第二話「異世界」
「・・・まえ・・・ま・・・クン・・・もる・・・起きたまえ、守クン。」
その声はどこか殺伐としていて、意識の遠のく俺にとって現実的なそれとは感じられなかった。
何が起こった?確か俺は見たことない量の赤い液体を体から出したはずだ。
そうか、つまりこれが“死”というやつだな。
何だ、案外人って簡単に死ぬんだな。というか死後の世界ってこんなになっているのか。意外と和風な感じだな。
目の前には天井、丸い蛍光灯の電気が見える。このにおいは・・・和室だろうか。横を見ると大きな障子があり、反対側には襖、背中の感触はおそらく畳だろうか。
和風な感じというより、完全に“和”じゃねえか。死後の世界がこんなものだなんて。もっと花畑が広がった美しい風景とかじゃないのかよ。それに真っ黒な服を着た少女が・・・少女が?何故こんなところに少女がいる!?ここは和室だ、百歩譲って和服の少女なら許そう、いや、許そうというほど俺は偉くないのだが・・・しかし目の前にいる少女は、およそ和服とはかけ離れた西洋風の黒いフリル付きドレスに黒いソックスを身にまとっていた。何でもありかよ!死後の世界っつうのは!そう思った瞬間、あの殺伐とした声が聞こえた。
「いつまで人を化け物を見るような目で見ているんだい?ん?それともワタシのあまりの美しさに心を奪われてしまったのかい?どちらにせよ、あまり少女をじろじろ見ているとだね、通報されるよ。キミはそのそこそこな学歴に泥を塗ることになる。それでもいいのかい?」
・・・いやいやいや!良くないから!ていうかそこそこな学歴ってなんだよ!そもそも突っ込みどころ多すぎるし!根本的になんか間違ってるだろ!
とか何とか突っ込みたいところではあったが、その前に今の状況を整理しよう。
そう思った矢先、誰かがパタパタと走ってきて勢いよく障子が開かれた。
「ライカさん!大変です!第三世界が・・・って、何してるんですか・・・!?」
そこには腰に剣を携えたおそらく俺と同じ年くらいであろう女が立っていた。髪の毛はショートカット、とてもボーイッシュな雰囲気を出した女性だ。何故すぐ女とわかったのかというと、男には無い胸の膨らみがあったからだ。しかし、膝が隠れるほどのスカートを履いているものの、なんだか凛とした表情は美少年を連想させる。きっと男子からも女子からも人気なんだろうな、なんて思っていると背後から声がした。
「いやね、第一世界でちょっとおもしろいものを見つけてね。拾ってきたところさ。少々手荒な真似はさせてもらったが、この通り元気にしている。」
そう言いつつ、ライカと呼ばれる少女は俺の方に指をさした。その前に“拾ってきた”に突っ込みたい・・・が、ここはおとなしく2人の会話を聞くことにした。
「この方が・・・この間ライカさんがおっしゃっていた方ですか?あ、手荒な真似って、また神楽くんの時みたいなことしたんですか!?あれは一歩間違ったら死ぬんですよ!」
「ワタシは“彼”みたいなミスはしないよ。そもそも、気に入った人を殺すわけないじゃないか。ラミエは心配しすぎなのだよ。神楽クンは特殊だったのでね。あの時より手荒になんてするわけないよ。それよりも、大変とはどういうことだい?」
ラミエと呼ばれる女はハッと思い出したかのように言った。
「はい。第三世界のアーライト地区が壊滅、次いでセグライト、ヨーステルドも大きな被害を受けています。」
「それで?」
「ええ、そこで第三世界本部のセンターライトから我々第二世界に救援要請が入りました。おそらくユースポート、コンポートは動く準備をしているようです。」
「へー、センターポートはそれを受理したのだね。」
少し焦りが見えるラミエに対し、ライカは始終落ち着いていた。明らかにライカの方が年下に見えるが・・・しかし、問題はそこでは無い。なんなんだ、この超絶展開。やっぱ俺は死んだんじゃないか!でなきゃ異世界にでも飛ばされたかだ。
・・・異世界・・・そういえば、第三世界がどうとかいってたな。・・・待てよ、異世界ってなんか聞き覚えあるぞ?どうもここに至るまでも記憶が曖昧だな。ここでようやく俺は口を開いた。
「・・・あのー」
みじか!でも俺の祝・第一声!
