スプリングソング
高校を卒業間近に、僕の下に送られて来た一通の手紙。
それは、僕が中学生の時に離婚した母親からの手紙であった。
この四年間、心の奥に潜ませて置いた僕の記憶は、まだ思い出にはなっていなかった。
それは今も僕の心の中を掻き乱しては、透明な血を流させる。
僕は、強くなりたかった。
放課後の教室は嫌いじゃない。
家路を急ぐ者、部活に勤しむ者、友達と寄り道の計画を立てている者、それぞれが一人、また一人とここを抜けて行く。
そうして、最後に僕が残る。
誰も居ない静かな教室、日が落ち始めると綺麗なオレンジ色のベールを纏い暖炉の明かりのような優しさを与えてくれた。
マフラーを巻いて、ダッフルコートを羽織って、大好きなショパンの曲の入っているMDを聴いているうちに、僕は自然と眠りについた。
部活を終え、教室に戻って来ると宮本は机に突っ伏し、気持ち良さそうに寝息をたてていた。
以前は図書館で借りてきた本を読みながら待っていてくれたが、ここ数日はこのスタイルである。
「宮本、終わったぞ。帰ろう」
声を掛けたが返事は無い。
俺はマフラーの端のふさふさした部分で宮本の鼻をくすぐる。
「んっ・・・」
熟睡している様だ。
ヘッドホンがずれ、聴いたことのあるクラシック曲が漏れてくる。
俺はちょっとした、いたずら心でヘッドホンから覗く宮本の薄い耳たぶをそっと噛んだ。
「! んぁっ」
机の足が勢いよく床を引きずり、ズズッーと奇妙な音が静かな教室に響いた。
いつも冷静な宮本の驚いた様子を見られて、俺は少し嬉しくなった。
「おはよう」
「・・・・・おはよ」
起き抜けだからなのか、俺に耳を噛まれたからなのか、宮本は不機嫌そうに答える。
「随分、気持ち良さそうに眠っていたじゃないか」
俺の問いに宮本は答えずに、黙々と帰り支度を始めた。
目も合わせない。
俺は慌てて、カバンの中にMDをしまい始めている宮本の顔を覗き込んだ。
長い前髪で少し分かりにくい顔の表情から、宮本の気持ちを読み取った俺は後悔した。
宮本は泣いていたのだ。
俺はいつもお前の悲鳴を聞いてから、お前を助けようとする。
いつになったら、それが俺を傷つけていることに気が付く?
目を開けた先に真田がいて僕は安心した。
それと同時に、僕の中の感情が押し流されて来てどうしようもなくなった。
その姿を真田に見られたくなくて咄嗟にうつむいてみたけど、恐らく気が付かれただろう。
母親が出て行った日から見る、嫌なユメ。
ここ暫くは見なくなっていたのに。
再び現われて僕の心を掻き乱す。
母親が僕を置いて出て行った、あの日。
母親の初めて泣いている姿を見た。
今もその場景を忘れられないまま、あの家に僕は居る。
離婚したのは仕方がないと皆は言う。大人の問題だとも。
僕は部外者の意見に同意することで心の平穏を保っていることが出来た。
だが父親とはそれ以来、ギクシャクした関係が続いている。
僕は独りだと思う。
いや、そう思いたいのかもしれない。
一人で不幸を背負って、僕は大勢の中の一人じゃなく、「特別」なんだと思いたいのかも知れない。
そう思うのはなぜ?
救って欲しいから?
認めて欲しいから?
同情して欲しい?
