THE PAST Ⅵ
これは現実なのか、それを疑うことしか今の彼女には出来ない。愛する人の変わり果てた姿、それはあまりにも過酷で、そして悲愴なるものだった。
レオンは一歩ずつ近寄ってくる。彼の目には彼女はただの目標にしか映らない。今の彼は…レオン・レスタークという悪魔なのである。
「あ………あぁ……」
彼に対して恐怖心を抱きたくはない…。それでも、彼の手はゆっくりとビアンカの小さな頭へと近づく。
勇気を振り絞り、その場から逃げだす。それでも悪魔の力には敵わず、すぐに捕まってしまう。冷たい手が腕を強く握る。前なら…彼が握ってくれると安心感がどこからかわいてきた。それでも、今もうレオンはいないのだ…。
「さようなら…レオン・レスターク……」
目を閉じ…全てを諦めた。もう……これでいいのだから…運命なら抗う必要はない…。
「ひゃー、ずいぶんド派手にやってくれたじゃないの!」
誰…?赤い長髪の男は剣を片手にしてレオンの攻撃を見事に防いだ。どこからともなく現れた男…それがあたしとスタークの出会いだった。
スタークは力ずくでレオンを弾き返すと、一気に距離を縮めて剣先を喉仏に当てる。少しでも奥に押せば一たまりもない。
「や、やめて!!」
「………残念だけど、こいつにはもう感情どころか理性もない。いっそ楽にさせてやれよ。」
意を決し、あたしはスタークの剣に手を添えてぐっと力を込めて刺した。不思議なことに、レオンは苦しい声を揚げず、その代わりに涙を流した。その時レオンは彼女の頭を撫でて、元の彼を彷彿とさせた。
さようなら…さようならレオン・レスターク……
しばらく声を揚げて泣いたあと、スタークはにやりと笑いながら話しかけてきた。
「なぁ姉ちゃん。俺達のところに来なよ。」
彼はそう言い残し、総司令庁をあとにした。そして行く先を失ったビアンカも彼について行くことにした。
その時、彼女は決めたのだった。彼らの元で強くなり、魔人旅団達に…復讐を誓ったのである。