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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第27話 悪意ある神様

 その日はあまり魔物に遭遇せず、午後は街に戻ることにした。パーティのランク的にあまり遠出をして帰りに強い魔物に遭遇すると帰れなくなる可能性があるからだ。


「こういうときはスライム討伐だ」

 連れてこられたのは下水道だった。スライムはこういった場所で大量に繁殖している。


【スライム】全身がゼリー状の魔物。手のひらサイズの小さいのから家一軒丸呑みできるほどの大きいのまで様々だが、概して積極的に攻撃してくることはない。ただし、渇水状態になると見境なく攻撃してくるので注意が必要。


 水がないと生きていけないので水のある場所に好んで生息する。そのため町の下水道にも繁殖するようになってしまった。その体内にはさまざまな有害な細菌が繁殖しており、スライムが排水路から人家に出てこようものなら確実にその家は汚染され食中毒や感染症を引き起こす。


 このため、スライムを駆逐するには物理攻撃は適当でない。斬ると細菌だらけの中の汁を浴びてしまうからだ。火炎魔法や火の魔道具でしっかり焼いてやるのが適切。


 こんな感じの魔物なので、スライムは定期的に駆除しないと町の住民たちの生活を脅かすのだそうだ。


「ううう、臭え……」


 下水道は悪臭がひどい。詰まったときの除去作業のために歩道がつくられているけど、そんなに広くないから下水に落ちたら最悪だ。


 この依頼をわざわざ受ける高ランク冒険者はいない。低ランク冒険者の手堅い収入源になっているが、悪臭がいやで受けない冒険者も多い。


「いたぞ」


「いろんなのがうじゃうじゃいるぞ」


 においに耐えながら火炎魔法で倒していく。


「やべえ!」


 大きいサイズになると焼き切る前に魔法力がつきてしまうことがある。こんなときにスライムは反撃してくる。細菌だらけの身体をぶつけてくる。


「ひいい!」


 クラトスさんはよけたものの、そのままバランスを崩して下水に落ちてしまった。


「ぎえええ! 口の中に入った! ぺっぺっぺ!」


 それを笑っている暇はない。いくら攻撃性が低いスライムでも自分たちがやられていると認識したらやり返してくる。僕たちはとにかく魔法で焼きまくった。


「見習いのマルクくんが一番スライムをやっつけてるじゃないか」


 実際やってみると、僕の火炎魔法が一番強かった。結果として僕が一番多くのスライムを倒した。


「な、なんだかなぁ……」


「すみません」


「はははは……マルクくんが謝ったらダメじゃないか」


 下水に落ちようが落ちまいがにおいは身体に染み込んでしまっている。この状態では公衆浴場に入らせてくれないので、川で洗ってからギルドに向かう。


 川で身体を洗うのはスライム討伐をしたということであり、スライム討伐をしないといけない低ランクの冒険者ということになる。見かけた人は嘲笑気味に通り過ぎてゆく。


 なかなか惨めな気分にさせられる。


「はああ、さっさとCランクになりたいな」


「とりあえず装備揃えないと」


 いい武器をもてば強い魔物が倒せるようになる。そうすれば報酬は上がる。そうすればさらによい武器をそろえることができる。


「あれ? 財布がない! もしかしてさっきの下水で落とした?」


 しかしなかなかどうして、思ったように物事は進まないのだった。


 夕方にギルドに帰って討伐報告のための討伐計数機を渡す。


「まあ、今回は頑張りましたね。まだ臭いですけど」


 受付嬢のお姉さんが顔なじみのこれまでにない成果に驚いていた。


「新人くんが入ってくれたおかげでたくさん狩れたんだよ」


「新人研修で報酬も一・五倍に増えますしね。よかったですね」


「そうだな。マルクくんがいる間にがっぽり稼ぐことにしよう」


 パーティがにわかに明るくなった。


「マルクくん」


 僕に声をかけてきたのはジェシカさんだった。受付嬢の中でも美人で有名らしく、パーティの仲間たちはその姿に見とれていた。


「あと三十分ほどで勤務終わるから、待っててね」


「え?」


 パーティはにわかにざわついた。


「マルクくん、ジェシカさんとこれから何か約束があるのか?」


「うふふふ、マルクくんは今、私のお家でお泊りしてるんですよー」


 すべての冒険者に対し平等に接しなければならない受付嬢にあるまじき発言だ。


「はあ??」


 パーティがにわかに殺意に満ちる。


「マルクくん」


 後ろから声をかけてきたのはセシリーさんだった。エルフの美しい容貌に、パーティはにわかに胸を高鳴らせた。


「マルクくん、今日の宿とっておいたから、一緒に行きましょう」


「はあ??」



 パーティがにわかに殺意に満ち満ちる。


「セシリーさん、どういうこと? 今日も私の家にいらっしゃればいいのに」


「考えたんですが……やはりギルドの方に長々とお世話になるのは、やはり他の冒険者からいらぬ誤解を招きそうです」


「誤解だなんて……それに家族も楽しみにしてますよ」


 それはなさそうだ。絶対に迷惑に思ってるはずだ。


「とてもありがたいのですが、『冒険者は独立した者であるべし』という教訓もあります。依存関係になる前に、自分たちのことは自分でやる努力をしていきたいのです」


 それは新人研修の講義でも教わったことだ。社会生活をする以上何者にも依存しないことは不可能だが、冒険者はあらゆることを自分でこなし独立した人間であれ、とのことだった。


「セシリーさんはわかりました。では、マルクくんはどうなの?」


 朝のことを思えば、選択肢はひとつだった。




「じゃあ、隣の部屋がマルクくんだからね」


 僕はセシリーさんがとってくれた宿に泊まることにした。冒険者が複数の部屋で長期間宿泊する場合は、一人の名義で借りた方が安くなる。


「借りてる期間は一週間。研修が終わるまでだからね。それ以降はまた考えよう」


「すみません、いろいろとやっていただいて」


「大丈夫だよ。宿泊費はちゃんと払ってもらうから」


「はい」


「じゃあ、お休み」


 挨拶して、それぞれの部屋に入る。


 周りの雰囲気に流されやすい人だと思ってたけど、意外に自分の主張を通す人だった。頼りになる人だと思った。


 翌朝、セシリーさんに声をかけようと思ったが、すでに彼女は出かけていた。なのですぐに研修のためにパーティの集合場所へ向かった。


 そうして研修最終日になった。


「おう、悪い悪い。現場のほうが時間かかっちまってよ、遅くなっちまった」


 ディエゴさんが集合時間に遅れた。食っていくために冒険者以外の仕事もしているから、こういうことは日常茶飯事だ。というより、この一週間で魔物を狩りに出たのはたったの三回だ。みんな別の仕事が忙しくて冒険者どころではない。


 仕事明けでコンディションもそんなにいいわけではない。収入の少なさがあらゆるところでしわ寄せになってている。


 なんでこんな思いをしながら冒険者をしているんだろう。


 だって、強い魔物を倒して英雄になりたいから。


 純粋な思いが彼らを行動させている。


 だけど、僕はこの人たちより少ない人生しか見てきてないわけだけど、どうしても『それ』があると思わざるを得ないときがある。


『それ』とは運の悪さともいえるけど、むしろ悪意ある神の意志と表現した方がいいのではないだろうか。夢に向かって頑張っている誰かに対し、執拗なまでにその道を阻もうとする。


 努力する機会や環境を与えない、評価される機会を与えない、そして夢に向かうために必要な何かを奪う。


「うぎゃあああああ!!」


 魔物と戦って、ディエゴさんが右足ふくらはぎを食いちぎられた。

読んでいただきありがとうございます。

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