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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第7話 マルクの短剣

「うお、ガントベアだ!」


【ガントベア】体長二メートル弱のクマ型の魔物。クマ型の魔物の中ではまだ小柄な方であるが腕の筋力と爪の鋭さは尋常でなく、自分の胴と同じ太さの木なら簡単に折り倒してしまう。


 厄介なのは、人間界のクマと同様に筋肉と皮下脂肪が分厚いことである。一般人がどれだけ剣を突き刺そうとしても刺さらない。もし刺さったとしても皮下脂肪で止まり肉に到達しない。そして抜けない。必死に剣を抜こうとしている間にその爪の餌食になってしまうことが多いので注意が必要。


 討伐適性はAランク。血の臭いに反応して凶暴化するので、魔物を倒した後の返り血などにも興奮して襲ってくることがある。Bランク以下の場合は、クマよけの魔道具を所持することを強く勧める。


 ずらりとAランク以上がそろうこのパーティにクマよけなんて必要ない。そんなもの誰ももってないから、クマは何の躊躇もなく突進してきた。


「マルク! 逃げろ!!」


 ガントベアの本能としてまず血の臭いがする方を攻撃する。普通、それは手負いである弱い獲物であるからだ。自分には今、大量の返り血がついている。


 構えようとしたときには、ガントベアはすでに僕の眼前に迫っていた。


 直線的に走るだけならホーンラビットより速い。


「うわあああああ!」


 あまりに急なできごとに叫び声を上げることしかできなかった。


 思考は停止し、何をすればよいかもわからなくなった。


 それはパーティの他の者も同じだった。


 誰もがもうダメだと思った。


 鮮血が飛び散った。


 ぼとっという湿った音を立てて肉の塊が落ちた。


 僕のじゃない。落ちたのはガントベアの右腕だった。


「え?」


 自分でも驚いた。闇雲に振った短剣が太いクマの腕を斬り落としていたのだ。


 攻撃の最中に急に腕がなくなったクマはバランスを崩したが、それでももち直して左腕で狙ってくる……前に上半身と下半身が分かたれた。


 ファルタさんの一撃がクマを一刀両断にしていた。


「大丈夫か?」


 駆け寄って僕の無事を確認してくれた。


「おう、さすがAランク」


 対してアルベリオさんはにやついている。僕を殺させるつもりだったのだろうか。


 クマに殺されそうになったこともそうだけど、アルベリオさんの態度のほうがもっと恐ろしかった。


「おい、アルベリオ! お前ならガントベアの接近に気づいていたはずだろう。なんでこんな危険な目に合わせる!?」


 狼人なら鋭い嗅覚でこうなることはわかっていたはずだ。なによりそれ以前のちょっとした不自然な行動は悪意があるとしか理解のしようがなかった。


「坊主の本当の力を見るためだよ」


「なに?」


「この坊主は一対一ならホーンラビットよりもっと強い魔物が相手でもいけるはずだとわかった。ちょうどいい獲物が迫ってきたから見てみようと思ったのさ」


「ガントベアだぞ!」


 ファルタさんの怒声に対し、アルベリオさんは軽薄な笑みを浮かべた。


「だが、こいつは腕を切り落としてみせた。俺の予想どおり……いや予想以上だった。こいつはやるぜ」


「偶然じゃないか!」


「いいや、あの緊急事態で坊主は曲がりなりにもガントベアより先に攻撃した。つまり、攻撃は最大の防御だってことをこいつは肉体で理解してるんだよ」


 ファルタさんがいくら抗議しても、アルベリオさんは持論を展開するだけで聞き入れる様子はない。なんだか二人の関係性が見えてしまった気がした。


「なにがすげえって、その短剣の切れ味だ。子供の体格でクマの腕を落とせる剣ってどんだけだよ。最初にホーンラビットをやったときも、普通の剣じゃあんなにさっくりとは切れねえ。お前、とんでもねえ武器もってやがるな」


 僕の周りを舐めるように歩き、じっとその短剣を見た。


「武器のおかげとはいえ、それを使いこなしてるのはこの坊主だ。なかなか肝が据わってやがるぜ。もうちょっと基礎を勉強する必要はあるが、こいつはかなりの冒険者に化けるぜ」


「……そ、そうなのにゃ?」


「Sランクの俺の目を侮るなよ」


 常識的にこのような判断はあってはならないと思う。


 でも、Sランクまで上り詰めた男の眼力をもってすれば、常識を超えた判断からあらゆる可能性を見出すことができるのかもしれない。Sランクではない者たちには説得力がありすぎて納得せざるを得なかった。


「新人研修の何が面白いって、こういう逸材の原石かもしれない奴を見つけ出すことだ。その才能はぬるいレベルでやってたんじゃ磨くことはできねえ」


 そういって手を差し伸べると、返り血に染まった僕の頭をそっと撫でてみせた。


「いいぜ、お前は俺がきっちりと鍛えてやる」


読んでいただきありがとうございます。

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