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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第9話 ダンジョンへ行こう

「坊主の教育方針は決まった。やばい魔物とバンバンやりあえるぜ。お前らはせいぜい坊主が死なないよう、しっかりサポートしてやれ」


「おいおい、無茶をさせ過ぎると訓練にならなくなるぞ」


「いきなりドラゴンとやらせたりなんかしないさ。こいつに足りないものを補うのが先決だ」


 常軌を逸した訓練とかではなさそうだけど、不安のほうが大きい。


「じゃあ、今後一ヶ月の計画を説明する。もちろん、坊主の成長の度合いによって変更はありうる」


 アルベリオさんが立ち上がると、パーティの他の仲間は椅子に座った。


「マルくんはこっちくるのにゃ」


 ライナさんに呼ばれて近寄ると、ぎゅっと抱っこされてそのまま膝の上に座らされた。


「にゃはははー、マルくんかわいいにゃー」


 後ろから逃げないようにがっちりホールドされると、頭をなでなでされた。


「ライナ、それはハラスメントよ」


 トリエルさんが窘めてくれたが、まったく聞く耳などもってくれなかった。


「……じ、じゃあ今後の計画を話していくぞ!」




「いいか、坊主。お前の今のところの欠点は、集団の敵を相手にしたときの敵位置の把握ができてないことだ。この前のホーンラビットとの戦いで最後危なかったのはそのせいだ」


 アルベリオさんに連れてこられたのは、森の中のゴブリンの住処だった。なんとか目で確認できる距離で早速指導が入った。


「だが、一匹の敵を仕留めるのにそいつに集中しないなんてことは不可能だ。だからそれ自体は正しい行動だ。要はそれでも全体の位置を把握しておくことが重要なんだ」


【ゴブリン】小鬼とも呼ばれる人族によく似た形態の二足歩行の魔物である。小柄でそこそこの知性があり、武器を扱うことができたり、集団行動に優れている。


 繁殖力が凄まじく、つがいを一年放置すると百匹以上になると言われている。食料が減ったり発情期に入ると積極的に集団で人族を襲うようになる。すなわち、放置して数が増えると食料が足りなくなるので襲うようになるということである。よって重点要駆除対象となっている。


 一個体はEランクでも倒せるが、たいていは集団行動をしているため適正ランクはCである。知性の高い個体がいる場合はBランクパーティでも全滅させられた事例は数え切れないので注意が必要である。


「ゴブリンはホーンラビットよりは動きが遅いから目を離した隙に見失うなんてことは少ないはずだ。だが、知恵が回る分厄介だ。どうやって戦うのがいい?」


 僕は怒られたくないのできちんと考えてから答えた。


「まずは仲間の位置を正しく把握する」


「そうだ!」


 力強く肯定してくれた。


「仲間がやられない限り、仲間がいるところから攻撃を受けることはほぼあり得ない。つまりそこは警戒する必要はない。見るべき範囲を絞れるということだ」


「ってか、間違えて仲間を攻撃したらダメなのにゃ」


「仲間から離れすぎてしまうとパーティで戦うメリットが少なくなる。いい距離感を保つことも大事だぞ」


「で、でも……みなさん。ゴブリンうじゃうじゃいますよ。大丈夫なんですか?」


「マルくんの視野の確保のトレーニングなのにゃ。ちょうどいいにゃ!」


「いざとなったら、私の結界魔法があるわ」


「準備はいいな。じゃあ、行くぜ」


 パーティ全員でゴブリンの住処へ駆けた。




 結果として、アルベリオさんの訓練は的を射ていた。


 ゴブリンの巣には百匹近い成体がいたが、その半分ほどは僕が倒した。序盤こそ仲間の支援が必要だったが、数分もすれば慣れてきて敵に背後を取られることはなくなった。敵の位置を常に把握しながら戦えるというのは想像以上に楽になる。