僕の中の醜い感情。
吐き出す先は、社会なのだろうか。
母親は言った。「幸せになってね」と。
泣き腫らした顔と声を僕の心に記憶させて。
目の前の状況に俺は真剣に戸惑っていた。
確かにここ最近様子がおかしかった、と思う。
けれどこんなに切羽詰っていたのならば、友達として気が付かないのは不甲斐ないと思う。
俺は妙な沈黙に耐えきれなくなり、うつむいて泣いている宮本の顎を右手の人差し指で上げると、まじまじと宮本の顔を見た。
綺麗な顔をしている。
「なんで、泣いてる?」
俺は自分の口から出た言葉に、我ながら無神経さを感じて再び後悔した。
宮本は何も答えずに顔を逸らした。指先に宮本の涙が残る。
「ごめん、真田。今日は一人で帰って」
こちらを見ずに、宮本は教室を出て行こうとしたので、慌てて宮本の手を掴んだ。
「なんだよ、せっかく待っててくれたのに。俺一人で帰るのか?」
真田は一人で帰るつもりなど無い。
「そう言う日もあっていいだろ」
しかし、宮本はそうでは無かった。
真田に掴まれた手を振り解くと再び教室を出ようとする。
宮本がドアに手を伸ばした瞬間、真田に後ろから抱きしめられた。
「!」
宮本は驚きのあまり抵抗もせずにおとなしく真田の腕の中に収まった。
「頼むから、泣いてた理由教えてくれ」
宮本は耳元から聞こえる真田の問い掛けに、熱いものが込み上げて来る。
抑えられそうに無い。
どうしようも無く真田に助けて欲しいのに、どうして寸前で冷静になってしまうのだろう。
どうして、言葉を選ぼうとする?
「真田、僕と関わったこと後悔してないか」
宮本は真田と初めて出会った、あの日を思い出していた。
「なんだよ、急に」
あの時も、こんな風に後ろから抱きしめられた。
「教えて欲しい」
だから、僕は生きている。
「お前、相変わらず、変なコト聞くよな。家でなんかあった?」
「・・・・・・・・」
「言いたくなければ無理にとは言わないけど・・・・とは言わない。早く言え」
真田は宮本を離さぬまま右手で拳を作り、宮本の頭をぐりぐりと攻撃した。
「相変わらずは、真田のほうだよ」
真田の拳は宮本の髪をくしゃくしゃにし、宮本の中にあった悲しみを奥へと沈めた。
「言ったら、また俺が抱え込んで重くなって、面倒って思ってるんだろ」
真田の問い掛けに答えるべく、宮本は回された腕を解くと真田に体を向けた。
「でも、それで救われた」
校庭を照らしていた照明が落ちると、空には綺麗な星空が浮かび上がっていた。
僕はビルの屋上でぼぅっと、遠くの景色を眺めているのが好きだった。
そのビルは昔、母親が働いていた会計事務所があり、小さい頃ここでよく母親の仕事が終わるのを待っていた。
その場所で僕はやさしい思い出に浸かっていた。
太陽が沈むその姿を見るまで。
でもあの時は違っていたんだ、あの日はサヨナラしに来たんだ。
中学三年を迎えたある日、僕は進路について担任と父親を交えて面談を行なった。
僕は寮のある私立高校へ行きたかった。
家を出る為だった。
家のあちこちに散りばめられた母親との様々な思い出。
ここで生きて行くには、それを黙認するしかない。
父親は、どう思っているのだろう。
ここから出ようと思わないのだろうか。
こんな、何を取っても母親と結びつく物で溢れている場所に。
僕は進路の事をまだ父親に言っていなかったので、どんな風に反対されるのか心配していた。
しかし、父親は反対するどころか僕の体面的なこじつけの意見を肯定し、逆に担任を困らせていた。
父親は、僕が居なくなることを望んでいた。
担任との会話の端々に、それは紛れも無い事実となって僕の頭を揺さぶる。
そう思われるのは仕方が無いことなのかも知れない。
家に居ても会話らしきものは何一つ無いのだから。
矛盾しているのは自分でもよく分かっている。僕は家を出たかったけど、それでも父親に引き止めて欲しかったんだ。
