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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第22話 今日、どこで寝ようか

 僕とセシリーさんはギルドマスターの部屋を出た。


 去り際に部屋の外でいくつか話があった。


「すまなかったな。アルベリオがまさか死ぬなんて思ってもみなかったから、ミシェルは動揺していたようだ。威圧的な態度になっていたことと、そしてそのような者を同席させてしまったことはこちらから謝罪する」


 ギルドマスターは深々と頭を下げた。どことなく小者感を感じさせると思ったけど、冷静に話せばきちんとした人なのだなと印象を改めることにした。


 ただ、仲がいいから公式な記録をとる場にギルドの運営でもない人がいたのは不自然な感じがして嫌だった。


「いいえ、気になさらないでください」


「ただ、今後の調査次第ではまだ聞かなければならないことがあるだろう。その場合は協力してもらうが、大丈夫だな」


「はい」


「それから、これは伝えておかねばならない。これからのきみの新人研修についてだが、実際にはあと一週間残っている」


 忘れていたわけではないが、誰に聞けばいいかわからず気にしていたことだった。


「まずは新しいパーティに属するように努力してくれ。これは形式的なものだ。何かあったら一ヶ月ルールを破ってもよいと冒険者たちが判断したら新人の研修システムが崩壊してしまう恐れがある。きちんと教育を行うという基本ルールは徹底したいんだ」


「わかりました」


「ただ、事情が事情だ。パーティが見つからなかったとしても、あるいはパーティが見つかって何の成果がなかったとしても、これまでのことを鑑みてきみは正式な冒険者に登録するものとする」


「そうですか。ありがとうございます」


 嬉しい話だが、凄惨な事態の後だけに大きく喜ぶことはできなかった。




「マルクくん」


 受付前を通ったところで、受付嬢のお姉さんに声をかけられた。


「これからどうするの?」


「これからですか?」


「ええ、あなたたちはアルベリオさんの借家でみんなで生活していたはずよね。でも、アルベリオさんが亡くなったから、その家はもう使えないと思うわ」


「あ」


 そのことは全く考えてなかった。


 僕たちはあのオープンカフェ近くの集合住宅でそれぞれが個室をとって暮らしていた。リーダーのアルベリオさん名義でまるまる一棟借り上げていた。この方法だと安く借りられるらしい。


「何日かとかそのまま住ませてもらえないんですか?」


「オーナーによるけど、あそこはダメね。すごいがめつい人がやってるから。多分、今日から名義変更して契約し直せって、敷金礼金を巻き上げてくるはずよ」


「えー」


 これまでも家賃を結構天引きされてたのに、敷金礼金とかすごくかかるはずだ。せっかく貯めたお金で装備をそろえようと思ってたのに。


「だからね、しばらくうちに泊まらない?」


「はあ?」


 敏感に反応したのは他の受付嬢のみなさんだった。


「あんた、いくらお気に入りだからって、お持ち帰りする気!?」


「あんないたいけな子を食べちゃおうって魂胆? 犯罪よ!」


 みんなに詰め寄られてしまっていた。


「なんでなんで、そんなことするわけないじゃん。うちには両親だってお兄ちゃんだっているんだから、あんなこととかこんなことなんてできっこないよ!」


 あんなこととかこんなことって何だろう?


