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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第17話 ヒュドラとの戦闘

「準備はいいな。今回はボスまで行くぜ」


 言いたいことは山ほどあるだろうが、誰も言葉を返さなかった。


 町から丸一日ほど歩くと海に出る。突き出た岬の水際から紫色の煙がほのかに出ている場所がある。目的のダンジョンだ。あまりに魔素が強いので煙になって見えるのだという。


 この魔素が一帯に充満すると、そこは魔物が活動できる地帯になると考えられる。ダンジョンから魔物が出てくるかもしれないということだ。


 一刻も早くこのダンジョンは攻略してしまわないといけないのだが、Sランク冒険者を含むパーティがいくつも挑戦して、全滅するか途中で逃げ帰るかしかできていない。


 ギルドは、普段は必要ないと編成を認めていないSランク冒険者だけのパーティを特別編成して攻略することを計画している。


「まあ、心配すんなって。ギルドマスターが許可を出したのは、今度の特別編成でSランクが何人、どの職業が必要か下調べしてほしいからだ。無理と判断した時点で撤退する。行けるなら徹底的に行くがな」


 成功すれば華々しい成果として領主からも褒賞を得られるかもしれない。


 だけど失敗するかもしれない。その場合は撤退すると言ってるけど、それすら簡単にいくかどうかもわからない。


 誰もが不安を隠せないままダンジョンに突入した。


 ダンジョン内部は充満する魔素ですでに息がしづらい。魔素に毒性はないというのが定説だけど、やはりそれを吸入していると自覚してしまうからかそれだけで気分が悪いし、身体が重く感じる。


 そして魔素の量に比例して魔物も強くなる。コンディションの悪さも相まって僕たちのパーティは早々に消耗することになった。


 だけどアルベリオさんは撤退どころか一旦引き返して回復を図るという判断もしなかった。トリエルさんの結界魔法でわずかな休息と治癒を図ったが、その間は彼女が消耗する。


 一度入ってしまえば、もはや誰も文句など言わない。命を削る思いをしながらも目の前の敵をとにかく討ち倒すだけだ。


 端から綱渡りのような状態でリーダー以外の全員が疲弊しきった頃、洞窟の中に巨大な湖が広がった。


 おそらく、ここが最奥部だ。


「くるぜ、ヒュドラ」


 こちらの気配に気づいたのか、湖面がにわかに波立つ。そしてごぼごぼと泡立ったかと思うと、一気に水面が裂けて激しい水しぶきと共に巨大な影が現れた。


 九つの長い首をもつヒュドラが現れた。その先の頭は見上げても見上げてもどこにあるかわからない。とてつもなく大きな胴体が目の前にある。


【ヒュドラ】ドラゴン属の魔物と推定される。現在確認されているのは九つの首をもつ一個体のみで、それ以外は知られていない。


 長い首が三〇メートル、首を除いた胴の体高が一〇メートル、尾を除いた胴の体長が一五メートル、尾長が二〇メートルと推定される。


 巨体に反して攻撃は素早く、九つの首でかみついてきたり、長い尾で殴りつけてきたりする。さらに氷のブレスを放ち、無防備に受ければ一瞬で凍りつき絶命する。


 この魔物を攻略する上でもっとも困難なのは、その再生能力である。これまでの報告では全身を魔法で吹き飛ばしても瞬時に再生したというものがある。客観的な情報が少ないため、ギルドが許可しない限り近寄ってはならない。


 この巨大さをどうやって倒せばいいんだ?