それがあの家に残れる理由になれたから。
その日の帰り、僕の足は自然とあのビルに向かっていた。
ビル風は心地よく、すぐ目の前の柵を乗り越えれば僕の行きたい場所へ行ける。
決心ではなく、何か引き寄せられるかのように、僕の足はそこへ向かう。
柵に手を掛け、足を上げた瞬間、僕はなぜか地面へと尻餅を着いた。
背後から誰かに飛びつかれたのだ。
「痛たたた・・・ お前さ、何か善からぬコト、考えて無いよな?」
男は後ろから僕を抱きしめたまま、聞いてきた。
「善からぬ事とは、あそこから飛び降りることか?」
僕は計画をあっさりと阻止され、苛立つ。
その男に顔も向けずに訊き返した。
「そうだ。分かってるなら・・・するなよ」
その声は怒りを帯び、後ろから回された腕に力が入る。
「救ってやったと思っているのなら、間違いだ。僕はここに居ても救われない」
「人は、死ぬまでが人生。だから、生きる・・・そのうち死ねるんだからさ」
その声は僕に言っているのでは無く、自分自身に言っている様に聞こえた。
「今は辛いのかも知れないけど、明日になったら生きたいって思うかも知れないだろ」
「思わない」
僕は即座に答えた。
思わないからここに来たのに。
「どうして、そう言える? お前は自分の未来が見えるのか?」
僕は立ち上がると、男を見下ろす。
初めて、男の顔を見た。
僕と同い年くらいだろうか。
「知ったこと言うな! 僕はもう、あの家に帰りたくないんだ!」
「いーねぇ。その眼差し。生きてるって証拠」
男の口振りがからかっているようで頭に来た僕は、思わず男の胸倉を掴んだ。
「じゃぁ、君は僕を幸せに出きるのか?」
男は一瞬きょとんとしたが、すぐに口許を緩めると僕にこう言った。
「いいよ・・・一緒にいてあげる」
今日会ったばかりだと言うのに、なぜだろう・・・こんなにも心惹かれるのは・・・
僕はその言葉に涙が溢れて、男の顔が見えなくなった。
「俺は真田竜也、お前、名前は?」
「宮本・・・涼」
それが、僕と彼の出会い。
街灯はうっすらと僕らを照らし、簡単に暗闇にはしない。
真田は車道側を歩く。
僕は何か話そうと思い真田を見て、驚いた。
暗闇の所為か分からないが、真田の顔がすごく大人びて見えたからだ。
「なに?」
視線を感じた真田が不思議そうに僕を見た。
僕は首を横に振るとポケットに両手を突っ込んで、真田の数歩前へ歩き出した。
「宮本・・・蒸し返すようで悪いけど、なんかあった?」
ぴたりと歩くのを止めた宮本が振り返り、まっすぐ俺を見詰めている。
先程の教室での宮本とは違っていた。決心したのだろう。
「母親から、手紙が届いた・・・」
「なるほど」
真田の返事は深刻な表情の宮本とは対照的だった。
「せっかく忘れかけてたのに、また思い出させようとするんだ」
「内容は?」
「・・・・・・・・まだ、見てない」
宮本は目を伏せた。
「怖いんだな、傷つくのが」
真田はポツリと呟いた。
その声は宮本には届いていない。
「駄目だよな、親が離婚したくらいで、こんなズルズル引きずるなんて、な」
「人間なんて、案外脆いものさ。そして意外と図太い」
真田はそう言って、笑った。
「真田・・・僕、あの頃と何も変わってないんだと思う」
「そうか? 自分で思っているより強くなってるよ。だってあの家から逃げていないだろ?」
そう、僕は結局あの家を出なかった。その代わり真田が僕と同じ高校を選び、今がある。
単純な事だけど、真田と居るうちに僕の傷は癒えていった。
「その手紙、読みたいんだろ? 今開けてみろよ。俺隣に居てやるから」
「え、今?」
宮本は動揺していた。手紙一つで、心が悲鳴をあげているのに、いきなり過ぎたかな。
でも、この手紙を開けるまでは、何も始まらないし、終わらせる事もできない。
「持ってるんだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・持って無いよ」
