石ゴーレム狩り(2)
(一年目 七月十九日)
「今日の目標は二人がレベル3に上がること」
玲奈は迷宮の3階でそう宣言した。
もともとそんなにゲームが得意だったわけでも、プレイヤースキルが高かったわけでもない。
そんな彼女にとって、冒険をするうえでまず重要なのは、とりあえずレベルを上げることだろう。
支援魔法使いである彼女にとって、一緒に戦う仲間のレベルを上げることは、自分のレベルにも劣らないくらい大切なことだ。
「今日も解体は私たちがするから、二人は頑張ってすばやく敵を倒すこと。
ギリムはヤバいと思ったら、急いでフルーのところまで逃げて行っていいよ。絶対、死なないようにだけ注意。
スドンも、疲れたり回復してほしいと思ったら、遠慮なく言ってね。今日は、右手と左手を別々で動かせるように頑張りましょう。
フルー、何かある?」
「そうだな。
スドンは、絶対にゴーレムの注意をギリムに向けてしまわないように気を付けるんだ。盾役としては、仲間を危険にさらすことが最も避けるべきことだ。
HPに余裕があるのだから、挑発に失敗してしまったら、盾を捨てても攻撃してゴーレムの注意を自分から逸らさないようにしろ」
「分かった。《活性》」
スドンは、装備している銅の手袋がしっくりこないらしく、何度も盾やハンマーを持ち直しながらしっくりはまる位置を探している。
彼は、一度武器を持ったら戦闘が終わるまで、基本的には持ち直したりしない。片手ずつ装備を持っているし、盾で敵の攻撃を受けている間にそんなことをする余裕がないからだ。
(金属製の手袋とか、30分はめただけでも痛いんだけど。皮の手袋でもそうだけど、こんなの装備してて、冬になったら手が荒れそう)
「《瞑想》。
スドン、《防御上昇》。
ギリム、索敵使って」
「《活性》。
分かりました。索敵、索敵、索敵」
ギリムは自己暗示をかけるように、呟きながら索敵スキルを使用した。
玲奈は片っ端から二人に付与魔法をかける。
「スドン、《付与炎》。《攻撃上昇》。」
同じ魔法をかける場合、再使用できるまで待ち時間がある。
パーティーの人数が増えて、大勢の人間にそれぞれ付与魔法をかけるのは面倒になってきた。複数人に対して付与魔法が掛けられるようになるまで、まだまだスキルが足りない。
実は、大勢を対象に魔法をかけられるようになる、範囲魔法というスキルがあるのだが、魔法をかける対象が6人以下ならば、それぞれの魔法のスキルを上げて行けばいずれは複数人に対する魔法を覚えられるようになる。
範囲魔法スキルを覚えれば、消費MPが節約できたり再使用時間が短くなるなどのボーナスが付く。低レベルの時からバンバン範囲魔法が使えるようになる。
攻撃魔法使いの場合は、モンスターが6匹以下とは限らない訳だし、結構重要だ。範囲魔法スキルをとっておけば、基本的にどの魔法も範囲魔法にすることが可能だ。
割りと役に立つので玲奈は少し欲しいのだが、スキル枠を一つ使ってしまうのだ。
いずれ、魔法使いのパーティーメンバーを加入した時に、覚えてもらおうかと考えているが、まだどうなるかは全く分からない。
「ギリム、《付与炎》。《防御上昇》。《攻撃上昇》。《付与遅滞》。
《瞑想》」
ギリムが顔を上げて玲奈を見た。
彼女は、他のメンバーを見回してから頷く。
彼は、パーティーを先導して歩き出した。
ノンアクティブの石ゴーレムしか出ないこの階で、索敵スキルを使う意味なんて全くないのだが、これもスキル上げだ。
彼のスキルレベルでは、まだまともにモンスターの名前を見ることも出来ない。
細い通路の奥に、石ゴーレムが現れた。
スドンはのそのそと歩いて、ごく普通にゴーレムの隣を通過し、ゴーレムを挟んで向こう側に立つ。
モンスターを両側から攻撃したいのだ。
何かあると危険なので、フルーは玲奈の側からあまり離れない。
