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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第11話 炎と風

 ゾンビは人間の姿をしているが、あらゆる魔物たちの中でも知性が乏しい。自らの肉体が砕けようが、仲間が焼かれようが、浄化の結界で消されようが、とにかく敵に向かって進んでくる。


 自己防衛を知らない何かうごめくものが集団でじりじりと迫りくる様は、結界で守られていても恐怖を禁じ得ない。


 だけど僕はこいつらをやっつけなければならない。


 魔法剣士のイメージといえば、魔法で剣に炎をまとわせて……なんとなくならできる。


 この剣で斬りつけるには結界から足を踏み出さねばならない。


 傷は治った。とにかくやれることをやってみる。


 仲間はきっと僕を守ってくれる!


「やあああ!」


 勇気を出してゾンビの群れに斬りかかる。


「ぎょえええええ!」


 さっきよりは威力があるように思えるが、結局再生してしまう。


 剣と魔法を織り交ぜた攻撃のつもりだったが、功を奏しているようには思えない。


 ――勝つまで試行錯誤する。


 猶予を与えられたような気になっていたが、全然違う。


 終わりのない絶望感がゆっくりとだが確実に僕の心を支配してゆく。


 考えている間に群れの後ろのゾンビが増えている。ここはゾンビが湧く地点なんだ。


 トリエルさんを見ても、彼女は一瞥もくれなかった。


 違う! 諦めてる場合じゃないんだ。


 よく観察すると、一部の傷口はすぶすぶと小さく燃えている。そこだけは再生が遅い。やはり焼き払ってしまうのがゾンビの倒し方としては一番いいように思える。


「これならどうだ!」


 僕はひとつのアイデアを思いついた。


 何体かのゾンビを炎の剣で何度も何度も斬りつけて細切れにしてやった。小さな肉片はそれぞれに小さく燃えた。


 敵の攻撃がくる前に結界に逃げ込み、旋風魔法をかける。


 それは大した風ではないけれど、表面積が大きくなった肉片はそれぞれが大きく燃え始めた。


「いける!?」


 風を制御して一部に集中させ、燃えた肉片が周囲に散らばった。他のゾンビに小さいながらも燃え移る。さらに全体に風を送ると炎は徐々に大きくなる。


 燃えているゾンビは動きが鈍い。


 覚悟を決めるならここだ。


 僕は燃えているゾンビの群れに飛び込んだ。


 攻撃されるより先に腕を斬り落とし、噛みつかれる前に首を飛ばす。動きが鈍くなったせいでなんとかやれる。


 だけどこいつらはみんな燃えている。


 熱い、自分の皮膚も焼ける。呼吸が苦しい。


「うおおおおおお!」


 目の前にいるゾンビどもを短剣で粉々に切り刻んだ。


 旋風魔法で吹き飛ばすと、火はゾンビ全体に広がり、集団が燃え始めた。


「熱い! 熱結界だ」


 アルベリオさんが熱を反射する結界を張った。これなら仲間が燃えることを心配しなくてもいい。僕の身体も限界を迎えつつあった。結界の中に逃げ込む。


「はあ! はあ! はあ!」


「全身が焼けているじゃないか、セシリー、治癒だ!」


「はい!!」


 治癒魔法を受けながらも旋風魔法を強めていく。ゾンビは激しく燃え上がってゆく。それでもこいつらは歩を止めることはない。


 結界の向こう側の空気はみるみると高温になってゆく。熱をまとった風はさらに炎を大きくしてゆく。熱結界とダンジョンの壁や天井が熱を反射し、ゾンビたちに集中していき、ますます燃え上がってゆく。


「これでどうだ!!」


 さらに風を強めるとゾンビの集団全体が大きな炎を上げて燃え始めた。


 ゾンビたちの歩みは弱々しくなった。


 そして、すべてのゾンビが灰になった。


「やった……」


「やったじゃない」


 トリエルさんは僕に一言だけくれた。


「ありがとうございます。トリエルさんの結界のおかげでやったこともないことを試すことができました」


「そう」


 僕が深く頭を下げると、彼女はふわりと頭を撫でてくれた。




「おっとと……」


 気が緩んだせいでついよろけてしまった。


「ははは、だっせーな。魔法力が空っぽになったか」


 魔力がなくなるまで魔法を使ったことなんてなかったから、こんな風になるなんて思わなかった。


「マルク、よくやったな。まさか魔法で全部倒すとは思わなかったぞ。ダンジョンの地形も利用した見事な戦術だった。燃えるゾンビの中に飛び込んでいったときにはどうなるかと思ったが」


「アルベリオだったらいきなりでっかい炎でぶっ飛ばしてたけど、小さい火からだんだん大きくしていくのは賢い子じゃないとできないのにゃ」


「マルクくん、すごかったよ」


 セシリーさんにも褒められると、なんだか達成感がある。


「よし、マルクの魔法力がなくなったならひとまずは帰ろう」


「ゾンビ百体なら報酬もずいぶん出るでしょう。それが一・五倍なんだからおいしいわね」


 トリエルさんは魔道具を取り出して記録を確認して、珍しくにまにましていた。これは冒険者が倒した魔物を正確にその種類と数を計測するアイテムだ。これをもとにギルドでの報酬が決められる。


「帰ってエールでも飲むにゃ」


「そうね、今日はおいしいお酒が飲めそうだわ」


「私も久々にお仕事できました」


 浮かれ気分のパーティの空気をリーダーのアルベリオさんがぶち壊す。


「いや、まだこのまま行くぞ」


 明らかに全員の表情が曇る。


「なに? マルクの魔力がないのにまだ戦わせるのか。今の課題は魔法の使い方だろ」


「課題は一応クリアだ。だが、お勉強はまだまだ終わってないぜ」


「お勉強? それは明日でもいいのにゃ」


「いや、この流れ……ノリとでもいうかな。この空気感は逃すわけにはいかねえ。行けるところまで行くのが坊主にとっての大きな学びになるぞ」


「行けるところまで……?」


 その言葉は全員にとっての悪夢を想起させた。


「ああ、ダンジョンのボスまで行くぞ」

読んでいただきありがとうございます。

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