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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第36話 敵味方の識別

「こ、このクソガキ!!」


 驚いてSランクの審査官が僕を突き飛ばす。


 僕はまた逃げた。だけどどうしたらいい?




『この剣は死んだ仲間の力を受け継いでくれる。その分強くなれる。でも、当たり前だけど自分で仲間を殺したりしたらダメだ。自分が強くなるために、仲間を殺すなんて最低だよね』




 ふと、そんな言葉を思い出した。




『この剣は敵と味方を明確に区分している。味方が敵に殺されたときにだけ、その力を受け継ごうとする』




 これは、ステラ……彼女が僕に話してくれたことだ。


 ――敵。


 敵は誰だ……。




『だから、敵をいくら斬ったところで、経験としての強さは身につくかもしれないけど、敵の力そのものを受け継ぐことはできない。敵の前に散った味方の遺志を……仲間の無念をこの剣は力にすることができるんだ』




 敵は……敵となる魔物はいない。


 どうすればいい?


「このガキ、ぶっ殺してやる!」


 足を刺された審査官が僕に斬りかかる。


 こいつは敵だろうか?


 いいや、味方だ。


「……お前は僕を殺せない! 」


「う!」


 この状況、ルールはジャスティンさんが殺さなければならない。彼が殺してはならない。


 その審査官はミシェルの顔をうかがった。


 返事がくる前に僕はその審査官の足を縦に真っ二つに斬り裂いてやった。


「うぎゃああああ!!」


 立つことができず転がったところで、両目を斬りつけた。その光景はミシェルを完全に怒らせたようだ。僕は叫んだ。


「……敵は、お前だ!!」


「この野郎!」


 ミシェルの魔法が僕を粉々にした……のではない。僕は斬った審査官を盾にしていた。


「殺した! お前は仲間を殺した! お前は敵だ!」


 再び僕は叫んだ。


「なんでだ、さっきまでよろよろと逃げていたのに」


「もう少しで死ぬはずの小僧が、なぜあんな大声を出せる?」


 僕の左手にもつ短剣が怪しく光る。


「おい、右腕の出血が止まってるぞ。治癒魔法を使ってるのか?」


「回復速度が普通じゃないぞ!」


「慌てるな! こんなガキ相手に動揺してんじゃねえ!」


「そうだ、こっちはSランク冒険者がまだ七人いるんだぞ」


 どうやってもまともに勝てる相手ではない。


 しかも、今は右腕を失っている。


「う……」


 誰かの消えるようなうめき声と共に、またしても短剣が光った。


 魔道具に首を絞められた挙げ句、太ももを剣で突き刺されたテファニーさんが失血により死んだ。


「わおおおおおおおおおお!!!」


 僕は奇声を上げた。


「これはレンジャーの魔物呼び!」


「バカか、こいつは。状況を混乱させるつもりだろうが、このダンジョンに魔物はいねえ!」


 いや、短剣から紫色の煙がもうもうと出てきている。それがダンジョン内に広がると、うじゃうじゃと壁面から魔物たちが湧き始めた。


「おいおいおい、マジかよ」


「なんでこんなことが起こるんだよ!」


 地面に落ちた何千というダークウルフやケイブベアなどの魔物は目を開くや否や、鋭い牙を剥いてこちらへ向かってくる。


 こいつらも敵だ!


「うわあああ!」


 Sランクであっても、心の準備もなくこれだけの数が暴れ始めるとさすがに悲鳴を上げるようだ。この場はにわかに混乱状態になった。


「くそ! ジャスティン、さっさとやらねえか!」


「ぐうう!」


 彼は一度決めた覚悟を、し損じたことによって失っていた。新たな命令は彼を一度躊躇させた。だけど、命令に従う以外に活路はないことはわかりきっている。


 二度目の覚悟はあまりに過酷だった。


 そのとき、迷いを捨てきれない彼の足をつかむ者がいた。


「違う、違うよ、ジャスティン」


 ミラさんだった。


「神様が、敵はそっちじゃないって」


「このチビが!」


 怒り心頭のミシェルがミラさんを蹴飛ばした。それでも飽き足らず、何度も何度も何度も何度も蹴りを浴びせ続けた。そのたびに何かが壊れてゆく音が聞こえる。


「うおおおおおおおお!!」


「む、斬撃かよ!」


 僕の動きを見て、ミシェルはミラさんを盾にした。


 だが、お構いなしに僕は剣を振り抜いた。


「ぐあああ!」


 ミシェルの胸がばっくりと割れ、鮮血がほとばしった。さらにその後ろの無数の魔物たちも一瞬で両断される。


「ば、バカが……お前、味方を平気で……」


 だけど、ミラさんには斬られた跡は一切ない。


「な……なんだと?」


「僕の剣は、敵だけを斬る!」




『この剣は敵と味方を明確に区別するからこそ、そこに技を重ねれば、味方を無傷のまま敵を斬ることだってできる』




「ふざけんな、クソガキが!」


 彼は威嚇したが、次にはぽろぽろと自分の指が落ちていった。ミラさんを盾にしたことで、突き出した手の指が切断されたんだ。


 僕はミラさんを奪い返した。


 抱き上げるとすぐにわかった。全身のあちこちの骨が折れている。顔も人相が変わるほどに腫れ上がっていた。


「ごめんなさい、ミラさん」


「小僧……!」


 ミシェルは怒りの形相でこちらを睨む。さすがにSランクだけある。あの斬撃で指や胸を斬られても動揺を見せない。


 だけど僕もそんなのに構っているわけにはいかない。


 ミラさんを横たわらせて治癒魔法をかけると、彼女はみるみる回復していった。


「どういうこと……?」


 そうつぶやくと同時に、彼女は気を失った。


 僕は首に巻き付いた魔道具を引きちぎった。

読んでいただきありがとうございます。

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