ギリムは何かあったら怖いので、フルーの側に居たいと思っている。
ということで、スドンがあちら側に一人で行くことになるのだ。
新入りの奴隷であるスドンを、一人離れたところで配置するのが玲奈は少し嫌だ。
石ゴーレムくらい、何とでもなるのだが、2・2で配置したいところなのに、1・3に別れてしまうのだ。
しかし玲奈がスドンの側に控えていたところで特にいざと言う時役に立つわけでもなく、何かあった時近くに居る仲間を守りきれるほどスドンが頼りになるわけでもないので、結局こういう形になる。ギリムは論外だ。
スドンはゴーレムを挟んで向こう側に立つと、こちらを見て軽く頷いてから、ハンマーを振り下ろした。
「んっ」
ガキンッ。
「《挑発》」
石ゴーレムの太い腕を、スドンは受け止める。
スドンは、盾の扱いはまだつたないけれど、防御力が高いだけあって安定感がある。どちらかといえば小柄なのに、ずんぐりした体が相手の攻撃を受けてもこたえていないように見える。
ギリムは、今にも駆け出しそうな姿勢で短剣を構えていた。ギリムの構えている姿勢は、ゴーレムに斬りつけてここまで逃げて来るところまで、全て想定して準備した姿勢なのだ。
「《活性》。行きます。
背後から心臓へ、命中!」
魔法生物であるゴーレムに心臓はない。心がけ、というところだろう。
ゴーレムがもう一度スドンを殴ろうと腕を振り上げた瞬間、彼は走り出した。
スコッ。
スドンはゴーレムの攻撃を盾で受けて、衝撃をころす。
ギリムはゴーレムの背中に短剣を突き刺し、刺さった短剣を両手で掴んで引き抜きながら、バックステップで戻ってきた。
「《挑発》。んっ」
スドンはハンマーを横から打ち付けた。
が、盾がおざなりになっていたせいで横からカウンターで殴られる。
まともに銅の兜ごしに殴られて、少しふらつく。
「いて」
少しよろけるが、なんとかふみとどまって、盾を構え直した。
(こ、怖)
玲奈は身震いした。
(今の、まともに入ったんじゃない。フルーは、あんな失敗したこと……あったわね)
玲奈たちの戦闘だって、なかなかに危なっかしいことはあった。玲奈はともかく、フルーは結構ぼこぼこに殴られたり噛まれたりしている。でも、自分が戦闘に一生懸命だと、危険だと考える余裕もない。
それに比べて、黙って他人の戦闘を見ているのは、とてもはらはらするのだ。
ギリムは、共に闘う仲間を気にする余裕もなく、ゴーレムの腕を振るうタイミングに合わせて、突き刺しては退避してを繰り返している。
玲奈には前回の戦闘よりも、ずっとギリムの攻撃が効いているように見えた。
腕力的な部分でなく、短剣にかけられた付与魔法が効きやすいようだ。命中にはそういう効果もあるのかもしれない。
スコン。
ゆらりと、ギリムの短剣の刃が橙色に輝いて、ゴーレムはわずかに震えた。
「スドン、《防御上昇》。ゴーレムが遅滞にかかったわよ」
「分かった」
スドンはすくっと伸び上がって、上から力強くハンマーを叩き付けた。
「こらっ。どんな時も、盾をおざなりにするのではない!」
フルーが、片手の盾をおざなりにしたスドンを叱る。
玲奈は、自分のせいでスドンが叱られた気がして少し気まずく感じた。
しかし確かにスドンも、先ほどまともに殴られていながら、よく盾を下ろそうとするものだと思う。
その隣でギリムは、相変わらず慎重にタイミングを計って攻撃と退避を繰り返している。
「《活性》。命中、やっ」
スコン。
ギリムは繰り返し、ゴーレムの同じ場所ばかり刺す。短剣を引き抜きながら、その穴を押し広げるように繰り返しモンスターの体を傷付ける。
その場所から、ひびが入って、ゴーレムの体が砕けた。
二人は、ほっとしたように姿勢を崩して、荒く息を吐いた。
「「《活性》」」
「よくやったわ、二人とも。スドン、《小治癒》」
