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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第26話 新しいパーティ

 朝の陽ざしで僕は目覚めた。なんだかぐっすりと眠ってしまった。


 あくびをしながら身体を起こしたとき、僕はぎょっとした。


 なぜか、部屋の戸の前でセシリーさんとジェシカさんが折り重なるように寝ていたのだ。


 その奥では、ジェシカさんのご両親とお兄さんもいた。


「なんで?」


「や、やあ。マルクくん、おはよう」


 半分寝ぼけながらお兄さんが挨拶してくれた。


「おはようございます。みなさんどうしたんですか?」


「はははは、ジェシカがマルクくんと寝たがるからみんなで止めててね」


「え?」


「昔、犬を飼っていた頃もこんな感じでさ。さすがに男の子相手はまずいからな」


 僕は犬なのか……。


「セシリーさんが睡眠魔法で眠らせたんだけど、寝ぼけながらでも布団に入ろうとするから、もう力ずくで止めるしかなかったんだよ」


 で、このありさまか。


「すみません。僕、全然気づいてなくて」


「ああ、それだけ疲れてたんだろ。気にするな。じゃあ、俺は寝るから……」


 そのままお兄さんは床でいびきをかき始めた。


 ちょっと意外に思ったことがある。


 セシリーさんは引っ込み思案で、いつも一歩引いた位置から物事を見ていた。寝ぼけっぷりがひどいとはいえ、力ずくで人を抑えるなんてこの人らしくない。


「うーん、マルクくーん……」


 寝ぼけたジェシカさんは僕の名前を呼びながら、セシリーさんにぶちゅぶちゅしていた。


「うーん、何……? べちゃべちゃする……」


 自分に当たる柔らかい感触に目覚めたセシリーさんだが、僕と目が合うと同時に自分の状況を理解して青ざめた。


「んん、むにゃむにゃ……?」


 それとほぼ同時に目覚めたジェシカさんも、自分が寝ぼけて何をしていたかに気づくと青ざめた。


 朝から微妙な空気が流れた。




 仕事というのはこういうときにとても役に立つ。


 気まずいことがあっても仕事をしないといけないとなると、次の行動に移らなければならない。何もすることがなかったら気まずさばかりが膨らんでしまっていただろう。


「じ、じゃあ今日は、マルクくんは新しいパーティを探さないといけないわね」


 笑顔は引きつっているが、ジェシカさんは的確に今日のやるべきことを伝えてくれた。


「セ、セシリーさんもパーティがなくなっちゃったから……これからどうしますか?」


 二人は目を合わせなかったが、業務上の会話はできた。


「そ、そうですね。とりあえず一週間くらいは何もしないでゆっくりしたいと思います」


 一週間後——それは僕の研修期間が終わるときだ。


 その日、セシリーさんは勉強したいとのことで一人で図書館に向かった。僕とジェシカさんはギルドへ向かうことになった。


「はーい、じゃあ行きましょうねー」


 道中は手を引かれての出勤となった。


 ギルドに着くと、すぐに新人を受け入れてくれるパーティを見繕ってくれた。快く引き受けてくれたのはDランク冒険者の四人組だった。


「一週間ですが、よろしくお願いします」


「アルベリオのパーティだったんだって? あいつらに比べたらザコもいいところだけど、一応基本は身につけているはずだから、たった一週間だけどしっかり勉強していってくれ」


 リーダーのイアンさんは自嘲気味の笑顔を見せた。


 その他は、クラトスさん、ディエゴさん、ユーノさんという名で、四人は昔からの友人らしい。全員人間だ。


 いかにも駆け出しの冒険者といった装備で、全員が魔法剣士で登録している。幼い頃から同じように訓練してきたから同じ職業になってしまったとのことだ。


「治癒師がいればもう少し頑張れるんだけどな」


 専門職でなくとも切り傷が治せる程度の治癒魔法が使える者はそれなりにおり、彼らも使うことはできる。しかし、大けがでも治せるような治癒の専門家となるとそうそういない。セシリーさんはCランクとはいえ、治癒能力そのものは高いうちに入る。


「じゃあ、とりあえず魔物を狩りに行こう。ひとまず、見本になるかわからないけど、俺たちの戦い方を見てくれ。前のパーティに比べたらへなちょこだろうけど、へなちょこにはへなちょこなりの戦い方があるんだ」


 森に入ってホーンラビットの群れに遭遇する。僕は安全な場所から見物するよう言われ、四人は一気に攻めかかった。


 一分ほど乱戦状態になったが、いつの間にか四人が互いに背を預け、それをホーンラビットが囲むような構図になっていた。見えない背後からの攻撃は受けにくいのでよい陣形だと思った。


 あとは単調に襲いかかるホーンラビットを、魔法を交えながら斬り倒していくだけだった。全員が同じ職業であるがゆえに際立った戦術などはない。目の前にきた敵を倒すだけというとんでもなく地味な戦い方だったが、このパーティの場合、それ以上に優れた戦術は思い当たらなかった。


「いろんな職業がそろってる方が戦術にバリエーションがあるんだろうけど、俺たちはそうじゃないからな」


「勉強になりました」


「なんだよ、それは嫌みか?」


 全くそのつもりはなかったので、僕は焦った。


「アルベリオのパーティだったらもっと派手にドカンと行くんだろ? ってか、あいつにはどんな指導受けたんだ?」


「一人であれくらいの群れに突っ込まされました」


「え?」


 四人は顔を引きつらせた。


「それでやっつけちゃったわけ?」


「まあ……村でも魔物と戦ってましたから」


 その答えに今度はため息が出た。ちょっとやりにくいと思った。


「はははは、研修するパーティ間違えたかもな。俺は一人でホーンラビット十匹は無理だわ」


「でも、僕は常に視野を確保しろって教わりました。そしたらあれだけの数でもなんとか倒せるようになりました。イアンさんたちも視野を確保するためにああいう陣形をとられたんだと思いますし、とても合理的だと思いました」


「そうなの? やっぱ俺たちのやり方って悪くないのかな」


 四人はにわかに気色ばんだが、あの戦い方を続けたところで個人のスキルや集団としての成長はそれほど見込めないとも思った。同じような敵と同じように戦うことを繰り返すだけじゃないだろうか。


 ふと、ギルドでの講義を思い出した。


 エリメルの町には現在二千人ほどの冒険者が登録されている。そして年にその一割に当たる二百人が新たに登録され、同数が辞めていくことで概ねその数が保たれている。辞める理由は高齢と死亡、そして能力の限界を感じてとのことだった。


 冒険者の各ランクの人数はだいたいEランクが四百人、Dランクが千人、Cランクが二百人、Bランクが二百人、Aランクが百人、Sランクが六十人程度だそうだ。


 この内訳はそのまま能力の限界を表わしている。


 つまり、EランクからDランクに上がるのは二年ほど頑張ればたいていの者ができる。だがDランクからCランクに上がることができない。つまり普通の能力しかもって生まれなかった者はこれ以上先には進めない。Cランクから先が選ばれた者の戦場なのだ。


 Cランクでなんとかまともに生活ができる程度の報酬ということは、Dランクはそれどころではない。魔物を倒すだけでは食っていけないから、土地の開墾や建築解体とか、そのほか身体能力を生かした副業をしないといけない。


 僕は冒険者の生活の現実を目の当たりにすることになった。

読んでいただきありがとうございます。

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