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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第1話 少年マルク

 勇者が魔王を討ち取って二〇〇年が過ぎようとしていた。


 しかしながら、魔王が魔界から呼び寄せた魔物の一部は人間界の環境に適応し、繁殖を繰り返した。これらは、人間を襲う本能を失うことなく多大な被害をもたらした。


 人族は力を合わせて魔物と戦った。魔物を討伐することを専門とする者たちが現れるようになったのはそれからすぐのことだった。


 人々は彼らを冒険者と呼ぶようになった。


 彼らは剣技や魔法などの優れた能力をもつが故に貴重であり、常に命の危険と隣り合わせだ。だからこそ魔物討伐の報酬はそれに見合ったものでなければならない。


 ほどなくあり得ないほどの高値でしか依頼を受け付けない冒険者ばかりになった。それでも魔物に困り果てた市民は頼るしかない。


 冒険者を管理する組織が必要だった。


 国家によって各地に冒険者ギルドが設置された。ギルドが冒険者の登録、報酬の管理、依頼の受け付けを適正に行うことによって、身分の保証と報酬の相場が安定した。市民も安心して依頼を発注できるようになった。


 結果的に、ならず者同然だった冒険者たちは尊敬される立場になった。


 多くの子供たちが冒険者を目指すようになった。


 ◇◇◇◇◇◇


『お前のせいでステラは死んだんだ!』


『マルク、お前はこの村から出て行け!』


 辛辣な故郷の人たちの言葉が脳内を駆け巡る。


 ステラは自分にとってもとても大事な人だった。


 僕に剣と魔法を教えてくれた。


 今でも彼女がどこからかひょっこりと顔を出してくれるんじゃないかと、虚しい期待をしてしまう。


 だけど、彼女が死んだのは自分のせいじゃない。


 それは間違いない。


 だけど、じゃあ何が真実だったのか、僕にはわからない。


「とりあえず、冒険者になろう」


 立派な冒険者になる、それは彼女との約束でもあった。


 ステラが死んだことは狂ってしまいそうになるほど悲しいことだった。だけど、その後になんやかんやとあって村から追い出される羽目になり、その憤慨がむしろ僕を次の目標に向かわせるだけの冷静さを取り戻させた。


 僕は町に向かって歩いた。




 エリメルの町。


 自分が育った村も含めたこの地域を治める領主が住む町だ。目指すべき冒険者ギルドはここにある。町は魔物の侵入を防ぐために城壁で囲まれているが、自分が想像していたよりずっと大きい。


 そして、真新しい城壁には魔物が近寄れない結界が刻まれていた。こんなすごい仕掛けを初めて見た。


 高い壁の向こうのずっと奥にみえるとんがった屋根は領主の城だろうか。


 延々と壁沿いに歩くと人々の行列があった。あそこから町に入るみたいだ。最後尾に並んで自分の番を待つ。


「では、次の人」


 二〇分ばかり待たされてようやく自分の番がきた。


「ん? 坊や、一人かい。この町の住民じゃないね。親か同伴の大人はいないのか? よく魔物に襲われることもなくここまでこれたね」


「いや、あの……僕、一応成人なのですが」


「はあ、嘘言っちゃいけないよ。どう見たって十二歳がいいところじゃないか。町の住人以外の子供は大人と一緒じゃないとここは通れないよ」


 門番は僕の姿を見て嘘だと決めつけた。


 だけどそれはやむを得ないだろう。


 僕は、十二歳の頃からちっとも背が伸びてない。


「いや……その、十七歳なんです」


 この国では十六歳からが成人として扱われる。


「は? 坊や、小人族じゃないよね」


 小人族は大きくなっても一二〇センチほどの身長にしかならない。大人になっても見た目は人間の十代くらいにしか見えず、人間とは手足の骨格の違いから外見上の区別はできる。


「ふーむ。子供をこのまま魔物がいる城外へ帰すわけにもいかないし……」


 門番は少し悩んだ。


「わかった。その身なりは初めて町に入るということか。目的は?」


「冒険者になるために」


「なるほど。ここできみが嘘をついているかどうか追及していたら、ほかに門を通りたい者をあまりに待たせてしまうことになる。冒険者登録には成人していることが条件だ。仮に嘘がギルドにばれたら強制送還になるからな。後の処理はギルドに任せることにする」


 気が付くと僕の後ろにはすごい長さの行列ができていた。


「とはいえ、運び屋をやらされているかもしれん。身体検査はさせてもらう」


「わかりました」


「素直でよろしい。その腰のものは短剣かね?」


「はい」


「よし、冒険者登録されてない者が武器を携えて町を歩いてはいけないことは知っているな。その短剣を渡しなさい」


「わかりました」


 門番は袋を取り出した。


「今からきみの短剣をこの袋に入れる。この袋は魔道具だ。一度入れたら暗号魔法でないと開かない。無理に開けようとすると警笛が鳴って、自警団が駆けつけて逮捕されてしまうからな。暗号魔法は冒険者ギルドの者が知っている。そこで開けてもらうまで、絶対に自分で開けてはならんぞ」


「わかりました」


 僕の返事に門番が頬を緩めたのがわかった。多分信用してくれたんだ。


「ほう、これはまた見事な短剣ではないか。ドワーフの逸品か?」


「そうだと聞いています」


「これはおそらく家宝、いや村の宝物庫にあったようなものじゃないのか? まあ、余計な詮索はするまい。大事にするんだぞ」


 村の宝? そんなのとはちょっと違ったような気もするけど、自分もよく知らない。


 どういうものなんだろうか。


 そんなことを考えながら門番に短剣を渡す。


「!?」


 一瞬、門番の意識が飛んだように見えた。


「おっとっと。ちょっと疲れているのかな。今日は交代要員がいないのに、門を通る者が多すぎるんだよ。よし、立派な冒険者になって大事に使うんだぞ」


「ありがとうございます」


「このままずっとまっすぐ進むと噴水がある。そこに行けば冒険者ギルドはすぐに見つかるはずだ」


 肩をぽんと叩いてその背中を見送った。


 門番は最後、僕を笑顔で送ってくれた。

読んでいただきありがとうございます。

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