第15話 短剣の秘密
「へえ、こいつが例の小僧か」
なんかアルベリオさんがガラの悪そうな人たちをぞろぞろ連れてきた。
「見習いのくせに、ダンジョン攻略見せてもらったんだってな」
「ラッキーだったな、坊主」
お酒で上機嫌だけど、酔っ払い特有の距離感に異様な怖さがある。
「こいつはやるぜ。根性が座ってる。研修が終わったらCランク試験受けさせようと思ってるんだ」
「ほー、こんなちっこいのに、そんなにやるかよ」
会話に僕を混ぜる気はないみたいだけど、妙に近寄ってきて頭を押さえてくる。
「あんたたち、本を読むのに邪魔だから、別の場所で話してくれない?」
トリエルさんが追い払ってくれた。だけど僕は腕をつかまれて連れて行かれてしまった。
「ちょっと……」
「なんだよ」
トリエルさんは僕を引き戻そうとする仕草をしたものの、アルベリオさんの一言で手が止まった。
そのまま僕は連れて行かれた。まさかボコボコにされるなんてないだろうとはわかっているけど、壁を背負って人相の悪い人たちに囲まれると否が応でも緊張が走る。
「こいつはなかなかやる。田舎育ちで魔物とやりあってたってのもあるから、この辺の町育ちのボンクラとは違うんだよ」
「へーえ」
「だけどな、すげえのはそれだけじゃねえ。こいつの剣だ」
肩をつかんで、そのまま壁に押しつけられた。アルベリオさんはそのまま膝をつくと僕の腰の短剣に触れた。
「なんでもバッサリ斬っちまう。すげえ切れ味だ。斬った魔物に剣が引っかかって手間取ることなんてねえ」
「それはすごいな。戦っててあれが一番面倒なんだ」
「だろ?」
「しかも、実体のない亡霊まで斬れちまうんだぜ」
「まじかよ。そんなの聞いたことねえ」
「そんないい剣もってんのかよ。なんだ、伝説のなんとかか?」
なんでか知らないけどみんなが詰め寄ってくる。身の危険を感じてしまう。
「なあ坊主……いや、マルク。ちょっとその剣見せてくれねえか?」
「え?」
「別にとってやろうとかそういうわけじゃねえ。見せてくれって言ってんだ」
いや、この剣は他人に渡してはいけない。
「いいだろ?」
「いや、これは……」
「おい、小さい子供を取り囲んで何やってんだ。怯えてるじゃないか」
困ったところで助けてくれたのはファルタさんだった。
「あ? 別にいじめてるわけじゃねえよ」
「それはわかっている。だが、大の大人が寄ってたかって子供を取り囲んで。そんな光景は見ていて気分が悪くなる」
「ち、まあ確かにそうだな。別に威嚇してたわけじゃないんだがな。お前らも距離を取ってやれ。詰め過ぎで暑苦しい」
そう言って大人たちを離してくれた。
正直ほっとする。
「だがよ、その剣は実に興味深い。ちょっと手に取って見てもいいか?」
……この剣は渡してはいけない……なんでだっけ?
ほっとしたこともあるのか、いけないと思ったけど、なんでかわからなくなった。
「なあ、いいだろ、ちょっと貸してくれよ」
「あ……あの、これは……」
渡したらどうなるんだ? 何かいけないことでも起こるんだっけ?
「よさないか」
「ファルタもこの剣には興味があるだろ?」
「まあ、確かにその剣の切れ味は素晴らしい」
「だろ? ファルタも見たいらしい。だからさ、貸してくれよ」
差し出された手に対し、僕は反射的に身体を引いた。でも、ここで反感を買ったら今後僕はどうなるんだろう。
「ち、さっさとしやがれ」
アルベリオさんは逃げ道のない僕から腰の短剣を奪い取った。
いけないと思った。だけど何か起こったわけではなかった。
「へえ、なかなかの業物だ。この細工はドワーフのものか?」
「あ……はい、そうだと聞いてます……」
僕はそう答えるしかなかった。
「ドワーフの剣に亡霊が斬れるってあったかな」
アルベリオさんはしげしげと僕の短剣を眺めて口角を上げた。
「まあいいや、試してみるのが一番いい」
「おい、冗談でもそういうことはやめろ。他人の剣を抜くのは礼儀に反する」
ファルタさんの言葉など無視して、短剣を鞘から出した。
そのときだった。
「う!?」
急に前後不覚になったアルベリオさんが一瞬白目を剥き、膝をついた。
「おい、アルベリオ!」
「ぐうう、な、なんだ?」
「はわわわ……すみません、アルベリオさん。大丈夫ですか」
「うっせえ! なんでもねえよ!」
僕を突き飛ばすと、アルベリオさんは剣を手放した。すると、感覚を取り戻したようで、即座にすっくと立ち上がった。そして睨むように周囲を見た。
余りに急に起こった変化に誰もが言葉を失っていた。
「はあ? お前ら何をドン引きしてんだよ。なんでもねえつってんだろが!」
「いや、大丈夫かよ……?」
「どうしたんだ?」
「うるせえな! どきやがれ!」
彼が怒鳴ると、人だかりが瞬時に割れて道ができる。
「お、おい、アルベリオ。主賓のお前がどこ行くんだよ」
「はあ? そんなの知るかよ」
そのままどこかへ行ってしまい、もうこの宴席には戻ってこなかった。
「やれやれ、変なところでプライドが高いからな。恥をかくのがいやなら最初からこんなことしなければよかったんだ」
ファルタさんは呆れたようにつぶやいた。
「マルク、気にするな。アルベリオは見たまんま軽薄なところはあるが、リーダーとしての責任はある奴だ。明日……いや明後日には機嫌を直してるだろう」
本当にそうだろうか。
二日後、僕の予想は当たった。
「なんかアルベリオ、機嫌が悪いのにゃ」
「面倒くさいわね、私今日はもう帰っていいかしら」
「あの……なんだ、その……攻略したあのダンジョンなんだが、山師がいくら調査してもまともな鉱物が出てこなかったそうなんだ」
「え、じゃあ苦労してボス倒したのに大した報酬が入らないにゃ」
「なにそれ、完全なはずれじゃない」
「ごくまれにこういうこともあるんだが……本当についてない」
パーティ全員の顔が失望色に染まったが、アルベリオさんの荒れぶりの方が際立っていて、怒りを表に出すどころではなかった。
遭遇した三メートル級のグリズリーを殺すと、その死体をこれでもかとミンチになるまで素手で潰し続けた。
「おい坊主、あそこにこのグリズリーの子供がいる。ぶっ殺してこい」
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