「玲奈様」
ギリムが嬉しそうに、玲奈を振り向いた。
自分でも、昨日よりもはやく倒せた自覚があるのだろう。
「オッケー、オッケー。今の戦闘、命中上手く使えてたでしょう。
スドンも、ギリムは無傷だから、ギリムをよく守ったわね。でも、もうちょっと用心しなさいよ」
「…はい」
ぽつりと返事をしたスドンを、玲奈はしばらく見つめた。もしかして少し落ち込んでいるのかとも思ったのだ。
(いや、気にしてないかな。別に怒ったわけでも、すごい失敗をしたわけでもないもんね)
玲奈は実は、フルーやギリムたちが彼女に訴えるほど、スドンが何を考えているか分からないとは思っていない。
どちらかといえば、竜人で顔の形が少し違うフルーのほうが、表情が読めない。
スドンは表情の変化は小さいかもしれないが、表情を偽っている様子がない。他の二人もスドンと親しくなって慣れれば、彼の表情に気づけるようになるだろう。
「二人とも、痛いところはない? じゃあ、次行こうか。索敵して」
Lv12 見習い魔法使い
レイナ・ハナガキ ヒューマン
HP/MP 76/114
スキル 杖Lv19 瞑想Lv17 魔術運用Lv12 付与魔法Lv15 神聖魔法Lv11 四元魔法Lv17 特殊魔法Lv29 暗黒魔法Lv12 料理Lv39
Lv12 見習い戦士
フルーバドラシュ ドラゴニュート
HP/MP 182/35
スキル 剣Lv25 盾Lv16 重装備Lv10 活性Lv17 戦闘技術Lv12 挑発Lv16 調合Lv28
Lv3 見習い戦士
ギリム ヒューマン
HP/MP 27/6
スキル 短剣Lv5 投擲Lv2 命中Lv3 活性Lv3 踏舞Lv9 跳躍Lv4 観察Lv2 索敵Lv1 装飾細工Lv1
Lv3 見習い戦士
スドン ハーフフェアリー(アース)
HP/MP 56/17
スキル ハンマーLv7 盾Lv5 重装備Lv2 活性Lv3 戦闘技術Lv2 挑発Lv4 魔術運用Lv0.1 神聖魔法Lv0.3 鍛治Lv6
(一年目 七月二十一日)
その日、玲奈たちは馬車に乗って、皇都に出発した。特殊魔法のスキルレベルが30に到達したからだ。
時にはMPポーションも利用しながら、力業でスキル上げをした甲斐があった。
力業のスキル上げが通用するのは、この世界ではせいぜいスキル30くらいまでが限度だろう。ゲームの時よりも、ずっと回数が必要だった。
「《瞑想》。
フルー、《攻撃上昇》」
玲奈は馬車の中で、小声でパーティーメンバーに付与魔法をかけて暇潰しにスキル上げを続けていた。
馬車はゴロゴロと鳴っている。
今日の昼に出発し、途中でテントを立てて夜を越し、明日の午後には皇都に到着する予定だ。
馬車には玲奈たちの他に2人の護衛の冒険者と、あと4人の客が乗っている。馬車はもう1台あって、連なって魔法学園から皇都パルピナを定期的に往き来している。
馬車代はひとり5000G。この世界では決して安い金額ではない。
ただし、玲奈とフルーがモンスター退治を手伝う、ということでふたりの馬車代はチャラになった。
この馬車の護衛任務を引き受けたならば、タダどころか護衛代をもらえたのだが、その自信はなかった。
玲奈が付与魔法で護衛たちを支援するだけでも彼らはありがたいというので、こんな感じになったのだ。
こういった、大陸を走る長距離馬車や行商人の護衛は、冒険者にとって手頃で危険の少ない仕事だ。特に魔法使いであれば、引く手あまただ。今回の場合のように物理職の冒険者が何人かそろっている場合、そこにひとり魔法職が入るだけで戦闘の危険性はぐっと下がる。
だが魔法使いはたとえ低レベルであっても、馬車の護衛なんかにはつかない。たまたま乗り合わせているのでもなければ。
確かに玲奈も、金銭的にはそこまで悪い仕事ではないと思うが、あまりレベルアップが望めないので、よほど仕事に困らない限りしない仕事だと考えている。
