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迷宮世界グリンドワールド  作者: 吉岡
迷宮世界へ
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初めての迷宮(4)

 

(一年目 五月二十六日)


 翌朝、二人は朝早くから石ゴーレムに取りかかった。


 石ゴーレムは、粘土をこねて作った丸い人形のような形をしている。なんというか、ハンプティダンプティに似ていて、足が短い。足が、遅い。

 石ほど固いわけでもないが、剣でスパッと斬れるようなものでもなく、剣でぶち殴るような攻撃しか通らない。

 ここでやっと、玲奈の付与魔法が効いてきた。



「《瞑想(メディテーション)》。フルー、《付与炎(エンチャントファイア)》」


「《挑発(タウント)》。ハァッ」


 銅剣で石の塊を殴ると、ガチンと甲高い音が響く。

 剣に付与された炎が、ゴーレムの体をあぶった。


「《瞑想(メディテーション)》」

 ゴーレムは玲奈の半分くらいの背丈があり、これまで戦ってきた小動物や虫のようなモンスターと比べて断トツに大きい。

 だからすごく迫力があり、攻撃力も防御力も大きい。

 しかし、大きいということは、反対に動作やこちらの攻撃の目標が大きいということでもある。


「セイッ。グッ」


 とろい動作で腕を振り上げたゴーレムの攻撃を、フルーは器用に盾で弾いた。

 しかしゴーレムの攻撃が重いので、盾で攻撃を殺しきれない。


「フルー、《小治癒(スモールヒール)》」


 慌てるほどのことでもない。

 ゴーレムはノンアクティブで、他のゴーレムが襲ってくる可能性が低いので、玲奈はフルーのサポートに専念することができる。むしろ退屈なくらいだ。

 フルーの戦いを眺めながら、余裕をもって付与魔法や回復魔法をかけ、合間にひたすら瞑想を唱え、瞑想のスキルを上げる。


「ッふんッ」


 動きの鈍いゴーレムに、フルーが力いっぱい剣を叩き付けて、ゴーレムの丸い胴体はパカリと割れた。


「はぁ、はぁ。《活性(アクティヴィティ)》」


 素早く玲奈がゴーレムに近寄って、割れた石に埋まった白い石を、短剣を使ってえぐりだす。


「えい。

 うぐっ。もう、短剣がやばいよ……」


 玲奈は短剣の刃先を見て嘆いた。

 石の隙間に突っ込むような、本来の短剣の使い方と違う方法で使っていて、刃先が微妙に歪んでいる。フルーの剣だってまだ刃こぼれはしていないかもしれないが、がたがきているだろう。


「こんなんじゃ、今日一日中どころか、白い石100も狩れないよ」


「別に、ほとんど切ってないんだ、折れるまで使えばいい。

 それよりマスター、スキルが上がった気がするんだが」


「ウソ。何が?

 ステータス」


 ポンッと、頭の中で箱を開いた。

 スキル上昇は、感覚的なものだが、本人に感じ取ることもできる。

 だが、修練場で一人で素振りしている時ならばともかく、必死で戦っている最中にスキルが上がっても、いまいち確信が持てない。


「ゴーレムの攻撃を受けた瞬間に上がった気がするから、盾か重装備か」


 そしてこちらの世界の人間は、玲奈のようにHPやスキルを簡単に見られる能力を持っていない。なんらかの道具を使えば調べることも可能だ。

 玲奈はそれを見ることができるのだが、フルーがそのことをどう思っているかは分からない。

 知らない魔法の一つだと思っているかもしれないが、玲奈が少し普通と違っていることも薄々気付いているだろう。


 玲奈はステータスを呼び出して、フルーのスキルを見た。


「あ! 盾が0.3も上がってる」


「そうか。

 ゴーレムは、どうもスキルが上がりやすいみたいだ」

「え、すごいじゃない。ゴーレム、すっごく美味しいモンスターだよ」


 玲奈のスキルは魔法系ばかりで、使った回数がスキルに直結する。単純で、強い敵と戦わなくとも伸び悩む心配がないのだが、その分近道がない。

 逆に、フルーのような物理職のスキルは、ある程度強い敵と戦わなくては上がらない。修練場で一人で素振りしていても上がらないことはないが、上昇速度はかなり落ちる。

 いくら戦い続けていても、格下相手ではいつまで経っても、スキルが上がらないかもしれないのだ。

 魔法スキルならば、レベルの低い魔法ばかり使っていても、同じことが言える。

「やっぱり、これまでのモンスターと比べて、ゴーレムはかなり強いのかな。強くてノンアクティブって、結構美味しいよね」


「ああ。相手が固いこともあるが、大きいから盾が使いやすいのもあるな。これまで、ほとんど盾を使えていなかったのかもしれない。ヘビに地面に這われると、盾で攻撃を防いでいるのか、盾で地面のヘビを押し潰して攻撃しているのか、分からない状態だったから。