 そして、冒険者ギルドの講習ではこう習った。


【直感的に、どう戦うべきかすらわからない魔物に遭遇したらすぐに逃げろ】


 出会ってすぐになら逃げられるかもしれない。少しでも戦ってから逃げれば追ってくる。その場合逃げ切れない可能性が高い。


「み……みなさん、に……逃げましょう!」


 絞り出すように声にしたのはセシリーさんだった。


 誰もがその意見に同調した。


 一人を除いて。


 アルベリオさんは即座に火炎魔法でヒュドラの首を一つ焼き消した。


「ふん、こんなもんだ」


 しかし、即座に別の頭が氷のブレスを浴びせてくる。それをトリエルさんが障壁魔法を展開して妨げる。同時にいくつもの障壁を空中に展開する。ヒュドラの頭たちは障壁をかわしてあるいは破壊して次々とかみついてくる。


 ファルタさんが弾き返そうとするが、質量差が大きすぎてふっ飛ばされる。即座にセシリーさんが治癒魔法をかける。


 その隙にライナさんが岩石魔法で頭上から大きな岩を崩落させたが、全くダメージが入ったようには見えなかった。ついで弓矢でヒュドラの両目をつぶすことに成功するが、みるみるうちに再生していった。


「うそ!?」


 僕もかみついてきた頭を短剣で切り裂くと、その首は落ちた。


「マルくん、ナイス!」


 だが、続けざまに左手の鋭い爪が襲い掛かる。


 これも切り落とすことで攻撃を避けた。


「マジであの短剣、なんでも切れるのかよ」


 その間にアルベリオさんは次々と魔法でヒュドラの首を焼き払ってゆく。


「なんだと?」


 だが、なくなった首はみるみるうちに再生してしまっている。


「これは……きりがないな……」


 しかし、これだけ凶暴に襲いかかってくるということは、撤退こそ至難であるということに他ならない。


「まあいいや、全部吹っ飛ばしてやればいいんだろ。おいみんな、ちょっと時間稼ぎをしろ!」


「まともに戦えてるの、アルベリオだけにゃ! 無理にゃー!!」


「くそ、やるしかない! ライナ、トリエル!」


 その言葉だけで彼らは何をすべきなのか理解していた。


 ライナさんがありったけの魔法力を使って天井の岩石を崩壊させてヒュドラを生き埋めにした。もちろんこちらにも岩石が降ってくるのだが、トリエルさんの障壁魔法でそれらをはじき返した。


「ライナさん、魔法力ポーションです」


「ああ、準備がいいのにゃ」


「回復するならたくさん飲んでください」


 セシリーさんはいざというときに備えて事前に魔法力ポーションを買い込んでいた。これだけでも希望が大きくなるのだ。僕たちは戦うことができる。


 ひとつの頭がのしかかった岩を押しのけて顔を出す。ファルタさんが駆け上がってその首をはねる。なるほど、同時攻撃を受けにくいこの状況なら、こちらから近づいて攻撃することができる。時間稼ぎにしかならないかもしれないが、今の目的はまさに時間稼ぎだ。


「僕もいきます!」


 僕の短剣は一発で首を落とせる。ファルタさんと二人で地道に首を落としていけば、再生するまでに時間がかかる。アルベリオさんが詠唱を終え、とんでもない魔法を繰り出してくれるまで続ければきっとなんとかなる。


 だけど、敵もこっちの思うようになってくれるわけではなかった。一瞬おとなしくなったかと思うと、のしかかる岩を身体を思い切り回転させることで払い飛ばしてしまった。


 飛び散る岩石の勢いは何重もの障壁魔法を砕き散らせるだけのものだったが、それでもトリエルさんはその魔法発動の速さで仲間に損害を出させなかった。


「アルベリオ、早くしなさい! もう、もたない!」


 詠唱に集中するアルベリオさんは要求に対して答えなかった。


「くうう!!」


 トリエルさんは障壁魔法をヒュドラ全体にかけて動きを封じた。


 これだけの障壁を長時間繰り出すのにどれほどの魔法力が必要なのだろうか。セシリーさんの魔法力ポーションを片手にぐいぐい飲みながら魔法を放ち続ける。それでも魔法力消費の方が速い。


「もう……限界よ……」


 ヒュドラは障壁魔法を破壊してその身の自由を得た。


 そして、閉じ込められている間に、斬られた首のほとんどは完全に再生しようとしていた。


「アルベリオ!!」


 もはやここをなんとかできるのは彼しかいない。


「待たせたな」


 詠唱が完成した。


 アルベリオさんが両手を突き出した次の瞬間、ヒュドラが大爆発した。

読んでいただきありがとうございます。

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