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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第6話 ホーンラビット討伐試験

 僕は連れられるままに城壁の外へ出た。きたときとは別の城門を通り、ちょっと遠くに森が見える。


「魔物は昼間、あんまり平地にはいないからな。森へ行こう。あそこはEランク冒険者の練習にはもってこいの場所だ。たまにやばい奴が出ることもあるが、その場合は俺たちがやっつけてやるから安心しな」


 みんなで森の中へ向かった。


「ライナ、索敵だ」


「わかったのにゃ」


 アルベリオさんの指示を受けて豹人のライナさんが魔法を使う。


「左に百メートルほど進むと魔物の気配があるにゃ」


「よーし、どんなのがいるかな」


「それから……」


「それ以上の情報はいい」


 アルベリオさんはなぜかニヤニヤしながら森のさらに奥をのぞき込んだ。


「お、いたいた。ホーンラビットかよ。なかなか手頃な魔物だな」


 二〇メートルほど先にウサギのような魔物が三匹、こちらに気づかず何かの動物の死骸を無心にむさぼっている。


「待て、アルベリオ。あれは一匹ならDランクが適正、複数ならCランクが適正だ。初めての見習いには手頃なんてものじゃないだろ」


「まともに攻撃さえしてこねえスライムとか倒させても意味ねえだろ。おい、坊主。お前はホーンラビットを倒したことはあるか?」


「村人たちと一緒でなら」


「よし、じゃあ行け。もちろん、お前一人でだ」


「せめて俺たちで数を減らして一対一でやらせてやれ。なめてかかるとホーンラビットでも死ぬぞ」


「ふーん、だってさ。どうする、坊主?」


 多分……僕一人でやらないと気に入らないんだろうな。


 知らない魔物じゃない。やれないこともないはずだ。


 ギルドから仮登録をしたときに、魔物の情報を書いた冊子をもらっていた。それによるとホーンラビットとは次のような魔物だそうだ。


【ホーンラビット】額に角の生えたウサギに似た魔物である。その大きさや、長い耳と跳躍力のある後肢はまさにウサギそのものだが、門歯が発達しておらず犬歯が鋭い肉食獣である。


 前肢の筋力が弱く爪もさほど攻撃的ではないので、気をつけるべきは噛みつきと跳躍力を生かして突進して角で突き刺してくることである。


 非常に素早いのでEランクでは追いきれないことが多い。攻撃が単調なのでDランクになれば対応できるだろうが、複数いる場合は一匹に意識を向けてしまうと他から攻撃されてしまうので注意が必要。


 なるほど。


「ひとまず怪我をしても少々ならセシリーの治癒魔法で治せる。だから死なないことを目標にできるだけ倒してみろ。やばくなる前に助けてやるから」


「わかりました」


 動いてもないのに、自分の心臓の鼓動が早まっているのがわかる。


「いいか、テストの合格基準は死なないように戦うことだ。パーティでは仲間が死ぬと、戦力が一気に落ちる。お前の死は仲間の死につながる。わかったな」


「は、はい!」


 言葉はぶっきらぼうだが、その中には冒険者の本質が映し出されていた。


 それはなんだかとても心強かった。


 ――今までやってきたようにすればなんとかなるはず。


 すうっと一息ついて心を落ち着かせる。


「いいな。じゃあ行ってこい!」


 するとアルベリオさんはわざと大声を出して僕を突き飛ばし、ホーンラビットめがけて石を投げつけた。


「え?」


 当然のことながら魔物はこちらの存在に気づき、襲いかかってきた。


 ホーンラビットは体毛に脂分が多く比較的燃えやすい。村ではよく火炎魔法で不意打ちするのが自分の役割だったのだが、それはできなくなってしまった。


 三匹同時を相手にするのは難しい。


 僕はとっさに火炎魔法を周囲の落ち葉に対して放った。あちこちに火がついて、ホーンラビットは本能的にそれを避けた。これによって三匹の動きが乱れ、同時に攻撃できなくなった。


「ほう、手慣れてるな」


 一匹が火の合間を縫って飛びかかってくる。


 僕は攻撃される前に短剣で斬りつけた。お腹がばっくり裂けて内臓を出しながら転がり、あとはもうもがいて苦しむだけになった。


「ナイス! 冷静なのにゃ!」


「一発で決めやがった!」


 だが、危険なのはここからだ。


 どうしても仕留める瞬間に他の二匹を視界から外してしまう。素早いホーンラビットは一瞬目を離しただけでどこに行ったかわからなくなる。


 すぐさま旋風魔法で風を起こし、落ち葉の炎を大きくすると、残ったホーンラビットは火を避けようと攻撃を中止する。


「ホーンラビットの習性をよくわかっているわね」


 一匹は僕のすぐ近くまで迫っておきながら火を恐れて一瞬止まった。それを見逃さず、ホーンラビットの長い耳をつかむとそのまま大きくなった火の中に投げ込んだ。


「ギイイイイイイっ!!」


 死にはしなかったが体毛が燃え、おそらくは全身にかなりの火傷を負ったはずだ。動きが明らかに鈍くなった。こいつは戦闘不能と見なしていい。


 残りはあと一匹だ。


 僕は焦った。今の動きで最後のホーンラビットを完全に見失っていたからだ。


 肉食のホーンラビットは人間の肉など簡単に食いちぎるだけの鋭い牙をもつ。食いつかれどころが悪いと、たった一噛みで殺されてしまう。


「危ない、後ろ!!」


 その声に反応して振り返ると、まさに最後の一匹が首めがけて飛びかかってきているではないか。


 反射的に避けようとするが、間に合いそうもない!


 バン!!


 その瞬間、弾けるような音がしたかと思うと、僕は真っ赤な血のシャワーを浴びることになった。もちろん自分のではない、ホーンラビットのものだ。


「おっと、爆発しちまったか」


「アルベリオ。あんたの火炎魔法を普通にホーンラビットにぶつけたら、燃える前に爆発するのにゃ。ちゃんと考えるのにゃ!」


「おう、悪い、悪い。一人であれだけやれるなら、十分Dランクレベルだ。いいだろう、お前は見習いだが報酬はきちんとやる」


 アルベリオさんは軽快な足取りで近づいてきた。


「でも最後は危なかったです。助かりました。ありがとうございます」


「なに、やばくなったら助けるって約束だ」


 そう言いながら、なぜか途中で足を止めて距離を取った。


「じゃあ、マルクはうちで見習いをするってことでいいな、トリエル?」


 ファルタは満足そうに祈祷師の女に確認した。


「まあ、これだけできるなら報酬はあまり下がらなさそうね。日程をギルドに合わせないといけないのが面倒だけど」


「にゃははー! マルくんは晴れてうちのメンバーなのにゃ……って、は?」


 豹人のライナさんが喜んでいたかと思うと、突如青ざめた。


「はう! やばいのにゃ! この臭いはクマの魔物なのにゃ!!」


「なんだと?」


 狼人や豹人などの獣人は嗅覚が人間の数万倍鋭い。


「ごめんなのにゃ、マルくんの戦いに夢中で全然気づいてなかったのにゃ!」


「近づいているのか? どの辺りだ」


「ううう、この足音……この速さ……」


 すでに森の木々がざわめいていた。ドドドドドドという音がいきなり聞こえたかと思うと、木々の向こうから大きなクマが飛び出した。

読んでいただきありがとうございます。

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