 《活性(アクティヴィティ)》」


「確かに。敵が大きくなった分、怖いけど。フルーは盾の使い方が、ましになったよね。盾を使ってますって感じ」


「まあ、そうだな。……これまでは、まともじゃなかったかもな」


「ん。行く?

 《防御上昇(ディフェンスアップ)》。《瞑想(メディテーション)》。《付与炎(エンチャントファイア)》。《遅滞(スロウ)》」


「《挑発(タウント)》!」



 フルーの剣が、うっすらとオレンジ色に色付いて輝く。

 これでも、刃を持っても熱くもなんともない。剣が燃えているわけではない、剣が炎の元素を帯びているのだ。


 フルーが、ゴーレムに攻撃される前に、剣で斬りかかる。しかし、固い石に剣で斬りかかっても、ガチンと激しい音をたてて、弾かれてしまう。石の体がわずかに傷付いただけだ。


 ただその瞬間、剣に宿った炎がめろりとゴーレムの体をなめる。

 フルーが打ち込んだ傷の跡から、ちりちりとひびが入った。


「《挑発(タウント)》。ハッ」


 鋭く叫んで、フルーがゴーレムの腕を受け止める。


「やっぱり、付与魔法が効いてるな。俺一人が殴っただけで、こんなに簡単にひび割れる。

 セイッ」


 ゴーレムを倒すには、その体を砕かなければならない。ゴーレムである形を失わせるくらいぼこぼこにして、ゴーレムは倒せる。

 剣では普通石を斬れないので、ゴーレムには鈍器などの相性が良い。


「《遅滞(スロウ)》。《瞑想(メディテーション)》」


 フルーは、ゴーレムが腕を振り上げるのにタイミングを合わせて、盾で弾いた。盾がみしりと鳴る。


「フルー、《小治癒(スモールヒール)》」


 しかし、フルーが忙しく戦っている間、玲奈はすることがあまりない。回復魔法だって本当は、今かける必要があるほど、フルーのHPは減っていない。


 付与魔法や暗黒魔法のスキルレベルがもう少し上がって、10を越えれば、毒や攻撃上昇の魔法が使えるようになり、玲奈ももう少し忙しくなるかもしれない。ただし、スキルレベル20以降、しばらくはさほど便利な魔法は増えない。


 ガツン。

 フルーが剣を大きく振り回して、ゴーレムを弾き飛ばした。大した怪力だ。

 ゴーレムの動きが鈍いので、剣を大きく振って、思い切り力強く攻撃することができる。ただし、それをするから、剣の消耗が凄まじい。

 ゴーレムは後ろに倒れて、ぱかりと割れた。


 玲奈は、割れたゴーレムに近付いて、灰色の体に埋まった小さい白い石を取り出そうと引っ張った。モンスターを解体するように、短剣を石の隙間に突っ込みながら、柔らかい白い石を削るように引きずり出す。


 この白い石が、魔法生物であるゴーレムの心臓だ。魂か、エネルギーだと言い換えてもいいかもしれない。この石には、多くの魔力が含まれている。

 だってこの白い石を原料に、MPポーションが作られるのだ。


 この白い石を簡単に取り出せるかどうかは、死んだゴーレムの割れ方による。

 上手く白い石が見える位置で割れてくれればいいのだが、倒れているゴーレムの体内の、どの位置に白い石が埋まっているか分からない場合、玲奈は解体を諦める。時間をかけて白い石を探しても、スキルもレベルも上がらないし、別のゴーレムを倒した方が、早い。


