1.手のひらの温もり
初投稿です。よろしくお願いします。
慌ただしく年末を駆け抜けた千歳 花菜は、待ち望んだ仕事納めの時を迎えた。
少し浮き足立ちながら、いつものスーパーで夕飯の調達をする。
帰省した人達だろうか。
いつもは閑散とした店内が、少し活気で溢れている。
山積みの買い物かごを囲む家族を横目に、私は今日もお気に入りのお惣菜をレジへと運んだ。
財布から小銭を取り出そうとした瞬間、仕事納めで浮かれる私の手から、小銭が数枚溢れ落ちる。
「わ、わっ…」
急いで数枚拾うが、レジの下に隠れた1枚にどうしても手が届かない。
(まぁ、1枚くらいいっか…)
恥ずかしさもあり、諦めて店を後にする。
外へ出ると寒さから逃れるように車へと向かった。
「あの、すみません」
私に向かって投げかけられる落ち着いた低い声。
声のした方を振り向くと、この街の空気とは少しだけ異なる、整った顔立ちの男性が立っていた。
帰省した人だろうか?
とその容姿に見惚れていると、彼は1枚の小銭を私の手のひらへと置く。
感情の見えない瞳がこちらを捉える。
「忘れ物」
白い息を吐きながら呟いた彼は、用が済むなり淡々と背を向け、冬の空気の中へ溶けるように立ち去っていった。
わざわざモデルのようにスラッとした足を折り曲げて、私のような一般人の小銭を拾ったとでも言うのだろうか。
容姿と行動のギャップに私はお礼を言うのも忘れて、その高い影をただ呆然と見送る。
握られた小銭に残る微かな温かさが、寒さを忘れさせるように全身へ広がっていった。