「ああ、忘れていたよ。ごめんごめん。まずは自己紹介から行こうか。ワタシは久遠来夏。“来たる夏”で来夏だ。そしてこっちが・・・」
「久遠ラミエです。あ、久遠っていってもライカさんとは従姉妹でして、えっとー、ライカさんは本家で私は分家の人間なんです。」
「そこまで紹介しろとは言っていないよ。ラミエ。さあ、キミもラミエに自己紹介したまえ。」
そう言われて、俺はいろいろ腑に落ちないことが山ほどあるが、まずは自己紹介した。
「俺は水宮橋守。ラミエ・・・ていったか。よろしく。」
おっと少し馴れ馴れしすぎたか。まあ、俺はかしこまるのが苦手だ。
「こ、こちらこそ!よ、よろしくお願い致します!!」
ラミエは少し慌てたようだけど、どうやらそういう性格のようだ。ライカがあきれた目で見ている。
「さて、ここで、いろいろ腑に落ちない守クンに、この世界について教えないといけないね。」
「でもライカさん。直にこちらにも救援要請が来るかと・・・被害状況からしてユースポートとコンポートだけでは力不足かと。」
「んーあそこはやる気しかない場居だからね。」
「それに、ここで救援要請を蹴ってしまうと、いつこちらに矛先が向けられるかわかりません。」
「ラミエは心配性だからね。でも一理ある。本部に敵視されるのはまだ早すぎる。とりあえず、スーラと美加に連絡を入れておいてくれ。あぁ、無茶はするな、とも伝えておいてくれよ。」
「わかりました!では・・・まもる・・・さん。失礼します!」
ラミエは勢いよく廊下へ飛び出し去って行った。
「さて、では守クン。この世界について教えてあげよう。あぁ、こっちのことはとりあえず心配しなくていいよ。まだ、おおごとにはなっていない。」
“まだ”というのが気になるが、とりあえず俺は来夏の話を聞くことにした。なんにしろ話が先に進まない。
「まず、大前提になるのだけれどね、ここは守クンの知っている世界とは別の世界になっているのだよ。そして、守クンがいる・・・いや、ここでは“いた”といった方が良いね。その世界を“第一世界”といって、いわゆる現実世界だ。一方ここは現実世界に最も近い異世界“第二世界”ということになる。この世界は異能をもつ者だけが入ることができる世界なのだよ。さらにゲートを通じ第五世界までが見つかっている。見つかっているというのは、第五世界以降は闇に包まれていて実際のところ良くわからないのだよ。しかしそこに何かはある。第五世界は闇との境目といったところだね。まあ、この異世界自体が“闇”といっても過言ではないのだけれどねぇ。」
「来夏さん、ちょっと・・・」
俺の言葉を大胆に無視し、来夏は続けた。というか俺こんな年下の少女にさん付けしてしまった。でも、それくらい、目の前にいる来夏には威圧感に似た何かがあった。
「ちなみに第二世界以降はすべて異世界にあるのだけれど、ゲートは隣の世界としかつながれていない。どういうことかというと、ここ第二世界からは、第一世界と第三世界にしか行けない。同じように第三世界からは、第二世界と第四世界にしか行けない、ということになる。これがどういうことを示しているかわかるかい?」
うお!いきなり振られてきた!さっき無視しただろ!!
と、心の中で思いつつも、さっき言おうとしたことと、今の突然の質問が合わさって、理解するのにいっぱいいっぱいだった俺は特に何も答えられなかった。というか、良くわからなかった。ひとつわかったのは紛れもなく俺は何かに巻き込まれた、という事実くらいだ!すると、俺の答えを待たず来夏は告げた。
「つまりだね、この世界が第一世界と唯一通じる異世界・・・すなわち、現実世界の最終防衛ラインということだよ。」
その言葉を理解するのに俺はまだ、他に理解できていないことが多すぎた。
だいぶ間が空いてしまいました。
ただ、長い目で見ていただけると幸いです。
次は、守にも喋らせるつもりです。
あとがきは、特に伝えたいことがない限り少なめにすることにしました。
一話分が少ないので書くこともあまりありませんし。
とにかく・・・まだ続きます。