表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮世界グリンドワールド  作者: 吉岡
迷宮世界へ
13/45

初めての迷宮

 

(一年目 五月二十二日)


「《遅滞(スロウ)》」

 玲奈は、30センチくらいある草原バッタに、遅滞をかけた。草原バッタは、突然動きを鈍くした。

 フルーがそのバッタの注意を引く。

「《挑発(タウント)》」


「《遅滞(スロウ)》。《瞑想(メディテーション)》。

 《遅滞(スロウ)》」

 フルーがバッタの注意を引き付けている間に、玲奈は近くに居る別のバッタに魔法を放つ。

「《挑発(タウント)》。ハッ!」


 草原バッタを攻撃するのはフルーに任せて、玲奈はさして効かない遅滞の魔法を周りのバッタにかけて回って、モンスターを周囲に呼び寄せる。

「《小治癒(スモールヒール)》。《付与炎(エンチャントファイア)》」

 付与魔法で攻撃力が上がったフルーが、飛びかかってきたバッタをどれも一撃で倒した。


 一瞬で、十匹ほどのバッタを倒したら、二人は慌てて短剣でモンスターの死体を解体する。二人の目当ては、バッタの羽だ。

 MPポーションの材料になる。



 このひと月ほど、生産を中心としたスキル上げと、スケルター教授のクエストを繰り返し、二人ともレベルは6に上がった。

 フルーの剣のスキルは12になり、玲奈は魔法のスキルを上げて、新しい魔法をいくつか覚えた。

 特殊魔法のスキルが10を超えたので、無事にアイテムボックスの魔法を覚えた。

 また四元魔法のスキルが10を超えて、武器に炎と水を付与できるようになり、フルーの攻撃力がかなり上がった。

 ただし玲奈の今最も高いスキルレベルは、料理スキルだ。


「よし、バッタの羽、7個ゲット! これで86個か」

「多いな。一体、何個集めるつもりだ」

「ん? 99個かな。アイテムボックスの1枠で、最大99個入れられるから」

「それを全てMPポーションにしたら、990個ポーションが作れるんだが」

「いっぱい作ればいいじゃない。教授がいくらでも買ってくれるわよ。所詮、初級ポーションなわけだし」

 千個もMPポーションを作れば、フルーの調合スキルもかなり上がるだろう。


「そんなこと言ったって、MPポーションの材料、もう片方は全く集めてないだろ」

 何度か冒険をしてきた二人だが、魔法学園の門の近くの、一番モンスターの弱いフィールドにしか来たことがない。


 MPポーションの材料は、バッタの羽と白い石の二つ。

 白い石を手に入れるには、門から少し離れた、もうワンランク強いモンスターの出る地域で採取するか、迷宮に潜って石系モンスターを倒し、そのドロップアイテムを入手するかだ。


 門の近くのエリアのモンスターたちは、そろそろ二人には物足りなくなってきた頃だ。

 レベルとしては丁度良いのだが、玲奈もフルーもレベル6というには、ステータスが少し高い。

 バッタもネズミも、フルーは一撃で倒せてしまう。


「今度一度、迷宮に潜ってみようか?

 まだ一回も潜ったことないもんね。一階・二階くらいもう余裕だろうし。

 それとも、ちょっと遠出して川のあるフィールドまで行く?」


「私は別に、どちらでもいい。マスターの思う通りにすればいい」


「……そう? じゃあ、今週末は、迷宮に潜ろうか」


 フルーはあまり、玲奈の意見に異論を唱えない。

 かと言って、玲奈を恐れている風でもないのだけれど、彼女は初めての奴隷をどのように扱えばいいのかよく分からない。

 比較対象も居ないし、玲奈の態度もフルーの態度もどうなのかよく分からない。


「じゃあ、迷宮に潜るための準備をしなくちゃね。

 明日の午後は、図書館で情報収集をしましょう」


「了解」


 周囲の生徒たちと比べれば、玲奈が弱腰であるのは間違いないと思うが、彼女には生徒たちのように恥ずかしげもなく傲慢に振る舞うことは出来ない。

 フルーとの冒険において、主導権を握ることすらちょっと荷が重いのに。

 フルーは、ごく自然に、玲奈に決定権を任せてくる。最初は彼女も、舐められてはいけないと緊張していたりもしたが、彼の方が玲奈よりも常識も経験もあるのだから、たまには反対意見を出してほしい気もする。

