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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第31話 昇級試験一次審査

 ジャスティンさんの昇級試験はそれから五日後のことだった。


 その間、僕は森に出て魔物を倒したが、やはりEランクでソロとなるとギルドから許可される行動範囲と討伐対象の魔物に限界がある。やっぱりセシリーさんと一時的でもいいからパーティ組んどけばよかったかなと思った。


 反面、この辺りの魔物ならたいていやっつけられる。ということはDランクにはなれると考えてもよさそうだ。昇級試験がどんなものか知っておくためにも、ジャスティンさんの試験を見ておくことは重要なことだった。


 会場は町の中にある闘技場。


 月の十日はここで腕っ節の強い戦士たちの戦いが見世物で行われ、観客がその勝敗を賭ける公営賭博場だ。この戦いでは魔法が禁止されているので冒険者はあまり参加しない。


 他の十日はバザーや町民のイベントごとに使われ、残りの十日はギルドの昇級試験に使われている。入場料を支払えば誰でも観覧することができる。


 五千人を収容するという観客席は、さすがに満席ではないけど結構な人たちが見にきている。それだけ関心をもたれているということだ。


「昇級試験を受けるときは、日頃の実績で査定されるんだ。絶対合格できないレベルなら受験させてもらえない。目安となる魔物の種類とか数とかこなすまでの時間とかあるから、それを何回かクリアできたらいいんだ」


「五年くらい前からそれが厳しくなったっておっさんたちが言ってたわね」


「そんな昔は俺たちも知らないんだけど」


 カシムさんとテファニーさんが楽しそうにしゃべる。


「でも……なんかいやな予感がする」


 僕の隣に座る小人のミラさんがぼそりと言う。闘技場中央に一人で立つジャスティさんをじっと見つめている。


「ジャスティンに意地悪する神様がいる」


「また言ってる」


「ミラは未来予知ができるっぽいけどかなり外すんだよ。あんまり信用してない」


 ミラさん自身の表情もその割にあまり不安げな顔をしていない。


「ちょっと待って!」


 何かに気づいたテファニーさんが大げさな身振りをする。


「わかってはいたけど……気づいてないわけじゃなかったけど……」


 僕とミラさんをじっと覗き込んでこう言った。


「ミラがかわいいことは知ってたけど、マルクくんと並ぶとより際立つというか……相乗効果があるというか……ちょっと二人、もうちょっとくっついて……」


 僕とミラさんの頬をくっつけて、両手の指を絡ませて手をつながせて肩の位置に止めた。


「あひゅー!」


 興奮の声を上げた。


「かわいい! かわいいわ! 栄養! この上ない栄養だわ!」


 目をキラキラさせながら魔道具を取り出すと、僕たちに向けてパシャパシャと音を立てた。何やら映像をそのまま瞬間的に描くことができるらしい。「写真」というそうだ。


「テファニーはかわいいものをなんでも写真に撮る習性があるの」


「この前はかわいらしい幼女を見つけて後をつけて写真を撮りまくってたからな。通報されて逮捕寸前までなったぞ」


 なんかやばい習性だな。


 ミラさんは小人ということもあって確かにかわいらしい。背は僕と同じくらいだけど、人間に比べて手足が若干短く、指も短い。こうやって手をつながされると、その骨格の違いがはっきりと分かる。一説によれば進化によって人間が幼形成熟したのが小人なのだという。


 大きな赤ちゃんというと変な表現だけど、そんな感じの愛らしさが小人にはある。


 しゃべり方が落ち着いているというか、抑揚が少ないので、年齢を推測することができない。でも、女性に年齢を聞くことはできないなあ。


「さあ、始まるよ」


 闘技場に十人の冒険者が集まってくる。


「昇級試験ってのは、そのランクではもう突き抜けすぎて相手にならないことを証明するためのものだ。だから同じランクの奴十人を相手にして苦戦するようじゃだめだ。楽勝くらいの印象を与えないといけない」