このガキは何言ってるんだか・・・嘘がバレばれだ。
「だって、さっき見たぜ。お前が教室でカバンにMDしまってた時」
宮本は手紙を見られていたことに驚き、すぐに観念した。
「なんだ、見られてたのか・・・・」
『張ったりだったのに・・・』真田は、広い意味で宮本の将来を心配した。
宮本はカバンから手紙を取り出すと、真田に渡した。
「明日まで預かっていて」
「・・・・・」
真田は手紙をコートのポケットに突っ込むと、溜息を吐いた。
やっぱり僕の思い過ごしだ。
一瞬だけ垣間見た真田の大人っぽい雰囲気は暗闇のせいかも知れない。
いつもの真田だ。僕はなぜだか安心した。
「明日、それ見るときは側に居てくれよ」
「へいへい」
別にいいんだよ。
俺ならすぐにでも手紙を読んでしまうだろうけど。
宮本は少しずつ大人になればいいんだ。
俺みたいに汚れて欲しくない。
だから、明日は不安でいっぱいのお前の側に居てやる。
宮本と別れた後、俺は近くの公園のベンチに座るとタバコに火を着けた。
「なんかさぁ、もうそろそろ限界かも・・・」
誰も居ない不気味な公園で一人呟く。
宮本は俺のこと、どう思っているんだろう。
「こんな手紙、今更送って来るなよ・・・息子は随分、心、乱してますよ」
俺は宮本から預かった手紙をコートのポケットから取り出すと眺めた。
薄い桜色の封筒に、綺麗な字が書かれている。
「一度は捨てた家族に今更、何を言いたいんだ?」
真田は手紙を摘み上げ、顔の前に持ってきている。
その姿はまるで、手紙と会話しているかのようだ。
「あんまり早く宮本を大人にしないでくれ。俺はあいつの弱いとこ、好きなんだからさ」
真田には分かっていた、この手紙によって宮本はまた一つ強くなって、成長することを。
手紙を膝の上に置くと、タバコを深く吸った。
春はもうすぐだが、夜は深々としている。
そこへ一片の風が通り過ぎ、桜色の封筒を地面に落とす。
真田は慌てて、拾い上げると微かに着いた砂汚れを払い落とした。
そして真田は、その時初めて送り主の名前を見ることになった。
一瞬、血の気が引いた。
「これ・・・あの人、なのか・・・」
真田は吸っていたタバコを慌てて消すと、手紙の封を開けた。
その人は、いつの間にか家族になっていた。
小さい頃のことはよく覚えていないが、本当の母親じゃない事も世間から知らされていた。
それでも、その人は特別なんかじゃなく、俺の母親になっていた。
父親は会計士で、まだ俺が生まれて間もない頃に本当の母親は事故で亡くなった。
それは、まだ幼かった俺にとっては悲しみの対象ではなかった。
だからこそ、あの人は自然と家族になれたのかも知れない。
小学六年の頃、その父親も亡くなった。
親戚筋はあの人を快くは迎えてくれなかったけど、俺を引き取る手間が省けるならと、一緒に住むことを許してくれた。
その頃になると、あの人に本当の家族が居ることは知っていたから、俺はあの人の昔には極力触れないように生活していた。
それでも、なぜだかすごく知りたくて一度尋ねたことがある。
『宮本美耶子』
手紙に書かれたその名前である。
それはあの人の以前の名であった。
こんなに近くに居たのに、一度も疑った事が無かった。
あの人に家族が居るのは知っていたけど、子供はいないと聞いていたからだ。
でも、もし宮本があの人の子供なら、辻褄が合う。
初めて会った場所。
あそこは父親が会計事務所を開いていたビルの屋上だった。
そして、そこにはあの人も一緒に働いていた。
宮本は、ここから眺める世界が好きと言っていたが、本当は母親の面影を追っていたのかも知れない。だとすれば、その原因を作ったのは俺だ。
父親が亡くなって親戚の所へしばらく転々としたが、どこにも馴染めなかった。
俺はあの人が欲しかった、側にずっといて欲しかった。