 二人きりのパーティーなのだから。


「さて、もうHPは回復した?」

「ああ。《活性(アクティヴィティ)》」


「いくよ、《防御上昇(ディフェンスアップ)》、フルーへ《付与炎(エンチャントファイア)》。

 《瞑想(メディテーション)》。

 フルーへ《防御上昇(ディフェンスアップ)》。

 はい、《遅滞(スロウ)》!」


「《挑発(タウント)》!」





(一年目 五月二十三日)


 玲奈は図書館の席に座って、かなりボロボロの本を覗いていた。非常に頻繁に読まれているのがよく分かる。

 それは、図書館の本と言うよりも、魔法学園の生徒たちにとっては参考書のようなものだ。

 その本には、魔法学園の迷宮に出てくるモンスターの名前や、それらの注意すべき攻撃が、全て書かれている。


 下調べもせずに迷宮に潜る生徒は決して少なくないが、たっぷりの金と時間をかけて丁寧に情報収集をする生徒だって少なくない。

 玲奈は、これをあらかじめ調べるのもどうかと少し思ったが、どうせゲーム時代に一回クリアして大体のところを覚えているのだから、今更かとも思う。


(迷宮のマップ、いざと言う時のために書き写しとこうかな。でもな、一階を書き写したら、二十階まで全部書き写すことになるだろうし。それは流石に面倒くさいなあ)



「あ、ねえフルー、あなたはこの本読めるの?」


 魔法学園の図書館には、実にさまざまな言語で書かれた本が存在する。


 玲奈に読める本も、読めない本もたくさんある。


 そして、今読んでいる本は、全てカタカナで書かれている。

 読みにくいことこの上ない。

 本当に、一昔前のRPGのなかのモンスター図鑑のようだ。

 しかし実際には、分厚い図鑑一冊がすべてカタカナで書かれているのだから、目がちかちかする。


「読めるぞ。

 ああ、マスターは知らないのかもしれないな。カナ文字は、ヒューマン領だけじゃなく、エカエリ諸島でも下級市民が一般的に使う文字だ。エルフ領はどうだか知らないが。

 私は、マスターみたいにヒューマン領の古代文字までは読めない。

 竜人にとっての、教養にあたる言語は、このルリカ古語だな」


 彼の言うヒューマン領の古代文字と言うのは、玲奈がたまに図書館で借りて読んでいる、漢字仮名混じりの文章のことらしい。

 そちらで書かれた文章の方が、カタカナで書かれた文章よりも、専門的な内容が多い。

 それ以外にも、英語のような文章で書かれた本や、漢文のように漢字だけで書かれた本なども存在して、慣れればその辺も読めそうだ。


 フルーが持って来て見せた、ルリカ古語と言う文字は、カクカクしていてアルファベットに近いが、少し違う。

 玲奈には読めそうにない文字だった。


「フルーも、暇な時にいくらでも本読んでいいから、何か役に立ちそうな情報が載ってたら、教えてね。

 読める文字が違うんだから、フルーが意外な情報を手に入れることもあるかもしれないじゃない。付与魔法の情報とか」


(にしても、いろいろ文字があるんだけど、言葉ってどうなってるんだろう。

 自動翻訳機能でも付いてるのかな。それとも、本当にみんな、日本語使ってるのかしら。

 それに、カナ文字はどこでも使ってるって……。まあカタカナは、表音文字だから、言葉が違ってもどこでも使えるんだろうけど)


 玲奈は、見ていた迷宮ガイドブックを、フルーに見せた。


「で、これが、迷宮の四階までに出るモンスターなんだけど」


 一階では、小ヘビ。

 二階では、赤アリ。ここまでは、特に不安は無い。出現数が多いが、草原バッタ程度の強さでしかない。

 三階では、石ゴーレム。小型のゴーレムだが、固い。これが白い石をドロップするが、ドロップ量はあまり多くない。色々な石を、ドロップするのだ。非常にまれだが、宝石も落としたりする。

