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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第34話 調整ダンジョン

 十三人という大所帯でダンジョンの中を進んでいく。


 物見鳥は器用に壁にぶつからないように集団をあらゆる角度から監視している。


 日頃は仲間のパーティが協力しながら索敵や罠の感知をしていくけど、今日は試験なのですべてをジャスティンさんが指示しながら進めなければならない。


「む、この先に魔物が集まっているな。戦闘準備だ」


 そっと物陰から覗くとそこには二十頭ばかりのダークウルフがいた。


「においに敏感な奴だが、気流のおかげでまだ気づかれていない。


【ダークウルフ】狼型の魔物。獰猛で体躯も大きく、しかも俊敏性が高い。Bランクが適正な魔物だが、それが集団となるとAランクでも危ない。


 単純に五人で割れば、一人が四匹を倒さないといけない。いきなり難しい敵と遭遇してしまった。


「攻撃魔法を使わずに殲滅せよ」


 審査官が課題を出す。どのような戦術を組み立てるかを審査するんだ。


「いいだろう」


 かなりの難度の課題だが、ジャスティンさんはとくに考える時間も取らずに、すぐさま行動に移った。


 ばっと駆け出して敵の前に躍り出ると、挑発音を立ててその攻撃を自分に仕向ける。集まったところを大きな盾で弾き返す。もちろんそれでダークウルフが大きなダメージを受けたわけではない。


「ミラ、遅延魔法だ!」


 遅延魔法は敵周辺の空気の粘度を上げて自在な動きを封じる魔法だ。それによってダークウルフの俊敏性が格段に落ちた。こうなると戦い慣れた者にとっては大した敵ではない。


 次々と切り伏せられていく。僕もあっさりと五頭を倒した。


「見事だが、なぜ遅延魔法を使った?」


「遅延魔法はこの場合、攻撃魔法のうちに入るのか?」


「そういう意味ではない。その選択をした理由を聞いているだけだ」


「ミラの攻撃魔法ならダークウルフでも今の半分は殲滅できただろう。それをするなということは、パーティの連携でどうやって倒すかを見たかったということだろう。遅延魔法で敵の動きを抑えれば、低ランクでも戦闘に参加しやすくなる。経験を積ませることができる」


「なるほど、素晴らしい選択だ」


 ピピッと音がすると、状況を監視している物見鳥からも声が聞こえた。


『その前に敵を挑発して一か所に集めたことで、遅延魔法をかけ漏らすこともないようにした。そのことも高く評価できる』


 これはギルドマスターからの評価だった。出だしは上々のようだ。


「ミラ、マルクくんは魔法剣士だ。今の彼に身につけられる魔法はあるのか?」


「どうだろう。マルクくんは何の魔法が使える?」


「火炎魔法と旋風魔法です」


「そう。旋風魔法が使えるなら、さっきの遅延魔法が使えるかも」


「へへ、新人育成ポイントを稼いでるね」


 カシムさんが審査官の様子を見ながら茶化す。


「風の魔法で、風を起こさないようにするのがコツだよ」


「じゃあ、次の魔物との戦いでやってみます」


「よし、やってみろ」


 またしてもダークウルフの群れに遭遇したので、さっそく試してみた。


「む、難しい!」


「私が時間を稼ぐ。うまくできるまで何度もやってみろ」


 ジャスティンさんにとってはダークウルフなど歯牙にかけるほどでもないのだろう。相手を挑発しては自分に集めて、僕に遅延魔法を練習する時間をつくってくれた。


「こ、こうか?」


 何度かやってみるとコツがつかめてきた。ダークウルフの動きが明らかに遅くなった。


「よし、いただき!」


 カシムさんとテファニーさんが次々と倒していった。


「まあ、露骨な新人育成アピールだが、そういうこともあるだろう」


 審査官の評価も悪くなかった。


 そんな感じで奥まで進んでいったけど、魔物は思ったより少なかった。


「聞いてもいいか。試験するには魔物が少ないがこれでいいのか?」


「調整ダンジョンが想定通りに変化するとは限らない。ある場所に集中していたりすることもある。まあ、このまま魔物が少ないままなら運がよかったということにしておけ」


「そういうものなのか」


「後日にやり直しを要求してもよいが、また我々審査官の手当てを出さないといけなくなるぞ」


「それは勘弁だな」


 試験は人手がかかるからこそやり直しができない。想定外のことはやむを得ないのかもしれない。


「あそこの魔物は……スライムだ。こんなのがAランクのダンジョンにもいるんだ」


「きゃー、スライムよ。かわいい、かわいい!!」


 テファニーさんはなぜかテンションが上がって写真を撮りまくった。


「スライムなんて汚いだけだろ」


「ダンジョン内のスライムはばっちくないのよ。下水で生きてるわけじゃないから」


「その辺はよくわからんが、試験中なんだ。あれは無視して進むぞ」


 一度攻略されたダンジョンは鉱物が採り尽くされた後、数ヶ月から数年放置されて再生し始める。通常はそれから何十年もかけて再生するけど、その間に強い魔物も弱い魔物もランダムに発生して、その中で淘汰が起きて落ち着いていくらしい。


 調整ダンジョンは、完全に再生しきる前に人が手を加えて魔物を調整しているのでこういうことは珍しくないそうだ。


「じゃあ、私が魔物呼んでみようか」


 レンジャーのテファニーさんは魔物呼びができるようだ。獣のようなけたたましい遠吠えを繰り出した。でも、しばらくしても何も起こらなかった。


「ほんとうに魔物いないじゃん。もしかしてラッキー?」


「運がよかったな」


 審査官の言葉に、ミラさんがつぶやいた。


「いやな予感がする……」


 それは悪意ある神を追い払うためなのだろうか。


「悪意ある神様が意地悪しようとして……」


 言いかけてまわりをきょろきょろする。まるでその神様を探しているかのように。


 その後も魔物はいくつか現れたけど、ジャスティンさんの指示が的確でとくに問題もなく順調に進むことができた。


「思った以上に魔物が少なかったが仕方ないだろう。では最後の課題に入る」


 パーティを集め、審査官たちが取り囲むような位置取りをした。


「それでは……ジャスティン以外の者にこれを渡す」


 何か細い鎖のついたネックレスのようなものだった。


「これを首にかけて、あちらへ集まれ」


「わかったわ」


 それぞれに取りにこさせ、手渡ししてゆく。


 僕は最後にそれを受け取った――いや、受け取るべく右手を差し出したときだった。


 ざくっ!!


 後ろにいた審査官が僕が差し出した右腕を切り落とした。


「え?」


 何が起こったかわからない。混乱が脳を支配する。


 ぼとぼとと腕からこぼれる自分の血液に意識が遠のく。


「何をやっている!?」


 怒声を上げたのはジャスティンさんだった。


「きゃあああ!」


 続いてテファニーさんとミラさんが悲鳴を上げた。


 ようやく自分の身に起こったことが理解できたものの、同時に激しい痛みが襲ってきた。


「うわああああああ!」

読んでいただきありがとうございます。

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