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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第23話 休息

 僕たちはジェシカさんの家族に紹介された。


「大変だったな、今日はゆっくりして行きなさい」


「いやなことはさっさと忘れた方がいいぜ」


 事情を聞いてみなさん温かく迎えてくれた。彼女のお父さんは元冒険者、お兄さんは現役の冒険者だったので理解があった。


「さあ、それじゃあ夕食にしましょう。お腹すいたでしょう」


 お母さんが夕食を準備してくれた。連絡がきていたようで、急に増えた二人分はすでに用意されていた。


「いただきまーす」


 みんなでテーブルを囲んで食事をとる。


「って、おい! なんでマルクくんはそこなんだ!!」


 僕がジェシカさんの膝の上に座らされて、家族の全員がツッコミを入れた。


「えー、人数が多いからこうした方がテーブルが広く使えるかなって。はい、マルクくん、あーん」


 そんなこんなで夕食の時間は過ぎた。


 こんなゆったりとした時間っていつ以来だろう。


「風呂はできているから、マルクくんかセシリーさんから入りなさい」


「じゃあ、セシリーさんから……」


「ううん、マルクくんから入って。一番疲れてるのはあなたでしょ」


「え、そうなんですか?」


 セシリーさんはダンジョンからここまでほとんど何もできなかったことを気にしているみたいだ。こういうときは女性を優先した方がいいと思ったけど、あんまり我を通すのはよくないかな。


「はーい、じゃあ一緒にお風呂入りまちょうねー」


 僕はジェシカさんに手を引かれて連れて行かれた。


「おいおいおい! ちょっと待て!!」


 家族が引き留めてくれたおかげで、僕は一人で風呂に入ることができた。




 湯船につかると、湯の中にこれまで溜まってきたものが溶け出して洗い流されていくような気がした。やっぱり疲れていたのだろうか。


 ふうと一息つくと、なんだかとげとげとしたものが消え、これまでのことが冷静に振り返られる。


 ——思い出した。


 僕の短剣の魔性は、本来なら忌み嫌われるべきじゃないかと思う。


 死んだ仲間の力を吸い取るなんて……それを僕は使っている。


 でも、普通は死んだらその人の力は何もなくなってしまう。それが誰かに受け継がれるなら、その人の生きた証が残ることになる。パーティの戦力も理論上は落ちない。合理的だ。


 そして、仲間が死んで、ヒュドラを倒した……。


 それはいいことなのだろうか。


 ……そうだ、僕は仲間に裏切られたんだ。


 これまで親切にしてくれてた人が急に裏切った。ファルタさんは最期、逆らえなかったって言ってたけど、そういうものなんだろうか。そんな簡単なものなんだろうか。


 あのとき、あの人たちはどういう気持ちだったんだろう。


 最初からそのつもりだったなら、僕が絶望した顔はさぞ楽しかったに違いない。そして、彼らは僕を取り残して笑っていた。だけど、それまでのヒュドラとの戦いでは裏切る気配なんて微塵も感じなかった。


 剣がなければ僕は間違いなく死んでいた。


 そして、剣のことをセシリーさんは知ってしまった。彼女は他人に僕の剣のことをしゃべって言いふらしたりするんだろうか。


 そしたら僕はどういう目で見られるようになるんだろう。


 セシリーさんの口を封じないと行けないんだろうか。いや、それはいけないことだ。


 あの人たちも本当は死なせちゃいけなかったんじゃないだろうか。


 でもそうしないと、僕は多分死んでた。


 僕自身、あのとき何を感じてたんだろうか。


「…………」


 これは初めてのことじゃない。


 だけど、もうよく覚えていない。


 今回のことも、どうせそのうち忘れちゃうんだ。


 あの剣をもつようになって、僕の記憶はすごく不安定になった。


 本当に、あの人たちのことを忘れてしまうんだろうか。


「ううう……う、う、うう……」


 気づけば、僕は湯につかったままむせび泣いていた。




 その頃、セシリーはジェシカの兄と話していた。


「立派なおうちですね。うらやましいです」


「父さんはBランク冒険者だったからな。それで五〇歳くらいまで働ければそれなりに不自由なく生活できる。俺はいまだにCランクのままだ。一人暮らしってしてみたいが、収入がきつくてさ」


 二十七歳だという彼だが、Cランクはとくに恥ずべきようなレベルではない。もちろん、この年齢で上のランクの者もたくさんいるわけだが、下のランクの者もゴロゴロいる。標準的だといってよいだろう。


 ただ、ランクはそのまま体力を表わしているともいえる。Cランクだと四〇歳を過ぎた頃から体力的にもたなくなり、引退を考えなければならないことが多い。それまでに倒せる魔物とその報酬を積算すると、その後の人生はなかなか厳しいものがある。


 Aランクになりたい。せめてBランクまでにはならないと老後が厳しい。このことは多くのこの年代が抱える標準的な悩みである。


「なんかさあ、昇級試験の基準が年々厳しくなってさ。高ランク冒険者が増えすぎたってのが理由らしいけど、やってらねえんだよね」


「私もCランクです」


「治癒師のCランクは俺たちのAランクみたいなものじゃん。ランク付けはあくまでも魔物を討伐するための戦闘能力のみで判断されるんだから」


「まあ、私は戦闘が専門ではないですし」


「治癒師なら希少価値高いし、いいパーティに入ればそれなりに稼げるだろうけど、アルベリオはケチだから報酬を中抜きされてたんじゃないの?」


 いきなり故人の悪口が出るとは思わず、セシリーは言葉を濁すしなかった。


「どうなんでしょう。他の人と比べたことがないので」


「セシリーさんはあのパーティに入ってどのくらいだったんだい?」


「四ヶ月ほどでした」


「そうか……ということは新人研修を見るのは始めてだったのかい」


 その口ぶりにはどうも含みがあった。どうやら彼にはアルベリオに対して思うところがあるようだ。


「そうですけど」


 ジェシカの兄はくるっと周りを見回した。


「今からする話は妹には聞かれたくないんだ。受付嬢やってるのに先入観があるとよくないから。あと、マルクくんも知らない方がいい」


 ちなみにジェシカはどうしてもマルクと一緒に風呂に入ろうとするので、両親に監禁されている。


「いや、あくまでも俺たちの間での噂なんだけどね」


 ひとつ間をためてから、続きを口にする。


「アルベリオはどうやら新人殺しをやってたらしいんだ」


「え?」


 初めて聞く言葉はセシリーを混乱させた。


「マルクくんも今回、新人殺しを食らうところだったんじゃないかってね」


 噂話だからこそ、ジェシカの兄の口調は軽い。


 だが、その言葉はセシリーを戦慄させた。

読んでいただきありがとうございます。

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