「えいっ。出た。

 ああもう、もっと簡単にこれを取り出す方法、ないのかな」


「そうだな。別に、石ゴーレムにはほとんど入っていないからいいが、マスターみたいな適当な解体じゃ、もしどこかに宝石が含まれていても、気付けないぞ」

「適当? え、これじゃ、適当」


「まあ、適当というか。宝石を求めてゴーレムを倒すなら、もっと全体を完全に砕くぞ。できるだけ分厚い鈍器で、全員でひたすら殴るんだ。ハンマースキルを持っている奴は、上がる。剣で殴るなら剣スキルの人間でも上がるが、本当に武器代がとんでもないからな」


「ふーん」


 玲奈は少し考えた。

 調合スキル持ちの二人にとって、ゴーレムは重要なモンスターだ。武器や盾スキルの上昇も悪くないし、ノンアクティブで戦い易い。割りと、狙い目かもしれない。


 それにゴーレム系のモンスターは、上位モンスターの種類も多い。銅ゴーレム、鉄ゴーレムと、ゴーレム系で段々戦う相手を上げていけば、行き詰まることもなさそうだ。

 それならば。


「鍛治職人のキャラを作ろうか」


「ん、キャラ?」


「あ、ええと。

 次の奴隷に、鍛治スキルと、ハンマースキルを取らせて、打撃系の物理職」


「回避タイプの物理職が欲しいと言っていなかったか?」


「言ってた。

 でも、防御力の高い物理職も、もう一人くらい欲しいんだよね。

 お金が貯まったら、二人買っちゃう?」


 回避タイプの物理職は欲しいが、情報が不足していてきちんと育て上げられるか分からない。上手くいっても、使い物になるまでかなり時間がかかるだろう。

 むしろ、成長するまでその回避タイプを守るためにも、盾役が必要だ。


「パーティーバランスとしては良い組み合わせなんだけど。問題があるとすれ、中途半端な回復役の私が、パーティーの四人全員を回復しきれるかってところなのよね。

 居た、行く? 《遅滞(スロウ)》」


「《挑発(タウント)》」


 フルーが、盾を構えて走り出した。


「《付与炎(エンチャントファイア)》」



 玲奈は、パーティーメンバー全員に、生産スキルを一つずつ持たせようと企んでいた。生産スキルは、様々な種類のスキル持ちが協力しあう方が絶対にお得だ。

 そして、成長させるのが最も大変だけれど、その分リターンも大きい生産スキルは、鍛治スキルだ。


 石ゴーレムは低レベルだし、フルーが言うには玲奈がきちんと探せていないから、まだ特に何もドロップしていないが、ゴーレムといえば鉱物アイテムだ。

 どうせゴーレムと戦うのなら、白い石だけでなく鉱物ドロップも有効活用したい。


 そして鍛治職人に、ゴーレム狩りで大きく消耗する武器を作ってもらえれば。


「《瞑想(メディテーション)》。フルー、《防御上昇(ディフェンスアップ)》」


(そのためには、ガンガンポーションを作って、お金を儲けなきゃね)


「《挑発(タウント)》。ハッ」


 フルーが、気合い一発、剣を大きく振りかぶって、ゴーレムを吹き飛ばした。





 ゴーレム狩りで、フルーのスキルはどんどん上がっているようだった。

 しかし玲奈は、短剣でゴーレムを殴り続けても、少しもスキルは上がらない。

 危険が少なく、魔法スキルはフルーにかけているだけ上がっているのだが、なんとなく納得できない。


 一度、ゴーレムを杖で殴ったら、杖がぽっきり折れた。

 白い石はまだ99個集まっていなかったし、杖が無いと魔法が使えないわけではないけれど、それを期に二人は学園に戻ることに決めた。


 玲奈が横から勝手に殴りかかったので、危ないと言って、珍しくフルーは本気で怒った。玲奈は半泣きになった。


(くそぅ。

 絶対に、鍛治職人を育てて、硬い金属の杖を作らせるんだから……)







 Lv7 見習い魔法使い

 レイナ・ハナガキ ヒューマン 

 HP/MP 52/78

 スキル 杖Lv11 瞑想Lv13 魔術運用Lv7 付与魔法Lv8 神聖魔法Lv7 四元魔法Lv12 特殊魔法Lv15 暗黒魔法Lv7 料理Lv22


 Lv7 見習い戦士

 フルーバドラシュ ドラゴニュート

 HP/MP 140/26

 スキル 剣Lv14 盾Lv8 重装備Lv5 活性Lv9 戦闘技術Lv4 挑発Lv7 調合Lv9



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