それに何より、尻が痛い。
皇都と魔法学園は、大陸でも有数の大都市だ。その2都市の間には、石で舗装された大街道が通っている。
舗装された道ですらこの尻の痛さなのだ。もっと高レベルのモンスターが出る、辺鄙な地域を走る馬車では、どれほどガタガタいうだろうか。
「うう、フルー、痛いよ。もう、装備脱ぎたい」
フルーは困ったように顔をしかめた。
馬車の絶えず響く震動に、参っているのは玲奈だけではない。フルー以外は全員ぐったりしていて、特に金属鎧のスドンはもう起きているのか気絶しているのか分からない。
一応護衛任務を引き受けているのだから、装備をつけて来たのだが、流石に金属鎧は可哀想だった。兜や手足の装備は外しているが、痛いのは尻から背中にかけてなのだ。
スドンがこんなに参っているのは、初めて見た。
「マスター、私のタオルも敷くかい?」
「いいよ。フルーだって金属鎧じゃない。こんなことなら、クッションでも持ってきとけばよかった。アイテムボックス何も入ってないのに」
何かアイテムを手に入れるかもしれないからと、アイテムボックスもインベントリもほとんど空っぽの状態に整理して出発した。しかし、一度皇都に着けば、すぐに玲奈のワープで魔法学園に引き返して、またいつでも皇都に行くことができる。必要そうな荷物をたくさん持って馬車に乗ればよかった。
今彼女たちは、皇都に泊まる準備に持ってきていたタオルを、クッション代わりに尻に敷いて馬車に座っている。
「フルーは馬車に慣れてるよね。前に、馬車の護衛の仕事とか受けてたの?」
フルーは少し遠い目をした。
「いや。金に困ったのならそういう堅実な仕事をしていればよかったのだが、今思えば私は一攫千金的な仕事ばかりしていたな。私が馬車にこたえていないのは、竜人の皮膚はヒューマンよりも分厚いせいかもしれない」
「何それ、そんなことあるの?」
嘘っぽい話を玲奈が笑い飛ばすと、同じ馬車に乗っていた護衛が、くだらない話にくすりと笑った。
ギリムはスドンよりは気分もましな様子で、熱心に窓の外を眺めながら、索敵スキルを使っていたが、話しかけてきた。
「諸島って、馬車使うんだな。俺、諸島の亜人や獣人は、獣に乗って移動するんだと思ってた。虎とか、竜とか」
そういえばゲームの頃は、騎乗や調教などのスキルがあった。
調教したモンスターを売るプレイヤーが居たが、どれもかなりの値段だった。それでも、格好良い騎乗用のモンスターは大変人気があった。
騎乗スキルを持っていると、動物に乗ったまま戦うことができるが、スキルをとっていなくても少し遅い速度で移動する分には騎乗用モンスターを利用することができた。
「そんなことができるのは、金持ちかよほど高レベルの冒険者だけだ。こちらの大陸では、誰もが魔法を使って移動しているのかといえば、そうではないだろう」
金持ちであれば、特殊魔法を使える魔法使いを雇って、ワープで遠い場所まで一瞬で行くことができる。
しかし、ゲームの頃はパーティーにひとりは特殊魔法を使える人材が必須だったが、こちらの世界では特殊魔法があまり人気ではない。スキル30まで上げている人間が、あまり居ないのだ。玲奈なんかは、ワープさえ使えればいくらでも働く手段が得られる、とても得な魔法だと思うのだけれど。
だから、魔法使いにワープをさせてもらうのは、結構お金がかかるらしいのだ。
もちろん長距離の移動ならば、危険で大変な旅をするくらいならば大金を払っても魔法使いに頼んだほうがいい、という考えの人は大勢いる。しかし、魔法使いがワープを使えるにはその場所に一度行ったことがある必要がある。遠い場所だと、そこに行ったことがあり、依頼者を連れて行ってくれる魔法使いがさらに少なくなる。