だから、どうしても必要だったから、奪ってしまったんだ。
俺は、ケータイを鳴らした。
「はい、どうした? 電車乗り遅れたのか?」
宮本の心配そうな声が聞こえた。
「悪い。今から会えないか?」
真田の切羽詰った声は、あまり聞いたことが無い。
「なんか、よく分からないけど・・・いいよ。どこにいるの?」
「近くの公園」
結局、落ち着いて話すのはここしか無いような気がしたのだ。
ベンチに座ってから、どれくらいの時が経ったのだろう。
隣に座る真田は終止無言だ。
「な、どうしたんだ?」
宮本から口を開いた。
「宮本・・・美耶子」
それは、四年たった今も触れないようにしてきた存在。
「その人は今、俺の母親だ」
真田は手紙の差出人が書かれている方を上にすると、宮本に差し出した。
「は? な、なんで・・・嘘だろ」
さらに追い討ちを掛けるように真田は言葉を続ける。
「本当だ、宮本から母親を奪ったの、俺の父親、いや俺なのかも知れない・・・」
「う、嘘だ! 」
「この手紙、今読んで」
宮本の腕を掴むと無理やり手紙を握らせた。
「・・・・・・・・・・」
宮本は、じっと手紙を見詰めていた。
「初めて出会った、あの場所。覚えているか? あのビル、俺の父親が会計事務所開いていたんだ。父親は死んだから、今は無いけどな」
「会計事務所・・・母さんも、そこに居た・・・」
宮本は、真田の言葉を心で否定しながらも、その言葉のパズルのピースが自分の記憶と合わさって、フラッシュバックした。それでも、信じたくない。
「俺、お前と出会ったこと、運命だと思う。だって、宮本の母親、今は俺の母親に」
「やめろ! やめろ! やめろぉ! もう何も言うな! あの人は、あの人はなぁ、他の男と不倫しながら平然と俺たちと生活出来るような最低な奴なんだ!」
宮本は真田の言葉を遮った。
耳を塞ぎ、今にも発狂しそうだ。
真田は、宮本の耳を塞いでいる腕を優しく外すと、言葉を続けた。
「宮本が、そう思うの仕方がないと思う。けど、父親が亡くなった時、俺辛かったけど、あの人が居たから乗り越えられた。だから・・・必要だった・・・・」
「僕は、自分を捨てた母親の不倫相手の子供と友達になった・・・真田はこれが『運命』だって言ったけど、僕は違うと思う。これはただの・・・『偶然』だ」
僕より、真田を選んだと言うのか?
何が、真田より劣っていたんだ?
ねぇ、母さん。
どうして、僕を、父さんを選ばなかった?
感情が噴出して、宮本は涙が止まらない。
真田は、大きくて男らしい手を宮本の顔に当てると、涙を拭った。
「宮本・・・俺、お前のこと好きだ・・・」
俺が、罪を背負っているのは分かっている。でも、宮本を失いたくない。
突然の告白は自然と宮本に届いた。
「僕だって、好きだよ・・・出会った日からずっと、でも、もう無理だ。真田と一緒に居たら・・・辛くなる」
真田は宮本を胸元に引き寄せると力一杯抱きしめた。
「辛くても、俺から逃げないで欲しい。俺、お前と一緒に居たいから」
あのビルの屋上で抱きしめられた時と変わらない、真田の匂い。
そうだ、真田にこんなにも惹かれるのは、あの夕闇に染まる景色の中、あの腕の中で、母さんの匂いを感じたからかも知れない。
僕たちは、親友と呼べるには浅すぎて、友達と呼ぶには重すぎる月日を過ごしてきた。
僕の中でいつかは思い出になるのだろうか。
答えなんて一つじゃない。何が正しいか、それは未来の自分が決めてくれるはず。
ならば、共に居るのは真田がいい。
「手紙・・・読むよ。だから隣に居てくれ」
「ああ、側に居る」
二人は見詰め合うと、照れくさそうに笑った。
だって、ほら、もうすぐ春の歌が聴こえる。
おわり
話の中に「MD」が出てきますが、今はMP3とかアップル社のとか・・・
UPする為に読み直しましたが、時代を感じました(笑)。
でも、あえてそのままで・・・
読んで頂いてありがとうございました。