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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第29話 夕方、鍛冶屋の前にて

「おめでとう、マルクくん。これで正式な冒険者だね」


 宿に戻るとセシリーさんが待ってくれていて、お祝いの言葉をくれた。


「ありがとうございます」


 今日でこの宿に泊まるのも最後だ。これからどうしていくか考えないといけない。ただ、それをセシリーさんに言ってしまうと親切な人だから何かしようとしてくれるだろう。それは迷惑になる。僕は別の話題に変えた。


「そういえばセシリーさんはこの一週間、何をされてたんですか?」


「ん、調べもの」


 それは前に聞いた。深く聞いたらまずいことなんだろうか。


「大魔導士クルフィンウェについてね」


「そうなんですか」


 僕はぼんやりと答えてしまった。


「あー。私はきみが会いたいって言うから調べたんだよ。なんかその反応がっかりだな」


「え、いや、すみません。ありがとうございます!」


 確かに、僕が冒険者になった理由はクルフィンウェだった。


「なんてね。私も同じエルフなのに全く知らなかったから興味が出てきただけなんだけど」


「どこにいるかとかわかったんですか?」


「まさか。図書館の本じゃわからないよ。伝説的な存在がどんなものを残したかとかなら見つかったよ」


 正直、僕は興味なかったんだけどセシリーさんが話したそうだったので聞くことにした。


「いろいろあったんだけど、面白かったのが討伐計数機があるじゃない、あれってクルフィンウェの開発した魔法なんだって」


「あれですか? どういう魔法で?」


 何がすごいのかもよくわからない。


「敵と味方を識別する魔法だって」


「へー、なんか地味ですね」


「地味だと思ったけどよく考えるとすごくない? こっちが味方だと思えば味方だし、敵だと思えば敵だと認識するんだよ、魔法で。それでやっつけた敵の数を数えてるんだって」


「はあ」


 討伐計数機に使えそうなのはわかるけど、だからなんだとしか思わない。


「これ応用するとね、敵と味方が入り乱れた戦場で、とんでもない攻撃魔法で全体をぶっ飛ばしても、敵だけをやっつけることができるんだって」


「わあ、すごい。そんな魔法使える人いるんですか?」


「識別魔法と攻撃魔法を同時に使うってことだからね。できる人なんているのかな」


 それはそうだ。二つの魔法を連続して使うことはできるけど、二つの魔法を組み合わせてひとつにするとなるとかなり難しいんじゃないだろうか。とりあえず僕にはできない。


「他にもあるんですか?」


 急に興味がわいてきて僕は調査結果を聞いた。いろいろあったけど、やっぱり地味なものばかりだった。


「へー」


「マルクくんって、興味があるときとないときの差が激しいね」


「え、そうですか。すみません」


「うふふふふ、別にいいと思うよ」


 こんな風にセシリーさんと話すのは初めてだった。そしてこんなにも明るい笑顔を見るのも初めてだった。


 ただ、きちんと話しておかないといけないことがあると、時間と共にはっきりとしてくる。


 これから僕たちはどうすべきなのか。


 明日からの泊まる場所もそうだし、冒険者としてどうすべきなのか。


『明日からパーティ組みませんか』


 そう言った方がいいのだろうか。でもそれはなんとなくの流れだ。パーティ編成をきちんと考えるなら、なんちゃって魔法剣士と治癒師では多分それほど機能しない。他にもメンバーが必要だ。


 何か微妙な空気が僕たちの間に流れた。


 数秒の沈黙の後、「じゃあ、また明日」とそれぞれの部屋へと別れた。




 部屋に戻ってセシリーはふうっとうなだれた。パーティを組まないか打診しようと思ったが口にできなかった。二人で組んでもあまり実戦には向かないし、何より断られるのが怖かった。


 でも今後どうしていくのかは気になる。


 泊まるところに困ってジェシカの家に住むことにでもなったら、あんなことやこんなことまでされてしまうかもしれない。


 十七歳というわりにそういうところには無頓着で、悪い虫がぶんぶんとたかってきそうだ。守ってあげないといけない。


 いや、それ以上に大切なことがあった。


 先日、セシリーはある光景を目にした。


 新人殺しを疑われる、まさにその現場だった。


 彼女はこれまでの時間をむしろそのことについての調査に費やしていたが、当然のことながら諜報能力もないのにそれらしい事実に突き当たることはなかった。


 ところが夕方の町中、鍛冶屋の前に野次馬が集まっているのが気になってつい覗いてしまった。


 冒険者パーティが集まり、主人がうろたえている。最初はパーティが武器のできに難癖をつけているのかと思ったが、むしろ謝っているのは冒険者たちの方だった。


「大切なご子息を……申し訳ありません」


 両腕に抱えられたまだあどけなさの残る少年はぐったりとして動かない。


 そして鍛冶屋の主人はそれを見て泣き崩れる。


 あの主人は、冒険者になりたがってマルクにケチをつけていた男の子の父親ではなかっただろうか。


 ――ということは……。


 あのときの顔をはっきりと覚えていたわけではない。だけど、あの体型や輪郭、鼻の形は確かにあのときの男の子だった。


 おそらく冒険者見習いで戦っているときに魔物にやられたのだ。


 でも、確か彼はまだ成人してないということではなかったか?


「うううう……こんなことになるなら、やらせるんじゃなかった……」


 悲しむ父親に遺体を預けて、その冒険者は耳元に口を近づけて何やらつぶやいていた。


 遠くにいるセシリーには聞こえなかったが、彼女は読唇術が得意だった。


「この子、まだ十六歳になってませんよね。年齢をごまかしてギルドに申請したのではないですか?」


「う?」


 父親は青ざめた。


「気づけなかった我々も、ギルドも申し訳ないことをしたと思っています」


 言葉とは裏腹に、睨み付けるかのように下から相手を見やる。


「でも、これって親がきちんと管理しないといけない問題でしょう?」


 詰め寄られると親は何も言えなくなった。


 年齢を偽ってギルドに登録しようとする未成年は後を絶たない。だから未然に受付が魔法で年齢を正確に読み取って判断する。しかし、どのような手口かわからないが、高額な報酬を払えば裏口からギルド登録をさせるブローカーがいるらしい。


「知ってますよね。おかしな奴らを使ってギルドに裏口から未成年を入れるのは重罪だってこと」


 立ち上がって鍛冶屋を見下ろす冒険者パーティのリーダーらしき男……。


 あれは、ミシェルかというギルドマスターの部屋で会った粗暴な男だった。


 親に顔が見えなくなった角度で、ニヤリとほくそ笑んだ。


 セシリーは直感した。


 ――これは新人殺しだ。


 未成年を守るという立場から、親が知りながら裏口から入れるのは確かに重罪と位置づけられている。


 親が積極的に関与したのであれば収監され、知らなかったということであってもその管理責任が問われる。


 ミシェルは知らないという体でその子を預かり、あえて魔物と戦わせて死なせたと仮定する。どっちにしてもこの親は、死んだ子供の保険金をよこせと主張することは難しい。彼は保険金をせしめることに成功する。


 すべて計算ずくといった顔だ。


 この鍛冶屋の親子関係がどういうものかわからないが、子供のわがままを聞いたせいで、ブローカーへ支払った金、得られるはずの死亡保険、そして自分の息子をわずか数日で失うことになった。


 完全な証拠とはいえない。


 だけど辻褄は合う。


 ギルドマスターの部屋でのあの男の剣幕は異常にすら思えた。


 セシリーはあの男とマルクをもう一度会わせてはいけないと直感した。

読んでいただきありがとうございます。

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