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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第3話 冒険者ギルド

 豪華な建物に入ると、中は吹き抜けの三階建てで、一階は業務の受付、二階は冒険者たちががやがやとだべったり食ったりしているようなのでおそらく食堂だ。三階はあまり人気がないので偉い人たちが控えている感じのようだ。


 入ってまっすぐ進んだ受付に、三人の女性がいた。


「あら、ファルタさん、こんにちは」


「おう、ジェシカさん。この子、冒険者になりたいらしいんだが登録できるかな?」


「え? この子ですか。ずいぶん小さいですけど」


「巨人のファルタさんと並ぶと幼児に見えちゃいますね」


「十七歳だそうだ」


「うそ」


 受付嬢たちは素直に驚いた。


「この子、人間ですよね」


「骨格から判断すればそうだな。年齢が嘘じゃないなら、冒険者に登録してやってくれ」


「わ、わかりました」


 一人がカウンターから出てきて僕をすぐそばにある椅子に座らせると、向かい合うようもう一つ椅子をもってきて腰掛けた。


「うふふふ……ぼく、かわいいね」


 きれいなお姉さんにそんなことを言われて思わず赤面してしまう。


「人族はどの種族でも成長に個人差があります。あなたは成人である十六歳より幼く見えますが、十六歳より若くてもそれ以上に見える子も少なからずいます。冒険者に憧れる子供は多く、見た目が大丈夫そうだから年齢を偽って登録を試みる子は毎年います。子供の安全とギルドの信用を保つために、年齢詐称は厳格に取り締まっています」


 先ほどの優しい顔から厳しい表情に変わった。ギルドにとってはこういうのはとても大事なことなんだと理解できた。


「手を出して」


 言われるままに右手を差し出すと、柔らかな手で握ってきた。そしてしばらく手の甲に指を滑らせた。


「……骨年齢は確かに成人ですね」


「どういうことだ? 俺も年齢診断は初めて見るんだ」


「人間の場合ですね、手のひらと手首のつなぎ目に小さな骨がたくさんあるんですが、十二歳くらいだとまだ小さくて隙間が多いんです。十六歳以上になると大きくなって隙間がなくなってきます。魔法で骨を透視しましたが、この子の骨は成人です」


「個人差があるんじゃないのか?」


「ええ、これはあくまで一つ目の検査に合格したということです。次は魂年齢を見ますね」


 受付嬢は両手でマルクの頬を挟むように触れた。


「記憶をたどって、あなたがいくつの春夏秋冬を過ごしたかを見ますね」


「記憶を? そんなことができるのか」


「精神干渉系の魔法の特殊版と思っていただけたら。記憶の詳細まで読み取ることはできません。冒険者には必要ないですからご存じない方がほとんどです。また、そのような例は見たことありませんが、精神操作を受けた場合は正確に読み取ることはできません。だから骨年齢と併せて年齢判断をします」


 そう言うと意識を集中しているのか、数秒間両目を閉じた。


「……はい、あなたは十七歳で間違いないようです」


「ほう、ということは晴れて冒険者登録だな」


「なんか、ほっとしました……って」


 僕は目の前の受付嬢を見てぎょっとした。


 なぜかぽろぽろと涙を流していた。


「え? 何? なんで?」


 本人もその異常事態に驚いていた。


「ご、ごめんなさい、この魔法は個人の記憶の断片をたどっていくから……きっと何かを拾っちゃったんだわ」


「悲しい過去でも見たということか?」


「ええ、すみません」


 受付嬢は必死で取り繕った。なんだか悪いことをしてしまった気分になる。


 多分、ステラが死んだことなんじゃないだろうか。


「悲しい記憶なんて……人によって感じ方は違いますから。すごく悲惨な事件に巻き込まれたことよりも、幼いときにちょっと独りぼっちになって寂しかった記憶が強く残っている人もいます。この魔法でそんなのはわからないんです」


 鼻声で説明しながら、僕のほうに腕を伸ばしてきた。


 何をするのかと思えば、そのままぎゅっと抱きしめられた。


「大丈夫、大丈夫だからね」


 それは大人の女性が泣いている子供をあやすような口調だった。


「ちょっと、ジェシカ! 何やってるのよ」


 その行為をたしなめたのは、別の受付嬢だった。


「あわわわわ、ごめんなさい。なんだか母性をくすぐられちゃって」


「もう、この子が子供っぽいからまだいいけど、大人だったら大問題よ!」


「いや、十七歳ならまずいですって!」


 きれいなお姉さんに抱きつかれて、他の冒険者たちの嫉妬の視線が僕の背中にぶすぶすと何本も突き刺さるのが感じられた。

読んでいただきありがとうございます。

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