ワープ用のアイテムを製作するのも同じだ。アイテムを製作できる高レベルなスキル所有者と、その場所に行ったことのあるワープを使える魔法使いが必要になり、それはそれで高額な商品となるのだ。
そういった移動手段は金持ちか、結局その魔法を修得した冒険者本人とその仲間しか使えないことになる。
「だがそうだな。確かに、こちらの大陸に比べれば馬車の利用はあまり盛んではなかったし、騎乗もかなり便利だ。エカエリ諸島は山や海が多く、平地が少ない。その代わり、船での移動が盛んだ。
船の護衛の仕事は、何度か引き受けたことがあるな」
「へえ、そうなんだ」
「船の護衛の仕事は、堅実な仕事じゃねえのかよ」
ギリムは尋ねた。
フルーは苦々しい過去を思い出すように、顔をしかめた。
「船の護衛の任務は、代金が高いんだ」
「いいことじゃねえの」
「代金が高いということは、何かリスクがあるということだ。
私は、当時大したレベルではなかった。レベル10だったか、強いモンスターの出る危険な航路の護衛の仕事にはつけなかった。
強いモンスターが出ないけれど、代金の良い航路といえば、つまり」
「船が沈みやすい、ってことじゃないの?」
玲奈は思わず声を上げた。
「え、乗ってる船が難破したことがあるの?」
「ああ。まあ、二回程。
依頼者は生きているのか死んだのか、逃げたのかはしらないが、結局私は仕事を完遂できなかったことになり、金を払ってもらうことはできなかった。
それだけじゃない、持っていたアイテムは失くしてしまったし、装備も全て台無しになった。当時組んでいたパーティーのメンバーも、まあ……」
「んん? え、それって」
玲奈は少し焦った。
「いえ、まあ、死んだ者も居るかもしれないが、みんなそれなりに泳ぎには自信がある者だったので、多分助かってどこかで元気にやっているだろうと思う。
長期の仕事で、事故の前に半月ほどその仕事をしていたのだが、ただ働きだ」
(ええ、そんな話じゃないでしょ。難破した船から放り出されたってことじゃないの。ただ働きとか、そんなレベルの話じゃなくて……。フルーには、死活問題だったのかもしれないけど)
「え、エカエリ諸島の船って、そんなに難破しやすいものなの?」
まだまだエカエリ諸島へ行く予定などないが、いずれは行きたいと思っている。そんなに高レベルにならないと行けない地域というわけでもない。
「それは、色々とある。値段次第でぼろい船から、立派な船まであるし、危険なモンスターの出る航路も、潮の流れが速くて危険な航路もあるが、その反対もあるのだから。
それにいざとなればマスターの場合、ワープで逃げ出すという手段も使えるだろう」
(ワープ、ワープね。いざと言う時、どこまで使えるんだろう。緊急脱出用としてちゃんと使えるのなら、かなり大事な手段になるんだけど)
「へえ、船か。俺も、乗ったことねえな」
フルーはちらりとギリムを見て、少し考えてから言った。
「私たちのパーティーの場合、船に乗るのならば、問題は船酔いだろう。乗ったことがないのならば、まず間違いなく酔うと思う。それは、こんな馬車の振動なんかとは比べ物にならない障害だ。
高い金を出して良い船に乗った方が揺れはマシだが、どちらにせよまず間違いなく揺れるだろう。特にエカエリ諸島の周辺の海域は、大陸やエルフの亜大陸と比べて潮の流れが速いのだから」
「船酔い。ああ、私きっと酔うと思うわ」
ギリムは船に関する知識が少ないせいか、船酔いの話もぴんと来ないようで、首を傾げながらまた窓の外を眺めた。
索敵、と呟いてから玲奈を振り返った。
「あ、玲奈様」
「ん? 何かモンスターでも居た?」
「はい、なんか、近付いてきますよ。
なんか、体の大きなモンスターの、群れ?」
ギリムがそう言うと、同じ馬車に乗っていた護衛の冒険者たちが、真面目な顔つきになって立ち上がった。