが作れても、剣が振るえても、何にもならない。私では、ダメなんだ。

また、ダメかと思っていたんだ。もうダメかと、もうレベルアップできないのかと思っていた。ここが私の限界なのかと思っていたんだ。

ありがとう、マスター。私には、これが何よりの褒美だ。


これで私は、まだ、強くなれる」


銅のグローブごしに、玲奈の手を、そっと掴んでいる。握っているというよりも、添えているだけだ。

その手は、震えている。


(そっか、フルーは気にしてたんだ。

最近、なかなかレベルが上がらなかったことに。本当は私より、気にしてたんだ)


「うん、まだ、強くなれるよ」


私が、強くしてあげるんだと、玲奈はそっと誓った。







Lv13 見習い魔法使い

レイナ・ハナガキ ヒューマン 

HP/MP 82/123

スキル 杖Lv20 瞑想Lv18 魔術運用Lv13 付与魔法Lv17 神聖魔法Lv11 四元魔法Lv18 特殊魔法Lv30 暗黒魔法Lv13 料理Lv42


Lv13 見習い戦士

フルーバドラシュ ドラゴニュート

HP/MP 195/39

スキル 剣Lv25 盾Lv18 重装備Lv13 活性Lv18 戦闘技術Lv13 挑発Lv17 調合Lv30


Lv7 見習い戦士

ギリム ヒューマン

HP/MP 59/14

スキル 短剣Lv8 投擲Lv3 命中Lv4 活性Lv5 踏舞Lv11 跳躍Lv5 観察Lv4 索敵Lv8 装飾細工Lv1 二刀流Lv1


Lv7 見習い戦士

スドン ハーフフェアリー(アース)

HP/MP 126/33

スキル ハンマーLv8 盾Lv7 重装備Lv4 活性Lv6 戦闘技術Lv3 挑発Lv6 魔術運用Lv2 神聖魔法Lv4 鍛治Lv8




まさか、ギリムが二刀流になるとは、筆者の私でさえも想定していないことでした。

あれ~?

取らせるつもりだったスキルは他にあったのに。

ギリムには、宝箱を開けたりする盗賊系のジョブについてもらう予定だったのに、ここで二刀流を振り回し始めるとは……。

アサシン? ニンジャ?


スキルレベルが低い間は、無料でスキルを取り外すことが可能な設定ですので、まだ後戻りができますが、悩み中です。

もしかすると、次回で二刀流を外しているかもしれません、ギリムの性格的にも。

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