「確かにそうだけど!」


「何か信用できない!」


「セシリーさんも一緒のつもりなんだよ。だから絶対変なことなんてしないって!」


 この一言で周りもある程度冷静になった。


「ギルドの者が特定の冒険者にだけ親切にしすぎてはいけないけど、住む場所がないのを助けたいだけだし、短期間なら問題はないはずよね」


「それはその通りね」


 なんとなく許可される流れだ。


「セシリーさんも、うちにきませんか?」


 お姉さんはうつろなセシリーさんにも丁寧に声をかけた。


 それに対してあごだけで肯定が示された。


「まあ、仕方ないわね。今日はマルクくんとセシリーさんはジェシカのうちに泊まりなさい。ただしジェシカ、何かあったらギルドマスターに全部報告するからね」


「わかってるわよ!」


 というわけで今日の宿が決まった。決まったのはいいが、実際の所、僕の意思確認はされていない。


「明日は私の家に泊まるのよ」


「じゃあ、次は私の家ね」


「今日は早く帰って、お掃除しなきゃ」


 なぜか他の受付嬢たちも色めき立っていた。




 受付嬢のジェシカさんの勤務が終わるまで、僕たちは二階の食堂で時間をつぶすことにした。しばらく何も話さないままの時間が続いたが、あるときおもむろにセシリーさんが口を開いた。


「ごめんなさいね。全部マルクくんに押しつけちゃって……」


「え?」


 その声はこれまでにないほどか細く、少し聞き取りにくかった。


「私の方が年上なんだから、私がしっかりしないといけないのに、自分の中ではいろいろショックが大きすぎて……あの人たちが裏切るなんて思わなかったし、死ぬなんて思わなかったし、マルクく……いいえ、なんでもない……」


 僕の名前を出そうとしてやめた。僕があの剣で豹変してしまったことを言いかけたのだろう。


 エルフだからどのくらい年上なのかわからないけど、見た目は同い年くらいにも見えるし、見た目だけで判断すればショックで自我を失ったとしてもおかしいとは思わない。


「なんでかな、なんでかな……」


 今度はぼろぼろと泣き始めた。食堂には多くの人がいて、何事かとこちらを見てくる。だけど、ここで泣き止ませようとなだめるのは違うと思った。


 周りの目は気になったけど、僕は何もしないでそこにいることにした。


 いつまで泣き続けるんだろうと思った頃、セシリーさんは泣き止んで顔を上げた。


「ははは……少しすっきりしたかな……」


 そして困ったような笑顔を見せてくれた。


「ありがとうね。多分、ここまで独りでいたなら私、心が壊れてしまっていたと思う。そばにいてくれてありがとう」


 傾きかけた日差しに照らされながらはにかむ彼女は、僕がこれまで見た中で一番に美しかった。


「クルフィンウェ……」


「はい」


「私も会いたいと思う……」


 どんな人でも生き返らせるという伝説のエルフの魔法使い。


 セシリーさんはパーティのみんなを生き返らせたいと思ったのだろうか。




 そして太陽が町並みの向こうに隠れた頃、ジェシカさんが食堂にやってきた。


「あら、セシリーさんも少し元気になったみたいね。よかったわ」


 そのまま連れられて三人で町中を歩く。


「おい、お前! なんでガキのくせに冒険者の恰好してるんだよ!」


 鍛冶屋の前を通りがかったとき、いきなり文句を言ってきたのは僕と同じくガキだった。


「お前、知らないのか? 遊びでも一般人が冒険者の恰好しちゃいけないんだぞ。武装して街を歩いていいのはギルドに認められた冒険者だけだ」


「あららら、きみ。この子はもう成人してて見習いだけどギルドに認められた冒険者なんだよ。確かにきみより背は低いけど……」


 ジェシカさんが助けてくれた。


「やっぱりか。裏口で十六歳になる前にギルド登録できるって噂があるけど、本当なんだな。どうやって登録した?」


「え? そんな不正は通じないわよ。私たち受付が厳しくチェックしてるんだから」


「嘘つくんじゃねえ。どう見たって十二、三だろうが」


「こら、やめないか!」


 その父親と思われる鍛冶屋の男が少年の首根っこをつかんで引き離した。


「ごめんよ。こいつは早く冒険者になりたくて仕方ないんだ。迷惑をかけたね」


 そのまま引きずって帰っていった。


「ふー、やれやれね。マルクくん、かわいいからちょっかいかけられちゃったね」


「いや、かわいいとか……やめてください」


 ジェシカさんが明るくからかってきたおかげで、嫌な気分に浸ることなく家へ向かうことができた。

読んでいただきありがとうございます。

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