A JUVENILE DEVIL Ⅳ
僕の中で、何かが壊れた気がした。
なんだろう?わからない、それすらわからない…
ただ、ひたすら絶望した。自分の肉親の死を目の当たりにして正常でいられる方が異常だろう。血で染められたテーブルクロスや割れたシャンパングラスが散乱した会場には、誰もいない。
そう思っていた矢先のことだった。暗闇の中に誰かがいるようだった。話しかけてみよう。誰かいれば心の支えになるだろうから。
眼鏡をかけていたため視力が低い僕は、目を凝らして見ないと姿すらよく見えない。
うっすら見えたその姿は、少ないとも心の支えにはならない者だった。
漆黒の衣に全身を包んだそれの爪は鋭く尖り、鮮血がまとわり付いていた。その時、僕は全てを悟った。
この惨劇は、こいつのせいだということ。そして、僕の中にある生物的本能が逃げろとシグナルを出していることだった。
しかし、僕の足はすくみ腰はすっかり抜けてしまい立つことすらできなくなった。
その漆黒の衣から見えた紅い眼は僕を凝視した、すると突然身動きが取れなくなった。これは恐怖感故ではない、何故だろう…こいつは一体!?
血まみれの爪を振りかざし、そいつは僕を襲いかかった。もう死んだ、絶対に助かることはない。誰も心の支えになる者はいない。
そう悟ったんだ。
「ひゃー、ずいぶんド派手に染めてくれたじゃないの」
若い男性の高い声が閑静な会場に響いた。何が起きたのかその時はよくわからなかった。ただ唯一わかったことは、僕は死ななかったということである。
赤髪のその青年は、銀色の剣を手にして漆黒の男の攻撃を防いだのである。
「……あ、あんたは…!?」
「あ?人間じゃん。なんだ生きてる奴がいたのかよ…まぁいいや。
おいお前、後ろに下がってな。」
そういうと青年は剣を両手で持ち、その男に剣先を向けた。
無論男もたじろぐ仕草すら見せずに爪を向ける。
先に行動したのは漆黒の男だった。人間とは思えない脚力を持つそいつは奇声を揚げながら一気に距離を縮めた。
青年もただ待っているだけではない。剣を振り男を攻撃する。その刃は尋常ではないサイズである。大人でもあんな大きさの刃物を振り回すことなど無理だ。
だけども、これは決して夢ではない。全てが現実である。
「ははぁっ!チェックメイトォオ!!」
青年は男の喉元を剣で貫き、一気に引き抜いた。すると漆黒の男はまた奇声を出して体が黒い砂に変化し、姿を消した。
これで終わったのか…?
「あ……あぁ……!!」
「なぁにびびってんだよ?ほら、お前は生きてるんだ。笑え!!」
青年はこちらへと歩み寄り、腰を抜かしている僕の目の前で不気味ににんまりと笑う。本当に彼は何者!?
「俺か?俺の名は…スターク。まぁ信じてもらえるなんざ思っちゃいないけど…
俺は人間じゃない。魂を喰らう異界の住人さ。」