「にゅふふふー。マルくんはすごい子なのにゃー」


 今日もいつものオープンカフェに集まって打ち合わせだ。そして、いつものように僕はライナさんの膝の上に座らされていた。


「アルベリオのやり方はどうか思ったけど、正しかったと認めざるを得ないようね」


「そうだな、一週間ほどでホーンラビット十匹程度ならマルク一人で簡単に倒せるようになってしまったしな」


 加入して十日が過ぎようとしていた。今日は湿地帯のリザードマンの巣を片付けてきた。リザードマンは一個体ならCランクが標準、集団ならBランクが適正となっている。


「ああ、こいつはやるぜ」


 アルベリオさんはいつもそうなのだが、今日はとくに得意気だ。


「だけど坊主、忘れんなよ。お前がやれている一番の理由はその短剣だ。異常なまでによく斬れるから、敵を一撃で沈黙させられる。普通の剣ならお前のレベルはDランクがいいところだ」


 そう言いながらも機嫌はいいようで、いつもは頼まないエールを注文すると、ぐいっと飲み干してすぐにお代わりを頼んだ。


「じゃあ、うちもエール飲んじゃお。マルくんはお子様だから飲んじゃダメなのにゃ」


「そうね、私も久しぶりに飲もうかしら」


「トリエルは毎晩がぶがぶ飲んでるにゃ」


「昼間には飲まないわ」


「そうだな。何を気にするでもなく飲むのもいいことだな。セシリーはどうだ?」


「私は苦手で……それにあんまりお仕事できてないですし」


 できてないというのは不正確な表現だと思った。誰も怪我をしないから治癒師の仕事がないだけだ。治癒師が暇なのはいいことだが、やはり仕事をして役に立っているという実感はほしいだろう。


「よーし、じゃあ次はダンジョンに行ってみるか。ちょっとくらい怪我は勉強しといた方がいいだろう」


「え? 私、そんな意味で言ったわけじゃ……」


 それを聞いて、セシリーさんは言葉を誤ったと青ざめた。


「新人連れてダンジョン?」


「それはさすがにギルドも怒るわよ」


「マルくんを傷つけるのは許さないにゃ!」


 ダンジョンとは、魔王が現れた頃に各地で発生した洞窟のようなものである。このエリメルの町周辺でも五〇近くが確認されている。強力な魔物がまさに「湧いて」出てくる場所であり、これが当時の人族を大いに苦しめた。


 ただ、魔王が倒れた今、相変わらず魔物は湧いているものの、ダンジョンの外に出てくることはなくなった。魔王の死により地上から魔素が消え、それが生成できるダンジョンの中でしか強い魔物は生きていけないという説が有力である。


 人はダンジョンを「魔王の残滓」と呼んでいる。


 内部の魔物の数が一定以上になると魔物が湧かなくなるのだが、今度は数が増えない代わりに中の魔物はどんどん強くなっていき、万が一でも魔物がダンジョンから出てこようものなら取り返しのつかないことになる。定期的に魔物を駆逐してダンジョンを落ち着かせる必要がある。


 ギルドが定める標準はCランク以上で、能力に見合わないと判断されればその依頼を受けることができない。


「だが、新人をダンジョンに連れて行ってはならないなんてルールはない。坊主の能力はその短剣の切れ味によるところが大きいが、普通の剣でもDランクでも通じるだろう。ならば、短剣の補正込みでCランクと見なしてもいいんじゃねえか」


「まあ、その辺りの判断はこっちに委ねられるから問題はなかろうが、取り返しのつかないことになってからでは遅いぞ」


「何度も言うが、ぬるい環境で育てることはそいつの才能を潰すのと同じことだ」


 アルベリオさんは無茶な計画を立てているように見える。だけど、確かにこの人の言う通りにやれば自分は成長できていると感じることができる。それはみんなが認めることでもあるようで、誰もそれ以上の反対はできなかった。


「そうだな。ゾンビが湧いてくる墓場のダンジョンとかよさそうだな」

読んでいただきありがとうございます。

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