A PERFECT MADNESS Ⅲ
もうどれくらい歩き続けただろう。それでも、人どころか野良犬一匹すら会うことがない。まさかみんな殺されたのだろうか…
最悪の展開を想起したが、僕はすぐに忘れ去ろうと懸命になった。そうでなければ気が狂ってしまいそうだ。こんな悪夢のような世界を早く解放したい、そう考えてばかりいた。
そうは言っても、僕はただの人間だ。スタークみたいな超人並みの力を持っているわけでもない。
何かできることはないのか…
せめて…これくらいは
「左の裏道から行けば近道だよ。」
なんか…これくらいしかできないな…。情けない…
「おぉ!そうか!さすがここの住人だな。ん…?どうしてそんなしけた面をしてんだ?」
「僕は…無力だから。これくらいしかしてやれないけどさ…」
一瞬、スタークの表情が強張ったような気がした。何か悲しい…そんな感じだった。
彼は腰にかけていた短剣を取り出し、目の前に突き出した。
「なら、これ持ってな。こいつはきっとお前の役にたつからよ。」
見た感じはただの短剣にすぎない。何か能力でもあるのか?それでも無防備よりかはマシだ。
「あぁ、ありがとう。」
「ところで、さっきからいやーな感じがするんだなぁ…」
右側の木材が積んである廃棄場に剣先を向ける。その先端は電気を帯び、そこから雷を発生させ、木材を破壊した。
そこには機械の残骸があった。これは今破壊したのか?そしてこれは一体??
「ずっと監視してやがったんだ!やらしー奴だな!おい!まだ見てんだろ!?」
いっそう静まり返る夜の街…スタークの怒鳴り声が余計に良く響いた。
彼の言う通り嫌な予感がするな…風が強く吹いてきたようだ。まるで僕らを先へ先へと追い込むかのように……
「こりゃ良くない…走るぞ、アレン!!」
ひたすら走り続けた。つまずきそうになってもすぐさま体勢を立て直し、フィリップス・シャンデリアに続く小路を駆けた。
そして、ようやくタワーの近くにある大広間に出ることが出来た。いつもなら華やかな噴水がこの場所の雰囲気を向上させていた。
…どうやら、ここにいるのは僕とスタークだけではないようだ。
奥には漆黒の悪魔の軍勢が待機していた。それだけではない。中くらいの身長で三十代程の銀髪の男性があぐらをかいて座っていた。
「おやおや…スタークじゃないか…」
「よう、久しぶりだな…疾風の狩人、アルフレッド・トルネード…!」
「覚えてたんだぁ…嬉しいねぇ、まぁいいや。」
こいつも組織の一員なのか!?どこか不思議な雰囲気のある男だ…
「わりぃ…あんたに構ってる暇はないんだよ。どいてくれないか?」
挑発的な態度に反応した悪魔達がスタークを睨みつけて戦意を見せる。しかし、アルフレッドは気性の荒れた悪魔をなだめる。どうやらこいつらを手なずけているらしい。
「…それでも、君と僕の目的は違うんだよね。君はタワーへと進みたい、僕はそれを拒む。」
「…いやだとしたら?」
「荒い手段はいやだけど…仕方ないかな。」
「……おもしれぇ…!」