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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第33話 二次審査開始

 夕方まで時間があるので、みんなでギルドで食事をとることにした。


「きゃー! かわいい!!」


 僕とミラさんのツーショットに奇声を上げたのはジェシカさんだった。


「はいはい、写真一枚で銅貨一枚だよ。三〇枚なら銀貨一枚にサービスだ」


「課金、課金。課金、課金」


 ジェシカさんはテファニーさんから魔道具の写真機を借りて僕たちを座らせて写真を撮りまくった。撮った画像を紙に写し出す魔法があるみたいだけど、その紙が山のように積み重なっていた。


「うはうは、うはうは」


 何がいいのかよくわからないけど、危険なものを感じずにはいられない。


「マルクくん、ミラちゃん。今日は私のおうちにいらっしゃい」


 なんというか、人格が破綻してきているというか。こんな人だったかな。


「ジェシカさん、だめですよ」


 諫めたのは見覚えのあるエルフの女性だった。


「セシリーさん」


 僕が言うと、セシリーさんはにっこりと笑顔を返してくれた。


「久しぶりね、マルクくん」


「今、どうされてるんですか」


「とりあえず、パーティには入ってなくて、ギルドの治療院で臨時ではたらいてるの」


 治癒師は希少なため、治癒師がいないパーティのほうが圧倒的に多い。治療院はそんなパーティにとってとても重要だ。かすり傷なら自分たちで治せるが、深い傷はギルドの治療院に駆け込む。もちろん、肉体を欠損した場合は修復師のもとへ行かなければならないが、そこまででもないならここが一番いい。


「ここは忙しいんですか」


「まあまあかな。パーティにいたときのほうが報酬はよかったけど」


「じゃあどうして」


「ん? マルクくんに悪い虫がつかないように」


 と言いながらなぜかジェシカさんを見た。


 どういうことだろう?


「まあ、それは冗談だけど。治癒師はパーティに入るのも一長一短だから。パーティにいれば実践的な経験は積めるけど、場合によっては全然仕事にならないこともあるし」


 確かに、アルベリオさんのパーティでは本当に暇そうだった。


「より治癒力の高い魔法を身につけたいなら、治療院でいろいろな症例を見ながら、落ち着いて魔法の本を読んでいくのも大事なの。今はお勉強の時期かな」


「そうなんですね」


「マルクくんは、新しいパーティに入ったの?」


「まだです。この方たちは今日、昇級試験があって、僕はお手伝いを頼まれました」


 そこへジャスティンさんがやってきた。


「やはり、きみもアルベリオのパーティにいた子だね。私はファルタと仲が良かったんだ。ジャスティンという、今後ともよろしく」


「あ、ファルタさんの……」


 一瞬、セシリーさんの表情が曇った。


「今回私はSランク試験を受けるんだ。そうなればより広範囲の冒険ができるようになる。その際には治癒師が必要になるかもしれん。その場合はパーティ加入をお願いするかもしれない。ぜひ覚えておいてくれないだろうか」


 その後、僕の顔をうかがってから答えた。


「はい、私でよければ」


「うひょ、ついに治癒師付きの冒険ができるのか。すげえな」


「エルフ、かわいい!! エルフ、かわいい!!」


 今度はテファニーさんがセシリーさんをパシャパシャ撮影し始めた。


「大丈夫なの?」


「まあ、多分」


 何について「大丈夫」と聞いているのかよくわからず、僕は適当に答えてしまった。きちんと伝わってないことはセシリーさんも気づいたようで、何か言おうとしていたけど、ずいぶんと言葉を選んでから耳打ちしてこう言った。


「ミシェルさんていたでしょ」


「あ、はい」


「あの人には気をつけて」


 それだけではわからなかった。ただそれは、確信がもてないけど何か危険だということは伝わった。


 アルベリオさんと仲が良かったという人。感じのいい人ではなかった。何かいやなことを企んでいるということなのか。


 とりあえず、あの人のパーティに入るなんてことはないと思う。


 この先どうかわからないけど、そんなに会う機会があるわけじゃない。


 気をつけるだけ、気をつけておこう。




 夕方、全員が指定されたダンジョン前に集まった。


 ギルドはいくつかの攻略済みのダンジョンを管理しており、敢えてある程度放置して魔物を増やし、こういう試験のときなどに利用している。


 思った以上に人が多かった。


 僕らのパーティ五人と審査官という人たちが八人。いずれもSランクの冒険者ということだった。


 Sランクの視点でないとSランクに十分か判断できないのはわかるけど、ちょっと怖い。ほかのメンバーも委縮しているのがわかった。


「あ」


 思わず声がこぼれた。誰も気にしなかったけど。


 だけど僕は少しうろたえた。


 なぜならば、審査官の一人がさっきセシリーさんに気をつけろと言われたミシェルさんだったからだ。


 むこうも気づいたみたいだけど、一度冷たい目線をくれただけでとくに何か言ってくるわけではなかった。


「では、これより二次審査を行う。審査の観点は三つ。パーティの安全への配慮、戦闘時の適切な指示、そして戦況の判断だ。不適切だと判断された場合はこちらから警告する」


「つまり、私が手を出し過ぎるのもよくないということだな」


「そうだ。目安として五回警告を受けるようであれば試験は停止して不合格となる。ただし、致命的な失敗の場合は即失格となるので心するように」


「ダンジョンはAランクパーティに適正とされる魔物レベルに調整されている。受験者以外のこのパーティのメンバーはいずれもBランク以下だ。命の危険がないよう、各自十分注意して臨まれよ」


「この試験では物見鳥を使う。我々だけでなくギルドマスターもこれを通して審査に加わっている。ここでのことはすべて外部に漏れるということだ」


 審査官の手の上から小鳥のような魔道具が六羽ほど飛び立つ。それらが彼らを取り囲むように音もなく空中で羽ばたいてこっちを見ている。鳥が見た映像がそのままギルドマスターに届く仕組みらしい。


『聞こえるか、みんな』


 物見鳥を通じてギルドマスターが声をかけてきた。


『受験者および審査官、日頃からギルドの向上のために尽力してくれること感謝の念に堪えない。さて、今回の試験からもう一つ新人の育成という審査項目も含まれるようになった。これは全員周知のはずだったがうまく連絡が行っていなかったことはギルドマスターとして詫びるところである』


 物見鳥の目から出る光が空中にギルドマスターの頭を下げる映像を映し出した。


『我々はより練度の高い冒険者を育ててゆかねばならん。そう言った意味を込めて設けられた項目だ。だが、初めてのことなのでうまく評価できるかはまだわからないというのが実情だ。だから難しいことは考えなくてよい。まずは安全に帰ってくることを最優先に試験に臨んでほしい。以上だ』


 試験前のあいさつとして変なことを言ったようには思わなかったけど、小役人っぽい印象のせいか、あるいはセシリーさんに気をつけろと言われたのが引っかかっているのか、どうも言葉には裏があるように思えた。


 だからって試験が止まるわけじゃない。


「よし、中に入っていこう」


 僕たちはダンジョンの入口をくぐった。

読んでいただきありがとうございます。

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