「そんな違いがないといけないんですか」


「まあ、ジャスティンなら大丈夫さ」


「受験者の職業と比較するために、相手はほぼ同じような職業が主に選ばれるの。あと、様々な状況も想定しないといけないから何人かは全然違う職業も加わる。今日は六人が戦士系、二人が魔法剣士、二人が魔法使いね」


 ジャスティンさんはタンクと呼ばれる職業で、大雑把には戦士系というくくりになるようだ。


「では、これよりジャスティンの昇級試験一次審査を始める。全員中央へ集まれ」


 闘技場中央に立つ審判みたいな人が場を仕切る。同じ服装をした人が十メートルくらいの間隔で八人並び円をつくる。


「副審の立つ円からは極力出ないようにすること。出ても反則ではないが、十秒以上出たままだと試験放棄とみなすことがある。逆に、敵わないと降参するなら積極的にこの円から出るとよい。対戦相手や審判員を殺せば冒険者資格剝奪とともに通常通り殺人罪で収監される。不慮の事故などといった甘い考えをもつことのないように」


「わかった」


 ジャスティンさんの厳かな返事がこちらにも聞こえる。よく見ると観客席には雰囲気のある冒険者たちがあちこちにいる。何かあったら、この人たちが取り押さえるんだ。想像してたのよりもずっとものものしい場なんだとこのとき気づいた。


「では、始めよ」


 合図と当時に、二人の魔法使いが示し合わせたように魔法を放った。激しい爆発がジャスティンさんを飲み込む。


「うわ、こんな魔法使っていいんですか?」


「はは、タンクやってる奴は防御のスペシャリストだぜ」


 カシムさんは笑っていた。


 爆煙が消えると、ジャスティンさんは無傷だった。


「あの鎧は強力な魔法耐性が仕込んであって、さらにジャスティンは魔法障壁のスキルをもっている」


 だが、爆煙を目隠しに戦士たちが斬りかかる。


 ジャスティンさんは五人の攻撃を同時に大きな盾で受け止めた。しかも片手でだ。そのまま空いたもう片方の手で剣をつかんで横薙ぎにすると、一気に対戦相手たちが吹き飛んだ。


 あれはアルベリオさんの技と同じだ。怪我しないようにかなり力を抑えてるけど。吹っ飛ばされた人たちは勢いで円の外に出てしまった。


 しかし、振り切った瞬間を狙って魔法剣士たちが加速魔法と共に炎の剣で斬りかかってくる。あまりの速さに、これは反応が間に合わないと誰もが思ったが、魔法剣士たちの方が勝手に転んでしまった。


「一瞬、ぬかるみができたように見えましたけど」


「ジャスティンは土魔法を使えるの。レンガでもほんのわずかな時間だけど泥のように柔らかくできる」


「タンクに敵が集中するだろ。ああやってひっくり返しちまえば一網打尽だぜ」


 ジャスティンさんは転んだ二人が視野に入る位置に少し移動した。


 と思ったが、目的はそうではなかったようだ。


 残りの一人の戦士が移動したジャスティンさんに衝突した。彼も加速魔法で魔法剣士たちとは違う視覚の外から攻撃を狙っていたのだ。攻撃を仕掛けようとしたところでジャスティンさんが動いてしまい、あまりの速さで制御が効かずぶつかってしまったのだ。


 そして、その衝撃でダメージを受けたのは戦士の方で、気絶してしまった。巨人ということもあるのだろうが、ジャスティンさんはまったくのノーダメージだった。


 遠距離の魔法使いと近くの転んだままの魔法剣士を一つの視野に入れて剣で威嚇するような姿勢をとると、全員が降参した。


 なんと、一分もかからずに十人を相手に勝ってしまった。しかも圧勝。


 主審は円をつくる副審をぐるりと見て宣言した。


「ジャスティン、一次審査は合格!」


 わあああ、と会場全体に歓声が上がった。


「やったぜ!」


「ま、私は心配してなかったけど」


 ミラさんも嬉しそうに拍手をしていた。


 負けたAランク十人は決してそのランクに恥じるべき戦い方ではなかったと思う。ジャスティンさんがすごすぎたんだ。


 自分もこの闘技場で同じように戦ってみたいと純粋に思った。

読んでいただきありがとうございます。

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