 四階では、ゴブリン。目当ては石ゴーレムなので、ここまで上がって来なくてもいいが、何匹か倒してみてもいい。


 玲奈にとって不安なのは、ゴブリンだ。

 強さはさほどではないけれど、初めての人型のモンスターだ。

 小動物や、昆虫、そして明らかにモンスターらしいゴーレムなどを倒すことと比べて、自分の心理的な抵抗感が不安なのだ。


 魔法学園の迷宮は、全部で二十階。

 途中で五階に一度、中ボスが出る。

 これはまだ、かなうかどうか分からないので、とても手を出せない。

 もう一人二人奴隷を買って、戦力を増やしてからでも良いだろう。


「何か不安とか、知ってることとかはある?」


「迷宮の一・二階なのでかなり弱いとは思うが」

 それはそうだ。

 大抵の生徒が、初めて戦うのがこの小ヘビだろう。あれだけ口を酸っぱくして注意されていても、入学初日にこのヘビと戦っていた生徒だっていただろう。

 それでも、小ヘビに噛まれて死んだという話は聞かない。

 五階の中ボスに無理をして挑んで死んだ生徒の話は、昔の生徒として聞いたことはある。


 奴隷を死なせた生徒の話は、もう既にいくつか聞いていた。


 フルーは、考えながら答えた。

「赤アリは多分ないと思うが、アリとか昆虫系のモンスターは、たまに毒を持っている。まあ、ヘビもだろうが。

 それから、石ゴーレムは意外と、強いと思うぞ」


「分かった。いくつか、解毒ポーションを念のために買って持って行こう。

 それで、そうなの? 強いの?」


「ああ。狙うとなると、手ごわい。……つまり、固いんだ。

 殴り合いの、消耗戦になる」


「でも、迷宮の三階に居るのに?」

 玲奈は尋ねながら、石ゴーレムについて思い出そうとしていた。しかし、迷宮の三階なんて弱いエリアのモンスターのことを、ほとんど覚えてはいない。

「それにゴーレムって、魔法攻撃もあんまり効きませんよね」


「物理攻撃は効きにくいが、魔法攻撃はもっと効きにくい。

 ゴーレムは固いし、アイテムは美味しくないし、冒険者に興味がなくて追いかけて来ないから、無視することが多い」


「無視か……。

 まあ、美味しくないと思ったら、さっさと帰ってきて採取に切り替えましょうか。

 このへんのモンスターのドロップアイテムで、欲しいものありますか」


「小ヘビだったら、肉持って帰って料理したらいいんじゃないか」

「ああ、料理ですか」


(ネズミの次は、ヘビか。まだ、マシかな)

 殺しても罪悪感を感じないモンスターたち程、その分、料理しづらいモンスターなのだ。ゴーレムなんて、料理することもできない。

 まあ、ゴブリンは、殺すのも料理するのも嫌だが。

 玲奈はもう、何度かネズミのステーキを食べた。味は別にこれといって問題のある味ではなかった。

 数少ない蛋白源だ。


 玲奈自身そこまで節約しなくても、食事で少々お金を使うことくらい、構わないとは思うのだが、どうせこのまま冒険者を続けるのならば、その程度のことには慣れなければならないだろうと思うのだ。

 いつか慣れなければならないのならば、早めに慣れておいた方がいいとも思う。

(竜人じゃなくて、ヒューマンの常識的に、ネズミのステーキとかどう思うんだろう……。

 いや、フルーも竜人じゃなくて、奴隷としての常識なのかもしれないけど)


「ああん! 美味しい料理素材、早く出ないかなあ」

「なら、七階の鈍ウサギなんか、美味いんじゃないか。ウサギの肉は、良いらしいぞ」

「ウサギ!」

 玲奈は、ウキウキと瞳を輝かせてから、がっくりとした。


(私いつのまにか、可愛いウサギちゃんを食べることを、こんなに楽しみにしてる……)







 Lv6 見習い魔法使い

 レイナ・ハナガキ ヒューマン 

 HP/MP 46/69

 スキル 杖Lv9 瞑想Lv12 魔術運用Lv6 付与魔法Lv7 神聖魔法Lv6 四元魔法Lv12 特殊魔法Lv14 暗黒魔法Lv5 料理Lv22


 Lv6 見習い戦士

 フルーバドラシュ ドラゴニュート

 HP/MP 124/23

 スキル 剣Lv12 盾Lv6 重装備Lv4 活性Lv8 戦闘技術Lv4 挑発Lv6 調合Lv9



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