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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第39話 勇者の末裔

『受け継いだ力はきっと一週間もすれば弱くなって、七週間でほとんど消えてしまうだろう。なぜならばそれだけの時間で死んだ者の魂は遠くへ行ってしまうからね。


 死んですぐならそのままの力が使えるのは、その者の魂が近くにあるからさ。だけど、その力は確かにこの身体に残されている。


 私の身体が鍛え上げられ、その力を使うにふさわしくなったとき、一度消えた力は必ず蘇る。だから、仲間の遺志は決して消えることはない』




 ステラは僕にそう教えてくれた。


 その彼女は死んだ。


 まさに、今僕が見たのと同じように……!


 あのときの怒りと悲しみが蘇ると、脳を焼き尽くすような衝撃が迸り、僕の意識は途切れた。




「ぎゃおおおおおおおお!!!」


「なんだ、こいつ?」


 突如獣のごとく叫んだマルクに戦っていたSランクは驚いた。


 だが次の瞬間にはもっと驚かされた。


「うあ?」


 目にもとまらぬ速さで、両腕両足を切り刻まれたのだ。もはや立つことも叶わず地面に転がらされると、次には魔物たちの群れがたかってきた。


 無残な叫び声にミシェルは振り返ることを余儀なくされた。


 だが、何が起こったかを確認する前に死角から鋭い切っ先が迫ってきた。


「なに?」


 刃は頬をかすめ、黒い影が一瞬で通り過ぎる。


 着地してこっちに振り返ったそれは、あの小僧ではないか。


「ぎあああああああ!」


 まるで理性のない獣だ。


 何が起こった?


 ただただ殺意を湛えたこの顔は何の躊躇も、いや何の思考もないままにこちらに突っ込んでくる。


 斬りつけてくる短剣を素手で払おうとすると、ほんのわずかに刃に触れただけで手のひらがばっくリと切れた。


 なんだ、この剣は?


 考えるより先に次の攻撃がくる。


 とにかくあの短剣は危険だ。あれに触れてはならない。


 狙い澄まして小僧の腹部に蹴りを突き刺す。


 身軽なせいで致命傷とはならなかったことはわかった。だが軽さ故に吹っ飛んでゆく。


 地面で何度か跳ねた後、こっちに態勢を向き直すと獣の咆哮を上げた。


「がおおおおおおお!!」


 これはレンジャーの能力? いや……


 それに反応した魔物たちはすべて、ピクッと耳を立ててミシェルの方を見る。


「があああああ!!」


 その声が合図だったのか、魔物たちは一斉にミシェルに襲いかかった。


「ぎゃははは……魔物使いかよ。そんな芸当どこで覚えやがった」


 ミシェルは迫る魔物など気にすることない。


「だがよくよく考えれば、俺の仲間たちはもうみんな死んじまってたんだよな……」


 彼はすでに詠唱を始めていた。


「何も遠慮なんかしなくていいんじゃん」


 詠唱を終え、魔法を放つ。


 Sランクの詠唱つきはとんでもない火力だ。


 ミシェルが放った魔法は、一瞬でダンジョンの空間を殺意に満ちた炎の輝きで埋め尽くした。


 迫る魔物たちは骨すらも蒸発させて消滅した。


 もちろん彼の仲間も、そしてテファニー、カシム、ミラの遺体も。


 光がすべてを消し去った。


 数秒後、光が消えて落ち着きを取り戻した空間だが、壁面は岩盤の一部が溶解して溶岩特有の輝きを放っていた。


 ただ、ミシェルの足下だけは冷たい岩盤のままだ。これだけの魔法を繰り出すには、当然自身の身を守る結界も必要なのだ。


「あっち」


 灼熱の炎の余波が汗を滴らせる。落ちた汗は一瞬で蒸発する。


「はーあ、すっきりした」


 見渡すとすべてがきれいさっぱり消滅していた。溶岩を氷結魔法で冷ましながら辺りをうろついてみると、まだ焼けてないものがひとつだけあった。


「ほう。お前、魔法障壁が使えたんだったな」


 ジャスティンだった。


 だが、魔法障壁もあの魔法には耐えられず、その身の頑強さと精神が熱による蒸発に逆らったのだ。その皮膚は焼けただれ、このままでは数分もすれば命は尽きることだろう。彼がうずくまる地面は今もなお彼の肉体を焼き続けている。


 ミシェルは氷結魔法でジャスティン周辺の溶岩を冷却した。


「治癒魔法をかけてやろう。今ならまだ助かる」


 ジャスティンのダメージは深刻で声を出そうにも出せる状態ではないようだった。


「だが、それにはお前が大事に抱えている小僧を殺すことが条件だ」


 ジャスティンはマルクを抱えていた。あの地獄の業火から守ったのだ。暴れる少年を力ずくで抑え込んでいる。強く圧迫されているせいか呼吸困難になり一瞬意識を失ったが、すぐに覚醒へと移行した。


 今度は暴れることもなさそうだった。




『この剣は、勇者レオンハルトとともに魔王と戦ったドワーフ・ヴィトゥルが命をかけて打った。勇者の末裔である私に託して……』




 ステラは勇者の末裔だった。


 でも死んだ。


 仕方ないから僕がこの剣を預かった。


 勇者の末裔でも何でもないのに。


『ああ……あの穏やかなマルクが……もはや狂気だ』


『記憶を封じるしかあるまい』


『でも、そうしたらステラとの思い出も……』


『そのステラとの思い出がマルクを狂わせているんだ!』


 剣の魔力と怒りのせいだろうか、僕は確かにあのとき正気を失った。


 だから魔法で記憶を消された。


 正統な剣の持ち主じゃないと頭がおかしくなる。


 記憶が消えるから、まだ正常を保っていられる。


 全部じゃないけど、すごく悲しかったのにあんまり覚えてない。


 ああ、そういうことだったっけ……


「ステラ……」


 生き返って、この剣を返させてくれよ。


 きみこそがこの剣をもつべきなんだ。


 そして、勇者が倒し損ねたという魔王を一緒に倒しに行こうよ。


 ステラに教わった剣技や魔法、もっともっと強くさせるからさ。


 だから、生き返ってよ。


 クルフィンウェに会いに行けば、ステラは生き返ってくれるのかい。


 じゃあ僕は一生をかけてもその人を探し当ててみせるよ。


 だから、もう一度僕の前に現れてくれよ……


 僕は目覚めた。

読んでいただきありがとうございます。

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