第5話 新人研修させてもらえるかな
ファルタさんに連れられて行った先は、ギルドから少し離れた大通りのオープンカフェだった。どの席も客で埋まってにぎわっていたが、目的のテーブルは歩道すぐそばの四人がいるところのようだ。
「よう、ファルタ。真面目なお前が遅刻なんて珍しいな」
テーブルの椅子にどっかりと座った細身の男の人が言った。頭部に獣の耳が付いている。狼人だ。しゃべり方や服装がチンピラみたいでちょっと怖い。
「アルベリオが時間までにきているのも珍しいな」
「うるせえよ。何かあったのか?」
「すまんな、ギルドでちょっとな」
そう答えると、ぽんと僕の背中を軽く叩いた。巨人にとっての「軽く」は僕にとってかなりの力で、よろけるように一歩前へ進み出ることになった。
「誰なのにゃ、その子?」
「冒険者を目指している」
「その年じゃ仮登録できてないでしょ」
「いや、十七歳だ」
「はあ?」
テーブルに着く全員が、この町にきて何度も見た表情をここでも見せた。
ファルタさんはこれまでの経緯を話した。
「というわけでだ、マルクがうちで見習いを希望するなら受けてやりたいんだが、みんなの意見を聞きたいんだ」
「はーい、賛成、賛成」
嬉々と手を挙げたのは豹人の女の人だった。軽装で髪も短い。
「おいおい、こんなガキだとまともに魔物と戦えやしないだろ」
「えー、だってかわいいのにゃ。私が守ってあげるのにゃ」
「論外ね。私は反対よ」
口を挟んできたのは、長い髪をそのまま垂らした人間の女性だった。あのカソックのような服装や杖は祈祷師特有のものだ。読んでいる本から全く目を離さない。
「新人研修の間は難度の高い依頼を受けられないから報酬が下がる。新人の講習はギルドの都合に合わせないといけないから遠征もできない。面倒しかない」
「おいおい、だからその間は報酬が一・五倍になるんじゃないか」
「まあ、楽して稼げるよな」
「私は面倒は嫌なの」
祈祷師は表情を変えず自分の意見だけを言った。
「セシリーも黙ってないで何か言えよ」
「は、はい!」
さっきから所在なさげに座っていた金髪のエルフの女の子が声を裏返した。エルフは長命だから何歳なのかわからないが、このパーティの中では一番幼く見える。
「わ、私はみなさんの意見に合わせます……」
そう言って愛想笑いした。自信がないのかなと、他人事ながら心配になる。
「なんだよ、相変わらずまとまりのないパーティだな。じゃあ、俺の一存で決めるぞ?」
決定権があるということは、このアルベリオという狼人がパーティのリーダーのようだ。
つまり彼がSランク冒険者ということだ。
「決めてしまう前に、確認しておくことがある。この子は金がないから、見習いの間も報酬を出してやる必要がある」
「へえ、じゃあ低ランクの安い魔物をちまちま狩ってるわけにはいかないな」
「俺もさっき会ったばかりだからなんとも言えないが、協調性に関しては問題ないと考えている。あとは戦闘能力だが、どの程度のものかはまったくわからん」
ファルタさんが補足する。
変に僕に肩入れするわけでもなく、公正に判断するための情報を与えていた。
「おう、坊主。まずお前はどうだ? こんなパーティに一ヶ月とはいえ入りたいか?」
「え?」
会ってすぐなのにわかるわけなどない。
わかることといえば、ファルタさんが面倒見よさそうなことと別のパーティを当たってもその人たちがいい人かどうかわからないということだ。反対意見はあっても、自分がどうこうではなく、単に見習い研修が面倒だという理由だけだ。
「はい。できればここで見習いをさせていただきたいです」
「へえ、判断早いな。いいじゃねえか」
アルベリオさんは快活な笑みを浮かべた。
「ふーん、見たところ田舎では魔物とそれなりにやってきたみたいだ」
「え、わかるんですか?」
「わかるよ。呼吸の仕方が狩人のそれだ」
「冒険者じゃないのに魔物と戦うのにゃ?」
「それはこういった人口がある程度ある町での話だ。クソ田舎だと冒険者ギルドなんてないし、魔物討伐の依頼する暇もねえ。自分たちで魔物を倒すしかないんだよ」
冒険者に頼るにはあまりにも遠いから、自分たちでやっていくしかないんだ。
「それなのに、田舎から出てきて冒険者になる……普通なら、村を守るためにずっとそこに残るもんだが……」
「どういうことだ?」
「お前、村から追放されただろ」
「え!? なんでわかったんですか?」
まさかの図星をつかれて僕は露骨に動揺してしまった。
「なんだマルク、そうだったのか?」
「う!」
まずい、パーティに入れてもらえなくなるかも。
「まあ、ただの無能は追い出されたりなんてしねえ。何かやらかしたんだろ」
「うううう……」
「協調性があって追放されるとしたら、なんかでかいミスをやらかしたか」
「…………」
――ステラが死んだのは本当に僕のせいなんだろうか。
「ははは、まあ、冒険者なんてワケありだらけだ。つまんねえことはほじくらないさ」
アルベリオという人はSランクだからだろうか、何でもお見通しって感じだ。
「じゃあ、こうしよう。テストをしよう。ある程度の魔物が倒せるなら、報酬つきで見習い研修してやる。レベルが低すぎるなら俺たちンとこでの研修はなしだ。文句はねえな」
これに対し、パーティの仲間からの反対意見はなかった。
「それじゃ、ちゃちゃっとやっちまうか。ついてきな」
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