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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第32話 神様のいたずら

「やったな、ジャスティン」


 僕たちは戦いを終えたジャスティンさんを迎えに行った。


「もう、ミラがいやな予感がするとかいうから、ちょっと気になっちゃったじゃない。結局、楽勝だったんだけど」


 言われたミラさんは少し不満げだった。


「違う。悪意ある神はいつも意地悪してやろうと狙ってる。でも狙いがばれると面白くないから逃げる。だから、ちょっと変な感じがしたときはあんな風に口にしてはっきり言えば、悪意ある神は逃げていく」


「ほう、それは小人たちの信仰のひとつだったな。ありがとうな、ミラ」


 ジャスティンさんがミラさんの頭を撫でると、嬉しそうだった。小人だとはいえ、本当に子供みたいだ。


「神様本人は試練を与えてその人を成長させようとしてるつもりだけど、実際にはただの迷惑だし、場合によっては大事故になる。不運とはただの神様の頭の悪さ」


「神様って『様』をつけて呼んでるくせに、神様をバカにしてるのがすごいよな」


「バカにしてない。神様が私たちにとっていつも都合のいい存在じゃないってこと」


「僕の村では、不吉なことを口にすると本当にそれが起こるから、滅多に言うなって教えられました。不思議な感じですね」


 今でこそ、人間、巨人、小人は同じ空間で生活しているけど、ずっと昔は別々の土地で暮らしていたらしい。そんな中で生まれた信仰や文化は今なお種族間で残り続け、それぞれが互いの信仰を尊重している。


「一番怖いのは、神様がそこにいないこと。人の悪意だけがいくつも集まると真っ暗になる。神様も寄り付かない」


 ぼそっとこぼれたその言葉は僕の心に刺さるものがあった。


「さて、夕方から二次審査だ。二次審査はパーティ行動を審査されるから、みんなにも参加してもらうぞ。それまではゆっくりしてくれ」


「わかった」


「じゃあ、僕はこれで失礼します。夕方のも頑張ってください」


「おう、またな」


 僕はあのパーティのメンバーじゃないし、二次審査はダンジョン攻略でもあるから一般観覧もできない。僕は彼らと別れた。


 そのときだった。


「ジャスティンさん」


 ギルドの人が走ってきた。


「すみません、ジャスティンさん。急遽なんですが、夕方の二次審査にもう一人メンバーを加えてもらえないでしょうか。できる限りランクの低い冒険者を」


「は? なんでだ」


「Sランクはパーティのリーダーになるからメンバーへの差配を審査されることはご存知だと思います。その中に新人をいかに成長させるかという項目が今月から加わっていたんです。だから低ランク冒険者を加えていただきたいんです。申し訳ありません、私の伝達ミスでした」


「なんだと。意図は汲めるが、いきなりすぎるだろ。それにその新しいメンバーの手当ても払わないといけないのか。ちょっとそれは聞いてないぞ」


 昇級試験は多くの人が関わるためそのためのコストがかかる。ギルドが派遣する審判団の手当てはギルドが負担するが、それ以外、先ほどの対戦相手になった十人やいざというときに控えている高ランク冒険者たちへの手当ては冒険者負担となっている。


 この負担が昇級試験の障壁になっているが、同時にその金を用意できることが受験者のふるいにもなっている。


 新しくメンバーを加えるということは、その人にも手当てを支給しなければならない。試験とはいえ命がけの攻略になるのでちょっとした金額では済まないはずだ。


「すみません、今回は私のミスもあったということで、ギルドがその手当てを負担します」


「とはいっても、今日の夕方の話だぞ。すぐ見つかるかどうか。もし見つからなかった場合はどうするんだ」


「それは何とも……とにかくすぐに探してほしいとのことでした」


「まったく!」


 ジャスティンさんが不手際に腹を立てている横で、メンバーが指をさしていた。


 僕に対して。


「マルクくんがいるじゃないか」


「冒険者になりたて、Eランク」


「なるほどな!」


 その流れは必然ともいえた。


「マルクくん、夕方からダンジョン攻略に参加してもらっていいかな」


「はい、わかりました」


 断る理由などなかった。


「まあ、何とかなったからいいようなものを。きみらしくないんじゃないか、こんな伝達ミスなんて」


「とほほほ……この前の連絡会議、ちゃんと話聞いてたはずなんですけどねえ。本当にすみません。今度何かおごらせてください……」


 肩を落としながらギルドの職員は去って行った。


「じゃあ、マルクくん、一緒に頑張ろうぜ!」


「よろしくお願いします」


「楽しみだね」


 みんながはしゃぎ気味の空気の中、ミラさんは空をぼんやりと見つめていた。


「神様が見えない……」




「ギルドマスター、伝えてきましたよ」


 先ほどの職員は不満げにギルドマスター・ネイサンの前に報告に表れた。


「前の会議、本当にそんな話ありましたか? 僕、覚えないんですけど」


「資料の差し替えがあっただろう。そのときに説明したはずだが」


「そうかなあ」


 ギルドの職員は正確な伝達こそが冒険者の安全を守り、それが信頼につながるとわきまえている。責任ある職員こそ自分のミスには納得できないし、こだわりがある。


「これから受験しようとする者にこちらの不手際で余計な精神的負担を与えるべきではなかったが、日ごろのきみは正確に仕事をしている。今回のことは不問にする」


「……はい」


 不承不承の返事をしてマスターの部屋を出る。役人上がりのギルドマスターになってからは、こちらの話など全く受け付けてくれないことを彼は知ってしまっていた。


 メンバーに低ランク冒険者を加えるだけ。


 実際にそのメンバーはすぐに見つかったし、変化があったところでジャスティンならうまくやるだろう。納得はいかないが、これ以上くよくよしても仕方がない。彼は次の仕事に取り組むことにした。


 その頃、ネイサンのもとにミシェルが訪れていた。


「うまくいったな」


「あのタイミングなら、あのようにしか判断しようがないだろう」


 隣の部屋でさっきのやり取りを聞いていたのだ。


「さて、素晴らしい昇級試験にしてやるぜ」


「いいか、あの小僧を殺すなら確実にやれ。失敗は許さんぞ」


 ネイサンは鋭く念押しした。


「ま、殺すのは俺じゃないがね」

読んでいただきありがとうございます。

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